第10話 帝国の使者
王宮の謁見の間は、朝から張り詰めた空気に包まれていた。
高い天井に吊るされたシャンデリアが、陽光を反射して冷たい輝きを放つ。
柚希は侍女に整えられたドレスを纏い、レオンの隣に立っていた。
──息が詰まりそう。
数えきれない視線が、彼女に注がれているのを肌で感じる。
やがて、重い扉が開かれ、使者の一団が姿を現した。
先頭に立つのは、白銀の鎧に赤いマントをまとった壮年の騎士──帝国の高官だろう。
その眼光が、レオンではなく柚希を捉えた瞬間、彼はわずかに目を細めた。
「……これが、噂の“異邦の花嫁”か」
低い声が謁見の間に響き、ざわめきが広がる。
柚希の心臓が跳ね上がった。
──花嫁? どうして……。
レオンは一歩前に出て、冷ややかな声で返す。
「帝国が噂を拾うのは得意だな。だが真実を見極める目は持ち合わせていないようだ」
その鋭い言葉に、空気がさらに緊張する。
だが、帝国の高官は怯まない。
「ふむ……だが、その娘の立ち姿。古き予言に謳われた“星の娘”に酷似している」
その言葉に、柚希は凍りついた。
──予言。やっぱり……。
「口を慎め」
レオンの声が低く唸り、玉座の間の空気が一気に凍りついた。
「俺の婚約者を見世物のように語ることは、王国への侮辱だ」
高官が一瞬言葉を失った隙に、レオンは柚希の手を取った。
それは演技か、あるいは……。
「ユズキは、この国の未来を共に歩む存在だ。お前たちの戯言に惑わされることはない」
握られた手の温もりは確かで、柚希の胸の奥に熱が広がった。
だが同時に──その言葉の裏にある「隠された意味」を思わずにはいられなかった