第23話 孤立の淵で
帝国の刺客が礼拝堂に侵入した夜から数日後。
王宮は不安と噂に包まれていた。
「聖女は命を狙われたらしい」
「やはり厄災を呼ぶ存在だ」
「いや、彼女が光で追い払ったのだという」
人々の声は賛否に分かれ、王都の空気は次第に重くなっていった。
柚希は、自室の窓から庭を眺めていた。
外の空は晴れているのに、胸の内は曇ったままだ。
「……私がここにいるから、みんなが危険に巻き込まれる」
侍女たちの視線も冷たい。
必要以上に距離を置かれ、言葉を交わす機会も減った。
あの日、幼い侍女が差し出してくれた花束は、今も机の上にある。
その小さな花が、唯一の慰めだった。
その夜、執務室にレオンが彼女を呼んだ。
机の上には山積みの報告書が置かれている。
「帝国の影が王都に潜んでいる。これ以上、ここに置くのは危険だ」
「……でも、逃げるみたいで」
柚希の声は弱々しかった。
レオンはしばし黙した後、彼女の瞳をまっすぐに見据えた。
「守るためだ。お前が背負うものは、ここにいる誰よりも重い。だからこそ、一度距離を置くべきだ」
「距離を……?」
「辺境の離宮がある。静かで、人目も少ない。そこで休み、力を見つめ直してほしい」
柚希は唇を噛んだ。
──ここで役に立てると思っていたのに。
──でも、確かに私は足手まといかもしれない。
「……わかりました」
そう答える声は震えていたが、彼女の胸の奥には微かな決意も芽生えていた。
夜が更け、柚希は自室に戻った。
机の花束に触れながら、静かに囁く。
「もし……あの離宮で、私の力の答えが見つかるなら」
その時、廊下の影から視線を感じた。
ドアの隙間から覗く影。
だが振り返ったときには、誰の気配も消えていた。
──まだ誰かが、私を見ている。