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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第序章「過去の記憶」
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第七話 200年目の私情

 そして現在、──白いパーカーに黒いズボン、タナカは黄緑色の長い後ろ髪にセンター分けの前髪。希望も光もない黄緑色の瞳。その姿を見てカケイは目を見開いて片足が下り、地面に尻をついていた。


「何でっ何で、タナカ!」


 だが瞬く間にカケイは勢い良く立ち上がって咄嗟にタナカに抱きつく。それを優しく見守るタナカは優しくカケイの頭を右手で撫でる。


「タナカ……指名手配されてる者か。何故ここを訪ねてこれた」


 アリマは表情を一つとして変えずに警戒こそしてないように見えるもタナカに問う。


「カケイ君も指名手配されてんのは知っとるやろ、処刑課の会話を盗み聞いたんよ。にしても初めましてやね、アリマさん」


 タナカはカケイを優しく撫でながらアリマを見ながら伝えると、そのアリマは羽織物の内側から腕を組んで左手を顎に当てる。


「……此処は処刑課にもバレてるということか?」


 すると何も知らないフラブも玄関に辿り着いた。


「何の話をしてるんですか?」


 そのフラブの姿を見たタナカは驚きを隠せずに目を大きく見開いた。


「何で生きてるん? ……いや、そっくりさんか」


 タナカは身長が低いと瞬時に判断して安心して胸を撫で下ろす。それにフラブは不思議そうに首を傾げた。


「えーっと? シラ・フラブ、です。その、初めまして……」


 恐る恐る自己紹介をするフラブの挨拶にタナカは再び目を見開く。


「は? シラ・フラブ? ミハさんの身内?」


 だが驚いているのま束の間、カケイがタナカに抱きついたままタナカの顔を見上げる。


「安心しろ、フラブさんもアリマさんも俺の友達だ!」


 そう元気良く言うカケイは楽しそうに太陽のような笑顔で再びフラブの方を振り向く。その笑顔は明るすぎて何故か眩しさも感じ取れてしまう。


「この人はタナカ! 俺の友達だ!」


「余はカケイ君の友達だったのか……それより立ち話も疲れるだろう、客室は直ぐ其処だ。ついて来い」


 アリマは冷静にそう言いながらタナカとカケイから背を向けて歩き出した。


「まぁええか。カケイ君が信用しとるんやったら俺も信じな」


 タナカはそう言いカケイを軽々と両腕に抱き上げて家の中に足を踏み入れる。その流れについて行けないフラブは困惑しながらもアリマの後をついて行った。


 客室はアリマの家に入って玄関で靴を脱ぐと直ぐ右手側にあり、アリマはその部屋のドアを開けて何も言わずひ室内に入った。それを見たフラブは小走りでアリマに続いて部屋の中へと入る。


 そしてタナカとカケイは不思議そうに目を合わせた後にその部屋に足を踏み入れた。


 その部屋の中は黒いソファーが机を挟んで左右に2つあり、奥側の壁に見える窓の外は眩しいくらいに見事に晴れている。


 アリマは部屋を入って左手側のソファーに腰を下ろしていて、フラブもアリマの右隣に座っている。

 タナカはカケイを抱っこしたまま右手側のソファーに腰を下ろして、カケイを左隣に座らせる。


「まずは処刑課に200年追われて生きてる事について触れた方が?」


「要らん。ただ隠れて逃げとるだけさかい。アリマさんの方が指名手配が50年後や。なのに俺のが低い。理由は充分やろ?」


 笑い誤魔化すように言うタナカは優しく微笑みながらアリマの方を見る。


「あの後、逃げれたの?」


 恐る恐るタナカを見て問うカケイだが、タナカは平然として優しい表情を浮かべている。


「カケイ君が逃げたのを魔眼で確認してな。マジック魔法で掻い潜ったわ。なのに教会と関わったせいで白い悪魔って呼ばれて、指名手配なって……説教よ、ほんま」


 タナカは優しい笑顔のままカケイの頭を撫で。手を止めて真剣な表情で口を開く。


「アリマさん、そこのシラ家のフラブさんとの関係とカケイ君がここに居る理由を聞いてええですか?」


 その問いにアリマは一瞬タナカを訝しむような目で見るも直ぐ様に元の表情に戻して軽く頷いた。


「話すと長くなる。成る可く簡潔に説明すると、フラブ君は家族が死んでからの190年前からの10年間だけ余が面倒を見ていた」


 淡々としているアリマの説明に驚くこともないタナカは真剣に話を聞いている。


「そして1週間前程に王都に買い物に行ったとき、フラブ君が指名手配されるという情報を小耳に挟んでな。故にフラブ君の魔力を辿って行ったらカケイ君とフラブ君が処刑課と戦っていた」


