第18話 華やぐ宴、忍び寄る影
王宮の大広間は、煌びやかな光に包まれていた。
数百もの燭台が金の輝きを放ち、壁一面に飾られた絵画と鏡が幻想のように反射している。
各地の貴族や高官たちが集い、帝国からの使節も顔を揃えていた。
「……こんな大勢の前に」
柚希は裾の長い白銀のドレスを握りしめ、小さく息を吐いた。
王宮の侍女たちが入念に着付けを施してくれたものの、心の中の緊張は抑えられない。
「怖気づいたか」
低い声と共に差し出されたのは、逞しい手。
顔を上げれば、そこに立つのはレオンだった。
「……はい。少し」
「なら、俺の隣に立て。誰にも触れさせん」
その言葉に、柚希は震える指をそっと重ねた。
彼の掌は温かく、恐怖をほんの少し和らげてくれる。
やがて宴が始まり、楽の音と笑い声が広間を満たした。
レオンは柚希を伴い、壇上に立つ。
ざわめきが広がる──異邦の娘を、国王自らが隣に立たせたのだから当然だった。
「皆の者。紹介しよう」
堂々たる声が響き渡る。
「彼女はユズキ。遠き地より訪れた客人であり……我が庇護下にある者だ」
その宣言は、王国全体に対する意思表示だった。
柚希の心臓は激しく打ち、視線が突き刺さる。
敬意と好奇、そして──疑念と敵意。
「……なんて居心地の悪さ」
小声で呟いた柚希に、レオンは片目だけで合図を送る。
「怯むな。俺がいる」
宴が進む中、柚希はリディアと視線を交わした。
リディアは扇で口元を隠し、微笑んでいる。
だがその瞳には、鋭い光が宿っていた。──“見ているわよ”と告げるように。
さらに不穏なのは、帝国の使節たちだった。
彼らは盃を傾けながらも、柚希を値踏みするように観察している。
その中のひとりが、懐に忍ばせた短剣に指をかけたのを、柚希は見逃さなかった。
──また狙われる!
緊張が全身を走ったその瞬間、会場の灯りが一斉に揺らぎ、蝋燭の炎が吹き消されるように暗転した。
「っ──!」
悲鳴が広間を覆う。
次の瞬間、闇の中で冷たい殺気が柚希に迫った。
「ユズキ!」
レオンの声が轟く。剣が抜かれ、火花のように光る。
──そして、再び彼女の内から、まばゆい光が溢れ出した。