38話 努力と犠牲
メリーと知り合ってから数日後。
オレは予定を合わせて彼女と食事に行く約束を取り付けた。
ちなみにお互いの交通費と食事代、そして『メリーちゃんとお食事できる時間』の代金を上乗せして諸々オレが払うことに。
食事もそれなりのお店を予約したので中々の出費だ。
「はあ……何やってんだろオレ」
そもそもエビルムーン帝国のアイドルとか知らねえから、今日会うメリーとかいう自称アイドルの子が本物かどうか分からんし。
でもマッチングでオススメされたしなあ……もしかしたらめっちゃ気が合うかも。
「お待たせしました~☆ ルイさんですかっ?」
「あ、どうもルイで、す……?」
なんというか、いかにも『お忍びコーデで~す』って感じの格好をした女の子がやってきた。
ビッグシルエットコーデとでもいうのだろうか、オーバーサイズのカジュアルなパーカーに丈の短いホットパンツと黒のロングタイツ、上げ底の真っ白なスニーカー。そしてニットキャップに大きな黒縁メガネをかけている。
……うん、服装は結構好みかもしれない。
「お店予約してあるんで、とりあえず行きましょうか」
「は~いっ」
今日の会場はエビルムーン帝国の帝都ヘルゲイト駅付近のとある地下レストラン。
肌へのダメージを考えて日の落ちた時間帯が良いということで、時間は夕方。
まさにアイドル対応という感じだ。
オレはマネージャーかなにかか?
「ちゃんとした個室用意してくれたんですね~!」
「まあ、あまり周りの視線が無い方が良いのかなって思いまして」
「さすがルイさん! 好感度上がっちゃ~う!」
「あはは……」
いやあ、これは完全にお客様対応されてるわ。
アイドルじゃなかったとしてもキャバクラとかコンカフェで働いてそうな感じあるな……
「そういえばメリーさんって、人間族……ではないですよね?」
「あ、分かっちゃいます? 結構擬態出来てると思ったんだけどなあ」
「擬態って」
「というか、さん付けとかちょっと畏まってて嫌だなあ。メリーちゃんって呼んでくださいよ~」
「は、はあ……」
メリーの外観はパッと見た感じ人間族と変わらず、亜人族や魔人族のように極端に小柄であったり、逆に大柄であったり、なにか特徴的な部位があったりも見られない。
肌は白く、髪は淡い黄緑色の長いストレートヘア。
中々に珍しい髪色をしているが、人間族だとしたら染めているのかもしれないと思うくらいで不自然さはそこまでないだろう。
しかし、彼女からうっすらとだが植物のような青臭さと花の芳香が混ざり合ったような香りを感じるのだ。
これは嗅覚が優れる人狼族のオレだから分かるもので、香水ともまた違う、彼女の隠しきれない体臭のようなものである。
「あたしの正体、なんだと思いますっ?」
「え? そうだなあ……ハーフエルフ、ではないか……なんだろう、実はドッペルシャドウ族とか?」
「あはは! どっちも違いま~す!」
ハーフエルフは一番人間族に見た目が近い亜人族、ドッペルシャドウ族は肉体を持たず、クレイドールという人形を作り出し、その中に入り込んで操りながら生活するというかなり特殊な魔人族だ。
「正解はぁ……アルラウネ族でしたっ!」
そう言って被っていたニットキャップを取ったメリーの頭には、手のひらサイズの真っ赤な花が咲いていた。
「ア、アルラウネ族……? それにしては、肌の色が……」
植物系魔人族のアルラウネ族は、通常は肌の色がもっと緑がかった色をしている。
髪の色も赤、黄色、緑のアルラウネ族がいると聞いているが、こんなに色素の薄い黄緑色というか、ほぼ白の子は初めて見た。
「葉緑素が増えないようにとっても努力してるんですよ~。普通に日光浴びてたら肌も髪ももっと緑色でサイアクになっちゃいます」
「別に、緑色でも良いと思うけど……」
「ダメです! アイドルは美白が命なんですからっ!」
驚いた。どうやらこの子は本当にアイドルのようだ。
アルラウネ族は日光に当たって光合成をしないと身体の調子が上がらないと聞く。
頭に咲く花も通常はメリーのような手のひらサイズじゃなくて、まるで麦わら帽子を被っているかのようなサイズだったはず。
自分の体調を犠牲にしてでも、今の見た目を維持したいと努力できるのは紛れもないアイドル魂だろう。
「というわけで、いつも養分……じゃなかった、応援してくれてるファンのみんなや、本日ルイさんから吸い上げ……じゃなかった、いただいたお小遣いはあたしの美白サプリの代金になっちゃいま~す☆」
「おい」
アイドルをやるには、ファンの方も気合を入れてサポートしないといけないようだ。
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