34話 漫喫で満喫
「改めて、さっきは助けてくれて感謝なのだ」
「いや、まあさすがに困ってそうだったしな」
助けたお礼に食事を奢ってくれるという女の子と一緒に、エビルムーン帝国の帝都ヘルゲイトの駅前を歩く。
「吾輩はサタ……じゃなかった、ルーナというのだ」
「オレはルイだ。よろしくな」
なにか別の名前を言いかけていた気がするが、まあスルーしておこう。
オレなんか敵国の軍で働いてるし、偽名だし、不法入国だからな。
……警備に見つかって諸々バレたら処刑もんかもしれんなこれは。
「あーその……ルーナは家出でもしたのか?」
「まあそんなところなのだ」
見た目通りの年齢なら12、3才と言ったところだろうか。
この辺は正直種族によっても変わってくるのでなんともいえないが。
「あ、お金の心配なら大丈夫なのだ。ほれこの通り」
「うお、なんだその黒い端末カード」
「これがあれば上限を気にせずなんでも買えるのだ!」
このルーナとかいう少女はどうやら本当にどこかの良いとこのお嬢様みたいだな。
こんな所に1人でいたらマズいんじゃないか?
すぐに家の者が探しに来て……いや、むしろオレが誘拐犯だと思われるんじゃ……
「それで、どこで朝食を食べるのだ?」
「え? 案内してくれるんじゃないのか?」
「吾輩、いつもお屋敷でごはん食べてるから料理屋とかよく知らないのだ」
なんなんだこの子。
―― ――
「ここが巷で話題の『まんきつ』という店か……食事も読書もできて満喫できるという意味なのだ?」
「まあその解釈も間違いではないな。なんとシャワーも浴びれて仮眠までできる」
「めちゃめちゃ満喫できるのだ!」
しばらく二人で駅前をぶらついて良さそうな店を探していたんだが、そもそも早朝すぎて開いてる店がなかったので、唯一食事が出来そうな24時間営業の漫画喫茶にやってきた。
「いらっしゃいませお客様。ご利用のコースをご選びください」
「えーと、カップルシートのハーフデイコースで」
「かしこまりました。身分証はお持ちですか?」
「は、はい」
カーミラに作ってもらった偽造の身分証を提示する。
大丈夫かなこれ……てかやっべ、ルーナの身分証のこと考えて無かったぞ。
二人用の部屋がカップルシートしかなかったとはいえ、流石に怪しまれるか……?
「こ、これは……十三邪将公認の特殊身分証……!」
「えっあの、なにか問題が」
「い、いえ! こちらお部屋の鍵になります! ごゆっくりおくつろぎください!」
「どうも……」
よく分からないがいけたらしい。
ルーナの身分証も確認されなかったし、なんだか拍子抜けだ。
「えっと……お、ここの部屋だな」
「おお、こんな感じになってるのか。狭くて落ち着くのだ」
店の中でも1番グレードの高い部屋に通されたようだ。
完全な個室で防音もしっかりしてる。
カップルシートとはいえ、部屋の中もかなり広い。
「これが十三邪将公認の実力か……」
「ルイ! 漫画! 漫画持ってきて良いのだ!?」
「おまえ、朝飯食いに来たんじゃなかったのかよ」
「ごはんはいつでも食えるけど、漫画は今しか読めないのだ!」
どうやらルーナの家はしつけに厳しいご家庭のようだ。
まあ、あきらか良いとこのお嬢さんって出で立ちだもんな。それなら自分の好きなように過ごしてもらう方が良いか。
「それじゃあドリンクついでに漫画も選びに行くか」
「わくわくなのだ!」
「ちなみにあそこにあるドリンクバーとアイスと軽食は食べ放題だから、好きなだけ飲み食いして良いぞ」
「うわーすごい! めちゃめちゃ満喫できちゃうのだ!」
こうして、オレとルーナは早朝の漫画喫茶を満喫した。
「ルイ、おすすめの漫画とかあるのだ?」
「ん~? そうだなあ……これかな」
「『勇者パーティーから追放された魔物使い、手切れ金で買った奴隷が魔王の娘だった』……ふーん、ルイはこういうのが好きなのだ……へ~」
「な、なんだよ、文句あるかよ」
「じゃあ今日だけ吾輩がルイの奴隷になってあげるのだ」
「店の人に聞かれたら通報されるからやめてくれ」
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