第15話 選択の影
東屋を後にした柚希は、足元が覚束ないほど動揺していた。
──リディアと手を組む?
そんなこと、考えるべきではない。彼女は敵。陛下の婚約者候補であり、柚希を排除したがっているはずだ。
だが……彼女の言葉の一つ一つが、胸の奥に棘のように刺さって離れなかった。
「王は駒を捨てる」
信じたい。けれど、確信できない。
昨夜のレオンの言葉──“俺のそばにいろ”──すらも、利用のためだったのではないかと疑ってしまう。
部屋に戻ると、侍女たちが妙に視線を逸らした。
昨日の出来事が、すでに王宮中に広まっているのだろう。
「……私、どうすれば」
小さく呟いたその声は、誰にも届かない。
夜。
執務室で書簡を捌いていたレオンの元に、宰相が控えめに告げた。
「本日、リディア殿下が異邦の姫に接触したとの報告がございます」
ペンの動きが止まる。
レオンの表情は変わらなかったが、瞳の奥が冷たく揺れた。
「……何を話した」
「詳細は掴めておりませんが、“協力”を持ちかけたとか」
重苦しい沈黙が落ちる。
レオンはゆっくりと椅子から立ち上がり、窓の外を見やった。
暗い夜空には、ひときわ明るい星が瞬いている。
「愚かな女だ。……だが、問題はユズキの答えだな」
冷徹な声音の裏で、わずかに胸の奥がざわめく。
彼女が他の誰かに寄り添うことを想像しただけで、心臓が重く軋んだ。
──これはただの駒への執着か。それとも……。
レオン自身、その答えを持てずにいた。