第13話 予言の影
王の執務室に連れ込まれた柚希は、扉が閉ざされた瞬間、背筋が震えた。
レオンの瞳が鋭く細められ、冷たい声が落ちる。
「……お前、今の力を自覚していたのか」
「ち、違います! 私だって驚いて……気がついたら勝手に……」
必死に言葉を繋ぐ柚希を、彼はしばし無言で見つめる。
その沈黙が、責められるよりも苦しかった。
やがてレオンは視線を外し、机に置かれた一冊の書を撫でる。
──あの“予言の書”。
「星の娘は異邦より現れ、王を導き、国を救う……」
低く読み上げる声に、柚希は思わず息を呑んだ。
「やはり……お前が、その存在か」
「……っ!」
胸の奥で警鐘が鳴る。望んでいた答えのはずなのに、どうしてこんなに怖いのだろう。
「勘違いしないことだ」
レオンが冷ややかに続ける。
「お前は聖女でも救世主でもない。ただの異邦人だ。だが……力を持つ以上、周囲は放ってはおかない」
柚希は唇を噛んだ。
──利用される。
帝国も、王国も。もしかしたら、この人でさえ。
「……私、どうすればいいんですか」
絞り出すように問いかけた声に、レオンは答えず、しばらく柚希を見据えていた。
そして、微かに目を伏せると、意外なほど静かな声で呟いた。
「俺のそばにいろ。……それだけでいい」
その言葉の真意を探ろうとする間もなく、執務室の扉が叩かれた。
「陛下、失礼いたします」
入ってきたのは宰相だった。柚希を一瞥すると、何かを悟ったように目を細める。
──見られた。
柚希の心臓が再び高鳴る。
彼女の力は、もう隠し通せないところまで来ていた。