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17話 旧紛争地帯



「はあ、参ったなしかし……」



 泥酔したハチェットの介抱をした翌日、オレは久々にサンブレイヴ聖国とエビルムーン帝国がにらみ合っている旧紛争地帯へとやってきていた。

時刻は23時50分。翌日というか、もう少しで翌々日になってしまう時間帯だ。

最近は大人しかった帝国軍のほうで日中に少し動きがあったらしく、夜間警備を担当してるオレの第8師団でしばらく警戒を強めることになったのである。



「団長、何かあったの?」



「ああ、昨日ちょっと酒の席でやらかしてな……」



「ふーん、お酒ねえ」



 部下の斥候とやり取りをしつつ、副師団長のハルバードがつまらなそうに相槌を打つ。

ハルバードはまだ未成年のため、酒を飲んで酔っ払って色々やらかす、みたいな感覚が分からないのだろう。



「それにしても珍しいね、団長が前線まで出張ってくるの」



「ああ、義父さんからちょっと言われてな……場合によってはかなり危険な相手がちょっかいかけてきそうだから、ここで抑止力になってくれと」



「将軍がそんなことを言うってことは、かなり強い相手がくるかもなんだね」



 サンブレイヴ聖国軍にある8つの師団の長には様々なタイプがいる。

どっしりと構えて長としての器を保ち激励を飛ばして士気を上げるやつ、的確な指示で確実な戦果を挙げるやつ、細やかなサポートで団を上手くまとめ上げるやつ、実力はあるがどこか抜けていて部下たちが『しっかりしなきゃ』と自ら行動することで一致団結するやつ……



 で、うちの第8師団の場合は師団長であるオレが自ら戦場に立ち、相手の長と戦ってみせることで団員のモチベーションを上げるって感じのタイプだ。

正直細かい指示とか苦手なんだよな……オレについて来い! って感じの方が楽だ。



「夜間の旧紛争地帯で強敵の襲撃……いや、まさかな」



 魔王率いる帝国軍は基本的に日暮れから行動する種族の方が強いと言われている。

まあ実際は昼行性で夜目がきかない人間族の兵士が多数を占めるサンブレイヴ聖国軍が相対的に弱体化してるってだけな気もするが。



 その中で第8師団はというと、オレを含めサンブレイヴ聖国軍に所属する数少ない人間族以外の亜人族のみで構成された少し特殊な部隊なので、夜でも戦えるやつがかなり配属されているため、こうやって夜間の戦闘に備えてよく駆り出されているという訳だ。



「ねえ団長、もし魔王軍の十三邪将が出てきちゃったらどうする?」



「さすがにそれはねえだろ。戦闘が続いてるわけでもないのに『決闘形式戦』なんてさすがに予想外過ぎる」



 決闘形式戦とは、文字通りお互いのエース同士で一騎打ちの決闘をして戦の勝敗を決定するもので、戦闘が長引き、両軍ともにこれ以上犠牲を出したくないといった場合に提案、実施が決まる。



「そういえば、最後にやった決闘形式戦は『鮮血のカーミラ』とだったな……」



「あー、あのめちゃ強いヴァンパイアねえ……ねえ団長、もしカーミラと決闘になったら戦える?」



「えっ? も、もちろん、全力で戦うさ」



「本当かなあ~?」



 こいつ、前にミラさんとオレが一緒にいたことをまだ訝しんでやがるな……

ヴァンパイアの知り合いが出来たせいで戦えなくなったと思ってんだろうな。

まあ、そのヴァンパイアの知り合いこそがまさに以前決闘した『鮮血のカーミラ』なんだが。



「ミラさん、昨日怒ってたよなあ……」



「なに、団長が昨日やらかしたのってあのヴァンパイア女と関係あるの?」



「まあ、ちょっとな……」



 そんな感じで夜の警備にあたっていたところ、ハルバードの元に斥候から緊急の通信が入った。



「こちらハルバード! どうしたの~?」



 『たっ大変です! エビルムーン帝国側からヴァンパイア族の女が単騎で我が師団の陣営に向かってきています!』



「えっ? このタイミングで単騎特攻!?」



 『突撃してきているのは……っ!? カ、カーミラだ!! 〝鮮血のカーミラ〟です!!』



 …………は? カーミラ?



「団長! なんかカーミラが凸って来てるって!」



「なんでだよ!?」





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