第68話 本格侵攻
夜明け前、砦の鐘が激しく鳴り響いた。
「帝国軍、前進開始!」
見張りの兵の叫びが広間まで届き、空気が一気に緊張で張り詰める。
柚希はすぐに光を操る準備を整えた。窓の外には、松明の列が蛇のように広がり、押し寄せる帝国兵の影が揺れている。その中に、黒霧をまとった獣の姿も見えた。
「いよいよ来たな…」ルカが剣を抜き、低く息を吐く。
リディアは冷静に戦況図を睨み、指示を飛ばした。
「南門に主力を回しなさい。西側はユズキ殿の光で防げるはず。決して敵を砦に入れてはならない!」
柚希は唇を噛みしめ、レオンの隣に立った。
「私にできること、全てやります」
「無理はするな。だが──君の光があれば、必ず勝てる」
城壁上に立った柚希の前で、黒霧を纏った魔獣が咆哮を上げた。漆黒の靄が広がり、兵士たちの視界を奪う。恐怖に足を竦ませる者も出た。
柚希は両手を胸の前で組み、深く息を吸った。
「──光よ、闇を切り裂いて!」
瞬間、眩い光が解き放たれ、砦を覆う黒霧を吹き飛ばす。兵士たちが息を呑み、闇の向こうに敵の姿がはっきりと現れる。
「おおっ…!」歓声が上がる。
その隙に、レオンが先陣を切って飛び出した。銀の剣が朝日に煌めき、帝国兵を次々と薙ぎ払う。
ルカが背を守り、リディアの采配が戦場を整えていく。
柚希は城壁上から光を放ち続け、黒霧に立ち向かう兵士たちを支えた。彼女の存在は戦場の心臓部となり、味方の士気を大きく高めていく。
だが、敵もまた黙ってはいなかった。帝国の中軍が突如として道を開き、煌びやかな鎧をまとった騎士団が現れる。
「“聖女”を捕らえよ!」
その声が響いた瞬間、矢が一斉に柚希を狙って放たれた──。