第44話 癒しの光
深い森の奥、柚希と仲間たちは一時的な野営地を作り、焚き火の周りで身を寄せ合っていた。昼間の戦闘で現れたのは、濃い闇のような霧をまとった魔獣──黒霧。その群れとの戦いは熾烈を極め、皆が疲弊していた。
とくにリディアは、黒霧に噛まれた腕から漆黒の痕が広がっていた。痺れと痛みに耐えながら笑みを作るが、その顔色は青ざめている。
「無理に強がらなくていい」
柚希が彼女の隣に座り、静かに声をかける。
「……私は平気です。ただの傷だから……」
リディアはそう言うが、声は震えていた。
柚希は胸に手を当て、深呼吸する。仲間を守りたい一心で目覚めた「癒しの光」。その力に縋るように、彼女は両手をリディアの腕に添えた。
淡い光がじわじわと広がり、焚き火の炎と重なって闇を押し返すように輝いた。黒い痕が少しずつ消えていき、リディアの苦痛に歪んでいた表情が和らいでいく。
「……温かい……」
リディアの瞳に涙が滲む。
「ユズキの光は、不思議ですね。黒霧の呪いまで浄化してしまうなんて」
周囲で見守っていた仲間たちも、その光景に息を呑んでいた。レオンは焚き火の向こうからじっと柚希を見つめ、静かに言う。
「君の力は、ただの癒しではない。黒霧を払う、希望の光だ」
やがて光が消える頃、リディアの顔色は戻り、笑顔を浮かべられるようになった。柚希はほっと息を吐く。
「ありがとう、ユズキ。私……あなたと出会えて本当によかった」
その言葉に柚希は照れくさく笑うが、心の奥で確かな温かさを感じていた。
夜風が木々を揺らし、遠くで梟の声が響く。静かな森の中、仲間たちの絆は一層強まっていた。
──黒霧がいかに強大でも、この絆がある限り負けはしない。柚希は強くそう信じていた。