第七十五話 生き甲斐
フラブはユールと共に洋館へと向かっていて不気味な森林を歩いている。森林には視界が塞がらない程度の優しい霧が宙を舞っていた。
「ところでニベ。もし本当に死者蘇生が魔術ではなく合法だったとしよう。ニベは使いたいと思うか?」
興味本位で左背後について来ているユールに問うフラブは目が見えずとも辺りを見渡している。
「もちろん使ってみたいです」
意外なユールの答えにフラブは驚くような反応を見せるも優しい表情を浮かべた。
「そうか。ニベにも生き返らせたい人がいるとは……どんな人なんだ?」
「いえ、そう言うことではありません。対象の恐怖を味わいながら殺して悲鳴を聞く。そしてまた生き返らせて同じことの繰り返し。まさに楽園でしょう」
想像するだけで嬉しそうに頬を赤くしているユールの方を見るまでもなくフラブは呆れたような表情を浮かべた。
「その対象は私であってほしいな。他の人が犠牲になるなんて見るに耐える」
「あら、正義感は健在ですか。ですがその目ではもう何も見れないでしょう?」
「……甘いな。そんなことを言ったとして私はお前に殺意なんて向けない」
明るい声色で楽しそうに答えるフラブの反応にユールは物足りなさそうにフラブの背中を見る。
「意地悪です。もし私がヨヤギ・アリマを殺したら……」
──突然ユールの首元に地面から出現した氷柱の切っ尖が当てられる。足を止めていたフラブが怒りを顕にして足元から氷柱を出していた。
「アリマさんに手を出すのなら今までのお前への礼なんて関係ない。殺すぞ」
ピリつく空気とフラブから向けられる怒りに混ざった殺意にユールは微かに冷や汗を流した。だが同時に嬉しさが溢れ出して頬を赤くしながらうっとりしてフラブの背中を見つめる。
「ははっ! ふふっ……! ねぇフラブ様、私を殺せるか今試してみましょう?」
「……終局組合の殲滅と知恵さんとの約束が終われば直ぐにでも試す」
そして氷柱を解除して霧のように消える殺意にユールは物足りなさそうな表情を浮かべた。
「だから我慢してほしい」
切実な願いを暗い声色で言いながらフラブは前を見て再び歩き始める。
だが何かを感じ取ったユールはフラブの袖を掴んで足を止めた。それに警戒しながら続いて足を止めたフラブは直ぐにユールの方を振り返る。
「どうした?」
──すると突然、殺意が込められている鋭い風刃が右手側からフラブの体の前を遮った。それに驚きを隠せずとも冷静にフラブは警戒するような素振りでユールと共に右側にある木の上を見る。
フラブとユールの視線の先にある木の上にフラブとユールを見下ろして監視している者の気配。
「……この先にある洋館にて待つ」
フラブの右足の膝から下を糸で微塵に斬ったハラードの声。だが上手く姿を視認する前に気配が消えてフラブは警戒するように前を見る。
それにユールは見守るように優しく微笑みながらフラブの袖から手を離した。
「終局組合ですね。出迎えだけは一流みたいです。時間がないので進みましょうか」
「……すまない、ニベが止めてくれてなければ私は死んでいた」
フラブは再び目的地に向かって歩き始めて。ユールは辺りを見渡しながらフラブの後を着いて行く。
「ふふっ。案内役ですから当然のことです」
牙をたてて強くユールとフラブの方を警戒しながら睨んでいる獣魔物。そして木の影に隠れて毒を与える機会を見定めている毒菌魔物。目が見えないフラブの代わりにユールがその魔物達を抑制していた。
「その……思ったんですが目が見えてないでどうして怖がることなく歩けてるんですか?」
「それは魔力の流れを感覚で捉えることによって物がある位置を掴んでいて……後は音と気配、そして状況は絞られるが殺意だな。ニベがいる位置も凡そでなら掴めている」
「説明されてもわからないですね。そのへんヨヤギ・アリマに似てきてませんか?」
楽しそうに問うユールの問いにフラブも気が抜けて優しい表情を浮かべた。
「それはとても嬉しい言葉だ。ありがとう」
機嫌が良くなるフラブだがある事を思い出して真剣に「それと」と言い言葉を続ける。
「医療機関の建物の屋上に魔力人形がいた……それが何を意味するのかニベも分かるだろう。ーー落ち着いてハセルさんと話せるかもしれない」
──それから多々ありフラブとユールは木々が開けている洋館の前で足を止めた。
「……ニベ、引き返すのなら勝手にしろ。お前に頼んだのは案内だ」
「不要な気遣いです。それに今のフラブ様だけでは殲滅は不可能かと」
