第46話 黒霧の咆哮
荒れ果てた平原に、低く不気味な唸り声が響き渡った。
漆黒の霧が渦を巻き、やがて姿を現したのは、獣とも竜ともつかぬ異形の群れ。無数の赤い瞳が夜の闇のように輝き、地を揺らす咆哮が空気を震わせた。
「来るぞ!」
レオンが大剣を構える。その声と同時に、黒霧の群れが一斉に襲いかかってきた。
柚希は胸の鼓動を聞きながら、両手を突き出した。白銀の光がほとばしり、仲間たちを包み込むように広がる。
「みんな……私が守る!」
光の障壁に弾かれ、突進してきた黒霧の獣が火花を散らす。だが数が多すぎる。次々と押し寄せ、光の壁を食い破ろうと牙を剥いた。
「ユズキ! 持ちこたえてくれ!」
レオンが叫び、大剣を振り下ろす。黒い影を薙ぎ払うと、地面に濃い霧が飛び散った。
ルカも素早く駆け、短剣で黒霧の足を切り裂く。その動きはしなやかで、隙を突くごとに敵を霧散させていく。
「まだまだ来るわよ!」
リディアが叫び、呪文を紡ぐ。蒼い魔法陣が浮かび、炎の矢が黒霧に突き刺さった。夜空を焦がす火光が群れを照らし、一瞬だけ闇を押し返す。
柚希は必死に光を送り続ける。
だが、黒霧の中心から現れた巨体が、その光を嘲笑うかのように咆哮した。
「……あれは……!」
リディアの声が震える。
群れを率いる黒霧の王─♯︎まるで闇そのものが形を得たような巨獣だった。
鋭い角、無数の牙、そして眼孔の奥で燃える灼熱の赤。見上げるほどの巨体が地を踏み鳴らすたび、大地が軋んだ。
「みんな、下がれ!」
レオンが仲間を庇うように前に立つ。だが、巨獣の一撃は重く、容易には防げない。
柚希は震える両手を見つめた。
──このままじゃ、皆が……。
胸の奥で光が疼いた。今までよりも強い、鋭い衝動。
「……私は、負けない!」
その瞬間、柚希の身体から迸った光は、まるで星屑を散らすように眩しく輝いた。
仲間たちが振り返る。その瞳に映るのは、闇に立ち向かう柚希の姿。
──決戦は、いよいよ本番を迎えようとしていた。