 そう淡々と簡潔に説明すると、タナカは腕を組んで右手を顎に当てて考え始める。


「……フラブさんは有名なシラ家の方、アリマさんも有名なヨヤギ家、どちらも名家。ですが後半は偶然で済ませられますかね」


 タナカは深刻そうに真剣にアリマを見てそう伝えるもアリマは動揺せず冷静にタナカの方を見る。


「仕組まれてる……と言う事か。カケイ君と友達と言うことは君は魔力人形の施設の者なのか?」


 それにフラブは不思議そうな表情を浮かべてアリマの方を見ながら小首を傾げた。


「何ですか? 魔力人形って」


「……そうか、言ってなかったな」


 アリマはフラブの方を見てそう言うとフラブはますます不思議そうな表情を浮かべる。


「フラブさん、カケイ君は人間とちゃう。魔力人形の実験施設で作られた、奇跡的に感情を持ってしまった稀有な個体なんよ」


 タナカがフラブにそう伝えると、フラブは驚きを隠せずに少し目を見開いてカケイの方を見る。


「出血がないですし人ではないとわかっていましたが……」


 それにタナカは優しく微笑みながらゆっくりアリマの方を見た。そして左手でカケイの頭を優しく撫でながら詳しく説明を続ける。


「俺は作られたばかりのカケイ君の世話係をやっててな。カケイ君は俺に似て優しい子になったんよ。そのせいでカケイ君はえらい目に遭うとナラメに言われた、せやから俺はカケイ君を逃そうとした」


