ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ〜強制すごろくが始まるが、思っていたのと違う〜
ドンドコドンドコでピンときた方は“あのパロディ”風でございます。
絶対にやりたくない強制すごろくを思いつきました。
頭を空っぽにして読んでいただけると幸いです。
ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ──。
くぐもった太鼓のような音が砂浜に小さく聞こえる。
澄んだ空にふわりと心地よく吹く海風。
波打ち際を走るセラとアレン。
キャッキャと楽しそうにセラを追いかけて走っていたアレンは、急に変な顔をして立ち止まった。
セラはくるりと振り返るとアレンの異変に首を傾げる。
アレンの顔には眉をひそめた困惑顔が貼り付いている。
「⋯⋯なあ、セラ。ついこの間まで聞いていた太鼓みたいな音聞こえなかったか」
アレンが眉をひそめて周囲を見渡す。
「まっさかー。あの木箱はちゃんと捨ててきたじゃない」
ドンドコ、ドンドコ──。
「えっ、うそ⋯⋯音が近づいてない? 怖っ!」
セラが身をすくめると、ふたりの背後から声がかかった。
「おーい、なにやってんのー?」
のんびりした声とともにやってきたのは、ジェティとペーター。
ドンドコ、ドンドコ、ドンドコ──!
「うわっ、今、絶対ここから鳴ってたよな!?」
「もしかして⋯⋯砂浜に埋まってる?」
「や、やめようよ! 絶対やばいやつでしょこれ!」
ドンドコの振動のせいか、勝手に砂から出てくる木箱。
開けていないのに勝手に木箱が開き出す。
そのとき──。
──ブゥォンッ!
箱の中から白い光が走り、ポン、とサイコロが飛び出した。
『すごろく、開始します。このすごろくは強制参加のため、途中退出は出来ません。ご承知おきください。なお、何か気になることがございましたら、月曜日から金曜日の営業時間9:00から17:30の間で、次にお伝えします電話番号までおかけください──』
という妙に丁寧な説明の機械音声が空気に響き、皆が凍りついた。
「マジで始まった。俺はまた26年間異世界で過ごすのは嫌だ」とアレン。
「私も待つのは嫌よ」とセラ。
「またいろんなものに追っかけられるのかしら」とジェティ。
「外だから大雨みたいのが来たらそのまま海に流されちゃうよ」とペーター。
「やばい、どこに逃げよう」とアレン。
「走るな、もう間に合わない。これは強制すごろくだ!」とペーター。
地面に模様が浮かび、巨大なすごろくボードが砂の上に展開される。
──1マス目:【冷蔵庫の中の残り物で一品作れ】
「は?」
全員が同時に声を上げた。
「料理!? 崖とか沼地とか危険な場所もなくて、キッチンに固定なの?」
「俺、ジャングルで動物から逃げるのならプロ級なのに! 残り物!?」
するとボードの横からニョキッと腕のようなものが出てきて、セラの肩をつかんだ。
「プレイヤー1、進行中⋯⋯冷蔵庫をイメージし、料理を考案してください」
「え、イメージ!? 脳内クッキング!? 意味わかんない!」
「思い浮かべた具材によって味が決まります」
「味の評価が悪いと⋯⋯3ターン休みとなり、洗い物の刑となります」
「何このゲーム、地味にリアル!」
次にアレンが振られ、【掃除機の紙パックを交換する】マスへ。
「紙パック古いよ⋯⋯今どきエコじゃないし⋯⋯」
ペーターは【割引シールで本当に得してるか計算しろ】という超地味マスを引く。
「隣は半額。でも、こっちは3つで2つ分の値段か。でも内容量が⋯⋯うわぁぁあ!」
「た、楽しくない!」
「やってること、完全に生活!」
「これ、ラスボスとか出ないよね。生活にそんな大きな敵いないよね!?」
木箱から脳内に直接メッセージが送り込まれる。
「このゲームは、生活力が試されます」
──3マス目:【シンクの排水溝を素手で掃除する】
