第14話 囁き
翌日、柚希は侍女に案内され、庭園の奥にある小さな東屋へと向かった。
そこには、すでにリディアが待っていた。
真紅のドレスに身を包み、陽光を受けた彼女は薔薇そのもののように美しかった。
「まあ、異邦のお姫様。ごきげんよう」
にこやかに笑う声に、背筋が冷たくなる。
「……何の御用ですか」
柚希はできるだけ平静を装った。
だが、リディアの瞳はすでに彼女を値踏みするように射抜いている。
「昨日の光……見事でしたわね」
「っ……」
柚希は息を呑む。リディアが見ていたのか、それとも噂が広まっているのか。どちらにせよ、彼女は確信している。
「ご安心なさい。私は陛下の寵愛を奪うつもりはありませんわ」
甘やかな声に嘲笑が滲む。
「けれど……あなたが本当に“星の娘”であるなら、この国の均衡は崩れるでしょう。帝国も、隣国も、あなたを狙うはず」
柚希は唇を噛む。──わかっている。そんなことは。
だが、リディアはさらに追い打ちをかける。
「陛下はお優しいお方。あなたを守ると仰るでしょう。でも、王は駒を捨てることに躊躇はなさいません。……ご自分がその駒だと知っても、まだ陛下を信じますの?」
胸の奥を鋭い刃で突かれたように痛んだ。
信じたい。けれど、疑いが消えない。
「……どうすれば、いいと?」
柚希が問うと、リディアは薔薇のように微笑んだ。
「簡単ですわ。力を隠し、静かに生きること。そのために……私と手を組むのです」
差し出された手が、陽光を受けて白く輝いていた。
──敵か、味方か。
柚希は息を詰め、その手を見つめる。