第62話 光と炎の誓い
帝国の魔法陣から解き放たれた二体の魔獣は、黒霧の塊が形を得たものだった。
巨大な狼のように四肢を地に突き立て、赤黒い瞳をぎらつかせて吠える。その声は兵たちの心を削ぎ落とし、空気を震わせる。
「ぐっ……!」
王国の兵士たちが思わず耳を塞ぎ、恐怖に膝をつきそうになる。
その瞬間、柚希は両手を掲げ、胸の奥から光を解き放った。
「怯えないで……! 私がここにいる!」
温かな光が兵たちを包み込み、耳を劈く咆哮の圧力を押し返していく。
それは癒しであり、守りであり、勇気を与える灯火。
「聖女だ……! 聖女様が導いてくださる!」
「まだ戦える……!」
兵たちの目に希望の色が戻り、剣を握り直す手が力を取り戻した。
前線で剣を振るうレオンが、低く叫ぶ。
「柚希! その光を俺に──!」
柚希は力強く頷き、光の奔流をレオンの剣に注いだ。
暁の炎を宿した刃は、白金の輝きを帯び、夜闇を裂くように輝く。
「これで……終わらせる!」
レオンが魔獣に駆け出した瞬間、ルカもまた盾を構え、敵の前に立ちはだかった。
「殿下を通せ……!」
リディア宰相もまた、冷静に指揮を飛ばす。
「全軍、王を護れ! 聖女の光がある限り、我らは無敵だ!」
剣と光が交わり、戦場はまるで夜明けを迎えたかのように眩しく染まる。
帝国の魔獣が咆哮をあげ、黒霧を放つが、柚希の光がそれを次々に浄化してゆく。
そして──
レオンの剣が、光の奔流を纏いながら魔獣の首筋を斬り裂いた。
「──っ!」
一体が黒い霧に砕け、空気に溶けて消える。
その瞬間、柚希の胸に熱い鼓動が走った。
彼と自分の力が、確かに重なったのだ。
だが、残る魔獣が柚希に狙いを定め、巨体を躍らせて突進してきた。
兵たちの悲鳴が響く。
「ユズキ!」
レオンが振り返る。
その刹那──柚希自身の光が、今までにないほど強く膨れ上がった。
「もう……奪わせない! 私は、私の意志でここにいる!」
眩い閃光が炸裂し、迫り来る魔獣の影を飲み込む。
戦場の誰もが目を覆うほどの光──それは、まさに「聖女の奇跡」と呼ぶにふさわしかった。