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47話 連行回避



「それでなー、父上が酔っぱらって城……じゃなかった、家の屋根を破壊してなー。その衝撃波で雲が消え去って雨が止んだのだ」



「いや凄すぎだろルーナの父ちゃん」



 そんな感じでパーティー会場から逃げてきたルーナを匿ってしばらく酒場で談笑していた時だった。



「そっちはいたか?」



「いや、この先の店は全部回ったがいなかった……」



「店主、緊急事態により店内を検めさせてもらうぞ!」



 個室の外が少し騒がしくなる。

なんだ、まさか強盗……いや、警備隊の飛び込み検問か……?

 


「っ!! ま、まずいのだ!」



「どうした?」



「あの声は、おそらく吾輩を連れ戻しに来たお見合い会場の者なのだ……!」



「この間ルーナを迎えに来た竜人族の護衛か?」



「いや、相手側の手の者なのだ。吾輩の父上は『見合い相手から逃げきれるならやってみろ』とかいうタイプなのだ」



「ルーナの家、やっぱちょっと変だな……」



 オレたちが今いるのは酒場の奥にある小さな個室だ。

今すぐに見つかるってことは無いと思うが、外の状況を聞いた感じ、個室の中も確認している可能性が高い。



「ルーナ、こっち側に来い」



「わ、分かったのだ」



 向かいに座っていたルーナをオレの奥隣に移動させ、オレの身体で個室の入り口から分からないようにする。



「こうやってちょっと俯いとけ」



「わっぷ」



 ルーナに羽織らせていたジャケットを頭から被せ、さらにカモフラージュ。

これなら無理やりジャケットを掴んで顔を覗き込まれない限りはバレないだろう。



「くんくん……へへ、ルイの匂いがするのだ」



「ケモノ臭くて悪かったな」



「そんなことないのだ……安心する匂いなのだ」



「さいですか」



 そういや家でケルベロス飼ってるって言ってたしな。

いやまあ、魔物の犬っころと同じ扱いされてるわけじゃないとは思うが。



「後はここだけか……」



「失礼! 少し確認したい事があるため、扉を開けさせてもらってもよろしいか?」



「ああ、構わないぜ」



 ガラガラガラ、と個室の扉を開けて中を覗き込んできたのは、一つ目の巨人……サイクロプス族だった。

サイクロプス族は大柄で筋肉質な体つきの魔人族で、大きな一つ目は視界の範囲こそ人間族に劣るが、視力が異様に高くかなり遠くのものまでハッキリと視認することができる。

エビルムーン帝国軍にも多く所属しており、有名な貴族のサイクロプスもいるとカーミラから聞いたことがある。



「いったいさっきから何の騒ぎだ? オレたちは静かに酒を飲みたいんだが」



「申し訳ない、人を探していてな……そちらにいるのは……」



「オレのツレだ。昔、野蛮なサイクロプス族に襲われかけたことがあってな。善良なアンタらには関係ないが、怯えちまってる」



 オレはルーナの姿を見せないように、彼女の肩に腕を回して軽く抱き寄せる。

実際サイクロプス族の中には素行の悪い連中も多く、エビルムーン帝国内のスラムで徒党を組んで活動している犯罪グループもいるらしい。

ちなみにこの情報もカーミラから聞いた。



「そ、それはすまないな……邪魔をして悪かった。良い夜を」



「この店にはいない。次だ!」



 …………。



「行ったみたいだな。もう大丈夫だ」



「う、うん……」



 オレが被せたジャケットの間からこちらを覗き込むルーナ。



「ん……? おっと、わりい、肩掴んだままだったな」



「だ、だいじょぶなのだ……」



 オレが被せたジャケットを着直して向かいの席に戻ったルーナの顔が火照って赤くなっていた。

抱き寄せた時に少し息苦しくなってしまっていたのかもしれない。



「何か、冷たいもんでも食うか?」



「そ、そうだな……えっと、このブラックベリージェラートとかいうやつが食べたいのだ」



「お、良いじゃねえか。オレも何か食おうかな……すいませーん、ブラックベリージェラートと、シューアイスください」



「かしこまりましたー」



 ハチェットと一緒だったら『ルイソンってばそのいかつい見た目でシュークリームアイス~? 相変わらずのお子様舌なんだから~』とか言われそうだけど、ルーナはそういうの気にしないから助かるぜ。



「ルイ、ルイ」



「ん、どうした?」



「デザートきたら、半分こしようなのだ」



「いいぜ」



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