「……そうだな。この状態ではもうアリマさんを超えられないな」
悲しそうに言うフラブは躊躇いもなく右足を横に上げて瞬時に目の前にある門を強く蹴った。フラブの右足から伝わる振動と同時に門は強くヒビ割れる。
優しく微笑みながら見ているだけのユールはフラブの左肩にそっと右手を置いた。
「なぁニベ。私は今回の件で改めて気づいたこたがあるんだ。皆んなに感謝をしないといけないと……私の命は色んな人に支えられて存在しているから……」
フラブの左肩に置いたユールの右手には鋭い刃先が特徴的なタガーナイフが握られてる。そしてフラブの首元にいつでも殺せるように当てられていた。
「出来るのなら相応以上の感謝を成して死にたい。だから私を殺すのならその後にしてくれないか?」
「……いえ、私の意思ではありません…っ」
少し焦りながら答えるユールの右腕には目を凝らしてやっと見えるほどの糸が絡められていた。
それにフラブは険しい表情で力強く蹴り振り門を粉々に破壊する。破壊した門の破片を全て落下する前に浮かしてピタリと止めた。同時にフラブの首元にタガーナイフの刃が食い込み少量の血が首を伝う。
「……っ」
──痛そうな表情を見せるが躊躇いもなくユールの右腕へと浮かした破片を襲わせた。破片の先で斬られる糸が地面にゆっくり落ちて、巻き添いにユールの右腕も乱暴に切り刻まれる。血がついた破片は落ちることなく速度も衰えず後方にある木々に突き刺さった。
着ているメイド服の袖がところどころ破けるもユールの腕は自身の回復魔法で血が止まる。
「ニベ、相手を任せる」
「謹んで」
同時に颯爽とその場を後にするユール。そしてフラブは関係なしに再び門の方を向いてゆっくり洋館へと足を踏み入れる。両開きドアを右足で蹴ってドアが室内の壁へと勢い良く衝突した。
──難なく入れた室内は落ち着いた雰囲気ながら薄暗く玄関にも靴が見えない。ただフラブの目の前には人の気配がありフラブは口をぽかんとさせる。
「……は?」
「フラブ君、やっと来たか」
居るはずのないアリマの姿がドアが衝突した壁の前、玄関の先に見える。視界は暗くとも確かにアリマの声でフラブは明らかに困惑していた。そのアリマは嬉しそうにしながらフラブの元へと歩み寄る。
──だがフラブは躊躇いもなく足元から氷柱を出してアリマの腹部を鋭い切っ尖で突き刺しかかる。だがアリマの姿をしている者は右手側へ悠々と避けて優しい笑みを浮かべた。
「私の前でアリマさんを偽れた度胸は褒めたい。だが明らかにアリマさんを理解して無さすぎる」
「そうか。久しいのだよ、シラ・フラブ」
どこからか聞こえた優しいハセルの声と共にアリマは溶けるように姿を変貌させる。
「何で貴女が……」
アリマに変装していて姿を顕にしたのは悠々としているハセルだった。
「ただの手伝いさ。そして確かこの変装魔法は……君と仲が良かったキュサって子の適性か最適性魔法を奪って手に入れたものだったか」
挑発するように悠々として言うハセルの言葉にフラブは驚きと同時に腹の底から怒りを顕にする。
「は……?」
「ちなみにカナレが君にかけた呪いは怒りを剥き出しにすればするほど満たされるまでの時間が短縮されるのだよ。私が直々に教えた魔法だからね」
「では死ね」
ーー突然のアリマの冷たい言葉と同時にハセルの背後に颯爽と怒りに満ちたアリマが現れた。アリマは右手を軽く握って胸元の高さで左側に持っていき、勢い良く右手の甲でハセルの左頭を叩く。
思考が追いつかず、ハセルは勢い良くアリマから見て右手側の壁へと衝突した。衝突したハセルの周りの壁は強くハセルを中心にヒビ割れる。
突然現れたアリマと、アリマから伝わる怒りにフラブは明らかに動揺していた。
「何でここに……?」
驚いているフラブだがアリマは関係なしに直ぐさま優しくフラブを抱き寄せる。その表情は包み込むように優しくても悲しさと悔いが1番に伝わってくる。
「すまないっ……すまないっ」
「待って……何でっ? 何で来たんですかっ? どうやって……」
今だに理解が追いつかずに驚き震えた声で問いながらアリマを見上げる。アリマはただただ悲しそうにしながら何も言わずにフラブを抱き上げる。
「すまない。ユフェルナから全て聞いた。そして君の気配と魔力を辿って来たんだ。……君に呪いをかけた者はあのクソ野郎か?」
怒りを心の内に仕舞いながらゆっくり冷たい目でハセルの方を見る。視線の先にいるハセルは頭から少しの血が流れていても直ぐに回復していた。そして余裕綽々と服の周りの壊れた破片を払いながら立ち上がる。
