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Prologue: Operation Black Wings

――ある者は言った。魔法は奇跡の力だと。


「ほ、本当に水が出てくるとは。感謝いたします救世主様」


――またある者は言った。魔法は悪魔の力だと。


「魔女だ、魔女に違いない。こいつを火刑に、火にかけなければ」

「そうよ。悪魔の使いは罰さなければ!」


――いつしか魔法は忘れ去られた。


「魔法?おとぎの話だろ。笑わせないでくれ」


――だが魔法は現代に蘇った。

――全く違う場所で。


     *


「いつになったら救援が来るんだ!」


砂の吹き荒れる大地。さんさんと降り注ぐ太陽の光がジリジリと体力を蝕んでいく。敵に発覚してから早10時間、機関銃に自動小銃、拳銃まで持てるものすべてをもって応戦を続けていたが、敵の攻勢が収まるところを知らなかった。兵の数も装備も地の利もなにもかも敵が上だった。


「おいデービッド、顔を出しすぎ・・・」


警告した瞬間、機銃掃射によってデービッドは蜂の巣にされた。うめき声をあげる彼をなんとか物陰まで引きずろうとしたが、激しい銃撃の前に難航する。あとすこしで物陰に到達しようとしていた時、敵の迫撃砲が火を吹いた。こちらに命中しないことを祈りながら伏せていたが、最悪のパターンを引いてしまった・迫撃砲弾が着弾し、目の前で戦友の顔が吹き飛んだのだ。


「デービッド、戦死(KIA)!」


悲しんでいる暇などない。急いで退避するとともに落ち着いて彼の戦死を報告した。


「クソ、これで隊の半分が消滅したか。俺以外で動ける奴は何人残っている」

「無傷なのは私とダニエルだけです。アンソニーとマシューは軽症なので命の危険はありません」


隊長は頭を抱えた。総勢12名いたはずの精鋭隊員が今やこのザマだ。そもそも作戦に不備があったのではないかと思い始めていた。


「チーム7デルタ小隊のカイル大尉だ。救援部隊はどうなってるんだ。このままじゃ文字通り全滅しちゃうぞ!せめて航空支援だけでもしてくれ」


これまで何度も救援要請をしてきたが、通信環境が悪く前線基地に届くことはなかった。しかし少し前に飛び飛びだが連絡に成功した。敵はもう側まで迫っているが、今ここで退避すれば救援部隊は彼らの姿を見失うことになるだろう。


「航空支援ならもうすぐ周辺に来るはずだ。救援部隊も急行している。あと少し辛抱してくれ」


無線が切れると同時に敵部隊が火に包まれた。あれほど苦しめられた機銃掃射と迫撃砲の音は沈静化し、代わりに彼らの悲鳴に置き換えられた。爆撃機の姿は見当たらない。なにが起きたのか全員が困惑した。すると無線から多少訛りのある女の声が聞こえてきた。


「SEALsのみなさん、もう大丈夫だよ。この私が来たからね!」


彼らが空を見上げると、一人の人間が空を浮いていた。こんなことができるのは世界中の魔法使いを探しても数少ない。それに基地にいた魔法使いは一人しかいない。


「貴様もしかして『ファーストウィッチ』か!?まさか日本軍が来てくれるなんて思いもよらなかったよ」

「日本軍じゃなくて自衛隊だから。じゃあ脅威を排除するね」


無線を切ると再び攻撃を始めた。砂を巻き上げながら移動するTOYOTAと書かれたピックアップトラックの群れ。いかにもイスラムの民兵集団といった感じで、狙ってくださいと言っているようなものだ。


「散々仲間を殺ってくれたね。この恨み、私が晴らしてやる。烈火(インフェルノ)!」


魔法が放たれ、一瞬にしてあたりは灼熱地獄と化した。中心にいたものは消し炭になり、その周囲にいたものは全身の肌がただれ、うめき声を上げる。端にいた者だけが難を逃れることができた。


