第5話 婚約発表
大広間の扉が重く開き、柚希は眩しい光とざわめきの中へ足を踏み入れた。
天井まで届く大きなシャンデリアが輝き、壁際には貴族らしき男女が並び立っている。視線が一斉にこちらに注がれ、その重さに足がすくみそうになる。
レオンは堂々と前へ進み、柚希の横に立った。
「諸君、本日集まってもらったのは他でもない。──私の婚約者を紹介する」
その一言に、場がざわついた。
「王が婚約者を……?」
「どこの令嬢だ? 見たことがない」
「服装が妙だな……」
小声が飛び交い、好奇と疑念が入り混じった視線が柚希を刺す。
レオンは構わず続けた。
「彼女は異国の出身だ。名は柚希。これから一年間、私の隣に立つことになる」
言葉は簡潔だが、その響きには抗いがたい威圧感があった。
しかし次の瞬間、年配の貴族が一歩前に出て、低く問う。
「異国の娘など、何の血筋も知らぬ。王の婚約者としては……」
言い終える前に、レオンの視線が鋭く突き刺さった。
「私が選んだ。それ以上の理由が必要か?」
短い沈黙の後、誰もが口をつぐむ。
そのやり取りを横で見ながら、柚希は悟った。
──私は、守られているのではない。ただ、彼の計画のための“盾”であり“飾り”なんだ。
発表が終わると、広間を出る途中でレオンが低く呟いた。
「よくやった。……初めてにしては堂々としていた」
その声はほんのわずかに柔らかかった。
柚希は、返す言葉を見つけられず、ただ彼の背中を見つめた。