第51話 光の覚醒
黒霧が霧散し、夜の静寂が戻る。
しかし、空気の重さは消えていなかった。──群れを退けても、根源はまだ残っているのだ。
柚希は剣を握る手を震わせながらも、胸の奥に確かな熱を感じていた。
それは、先ほどの戦いの中で、初めて鮮明に自覚したもの。
「……私の中に、光が……」
掌から微かな輝きが零れていた。
それは剣の反射ではなく、確かに柚希自身からあふれ出したものだった。
「ユズキ……今のは」
レオンが驚きに目を見開く。
リディア宰相が険しい顔で頷いた。
「やはり……。あなたの中には、古の力が眠っていたのですね。光を操る者は、伝承において“黒霧を祓う鍵”とされている」
「黒霧を……祓う、鍵……?」
柚希の胸にざわめきが走る。
ルカが息をつき、にやりと笑った。
「すごいじゃないか。なら、次は俺たちが君を守る番だな」
そう言って彼は軽く剣を回し、周囲を警戒する。
その間にも、城壁の下ではなお黒霧の影が蠢いているのが見えた。
レオンが柚希の手をそっと包み込む。
「怖がるな。お前が持つ光は、この闇を打ち払うためにある。俺が隣にいる。必ず導いてやる」
その低く穏やかな声に、柚希は心臓を強く打たれる。
恐怖よりも、力を解き放ちたいという衝動が勝った。
「……やってみる」
柚希は目を閉じ、深く息を吸う。
胸の奥で脈打つ光を感じ、両手を広げた瞬間──
夜空に向かってまばゆい光が迸った。
それは矢となり、壁を登ろうとする黒霧を次々と貫き、闇を裂いて消し去っていく。
轟音と共に、群れが後退した。
「これが……私の力……!」
光に照らされながら呆然と呟く柚希に、リディアが目を細めて告げる。
「その力を制御できれば、この戦いの行方を変えられるでしょう」
レオンは彼女を強く抱き寄せ、囁く。
「ユズキ……お前は、この世界の希望だ」
その言葉が胸に深く刻まれると同時に、柚希の光はさらに強く瞬き、夜の城壁を守るように輝き続けた。