最終話 光の庭で
春の風が王都を包む。
セレスティア王国は、今も平和の光に満ちていた。
王城の中庭──《暁の庭園》。
かつて荒野に広がっていた戦場の跡は、今や見渡す限りの花畑となっている。
白と蒼の契約花がゆらめき、その間を一人の小さな影が駆けていった。
「お母さまー! 見て! また光ったよ!」
鈴のような声を上げて駆け寄ってきたのは、柚希とレオンの娘──リアナ。
金の髪に母の瞳を宿した少女は、手のひらに小さな光を浮かべていた。
柚希は微笑みながらしゃがみこみ、そっとその手を包む。
「上手にできたわね。……あなたにも、ちゃんと光が宿っているのね」
「うん! お父さまに見せたい!」
少女はそう言って、王のいる執務室へ駆けていった。
柚希はその背を見送りながら、風に揺れる花々を見上げる。
あの夜、レオンと誓った「永遠の約束」。
戦火の中で掴んだ希望は、今もこうして息づいている。
「……あなたと出会って、世界が変わった」
静かに呟くその背に、柔らかな足音が近づいた。
「まだ語っていたのか?」
振り返れば、レオンが微笑んで立っている。
彼の肩には、いつの間にかリアナが抱き上げられていた。
「お父さま、お母さま、光が咲いたよ!」
「そうか。それはお前の心が澄んでいる証だ」
レオンは娘の髪を撫で、柚希に視線を向ける。
その瞳には、あの戦いの日々よりも、はるかに穏やかで深い光が宿っていた。
「この光が続く限り、我らの国も、家族も、きっと大丈夫だ」
「ええ。暁の王国は、あなたと共にあるわ」
柚希はそう言って、レオンの手を握る。
遠くで鐘の音が響き、暁の庭に白い花弁が舞う。
その光景を見つめながら、柚希は静かに微笑んだ。
──契約は永遠に。
愛もまた、光のように巡り、咲き続ける。
そして今日も、新しい暁が訪れる。




