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5話 鮮血のカーミラ



 鮮血のカーミラ。



 エビルムーン帝国の『十三邪将』と呼ばれる幹部の一人で、斥候中心の部隊を率いるヴァンパイア族の女だ。

戦争地帯の夜間哨戒を主に担当しており、サンブレイヴ聖国側の夜間哨戒として出撃していたオレの部隊も一戦交えたことがある。

メインは斥候部隊のクセに無駄に戦闘力も高くて厄介だった。



 ……ここでひとつ、オレの特技について話しておきたい事がある。

人狼族であるオレは他の種族よりもかなり鼻が効く。

特にオレは、孤児としてスラム街の闇闘技場で日銭を稼いでいた時に、目隠しをしたまま戦う『盲目ハンデ』というのを課せられて戦っていたこともあった。

相手との実力差がある場合は主催者からの指示でハンデを付けられて、金を賭ける観客が盛り上がるようにしていたのだ。



 そこで通常よりも鍛えられたオレは、視界に頼らなくても匂いや動いたときの空気の流れで相手を認識できるようになった。

聖国軍に入ってエビルムーン帝国の魔人族と戦うようになってからは、魔人族特有の身に纏っている魔力オーラの〝匂い〟で変装していても相手を見分けることが出来るようになった。



 ……で、今オレの目の前でニコニコしているヴァンパイア族のミラさん。

実は、彼女からはオレが知っている、とある魔人族の魔力オーラの匂いを感じるのだ。

それが先ほど紹介した、エビルムーン帝国十三邪将・鮮血のカーミラのものと一緒なのだ。



「そういえば、ミラさんって仕事は公務員なんでしたっけ……?」



「ええそうです。ルイさんもでしたよね」



「ええまあ、はい」



 公務員……まあ、国境警備隊も帝国軍も公務員だよな。

鮮血のカーミラは戦闘中、常に目元を覆う仮面を付けていた。

戦闘自体も灯りが少ない夜間だったため、あまり表情などは分からなかったが、身長は低かった気がする。

多分、ミラさんと同じくらい。



「ミラ……カーミラか……」



「ルイさん、何か言いました?」



「い、いえなんでも。とりあえず、店に行きましょうか」



「そうですね」



 サンブレイヴ聖国・第8師団長、瞬撃の鎧騎士ルイソン。

マッチング魔道具で初めて知り合った相手は敵国の女幹部でした。



「……どうしよう」



「何か言いました?」



「いえなんでも」



 ―― ――



「お料理、美味しかったですね」



「そうですね……魔人族の口にも合ったようでなによりです」



「あははっ、味覚なんて種族でそんなに変わりませんよ」



 オレが事前に予約していた店に入って二人で夕食を楽しみ、少し食休みということで近くの公園を散歩している。



「それにしても、ヴァンパイア族も普通に食事するんですね。てっきり……」



「生き血でも啜ってると思いました?」



「いえ、その……まあ」



「ふふ、素直でよろしい」



 小柄なミラさんが、背伸びをしてオレの頭を撫でてくる。

会ったときはこっちの正体がバレてないか冷や冷やしてたけど、一緒に食事をして会話を楽しんでいたらいつも『デスティニー』でメッセージのやり取りをしていた時のミラさんそのままだったので、リラックスして食事を楽しめた気がする。

いや、敵国の幹部と食事を楽しんでて良かったのかオレ……?

正体がバレた瞬間殺し合いになる気しかしないんだが。



「ねえ、ルイさん……このあとお酒、どうですか?」



「えっ……ああ、2軒目ですか」



「私、良いところ知ってますよ」



 元々夕食を食べて、その後の雰囲気で2軒目に行くか解散するかっていう流れだったので、どうやら今のところミラさんにはかなり好印象に思えてもらえているっぽい。

いやだから敵国の幹部から好印象って。多分良くない流れだぞ。



「ルイさんが好きそうな、美味しいコカトリスのお刺身があるんですよ」



「行きましょう」



 こうしてオレは、己の立場を忘れて『鮮血のカーミラ』と一緒に美味しいコカトリス料理とお酒を楽しんだのであった。



————  ――――


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