第31話 初めての共闘と村の祈り
獣の咆哮が、離宮の森を震わせた。
赤い瞳が血走り、涎を撒き散らしながらレオンへと迫る。
「グォォォォッ!」
牙が閃き、レオンの肩を噛み砕かんと振り下ろされる。
だが、銀の剣は一瞬の隙もなく獣の顎を弾いた。
「ユズキ、迷うな! お前の光で俺の剣を導け!」
短い指示に、柚希の胸が大きく跳ねた。
──一緒に、戦う? 私が……?
けれどその言葉は、不思議と恐怖を押しのける力を持っていた。
「……はい!」
柚希は両手を胸の前で組み、祈るように目を閉じる。
白い光が溢れ、夜明けの森を昼のように照らし出す。
レオンの剣がその光を浴び、銀の刃は聖なる輝きを宿した。
「──これで終わりだ!」
レオンは地を蹴り、一気に獣の懐へ飛び込む。
剣が閃き、柚希の光に導かれるように獣の胸を正確に貫いた。
「グォォォォッ……!」
断末魔が森に響き渡り、やがて巨体は崩れ落ちた。
しばらく続いた静寂。
柚希は力が抜け、その場に膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
身体中から汗が噴き出し、けれど胸の奥はどこか清々しい。
レオンが剣を収め、振り返る。
銀の瞳が柚希を真っ直ぐに見つめた。
「よくやったな。……お前がいなければ、斬れなかった」
その言葉に、柚希の頬が熱くなる。
「わ、私……役に立てましたか?」
「当たり前だ」
レオンの口元に、僅かながら笑みが浮かんだ。
そこへ、森の奥から村人たちが駆け寄ってきた。
怯えた顔で化け物の死骸を見つめ、次に柚希とレオンに視線を移す。
「聖女様が……光で導いたのですか?」
「本当に……守ってくださったのですね……」
やがて誰かが膝をつき、柚希へと頭を下げた。
「ありがとうございます、聖女様……!」
その声に導かれるように、村人たちは次々とひざまずき、祈りを捧げた。
戸惑いと熱の入り混じる視線を受けて、柚希の胸は締めつけられる。
──私は、聖女として見られている。
──災厄じゃなくて……救いなんだ。
その瞬間、心の奥に芽生えたものがあった。
恐怖でも罪悪感でもない、新しい感情。
それは──希望。
レオンは人々の祈りを背に、柚希の肩に手を置いた。
「お前はもう“偽物”じゃない。……この国が認めた聖女だ」
柚希の瞳に、涙が滲んだ。
けれどその涙は、もう弱さだけのものではなかった。