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40話 偶像のメリアス



「偶像の、メリアス……?」



 ラァ子の話によると、オレが知り合ったメリーというアルラウネ族の女は『偶像のメリアス』という帝国軍十三邪将の一人らしい。

メリアス、初めて聞く名前だな……オレの所属してる第8師団では対応したことのない相手か。



「オレと知り合ったときは自分の事を現役のアイドルだと言っていたが……」



「……ア、アイドルですかぁ。まあ、間違ってはいないかもしれませんねぇ」



「アイドルをやりながら帝国軍の仕事もしてるのか?」



「……そ、そうですねえ。外部でもやってるみたいですが、帝国軍の中でもアイドルをしている感じですねぇ」



「帝国軍の中でアイドル?」



 あれか? 戦場に赴く兵士たちの為の精神的な安寧というか、専属の慰安部隊のような感じだろうか。



「……メ、メリアスさんは衛生部隊の隊長をされてますぅ。魔力が豊富で、一人でヒーラー百人分の治癒能力がありますぅ」



「なるほど、衛生兵か……戦場の天使というわけだな」



「……あ、あの人は腹黒の堕天使ですぅ」



「…………」



 まあ、アイドルってそういうもんじゃないのか? 知らんけど。

ていうか同じ十三邪将の仲間のわりに厳しい事言うじゃねえか。

そういえばメリー……いや、メリアスに見せてもらったチェキに一緒に写ってるラァ子の顔も若干引きつってた気がする。



「もしかしてラァ子って、メリアスのこと苦手なのか?」



「……わ、わたしは日陰者の暗殺部隊、向こうはみんなからチヤホヤされる衛生部隊ですぅ。し、しかも可愛くて、明るくて、誰とでもすぐ仲良くなれて……ぎ、ぎぎぎ、妬ましいですぅ……!」



 ラァ子は卑屈だった。

いや暗殺部隊もカッコいいと思うよ? 思春期の男の子とかから密かに人気出てそう。

下半身ヘビだし。



「……こ、これはここだけの話ですが、メリアスさんの豊富な魔力は彼女の熱狂的なファン……養分の方々から吸い上げている魔力なんですぅ」



「えっなに、養分? 吸い上げ?」



「……メ、メリアスさんたちアルラウネ族の強みは『パラサイトシード』と呼ばれる自身の身体に生成される種子を対象者に埋め込み、遠隔で魔力を吸い上げることで無尽蔵の魔力を供給できることですぅ」



「いや最強じゃんそんなの」



 こちらからいくら攻撃しても自動で回復するということか……?

しかもその『パラサイトシード』とやらをうまいこと敵に埋め込むことが出来たら、攻撃を受ければ受けるほど相手が消耗していくという、勝ち確定みたいな状況が作れてしまう。



「……パ、パラサイトシードは埋め込まれたことに気付ければ除去することはそこまで難しくないですぅ。し、しかしメリアスさんの場合は自身の熱狂的なファンに埋め込むことで、本人も分かってて除去せずに埋め込まれている『養分』を作り出しているのですぅ」



「な、なるほど、それでアイドル活動を……」



 アイドルとしての自分を高める為、美容やメンテナンスにかかる費用をマッチング魔道具を駆使して稼ぎ、アイドル活動で兵や部下の一部を養分にして自身の糧とする。

いやエグイな普通に……さすが帝国軍十三邪将『偶像のメリアス』の異名は伊達じゃないということか。



「ラァ子、色々と教えてくれて感謝するぜ。安心しろ、今回の事は誰にも言わないから」



「……い、いえいえ、ルイさんのお力になれるだけでわたしは幸せですぅ」



 う……結果的にラァ子の好意を利用して敵軍の内情を探った感じになってしまって良心が痛むな。

まあ、衛生部隊なら戦うことも無いだろうし、聖国軍ではある意味どうすることもできない所だから気にしないようにしよう。



「……や、やっぱりルイさんもメリアスさんみたいな子が好きですかぁ?」



「いや、オレは別にアイドルとか興味ないしな。変に気使われてる感じもちょっと苦手だったし」



「そ、それじゃあルイさんはメリアスさんよりわたしのことが好きなんですねぇ……!」



「それは飛躍しすぎだろ」



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