「うわぁああああああっ!!」
砂の中から突如出現したシンクに手を突っ込む羽目になったペーターが、魂を込めて叫ぶ。
「これからは掃除用ヌメりとりリングを付けて、定期的に洗うから許してぇ⋯⋯」
「こ、これが⋯⋯強制力⋯⋯!」
「これさ、地味っていうか普通にイヤなやつ多くない?」
「いやむしろ、リアルすぎて逆に冒険よりキツいんだけど⋯⋯」
ジェティが震えながらも、自分のターンで“カーテンを洗って干す”をこなす。
すると突如、木箱からまた声が響いた。
「特殊イベントマス発動──【家庭的ランキング争奪戦】開始」
光が舞い、4人の頭上にメーターが現れる。
【家庭力】
セラ:68
アレン:40
ジェティ:22
ペーター:9
「うわ、現実突きつけてくるタイプのゲームだこれ!!」
「ていうか俺、9!? ちょっと低すぎない!?」
「なんで私は22!? この前もお弁当作ったのに!」
「サバ缶にご飯詰めてただけでしょ、それ⋯⋯」
ゲームは進み、次第に“一つだけ残った野菜の活用方法”や“調味料が切れたときの代用品”といった、“経験値で差がつく家庭バトル”へと突入していく。
「プレイヤー3、賞味期限から3日過ぎた牛乳をどうするか選択してください」
「絶対に捨てる! 牛乳は賞味期限切れたらまずいやつ!」
「正解。だが冷蔵庫内の整理が不十分だったため、−5点です」
「うっわああああああ!!!」
四人は頭を抱え、地味に精神力を削られながらも進み続ける。
──そして、ついに最終マス。
「ボス出るの!? 出る流れ!?」
「給湯器が壊れた時の対処法とか!?」
ゴゴゴゴ⋯⋯と不穏な音を立て、最後のマスから大きな黒い姿を現したのは⋯⋯
“生活習慣病の影”。
「うわぁああああああっ!!!!」
見るからにメタボ気味な影が、重低音でぶるんと唸る。
「暴飲暴食、運動不足、睡眠不足⋯⋯このすごろくを終える資格、お前らにあるか?」
「ある! って言いたいけど、めっちゃ心当たりある!!」
最後のバトルは4人の協力戦。
【バランスの取れた1週間分の献立】を組み立てる頭脳戦だった。
「えーっと、月曜は野菜スープで、火曜は焼き魚と⋯⋯あ、副菜何にしよう」
「火曜は可燃ごみの日だから、焼き魚は月曜日じゃないと困るわ」
「金曜カレーでいい? 金曜ってカレーだよね!? 俺の中ではそうなんだよ!」
「それなら木曜日にハヤシライスなの被るから変えないと。それに1日煮込んだほうが美味しいから、1週間分の料理時間のボリュームも考えて配分しなきゃ!」
必死のやり取りの末、ようやく納得のいくプランが完成した。
するとボスは消滅し、すごろく盤は光とともに空へ舞い上がる。
『クリア、おめでとうございます──あなたの生活力、合格です』
木箱はパタンと閉まる。
そしてパァァァと光に包まれ、跡形もなく消える。
静まり返る砂浜。さっきまでの騒ぎが嘘のようだ。
四人は放心しながら砂浜に倒れ込む。
「なんか⋯⋯すごい疲れた」
「今日、外食にしたい」
「でも、今なら“生活”って単語に敬意を払える気がする⋯⋯」
そのとき。
ピロロロ⋯⋯ピロロロ⋯⋯という、聞き慣れない電子音がどこからか響いた。
セラがビクッと立ち上がる。
「電話よね!? もう何もないわよね!?」
アレンが青ざめた顔でポケットを見る。
「俺のスマホに何か来てる⋯⋯」
──スマホ画面には、新たな通知。
それを覗き込んだ4人は青ざめた。
「アレン、捨てろ!」
「いや、これ俺のスマホだし」
「無理、逃げよう!」
「とにかく、走れーーー!!!」
全員で浜辺を駆け出した。
アレンのスマホ画面が光っている。
【新ゲームのお知らせ】
《確定申告ダンジョン~書類が揃うまで帰れません~》
申告者がやりがちな間違いトップ10を見つけろ!
書いてる人、そういう年代の人ってバレるよねぇ。
(パロディの部分については7/28の活動報告に解説を載せています。気になる方がいましたら、覗いていただけると幸いです。)