第11話 宮廷の視線
謁見の間での一幕から、まだ一日しか経っていなかった。
だが、王宮の空気は明らかに変わっていた。
「──見た? 陛下があんなふうに手を取るなんて」
「ただの芝居に決まっているわ。でも……“星の娘”だなんて、本当に?」
廊下を歩くたび、耳に刺さるような囁きが聞こえてくる。
柚希は無理に笑みを作りながら、侍女に導かれて謁見の場を後にしていた。
──見られている。敵意、好奇心、嫉妬……。
その全てが矢のように突き刺さる。
部屋に戻ると、すでにリディアが待っていた。
「まぁ……昨日は素晴らしいお披露目でしたわね」
にこやかに告げる声の奥に、嘲りが潜んでいる。
「陛下があのように触れるなんて、よほどの“役者”でいらっしゃる」
柚希は言い返すことができなかった。自分自身、どこまでが芝居でどこまでが本心なのか、分からなくなっていたからだ。
リディアは一歩近づき、声を潜める。
「忠告しておきますわ。王に近づくほど、あなたの命は短くなる」
そう告げると、リディアは裾を翻し、音もなく去っていった。
残された柚希の心臓は、ひどく早鐘を打っていた。
夜。
レオンに呼び出され、執務室に向かう。
「帝国はお前を利用しようとしている。……それは分かっているな」
唐突な問いに、柚希は小さく頷いた。
「だが、利用しているのはあなたも同じでしょう?」
思わず口にした言葉に、レオンの瞳が鋭く光る。
沈黙ののち、彼はわずかに微笑んだ──冷たくも、どこか苦しげに。
「俺は王だ。お前を“守る”ことと“利用する”ことの区別は……つけられない」
その一言が、柚希の胸に重く落ちた。
──守られているのか、駒にされているのか。
その答えが見えないまま、彼女は再び深い迷いの中に沈んでいった。