第17話 守護と疑念
夜の襲撃から一日が経った。
柚希の部屋には警護の兵士が常駐し、侍女たちの態度も一変していた。
好奇と恐怖が入り混じった視線──それは「異邦の娘」がただの客人ではなく、国を揺るがす存在であると知ったからにほかならない。
「……居心地、悪いな」
柚希は窓辺に腰掛け、ぽつりと呟いた。
昨夜の光景がまだ脳裏に焼きついている。自分を襲った刃。そして、あのとき溢れた“力”。
まるで、勝手に身体が動いて彼女を守ったかのようだった。
「ユズキ」
低い声が扉の向こうから響く。
入ってきたのはレオンだった。鎧を纏った姿のまま、彼はまっすぐ柚希に歩み寄る。
「昨夜の件で、帝国が動き出したのは明らかだ」
「……私が狙われているんですね」
「そうだ」
レオンの瞳が、炎のように揺らめく。
「だからこそ宣言しておく。──俺が、お前を必ず守る」
その言葉は真っ直ぐだった。
柚希の胸に温かな光が広がる。けれど同時に、不安の影も消えない。
「でも……私が陛下を危険に巻き込んでしまうのでは」
「愚問だ」
レオンは即座に否定した。
「お前は脅威ではない。俺にとって必要不可欠な存在だ」
──必要不可欠。
その響きに胸が高鳴る。だが、柚希はまだ素直に受け止めきれなかった。
一方、謁見の間では、宰相や重臣たちが密かに集まっていた。
「異邦の娘をこのまま王宮に留め置くのは危険では」
「昨夜の光景をご覧になったでしょう。あれは人の手に余る力だ」
「陛下が情に流されるようであれば、我らが手を打つべきかと」
重苦しい声が交わされる。
そして、その議論の輪の中に、リディアの姿もあった。
彼女は扇を口元に当て、穏やかに微笑む。
「皆さまのご懸念、ごもっともですわ。……けれども、あの方を上手く導けば、国のためにもなるのではなくて?」
その声音の裏に、冷ややかな思惑が潜んでいた。
柚希を「排除」するのか、「利用」するのか──。
宮廷全体が揺れ始めていた。