第39話 夜の誓い
試練を終え、夜の帳が王都を覆いはじめたころ。
柚希は城の一室で、窓辺に腰かけていた。
遠くに見える灯りが揺らめき、石畳を行き交う人々の姿を、星明かりがやさしく照らしている。
「……監視役、か」
リディアの言葉が頭から離れず、胸が少し重い。
それでも、あの人が最後に残した声が、どうしても冷たさだけには思えなかった。
そんなとき。
「まだ起きていたのか」
低く落ち着いた声とともに、扉がノックもなく開いた。
「レオン……」
彼は軽い外套を羽織った姿で、迷うことなく柚希の傍らへ歩いてきた。
「ひとりで考え込みすぎだ」
そう言いながら窓辺に並んで立ち、夜風に髪を揺らす。
彼の体温がすぐ隣で感じられ、柚希の胸の鼓動が早まる。
「……私、強くなりたい。誰かに守られてばかりじゃなくて、私自身がこの国の力になれるように」
「お前はもう十分に強い」
レオンは迷いなく言った。
「今日だってそうだ。どんなに傷ついても、立ち上がろうとした。その姿は、誰よりも強かった」
柚希の瞳が揺れる。
「でも……リディアさんには、災厄になるかもしれないって」
「それはあの人の務めだ。だが俺は違う」
レオンは柚希の手を取った。
「俺は、お前を信じる。どんな未来になろうと、俺の選択は変わらない」
静かな夜に、その言葉が落ちる。
柚希は目頭が熱くなり、気づけばレオンの胸に顔をうずめていた。
強くも優しい腕が、迷いごと包み込んでくれる。
「ありがとう……レオン」
「礼はいらない。ただ一つ、約束してくれ」
「……約束?」
レオンの瞳が真剣に柚希を見つめる。
「決して、自分を犠牲にするな。お前がいなくなれば、この国の希望も……俺の未来も、消える」
その言葉に、柚希の胸が熱くなる。
彼の存在が、どれだけ自分の支えになっているかを改めて思い知った。
「うん……約束する」
柚希は涙を拭い、微笑んだ。
夜空に星が瞬き、まるでその誓いを見守るかのようだった。