表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/81

第36話 孤立する聖女と陰謀の影

王都に戻ってからの日々は、柚希にとって決して安らげるものではなかった。

 街を歩けば「聖女様だ」と囁かれる。

 その声に温かな敬意が混じる一方で──冷ややかな視線も同じくらい向けられていた。


 「……あの娘、本当に聖女なのか」

 「帝国に狙われたというが、むしろ繋がっているのでは」


 そんな噂が背後から聞こえてくる。

 柚希は足を止め、うつむいた。

 ──災厄。昨日の囁きが、また胸に蘇る。


 「顔を上げろ」

 低い声に振り向けば、すぐ傍にレオンが立っていた。

 彼の瞳は真っ直ぐで、揺れることがない。

 「……レオン様、皆、私を……」

 「気にするな。真実は一つだ」

 「でも……」

 「俺が見てきたお前は、人を救う者だ。それで十分だ」


 レオンの言葉は心強かった。

 けれど、王都に渦巻く疑念は日に日に強まり、柚希を蝕んでいく。


 


 その頃、王城の一室。

 重厚な扉の奥で、ガルシアンは密やかに誰かと交わっていた。


 「……聖女の心に“種”は植えた」

 「順調、ということか」

 返事をしたのは、黒衣の男。帝国の密使だった。

 「帝国は彼女を“器”として迎え入れる準備を整えている。お前の役目は、彼女を疑念と孤立に追い込み、我らに差し出すことだ」

 「心得ている。あの娘は脆い。自らの存在を疑わせれば、すぐに崩れる」


 ガルシアンの目が薄く笑む。

 「いずれ、光は闇に呑まれる。……それでこそ我が研究も完成する」


 黒衣の男は静かに頷き、闇へと溶けて消えた。


 


 その夜、柚希は眠れずにいた。

 王都の空は澄んでいるはずなのに、心は曇り続ける。


 ──私は、本当に聖女なの?

 ──それとも、災厄なの?


 目を閉じれば、村で救った人々の笑顔が浮かぶ。

 けれど同時に、囁かれた言葉も消えない。


 「……レオン様」

 小さな声で名を呼んでも、返事はない。

 彼は今も、どこかで剣を研いでいるのだろう。


 ──もし、私が本当に災厄なら……この人は……。


 胸が痛む。

 涙を拭いながら、柚希は小さく拳を握った。


 「……私は、災厄じゃない。絶対に」


 その言葉は、夜風に溶けるほどに小さかった。

 だが確かに、彼女の心に灯る意志の欠片でもあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