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第61話 暁の騎士

帝国軍の混乱は、柚希の光によって生じた一瞬の裂け目だった。

 その隙を突くように、王国軍の旗が翻り、先陣を切る騎士の姿が敵陣を縫う。暁色のマントを風に揺らし、鋭い剣閃が黒霧の残滓を切り裂いてゆく。


「……レオン!」

 柚希の声は震えたが、はっきりと彼の名を呼んでいた。


 黒霧の魔獣に恐怖で竦んでいた兵士たちも、その姿に息を呑む。闇を恐れるより先に、その背中を追いたいと心を突き動かされる。

 レオンはまるで黎明の化身のように戦場を駆け抜けていた。


「殿下……いや、今は“王”としてのお姿ですね」

 リディア宰相が低く呟く。

「ユズキ様、あの方とあなたの光が合わされば、帝国の野望も──」


 その言葉を遮るように、帝国の中央陣から大きな魔法陣が浮かび上がった。赤黒い光が脈動し、異形の魔獣がさらに二体、鎖を引きちぎって姿を現す。


「まだ……こんなに……」

 柚希の頬に冷たい汗が伝う。


 だが、ルカが剣を掲げ、彼女の前に立った。

「大丈夫です。ユズキ様がいる限り、僕たちは負けません。あの光を信じていますから」


 柚希はぎゅっと胸元を握りしめ、瞳を閉じた。恐怖ではなく、温かな記憶を心に描く。

 ──初めてレオンと出会った夜のこと。

 ──彼の掌に触れた時の、静かで確かなぬくもり。


「私は……聖女としてではなく、ユズキとして……。

 あなたと共に戦いたい」


 両手から溢れる光は、これまで以上に純粋で強い。まるで朝日が昇る瞬間のように、戦場を一気に照らした。


 レオンがその光に振り返り、一瞬だけ柚希と視線を交わす。

 彼の瞳に宿ったのは、王としての誇りではなく、一人の男としての熱情だった。


「……必ず守る」

 彼が呟いた声は、誰にも聞こえなかった。だが、柚希の心だけは確かに震わせた。


 光と剣、暁と夜明け。

 二人の力が重なるとき、戦場の運命は大きく動き出す──。


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