「…………」


「でも上手く行かんくてなぁ……カケイ君は逃げんかった。結果、俺がココアちゃんを殺すところを見せてしまったんよ」


 少しだけ震えた声でタナカは少し苦しそうに思い出しながら、どこか思い詰めたような顔をした。


「そうか。大体わかった。最後にこれだけ答えてほしい。魔力人形を作った理由は?」


 アリマはいつに増しても真剣な表情でタナカを見て質問する。それにタナカはカケイの両耳を手で塞ぎ、それに不思議そうにカケイは何も言わずに首を傾げた。


「ごめんやけど知らんわ。俺は普通にまぁ強いだけの町人やった。せやけど住んでた町を焼かれて、そいつに脅されてな。カケイ君を強くするために派遣された捨て駒や」


 そして優しい表情を浮かべながらそう説明し、説明を終えるとタナカは腕を元の位置に戻す。


「聞いた事は謝ろう」


 アリマはそう言いながらゆっくり立ち上がり、フラブの前を通ってドアへ向かった。


「何をしている、フラブ君。一度席を外すぞ」


 そして再びアリマはフラブの方を見てそう言い、ドアを開けて部屋を出た。


「あ、はい! わかりました」


 フラブはそう言った後、立ち上がってドアの方まで歩いてカケイとタナカに一礼して部屋を出る。


「アリマさんって気をつかえる人だったんですね……」


 部屋を出てドアを閉じた後、フラブは優しい表情でアリマを見てそう問うも。


「余を何だと思っている、フラブ君に聞きたい事が別であったから部屋を出たに過ぎない。ついて来なさい」


 アリマはそう言いながらフラブに背を向けて反対側にある部屋に向かって歩き出した。


「否定の意味で何だと思ってるって聞いたんですね」


 ドアから反対側にある部屋に入ると、そこには沢山の本棚と資料が見渡す限り常にある。それにその数が多いだけで部屋中が散らかっているように見える。


「まず、取り引きはカケイ君と彼と整理をしながら話たい。故に延期だ」


 アリマはフラブの方を振り向いて、そう伝えながら袖を通していない羽織物の内側から腕を組んだ。


「そして、資料を整理してる時に魔力通信機で余の弟から一度家に帰って来てほしいと言われた」


「なるほど……アリマさんは確か家の当主でしたね。何日留守にするんですか?」


 そう不思議そうに問うフラブは真剣な表情で軽く腕を組みながらアリマを見上げている。


「1週間は留守にする。故に聞きたい、フラブ君もシラ家の当主として来るか?」


「シラ家の当主……行っても良いんですか?」


 フラブの意外な反応と質問にアリマは驚いて少しだけ目を見開いた。


「良い……今のヨヤギは分家の者や殆どの使用人は余を怖がる者か悪意を抱く者しか居ないが大丈夫なのか?」


「なるほど……え、人多いんですか?」


 そうフラブが小首を傾げながら質問すると、アリマは元の無表情へと変わった。


「余の親の兄弟、その子供とヨヤギ家に仕える使用人。分家は別で本邸があるが名家だからな、大抵は国からの依頼で家を留守にしている」


「……え? 私の家でさえ、お母様達と使用人の8人しか居ませんでしたよ……?」


「さっきから予想外の質問しかしないな……シラ家とヨヤギ家は共に名家で親交は深かった。だが洋風と和風で決定的に違うだろう」


 アリマは羽織物の内側から腕を組みながらフラブにそう伝える。


「なるほど……向こうがアリマさんを嫌っている理由とかは聞いても良いですか?」


「……良い、が。ただ単に憶測になるが余が当主なのが気に食わないと……」


 それにフラブは腕を組んで右手を顎に当てて真剣に考え始めた。


「そうですか、アリマさんには当主を降りれない理由がある……という事ですね。ですが弟に呼ばれたのでは?」


「弟は余を嫌っていない。通信機で余の双子の弟が一度家に帰ってほしいと言っていた。とても病弱故に成る可く頼みは聞いてあげたい」


 アリマは優しい表情でフラブを見下ろしてそう伝えるとフラブは少し驚くような表情を見せる。


「アリマさんの双子さん……?」


 どんな人か想像を膨らませようとするが直ぐにアリマを見上げて腕を元の位置に下ろした。だが失礼ながらもアリマの弟と言うだけで、冷たい鬼でありながら厳しく問い詰めるような人外しか想像できなかった。


