第30話 再会と剣の閃き
夜が明けきらぬころ。
柚希は離宮の庭に立っていた。森の奥から、ただならぬ気配が押し寄せてくる。
胸の奥に、嫌な予感がざわめいた。
「……来る」
次の瞬間、森の木々がざわめき、巨体が影から姿を現した。
黒い毛並みと血のように赤い目──かつて彼女を襲った“化け物”と同じ存在。
いや、それよりもはるかに巨大で、牙は鋼をも砕きそうなほど鋭い。
「まさか……また……!」
柚希の足は震えた。
逃げたい。けれど、この先に村がある。
ここで止めなければ、また誰かが犠牲になる。
──逃げちゃ、だめだ。
柚希はぎゅっと両手を握りしめた。
恐怖を押し殺し、一歩前に出る。
「お願い……! もう誰も傷つけないで!」
必死の祈りに応じるように、彼女の掌から柔らかな光が溢れた。
光は空気を震わせ、化け物の体をわずかに押し返す。
しかし──
「グォォォォ……!」
獣は咆哮し、逆に暴走するように牙を剥いた。
柚希の光を受け止めながら、なおも前進してくる。
「……っ、止まらない……!」
柚希の顔が恐怖で青ざめたその時。
──鋭い剣閃が、獣の横腹を裂いた。
「下がれ!」
低く響いた声に、柚希の心臓が跳ね上がる。
振り返ると、そこに立っていたのは──銀の瞳を持つ男。
マントを翻し、剣を構えた姿。
「……レオン……!」
彼は一切迷いなく柚希の前に立ちはだかり、迫りくる獣を睨みつける。
「お前に手を出す奴は、誰であろうと斬り伏せる」
柚希の胸に熱いものがこみ上げた。
恐怖に震えていた心が、彼の背中を見ただけで不思議と落ち着いていく。
──ああ、やっぱり。
この人は、私を守るために来てくれたんだ。
剣と獣の激突が、離宮の森に轟いた。
そして柚希は、自分の光をもう一度両手に灯す。
今度は、ただ守られるだけじゃない。
──共に戦うために。