表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/79

第29話 王の出立と再会の予兆

夜明け前の王都は、まだ深い静けさに包まれていた。

 しかし、城の一角ではひそやかな準備が進められていた。


 重厚なマントを羽織ったレオンが、馬の背に跨がる。

 宰相が駆け寄り、声を潜めた。

 「陛下……護衛をつけずに行かれるなど、あまりに危険です」

 「護衛の一団を動かせば、帝国に察知される。今は隠密が肝要だ」


 宰相は苦々しい顔で口をつぐむしかなかった。

 レオンは視線を夜空に上げる。まだ残る星が、まるで導くように瞬いていた。

 「俺が行く。……あの女を守るのは、この手だけだ」


 そう呟き、馬を走らせた。

 王都の灯が遠ざかり、森の闇が迫る。

 その背中には、王としての威厳ではなく、一人の男としての揺るぎない決意が宿っていた。


 


 一方その頃、離宮。

 柚希は窓辺に腰を下ろし、月の名残を見上げていた。

 昨夜の襲撃の恐怖は、まだ身体の奥にこびりついている。

 目を閉じれば、黒いフードの男たちが手を伸ばしてくる光景がよみがえる。


 「……私がいるせいで、みんなが危険に……」


 そう呟くと、胸が締めつけられた。

 けれど同時に、ルカの言葉が耳に残っている。

 ──災厄か救いかは、お前次第だ。


 「……逃げちゃだめだよね」

 柚希は自分に言い聞かせるように小さく頷いた。


 と、そのとき。

 窓の外の森の気配が、微かに揺れた。

 人影──いや、殺気。

 柚希は息を呑む。

 「また……来る……?」


 緊張で心臓が跳ね上がる。

 だがその気配は、敵のものとは違っていた。

 温かな風のように、どこか懐かしく、心を強くさせる何かを含んでいる。


 ──この気配……。


 胸の奥に、ひとつの顔が浮かんだ。

 銀の瞳で、いつも冷ややかな声で、それでも時折心を揺らす人。

 「……レオン……?」


 柚希の声は夜気に溶け、森の奥に消えた。


 


 その頃。

 馬を走らせるレオンの耳に、遠くフクロウの鳴き声が届いていた。

 彼の心は奇妙に落ち着いていた。

 まるで、彼女が待っていると知っているかのように。


 「もうすぐだ……ユズキ」


 その呟きは、誰にも聞かれることなく夜明けに溶けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