表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/74

第57話 聖女の覚醒

光の槍が一斉に放たれ、砦の夜を白く照らした。

 黒霧の王の巨体に突き刺さり、黒い霧が飛散する。しかし、その傷は瞬く間に塞がっていった。


「な、なんて再生力……!」

 リディア宰相の声が震える。


 黒霧の王が低く唸り声をあげ、口から濃密な闇を吐き出す。

 それは光すらも呑み込む奈落の奔流だった。


「ユズキ、下がれ!」

 ルカが盾を構えて立ちふさがる。だが、闇は盾を瞬く間に侵食し、金属が黒く錆び崩れていく。


「ルカ!」

 柚希は咄嗟に彼の前に飛び出し、胸の奥に宿る光を全開にした。


 ──ドンッ!


 純白の壁が広がり、闇の奔流を受け止める。

 だが、その衝撃は柚希の体を深く削り、血の味が口に広がった。


「く……まだ、倒れるわけには……!」


 その瞬間、柚希の中に温かな声が響いた。

 ──“柚希。あなたはただの異邦人ではない。

 光を受け継ぐ存在。世界に選ばれし《聖女》なのだ”


 胸が熱くなり、視界が光に満たされる。

 気づけば、柚希の背に広がった幻影の翼は、今度は確かな質量を持ち、羽ばたきとともに砦に聖なる風を吹き込んでいた。


「これが……私の、本当の力……!」


 黒霧の王が咆哮を上げて迫る。

 柚希は両手を掲げ、天へと祈るように声を放った。


「光よ──私に力を!」


 瞬間、天から降り注ぐように光の雨が広がり、砦全体を包んだ。

 兵士たちの傷は癒え、心は再び奮い立つ。

 ルカが立ち上がり、剣を構える。

「これなら……戦える!」


 リディア宰相も魔導陣を展開し、砦を守る結界を補強した。

「聖女殿、今こそ王を討ち果たすのです!」


 柚希は頷き、光の槍を再び手に取った。

 だが今度の光は、以前とは比べものにならないほど強く、純粋だった。


「黒霧の王よ……この光で、終わらせる!」


 放たれた一条の輝きは夜を裂き、黒霧の王の胸を貫いた。

 轟音とともに巨体が崩れ落ち、闇が霧散していく。


 砦に静寂が戻ったとき、兵士たちは歓声を上げた。


「勝った……! 聖女様が勝ったぞ!」


 柚希はその場に膝をついた。

 全身を駆け巡る痛みと疲労──だが、胸の奥は不思議なほど清らかで、温かかった。


 彼女の瞳には、崩れゆく黒霧の王の姿と、未来へ繋がる光が映っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