45話 家出少女、再び
「それではルイさん、カーミラ様親衛隊として今後ともどうぞよろしくお願いいたしますっ」
「別にオレは親衛隊ではないが……まあ、よろしくな」
メリアスとの食事を終え、エビルムーン帝国のヘルゲイト駅で解散する。
今後はカーミラについての情報交換をするために定期的に会う約束をした。
もちろん交通費も食事代もワリカンで。
「オレは鉄道で帰るが、メリアスは馬車か?」
「いえ、このあと駅近くのイベント会場で養分……じゃなかった、ファンの方と握手会がありまして。もうひと仕事がんばりますっ」
「メリアスはアクティブだな本当」
1日で2つ以上人と会う予定入れるとか普通にしんどいだろうに……ラァ子だったらその後3日くらい寝込んでそうだ。
「それじゃあここでお別れ……ん?」
ふとメリアスの背後に見知った顔を見つけたような気がして、ヘルゲイト駅近くの路地裏に視線を向ける。
そこには一人の女の子が壁に背を預けて所在無げに立っていた。
「ルイさん、どうしたんですかっ?」
「いや、ちょっと知り合いに似てる子が……」
「あ、ルイなのだ」
「おっやっぱりおまえか」
路地裏にいた少女もオレのことに気が付いたのか、ぱっと笑顔を浮かべてこちらに走り寄ってきた。
「ルーナじゃないか。また追い出されたのか?」
「今日は違うのだ。自主的に家出したのだ」
頭の横に巻き角、背中に翼、矢印のような尻尾の小柄な少女。
この子はルーナという女の子で、前にもこの辺りで出会って一緒に漫画喫茶で遊んだことがある。
「む? ルイ、その隣の人は誰なのだ?」
「ああこいつか。こいつは……」
そういえば今のメリアスは一応お忍びモードだったか。
それならアイドルとは言わない方が良さそうだな。
「こいつはメリーといって、オレの友達で……?」
「はわ、はわわわわ……」
「おい、どうしたんだメリー?」
隣にいるメリアスは、ルーナを見て何故か顔を青ざめていた。
まるで山を歩いていたらばったりエビルグリズリーと出会ってしまった人のようだ。
「サササ、サタルーナ様っ……!? いやまさか、こんなところでおひとりでいらっしゃるわけ……」
「おいメリー、さっきからなに一人でブツブツ呟いてんだ?」
「いっいえいえ! ななななんでもありませんっ! あ、わたしそろそろお仕事の時間なので行きますねっ! またお会いしましょうねルイさんっ!」
「お、おう……?」
メリアスはまるでルーナから逃げるように急いでイベント会場とやらに向かっていった。
まったく、なんなんだあいつ。
「それで、今日はなにやってるんだ? もう時間も遅いだろ」
「うむう……」
なんだか困っているというか、何かを言いたいけど言いにくそうにしているルーナ。
しきりに周囲を確認して、誰かから見つからないように気を付けているみたいだった。
「……腹、減ってないか? 奢るからどっか飯食いに行こうぜ」
―― ――
「もぐもぐ……これ美味いな! なんていう料理なのだ?」
「それはポップコーンシュリンプだな」
「ポップコーンは知ってるのだ! 映画見る時に食うやつだろ?」
「そうだな」
ルーナを連れて、なるべく目立たないように駅地下の隠れ家的な酒場の個室にやってきた。
誰かに見つかりたくないような素振りを見せていたので、今はオレのジャケットを着せている。
子供だし普通のレストランの方が良いのかもしれんが、美味しそうに酒のつまみを食べているのでまあ良しとしよう。
「こくこく、こく……ぷは~! これも美味いのだ!」
「マッドペッパーだ。結構薬っぽくて好みが分かれるんだが、オレは好きだな」
「吾輩も気に入ったのだ!」
お屋敷に住んでるって言ってたし、やはり良い所のお嬢様なのだろう。
こういった庶民的な料理は普段口にしていないのかもしれない。
「それで、今日はどうしたんだ? 前みたいにしばらくしたら迎えがくるのか?」
「迎えは……来ないのだ。吾輩が隙を見て逃げ出したから」
「逃げ出した? なにか、誘拐とかされかけてたわけじゃねえよな?」
「違うのだ」
今日のルーナの服装は、前に会った時よりもおしとやかというか、フォーマルな場に着ていくような可愛らしくも上品さのあるドレスワンピだった。
よく見ると、薄く化粧もしている。
どこかの舞踏会にでも参加していたのだろうか。
「ルイ、実はな、吾輩……今日は見合いの予定だったのだ」
「ふーん、見合い……お見合いか」
…………。
「えっ!? お見合い!?」
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