表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/74

第59話 聖女の凱旋

戦いの終結から三日後。

 砦を離れた柚希たちは、王都へと向かう馬車に揺られていた。


 砦を包んだ闇は完全に消え、道中の村々では人々が笑顔を取り戻していた。

 柚希の姿を見つけると、子どもたちは駆け寄り、花を差し出してくる。


「聖女様! ありがとう!」

「黒霧がいなくなったよ!」


 戸惑う柚希に、ルカが笑いながら小声で囁いた。

「素直に受け取れ。お前の光が救ったんだからな」

「で、でも……私、そんなに大それた存在じゃ……」

「いや、お前だからこそできたことだ」


 ルカのまっすぐな言葉に、柚希の胸が温かくなる。

 まだ慣れない「聖女」という呼び名も、少しずつ受け入れられるような気がした。


 ──そして、王都。


 城門前には多くの市民が集まり、柚希たちを出迎えていた。

 歓声が響き、花びらが舞う中、馬車はゆっくりと城の中へ進む。


「まるで、お姫様みたいですね」

 リディア宰相が冗談めかして言うと、柚希は慌てて首を振った。

「ち、違いますよ! 私はただ……」

「ただの娘が黒霧の王を打ち倒せますか?」

 リディアの柔らかな微笑みは、彼女を諭すようだった。


 玉座の間では、王と重臣たちが待っていた。

 その中央に、若き王子──レオンの姿があった。


 黄金の髪に深紅のマントをまとい、凛とした気配を漂わせる。

 柚希が進み出ると、レオンは静かに跪き、彼女の手を取った。


「聖女よ。この国を救ってくれたこと、心より感謝する」

 その瞳には、真剣な敬意と、どこか温かな光が宿っていた。


 柚希の頬が熱くなる。

 視線を逸らそうとしたが、レオンの眼差しに捉えられ、動けなくなった。


「ユズキの光は、国だけでなく……人の心をも照らす」

 その言葉に、玉座の間が静まり返る。

 リディア宰相はわずかに目を細め、ルカは苦笑しつつも剣に手を置いた。


 ──柚希は気づいていた。

 帝国だけではない。王都の中にも、自分を巡る思惑が渦巻き始めていることを。


(私……これから、どうなるんだろう)


 だが、不思議と恐怖はなかった。

 新しい世界が、また目の前に広がろうとしているのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