第63話 奪われし標的
柚希の光が戦場を包み、二体目の魔獣も苦しげに咆哮をあげて霧散した。
夜明けのような輝きが大地を浄化し、兵士たちの胸に勇気を呼び覚ます。
「勝った……! 聖女様が魔獣を倒された!」
「この戦い、我らの勝利だ!」
王国軍の士気は一気に高まった。
柚希は肩で息をしながらも、安堵の微笑みを浮かべる。だが、その微笑みに影を落とすように、帝国本陣から冷たい号令が響いた。
「──聖女を捕らえよ。必ずだ!」
甲冑を纏った黒衣の騎士団が動き出す。彼らは帝国直属の精鋭、〈鎖の騎士〉と呼ばれる特殊部隊。
その武器は斬撃ではなく、柚希を絡め取るための鎖に魔術を刻んだものだった。
「ユズキ、下がれ!」
ルカが叫び、盾を構える。しかし鎖は炎をも弾き、彼の防御を容易くすり抜けていく。
「くっ……これは、聖女を奪うために用意された……!」
リディア宰相が苦い表情で歯噛みする。
柚希は鎖が迫るのを見つめ、背筋に冷たい恐怖を覚えた。
けれど、次の瞬間──
「──絶対に触れさせはしない!」
レオンが彼女の前に立ち、暁色の剣を振るった。
光を纏った剣閃が鎖を弾き飛ばし、戦場に響く音を断ち切る。
その姿に兵士たちは息を呑み、再び奮い立った。
「陛下がお守りだ! 聖女様をお守りしろ!」
「突撃──!」
戦況は再び混沌を極めていく。
柚希は胸に手を当て、震える指を必死に抑え込んだ。
(狙われているのは……私……。もし私が捕まれば、この国は……レオンは……!)
その恐怖と罪悪感が、彼女の光を揺らそうとする。
だが同時に、レオンの瞳が真っ直ぐに彼女を見据えていた。
「ユズキ……俺は何度でも誓う。お前を奪わせはしない」
その言葉に、柚希の胸に再び光が灯る。
たとえ帝国がどんな手を使おうと──彼と共に立つと決めた。