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第84話 出陣の朝

夜の帳がゆっくりと明け、王都アストリアの東門が光に染まり始めていた。

空気は張りつめ、遠くで兵の整列する金属音が響いている。

それは戦の朝の音──静寂の中に燃える決意の音だった。


柚希は城の回廊を歩いていた。

純白のマントの裾が風に揺れ、胸元の紋章が朝日に輝く。

それは“聖女”の証であり、戦場に立つ覚悟を意味していた。


「お早いですね、聖女殿。」

声をかけたのは宰相リディアだった。

黒髪を高く束ね、軍服に身を包んだその姿は、まるで戦場の女王のようだ。


「……眠れなかったんです。あの夜から、胸の奥がずっとざわついていて。」

柚希の声は小さい。だが、その瞳には確かな光が宿っていた。


リディアは微笑を浮かべ、手にしていた銀の指輪を差し出した。

「陛下からです。護符の代わりに持っていくようにと。」


柚希が受け取ると、それは小さな温もりを帯びていた。

どこか懐かしく、安心するような光。──まるでレオンの手のひらのようだった。


「……ありがとうございます。必ず無事に帰ります。」


「ええ。あなたはこの国の希望。

 それに──陛下が心から守りたいと願っている“人”ですから。」


その言葉に、柚希の頬がかすかに熱を帯びた。

だが、答える前に、遠くから角笛の音が響いた。


戦の合図。出陣の時が来たのだ。




東の城門前。

整列する騎士たちの前で、レオンが馬上から剣を掲げた。

朝日がその刃に反射し、金の閃光となって空へと走る。


「セレスティアの名にかけて、我らは闇を打ち払う!」

「おおおおおッ!!」

地が揺れるような咆哮が上がった。


その中を、柚希が歩み出る。

彼女の足元には光の紋が浮かび、白い羽のような光粒が舞い上がった。


「光よ──我らを導いて。」


柚希が祈ると同時に、空が淡く輝く。

まるで天が応えたかのように、黒霧を払う風が吹いた。

それは戦の始まりの祝福であり、光の聖女の宣言だった。


レオンはその姿に目を細め、ゆっくりと手を差し伸べた。

「共に行こう、ユズキ。

 この戦を──終わらせるために。」


柚希はその手をしっかりと握り返した。

「はい、レオン様。」


馬の蹄が地を打つ。

旗が翻り、光と風が混じり合う。

暁の王と契約の花嫁──二つの運命が、今、ひとつに重なった。


そして、戦場の空へと、金と白の光が駆け上がった。


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