「わかりました、私も同行します。他の誰かがアリマさんを殺しに来るのであれば、私がアリマさんを守らなくては!」


「余は君に守られるほど弱くない。それに其処まで案ずるな。先程も言ったが分家の者の本邸も別である。国からの仕事に出てる者が殆どだ」


 すると急にフラブの背後にある部屋のドアが開き、アリマはドアへと目線を移動させる。


「……盗み聞きとは感心しないな」


 その言葉にフラブはドアの方向を振り向いた。その視線の先、ドアの向こう側には真剣な表情を浮かべているタナカとカケイの姿が確認できる。


「俺もヨヤギさんの家行っていいですか?」


 そう少し深刻そうに問うカケイに、アリマは不思議そうな表情を見せる。


「良いが……行きたがるような所では……」


「出来れば俺も同行したいんやけどええですか? カケイ君心配さかい、ついて行かな」


 言葉を遮る様にタナカもアリマに質問した。それにアリマは羽織物の内側から腕を組んで左手を顎に当てて考える。なんせ指名手配犯4人でヨヤギ家本邸に行く事になるからだ。


「……まぁ良いが。処刑課、来るだろうか……」


「来てもアリマさん強いでしょう。確か5段でしたよね?」


 そう問うフラブは真剣な表情を浮かべているフラブがアリマの方を見る。それにタナカとカケイは驚くように少し目を見開き「え?」と言葉を溢した。


「否、余はフラブ君が寝てる間に測定したら8段だった。20年前は7段だったんだが…」


 その言葉にフラブも理解が拒まれるように「え?」と言葉を溢した。


「聞いた事がないですよ、8段なんて……」


 引き気味に驚いているフラブ、だがそれはフラブだけでなくタナカとカケイもだった。


「さすがやね、アリマさん。ほんま俺と身長同じくらいやのに俺より4段も上なん?」


 その優しい口調のタナカの言葉にフラブは驚くように大きく目を見開いてタナカの方を見る。


「タナカ……さん4段なんですか!?」


「身長は関係ないだろう。カケイ君は?」


「俺ぁ1段です。フラブさんって……」


 真剣に答えるカケイは心配するように恐る恐るフラブの方を見る。フラブは恥ずかしそうに顔を赤くしながら腕を組んで外方を向いた。


「悪かったな、階級も段位も無くて。測ろうにも測る時間さえなかったんだ」


 すると突然アリマはフラブの左肩にぽんと右手を置きフラブはアリマの方を見ながら首を傾げる。


 だがアリマは咄嗟の判断でフラブの左肩に置いている右手でフラブを自身の元に強く抱き寄せる──。


「わっ……」


 ──直後、左上から壁が壊されてヒビの間から勢い良く虹色の巨大なハンマーが現れた。瞬く間に襲いかかって来たハンマーをアリマは軽々と左腕のみで防いだのだ。


「──なっ、」


 驚いてそう言葉を溢すカケイだが、タナカは咄嗟にカケイの前に左腕を出してカケイを守ろうとする。


 ハンマーで強襲をして来た者は瞬時に3メートル程退がった。そして土煙が引くと半壊した部屋の壁から3人の処刑課の黒いスーツを着た者が姿を表した。


「……あれ、指名手配犯4人? ──3人の予定じゃなかった?」


 その者は短い髪に茶髪で、カケイとほぼ同じくらいの身長。強襲してきた巨大な魔法のハンマーを右手で肩に置くように持っている。


「情報の誤差か。いや、それはないな」


 そう言った者は黒く短い髪。黒い瞳に青年の様な見た目の175センチ程の身長。そして真面目そうな眼鏡を着けている。その者はアリマから見て左側に距離をとって魔法の拳銃をアリマたちに向けていた。


「久しぶり。フラブ、カケイ、クソ野郎」


 あと1人はナラミナだった。ナラミナは処刑課2人の間にいて全員4メートルくらい離れていた。その3人は全員処刑課の黒いスーツを着ていて各々が処刑課長を勤めている。カケイはナラミナにだけ強く殺意を剥き出しにして強く睨みつけていた。


「其れにしてもフラブ君、いつまで掴まっている」


 アリマは既にフラブを離したのだが、フラブがアリマの着物にしがみついている。


「え、あ……すみません。情報過多です」


 焦り気味にフラブはそう言うとアリマを離してゆっくり後へ退がる。


「何故退く。フラブ君、戦え」


「は、え……? いやいや無理ですって! 相手考えて下さい! 絶対全員2段以上はあるでしょう!」


 フラブは驚くようにアリマを見ながら大きく目を見開いて動揺してるように慌てる。それに対してアリマは表情を一つとして変えずにフラブの方を見る。


「フラブ君、君の目的は家族の復讐だろう。強くならなければ不可能だ」


 アリマはそう言い、言葉を続けて「行け」とフラブに言った。それを呆れるような目で見ていたタナカは軽く溜め息をついてカケイの方を見る。


「……カケイ君、君はどうしたい?」


 タナカはカケイの処刑課へ向けている殺気に気づいていたのだろう。


「……俺ぁ友達を殺した処刑課を許せねぇ」


 カケイは怒りを表情にも全面的に出しており、拳を作って強く握り締める。


「……それで?」


「だけどここはフラブさんの見せ場だ。だから助ける時は助ける! 俺ぁ観客席に着く!」


 カケイが笑顔でそう言うとタナカは見守るように優しく微笑んだ。そのタナカは直ぐに安心したような明るい表情でフラブの方を見た。


「ほな俺たちも応援するで、フラブさん!」


 少し大声でそう伝えるタナカの方をフラブは引き気味に見るも息を呑んで意を決した。


「生きて帰ったら……全員覚えとけ」


 フラブは小声でそう言葉を溢し、アリマのよりも前へと歩き出す。右手に創造魔法で鉄剣を強く握って処刑課に向けて刃を構えた。


「僕は処刑課3課長のツヅヤ。随分と長話したね。待ちくたびれちゃった」


 そう言う処刑課の茶髪の子、ツヅヤが面倒くさそうにフラブの方を見ている。


「待ってくれたのは感謝する」


 フラブは冷たい声でそう言うと地面を強く踏み込んでナラミナの方に走り出した。


「私かい! 今の流れツヅヤの方でしょ!」


 ナラミナは焦ってそう言い咄嗟に構える。フラブがナラミナに剣を振りかざそうとした時、左手側から銃弾を撃たれた。だが姿勢を低くして間一髪で避けたまま低い姿勢からナラミナを目掛けて斬りかかる。