「全く……君たちの頭に話し合うという選択肢はないのかね?」
呆れるように言いながらもハセルは右手に刃に包帯が巻かれている鎌を出して握る。
「貴女みたいなクソ野郎と話し合えば言語が腐るからな」
嫌そうに言いながらアリマは軽々とフラブを持ち上げて左肩に担いだ。それに戸惑うフラブだが、アリマは優しい表情を浮かべている。
「俺を信じてくれるか? フラブ君」
ようやく状況が追いついて来たフラブはアリマに凭れながらも自身の周りに風刃を生成する。
「ユフェルナさんは少し説教ですけどね!」
** ** * ** **
その頃──ユールは洋館の裏側へと来ていて目の前には左右に広がる木々が見える。そして目の前にある真っ直ぐ整備された道の中央にハラードの姿が確認できた。
「ふふっ。人間以下の雑草風情がよくも私の左腕を……なんて怒りませんから安心して下さいね」
悠々として前で手を組みながらそう言うユールは右腕を前に上げながらタガーナイフを握る。鋭い刃先をハラードに向けて楽しそうな目を向けていた。
「……敵対する日がくるとは思わなかった」
ハラードは淡々とそう言いながら左手に拳銃を出して握り無表情ながらユールの方を見ている。
そしてユールの頭に銃口を向けて瞬時にフラブに目掛けて3弾発砲。同時にユールは強く地面を踏み込んだ。──瞬きをする間にハラードの視界から消えてユールは低く構えながらハラードの右側に現れる。
そして躊躇いもなく右足を横に上げてハラードの横腹を目かげて蹴りかかった。だがユールの右足は横腹につく前にピタリと石のように止まる。悠々としてハラードがユールの額に銃口を当てていた。
「追いつきますかッ!」
嬉しそうに言うユールは右足を下ろすと同時に左足で地面を蹴ってバク転で後方へ距離を取る。それでも銃口はフラブの胴体を追い躊躇いもなく2弾発砲した。それをユールは地面に安定して足をつけた瞬間に再び地面を蹴り右手側へと走る。
「……近接戦は不得手なのだろう。早く本気を出した方がいい」
それでもユールは楽しそうに微笑みながら木々へと入り木に姿を隠した。
── いい殺意ッ! あの方はどんな悲鳴を聞かせてくれるのでしょうッ!
──今から150年前、ユールはどこにでもあるような村の平凡な家に拾われた。ただ他の村と少しだけ違う点あるのなら魔物に攻め入られる寸前の村ということだろう。
「いい? ユール。部屋で本を読んで帰りを待つんだよ? 絶対に外に来ちゃダメだからね?」
優しい声色で母親らしき人がそう言い、その母親は両手に黒い手袋を着用している。それに玄関で見送っていて可愛らしい服を着ている幼いユールは優しい表情を浮かべた。
「うん。いってらっしゃい」
それから何時間が経過してもユールはおとなしく本を読みながら親の無事を祈りながら自身の部屋の中で待っていた。ユールの部屋は女の子の部屋みたいに可愛らしさがありベッドの上にはクマのぬいぐるみがたくさん置かれている。
遅く感じたユールは部屋の時計を見てみると19時はとっくに超えている。そして何故か外は騒がしくユールは心配そうにしながら立ち上がり本を閉じてベッドの上に置いた。そして部屋のドアへと進み部屋を出ると右手側に廊下が見える。
ただ嫌な予感がして、ユールは廊下を進んで左手側にある階段を降りた。電気もついていない室内には幽霊が出るような怖さがある。
「……っ」
不安そうに右手を胸に当てながら階段を降りると目の前に玄関があって左手側には広い間が見える。そして玄関で靴を履いて意を決しながらも恐る恐るドアを開けた。
──ドアを開けて見てみれば他の家よりも燃え盛る赤い炎が1番に目に入る。そして辺りに食い散らかされて散りばめられた性別もわからないほどの肉塊。
「わぁ」
酷い死体にもその死臭にも何故か動じることなくユールはそんな言葉を溢した。そして辺りをよく見渡すと、ところどころに牙を立てた獣魔物が確認できる。
だが遠くからユールの姿を確認した母親は慌ててユールの元へと走り出す。
「ユール! 部屋に居なさいって……! あなたまで殺さなきゃいけなくなるじゃない!」
ユールの元へと慌てて駆け寄る母親だが、平然として母親の方を見る。そこれら漂う異常さに母親は怖気付き肩をビクっと震わせて足を止めた。
「お母さん。これユールへの誕生日プレゼント?」
嬉しそうに問うユール。今日この日はユールが何年か前に家に拾われた日だった。
「──アアァッ!」
