平和な時間は七十七年続いた
「今日で何日目?」
横になりながら夜空を見る。
初めて出会ったあの日と同じように。
「忘れたの? 今日で丁度七十七年目」
隣で横になっている君はもうお婆さんだ。
黄金色の美しい髪の毛もすっかり真っ白。
――まぁ、僕も同じか。
「七十七年か」
「そ。七十七」
二人で笑う。
どちらからともなく手を握る。
どちらもが手を握り返す。
「僕さ。幸せだったよ」
「私も。とっても幸せだった」
しわくちゃの手が温かい。
「戦いの人生だった」
「私も同じ」
「振り回される人生だった」
「私も同じ」
くすくすと笑い合う。
「あなたに出会うまでね」
「そうだね」
そう。
僕らは共に運命に縛られていた。
縛られて。
翻弄され。
諦めて――その先で互いに出会った。
「あの日、あなたに出会えてよかった」
「僕も同じ気持ちだよ」
共に生きることが出来たことが幸せだった。
そして――共にこうして死にゆくことが出来て幸せだ。
「ねえ」
「なに?」
君が言う。
僕の気持ちを。
「あなた、生まれ変わったら何になりたい? やっぱり勇者様?」
「まさか。次は農民にでもなりたいよ」
僕は首を振る。
「農民って。あなたらしいね」
「君こそどうなの? 魔王にまた生まれたい?」
「あなたが農民なら私も農民かなぁ」
他愛のない会話を続ける。
僕も君も何となしに悟っていた。
今日が。
終わりの日であることを。
「ま。あなたと一緒なら何でもいいや」
「僕も同じ気持ちさ」
そう言って僕らはもう少しだけ話し合った。
――僕らは出会ってから共に生きた七十七年間。
本当に幸せだった。
「もう少しだけ話そうか」
「そだね。もう少しだけ」
***
勇者と魔王が不在であった七十七年。
彼らの配下や支援者は共に主を探し求めて衝突を繰り返した。
血眼になった彼らの祈るような捜索により、双方の勢力は頻繁に衝突し――史上でも類を見ない数の犠牲者が出た。
この七十七年を後世の者達は『最も悲惨な時代』としている。
まるで寄り添うようにして永久の眠りについていた二人が発見された後、双方が徐々に和解へと向かっていくのはあまりにも皮肉的である。
――いずれにせよ今日では人と魔の夫婦や恋人の姿は街中では日常として受け入れられている。