 ──その頃、観客席では部屋の中でカケイが作った横に長い氷の椅子に全員が座っていてフラブの方を見ていた。

 1番左手側に座るのがアリマで、真ん中で不安そうにしているのがカケイ、1番右手側にいるのが平然としているタナカだ。


「動きは悪くないな。だが3人に対し1人にのみ殺意を向けるのは駄目だろう」


 アリマはそう言いながら収納魔法から3箱分の御萩を取り出してタナカとカケイに1箱ずつ配る。


「ありがとさん」


 優しい口調でそう言うタナカは両手で丁寧に受け取って膝の上に箱を開く。そして箱を開けると美味しそうに輝いて見える御萩が確認できる。


「わぁ! 何かわかんねぇけどなんか! ありがとうございます!」


 カケイも目をキラキラ輝かせながら箱を開けて爪楊枝で御萩を食べ始める。



 ──その頃フラブは低い姿勢からの攻撃はナラミナの靴底で難なく受け止められた。


「刃が通らない……!」


 そしてフラブは少し険しい表情で地面を蹴って瞬時に2メートル程後ろに退がる。


 その時フラブの頭上に大きい影が出来る。フラブが真上を見上げると、虹色の巨大なハンマーがフラブを迫っていた。


 フラブは地面を勢い良く強く蹴って間一髪で避け、そのまま銃を撃つ男の方に鉄剣を構えて走り出す。

 だが一筋縄には行かず、ナラミナがフラブの右横から殴りかかる。


 ──創造魔法「両手剣」


 フラブが魔法を使うと左手にも鉄剣が現れ、左手の鉄剣を銃を撃つ男に向けて一直線で投げる。そして右手に握る鉄剣を横に構えながらナラミナの拳を間一髪で防いだ。

 それを確認したナラミナはバク転で3メートルほど退がりアリマたちの方を見る。そこにはフラブには無関心で御萩を食べながら話をしている3人の姿が確認できた。それに対して哀れむような暖か過ぎる目でフラブの方を見る。


「貴女も、可哀想な人なのね……」


 ナラミナの言葉にフラブは目を少し見開いて瞬時にアリマ達の方を向いた。笑いながら楽しそうにフラブの好物である御萩を食べて話している3人の姿が確認できてフラブは怒りを顕にした。


ーー創造魔法「鉄剣」


 左手に鉄剣を出してアリマに向かって殺意丸出しで一直線に投げる。だがそれに気づいたアリマは地面から大きい葉を生やして悠々と止めた。

 そしてフラブもアリマも同時に魔法を解除する。


「せめて応援して下さい」


 アリマに聞こえる声でそう言い、暗く怒った表情でアリマとカケイとタナカの方を見る。


「きばって! フラブさん!」


 怒りに気づいたタナカが焦って立ち上がり、大声でフラブを応援した。だが他の2人、カケイとアリマは気づかずにフラブの方を気にしないで話しを続けていた。


「その……なんと言うか、同情しよう」


 真面目そうな眼鏡を掛けて銃を撃っている者にまでフラブは哀れむような目で見らている。


「……ごめんね? ヨヤギ・アリマはさ、僕らも出来るならあまり相手にしたくないんだよねぇ」


 巨大なハンマーを持っているツヅヤには同情されるだけでなく謝られてた。


「……早く終わらせて御萩一生分奢らせてやる」


 フラブの先程よりもヤバい怒りと殺気にナラミナは笑みを浮かべた。



 ──その頃、観客席でカケイは御萩を食べる手を止めてアリマの方を不思議そうに見ている。


「フラブさんの殺気を出すっていう作戦ですか? ヨヤギさん」


「否、余が出れば処刑課は余裕で殺る。だが彼らの死体はR18のグロさになってしまう。フラブ君とカケイ君の目の前でそれは避けるべきだと判断した」


 そう言うアリマは御萩を食べながら無表情ながらどこか幸せそうな表情を浮かべた。


「言う事ちゃうなぁ、360億の人は」


 そう少し疲れたように言うタナカは御萩を食べ終えていて大きく背伸びをしている。


「懸賞金など当てに出来ないだろう」


 アリマはそう言いながら収納魔法からペットボトルのお茶を3本取り出した。


「其れよりお茶をどうぞ」


 優しくも淡々としているアリマはカケイとタナカにお茶を渡した。


「お茶好きなんよ。ありがとさん」


 タナカは優しい表情を浮かべながら左手で受け取って面白そうにカケイの頭に乗せる。


「これ飲んだ事ある! これ苦くて嫌いだ!」


 だが気にしないカケイが味を思い出しながら嫌そうに言うと、アリマは収納魔法を使いお茶を収納して水を取り出してカケイに渡す。それにカケイは目をキラキラさせながら両手で受け取った。


