第22話 闇に潜む刃
その夜。
王宮の礼拝堂には、静かな祈りの声が響いていた。
柚希は祭壇の前に膝をつき、掌を組む。
光の力を使いすぎたせいか、全身にだるさが残っていたが──それでも心を落ち着けるために、祈らずにはいられなかった。
「……神様。どうか、私の力が人を傷つけるものではありませんように」
その願いは誰に届くのか、自分でもわからない。
けれど声にすることで、少しだけ胸が軽くなった。
だが、その祈りを嘲笑うかのように、礼拝堂の窓が小さく軋んだ。
暗闇の中から、黒衣の影が音もなく忍び込む。
「……ここにいるな。異邦の聖女」
柚希は振り返り、息を呑んだ。
数人の刺客が、鋭い刃を手に近づいてくる。
恐怖で足がすくみ、声も出ない。
──まただ。狙われる。
「ユズキ!」
重い扉が開かれ、レオンの声が轟いた。
剣を抜いた彼が突進し、最前の刺客を弾き飛ばす。
火花が散り、鋭い剣戟が礼拝堂に響き渡った。
「陛下だと……!?」
刺客のひとりが怯んだ瞬間、柚希の背後から別の刃が迫る。
「いや──っ!」
思わず伸ばした手から、光が迸った。
閃光に包まれた刺客は目を覆い、呻き声を上げる。
その一瞬の隙を突き、レオンが剣を振るった。
「二度と、手を出すな!」
鋼の響きと共に、刺客たちは退き、窓から夜の闇へと消え去った。
静寂が戻った礼拝堂で、柚希は膝から崩れ落ちていた。
「……私、また……」
震える声に、レオンが彼女を抱き上げる。
「何も恐れるな。お前の力があったから、俺は守れた」
「でも、私のせいで狙われて……」
「違う。お前は生きている。ただそれだけで、俺にとっては守る理由になる」
その言葉に、柚希の視界が滲んだ。
涙をこらえようとしても、こらえきれない。
彼の腕の中で、ただ小さく頷くしかなかった。
その頃、宮廷の暗がりではリディアが密使の報告を受けていた。
「失敗しました。だが、聖女は確かに力を使いました」
「……そう。ならば次はもっと巧妙に。──人々の恐怖を利用するのです」
紅い唇が、薄く嗤った。