49話 プレゼント選び
「いや団長、女の子のプレゼントにお酒はどうかと思うよ……」
「そ、そうなのか?」
数日後に迫ったハチェットの誕生日。
オレは何をプレゼントすべきか悩んで部下のハルバードに相談していた。
子供の頃は金もなかったし、スラムの闇市で買った安いアクセサリーなんかをあげていたが、成人してからは酒好きのハチェットが好みそうなちょっとお高い火酒をプレゼントしていた。
「今年はハチェットの生まれ年の古酒を見つけたからそれにしようと思ってたんだが……」
「普通そういうのって父の日に贈ったりするやつじゃない? ビンテージワインとか」
「そういうもんか」
最近の流れで説明すると、ハチェットの誕生日に喫茶ハロゥへ行って酒をあげる→『やった~じゃあ今から飲もう! あっパパなんか料理作って~!』
で、2人で朝まで飲み明かして二日酔いになって終了。
ちなみにハチェットは酒飲むときに甘い物を食べない派なので、何故かオレが代わりにバースデーケーキを食う。
実質オレの誕生日パーティーじゃねえかこれ。
「まあお酒好きならあげてもいいと思うけどさ。それはそれとして、たまには形に残るものもなにかプレゼントしたら?」
「いやでも、そういうのって女子からは嫌がられるんじゃないか?」
「あんまり仲良くない相手からなら困っちゃうかもね。でも団長とハチェットさんは昔からの仲なんだから、消えものじゃなくても大丈夫だよ」
「そういうもんか……?」
なんとなくハルバードの機嫌が少しよろしくない気がする。
なんだろう、オレがあまりに女子へのプレゼント選びが下手過ぎたから呆れてるんだろうか?
「それで今年はどうするのさ団長。さっき言ってた、ハチェットさんの誕生日に告白しようとしてるお客さんのことを考えるならお酒プレゼントからの朝までパーティーはマズいでしょ」
「あーそっか、告白するから食事に誘うとか言ってたな」
ということは、誕生日の夕食はあのお客さんと過ごす感じか。
うまくいけばそのまま夜も……って、やめやめ。
なんか考えたら変な気分になってきた。
「今年は昼にプレゼントだけ渡して帰った方が良さそうだな……」
「まあ、大丈夫だと思うけどね」
「ん、何か言ったか?」
「べっつに~」
―― ――
「遅くなっちまったな……」
ハチェットの誕生日の当日。
昼に喫茶ハロゥへ行ってプレゼントを渡してこようと思ってたんだが、仕事が立て込んで昼休憩が取れず、結局夜になってしまった。
いつもなら店を閉めてマスターと誕生日会をやってるはずだが、今年はディナーのお誘いがあったはずだ。
「明日にするか? いや、マスターにでも渡してもらうか」
そんなことを考えながら店に向かうと『closed』の看板が掲げられた喫茶ハロゥの店内には明かりがついていた。
例年通りだな……マスターが一人寂しく酒でも飲んでんのか?
「こんばんはー……」
「あっルイソンくんやっほ~」
「えっ?」
店内に入ると、カウンターに座ってマスターの作ったローストチキンを食べるハチェットが。
「お前、なんでいんの?」
「なんでって、私の誕生日なんだからいるに決まってんじゃん」
「いやだって、ディナー誘われただろ?」
「なんだ、ルイソンくんも知ってたんだ~。普通に断ったよ、諸々」
「そ、そうか……」
どうやら一世一代の告白は失敗に終わったようだ。
どんまい、誘った人。
「あっそれお酒? いえ~い待ってました~っ! 飲も飲も! パパ~おつまみ何か作って~!」
「……はいよ」
オレが持ってきた酒を強奪して早速開けるハチェット。
なんだ、結局いつもの誕生日じゃねえか。
「ハチェット。これもやる」
「えっ、今年はお酒だけじゃないの? ありがと~!」
オレはハチェットに小さな紙包みを渡す。
ここに来る途中で見つけて、ハチェットに似合いそうだと思って買ってきたものだ。
「クローバーのヘアピン……」
「近くの露店に売ってた安もんだけどな。ほら、昔やったペンダントとお揃いってことで……おまけだおまけ」
「へへ、へへへ……ありがとう、ルイソンくん」
「お、おう」
早速ハチェットがヘアピンで前髪を留める。
なんか、照れ臭いなこういうの。
「さあルイソンくん、座って座って! パパ特製のバースデーケーキを召し上がれ!」
「いやだからお前が食えよ」
「……ハッピーバースデイ」
「アンタの娘さんがな」
今年の誕生日ケーキも美味しくいただきました。
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