「これ飲める! ありがとうございます、ヨヤギさん!」


 カケイは太陽のような明るい笑顔でアリマを見て感謝を伝える。アリマはカケイを見て優しく微笑み、右手でカケイの頭を優しく撫でた。


「え、アリマさん笑えんの? 意外。無情な方やと思っとったわ」


 揶揄うようにもタナカは前屈みになって笑いながらアリマにそう言い。それにアリマは冷たい表情でタナカの方を見る。


「表情は作れるだろう」


「確かに作れるかもやけど……」



 その頃、──フラブは創造魔法を使い自分の母親が使っていた刀を再現して左手に持つ。それに銃を撃つ男がフラブを見て驚いたように目を大きく見開いた。


「……姿も合わせてミハさんに酷似しているのか。シラ・フラブ!」


 その男性はフラブへの殺意が高まったのか強く睨みながら3弾発砲する──。だがフラブは避けず目の前に銃弾が来た瞬間に真っ二つに刀で全て斬った。


「刀の方がしっかりくる、か」


 ナラミナは咄嗟にフラブの方に走り、左足でフラブの背中に蹴りにかかる。だがフラブは直前で素早く屈みナラミナの蹴りは空振りして一瞬だけ体制を崩した。刀を持つ手を自分の背後で左手から右手に素早く持ち替えてナラミナの横腹を斬ろうとした時。


 頭上に大きい影が現れて瞬時に立ち上がり、地面を強く蹴って銃を撃つ男の方に一直線に向かう。

 銃を撃つ男は睨みつつ歯を食いしばってフラブに向けて銃を撃つが。フラブは顔スレスレで左手側に避けて男性の前方の体を右斜に浅く斬った。


「──ッ!」


 その男性は悲鳴を上げてゆっくり後方に倒れる。フラブは斬ったその場で倒れたのを確認するように見つめながら立ち止まる。


「──っアオト!」


 ナラミナは急いで斬られた銃を撃つ男、アオトの方に走り出す。だがその動きを止めるようにフラブはナラミナに刀先を向けた。


「──っ!」


「動くな。今退けば彼は生きたまま帰れる。回復魔法があれば傷跡も完治する。悪い話ではないだろう」


 ──いつに増してもフラブは真剣な表情でナラミナを見て話しかける。大きいハンマーを解除したツヅヤはナラミナの左横で立ち止まった。


「……人質か、条件は?」


 深刻さを漂う空気の中でツヅヤはフラブを見て真剣な表情で問う。


「私たちの指名手配を取り消してこれ以上干渉するな」


 そう冷たく言うフラブは処刑課の2人の方を見ながら真剣な表情を浮かべている。それにツヅヤは真剣ながらも微かに嫌そうにフラブの方を見ていた。


「僕らにその決定権はないよ。最高管理者が決めることだからね」


「ならば殺す」


 フラブはそう言い無慈悲にも刀の刃をアオトの右腕に突き刺した。


「──っ!」


 アオトは痛々しそうな表情を浮かべ、ナラミナは瞬時に動こうとしたが。──フラブが瞬時に鉄剣を左手に握りつつナラミナに鋭い刃先を向ける。

 だがナラミナはフラブを睨みつけながら瞬く間に姿勢を低くして地面に両手をつき、──手で体を支えながらフラブの鉄剣を蹴り飛ばす。


「──っ!」


 その隙にツヅヤはフラブの腹部を普通サイズの虹色の魔法のハンマーで横から叩く。──フラブは上手く避けれず、もろに腹部にハンマーを喰らってアリマが座っている椅子の前まで飛ばされた。


「──ッ!」


 地面に衝突した頭から血が出て腹部の骨が少しヒビ割れていながら血を吐いていた。


「助けは必要か? フラブ君」


 アリマは表情を変えず平然と倒れたフラブを見下ろしながら問う。だがフラブは瞬時に立ち上がり、刀の創造魔法を解除した。


「──いいえ。私のミスです、要りません」


 フラブは真剣な表情を浮かべてナラミナ達の方を見ており、足に掛けていた森に居る時に使っていた愛用の短剣をクルッと回しながら右手に取り出した。

 ツヅヤがアオトに回復魔法を使っていて、その手前にいるナラミナが強くフラブを警戒をしている。


「そうか」


 アリマのその単調な言葉と共にフラブはナラミナの方に颯爽と走り出す。だが赤い鮮明な血が右眼に流れ込んできたと思えば右目の視界が血で塞がれた。


 ─ 創造魔法は他より少し魔力の消費が大きいせいで他の魔法も簡単には使えない……


 だがフラブには目に入った血など眼中にはなく、険しい表情でナラミナへの殺意を高める。そしてフラブは強く踏み込んでナラミナの元へと走り出した。

 それと同時にナラミナは笑みを浮かべてフラブの方に堂々と歩いて向かう。


「似てるね」


 フラブには聞こえない小声でそう溢すも、ナラミナからは必死さは微塵もないを見るからにフラブの方が追い詰められている。

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