上級魔法の烈火(インフェルノ)はそれ一発だけで小隊を消滅させるほど強力だ。そんなものがあれば簡単に敵を滅ぼせると思うかもしれない。だが行使するには膨大な魔力が必要になる。それ故ほとんどの魔法使いは扱うことすらできず、できたとしても一発が限界だった。ただ一人の例外を除いて。


「なにが起きたんだ。空爆の兆候は見えなかったぞ。いやまて、上を見ろ!」

「魔女だ、魔女が現れたぞ!」


太陽光で姿を隠せていると思ったが、どうやら彼女を見つけたようだった。空に向けて銃撃に砲撃、RPG7の発射を一斉に行ったが、人間という小さな標的に当たるわけがない。間髪入れずに烈火(インフェルノ)を放ち続け、ついには完全に沈黙した。


「正規軍じゃない奴の練度なんてたかが知れてるんだよ。せめて魔法使いを用意すればいいのに・・・あっ、今更遅いか」


彼女は敵集団を完全に消滅させると彼ら(SEALs)のもとへ向かった。それと同時に即応部隊(QRF)のヘリも到着した。この長かった戦いも終わりだ。


「はじめまして。陸上自衛隊特殊作戦群所属の東雲はるみ一曹だよ。調子はどう・・・って最悪そうだね」


名簿上の人数と実際にいる人数を見ればなにがあったかわかる。きっと熾烈な戦いが繰り広げられたことなのだろう。救援部隊と


「アメリカ海軍Navy SEALs所属のウィリアム・カイル大尉だ。貴官のおかげでこれ以上の被害を避けられた。私も妻と子供に生きて会えそうだよ。心の底から感謝する。アリガトウ」


彼と生き残った隊員たちは泣きながら感謝していた。だが彼女は大したことはしていないと思っていた。むしろもっと早く来れば多くの命を救えたと後悔しているぐらいだ。


「負傷者の収容完了。撤退するぞ」

「待って、こんな犠牲を出して作戦を終わらせるつもり?これじゃただの無駄死にじゃん。そんなことには絶対にさせないから」


言い終えると彼女はそのまま崖の端まで進んだ。


「なにを言っているんだシノノメ軍曹。意味がわからないんだが」

「ブラックウィング作戦、達成させてみせるから。亡き戦士のためにもね」


全員が唖然とする中、彼女は空に飛び立った。この作戦の本来の目的はスンニ派国家の転覆を狙うテロリスト集団の指導者を排除すること。何ヶ月も探してようやく見つけ出したのだ。ここで逃せば二度と見つけられないどころかさらなるテロ行為が行われ、最悪国家転覆に成功する可能性すらある。そんなことは断じて許されない。


全身の魔力を振り絞り、最後の攻撃の準備を始めた。狙うはターゲットのいる敵の本拠地だ。


「我が名は東雲はるみ。母なる惑星に干渉せんとす者。燃え盛る炎よ、荒れ狂う風よ、我のもとで一つとなれ」


唱え終えた瞬間、空に巨大な魔法陣が出現した。それはとても美しい若草色でなんとも不思議な模様が描かれていた。次第に直視できないほどに光り輝き、周辺の温度は鉄が溶けるほどに急上昇していった。


「―――これぞすべての爆発の母なり。サーモバリック!」


その瞬間、世界は光に包まれた。音が消え去り、ほんの一瞬、静寂が訪れた。そして音が戻ってきたとき、轟音と共に大地が浮かび上がった。熱風がレンガを、そして人も溶かし、建物を大きく歪ませる。そして赤く黒い炎が渦巻き、空を覆い尽くすほど巨大なキノコ雲が現れた。


「な、なんだあれは。核爆発か?・・・全員衝撃に備えろ!」


衝撃波は地上にいるすべてのものを吹き飛ばし、はるか先にある前線基地にまでその衝撃が伝わった。空にいるヘリにも衝撃が伝わり、機体が大きく揺れた。ぐるぐると回転し、あわや墜落しそうになったが、パイロットの努力によりなんとか回避することができた。それほどの威力だった。

すべてが収まったとき、そこにあったはずの建物の姿は完全に消失していた。


「ミッションコンプリート」


彼女は満足気に空に浮かんでいた。これから待ち受ける数々の災難を知らずに。


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