と獣魔物に腕を引きちぎられている男性が遠くに見えて抵抗出来ずに悲鳴を上げている。それにユールは訳もわからず嬉しそうに手を胸の高さで合わせる。
「こんなにいい声を出せるなんて……」
うっとりとした顔をしながら人の肉塊が散らばる景色を見渡すユール。ーーすると同時に母親は短剣を右手に握りユールの元へと歩き出した。
「あなたも……そんなことを言うの……?」
悲しそうに震えた声でそう言いながら母親はユールの右前で立ち止まる。それにユールは小首を傾げて不思議そうにしながら母親を見上げた。
──だが母親は手も震わせながらユールに短剣の刃先を向ける。ユールは母親の表情を見て驚きを隠せずに目を少し見開いた。子に刃を向ける母親は涙を頬に伝わらせながら怯えているように見える。
「お母さん……?」
向けられる恐怖と殺意に本能からかユールはますます嬉しそうに頬を赤くする。
「やっぱりユールへの誕生日プレゼントでしょう?」
そのユールを母親は化け物を見るような目で見ながらユールを目掛けて刃を振り下ろした。だがその短剣の刃はユールへ届く前にピタリと止まる。
「──ッ!」
ーー母親は怯えながらも刃を食いしばり直後に大量に血を吐いた。それに咄嗟に左手でユールを突き飛ばしたと同時に胸に背後から刃が貫かれる。
「ユー……ル。逃げて……」
瞬時に胸から刃が引き抜かれて母親は反動で前方にパタリと倒れた。それにユールはただただ理解が追いつかずに大きく目を見開いた。
「え……?」
倒れた母親の背後にいたのは左手の甲に青い蝶の刺青が彫られている男性。その男性はほとんど変わらない姿のまだ生きているユイロウ。そして左手に握る短剣の刃に母親の赤い血が付着している。
「裏切り者ごときが。手間を……」
疲れたような言葉と歩いている足音がユールの背後から聞こえた。ただ呆然としているユールだが足音は何気なく背後でピタリと止まった。
「おい。大丈夫か? ガキ」
ユールの左背後で屈む男性はほとんど変わらない姿の生きているメフェイルだった。
「メフェイルさん。言われた通り急所は外したっス」
それでも理解が追いつかないユールは目を大きく見開いたままゆっくりメフェイルの方を見る。メフェイルの表情は疲れたようで冷たく優しさは微塵も感じ取れない。
「じゃあ用は済んだな。他の死体の回収と魔物の対処は処刑課か……まぁ名家と警備課がやるだろ」
面倒くさそうに言いながら立ち上がり冷たい目でユールを見下ろす。
「ガキは殺さずに裏切り者と連れいくぞ。親子なら尚更利用価値がある」
その時ユールに見えた光景と聞こえる悲鳴。それから導き出させる思考。
─ この人はどんな殺意を私に向けてくれるんだろう……どんな悲鳴を聞かせてくれるんだろう……
誕生日プレゼントと誤解していることから不思議そうに興味本意でそればかりを考えいた。
──そして今現在、ユールは微笑みながら地面を蹴り颯爽と木の後ろから姿を現す。同時にハラードは強く警戒しながらその方向に銃口を向ける。
「ふふっ……!」
楽しそうに笑いながら次の瞬間には既にユールがハラードの背後に回り込んでいた。それに気づいて目を少し見開きながらハラードは振り返ろうとする。
「──っ」
だがユールは何の躊躇いもなく逆手に持つタガーナイフの刃先をハラードの首に突き刺した。首を貫く刃は赤い血が付着してハラードはますます目を大きく見開いた。
「あら? 避けるのかと思っていました……」
残念そうに言いながら冷たい目をハラードに向けて持ち手から一瞬だけ手を離す。そして順手に持ち直して勢い良くタガーナイフを引き抜いた。
「──ッ!」
同時に飛び散るハラードの血はユールの衣服や地面に付着する。ハラードは何の抵抗もできずにただ理解だけはして前方へパタリと倒れた。
「お金と暴力で解決でききないことはない。これは昔にメフェイルさんから教えていただいた大切な言葉なんです」
ゴミを見るような目をハラードに向けながら血がついたタガーナイフの刃先を背中に向ける。
「知ってるだけ多くの情報を吐いていただきたいので直ぐには殺しません。例えばなぜ貴方は今、糸を使用しないのか。フラブ様に呪いをかけた者はどこにいるのか……それも気になります」
更にユールは木々の間で覗き見ていた獣魔物を誘き寄せてハラードを囲わせる。だが突如としてフラブがいる館内から物が壊れる事が強く鳴り響いた。
「……信じてますよ。私は」
──その頃、フラブを担ぎながらアリマは地面を踏み込んでハセルの元へと走る。同時にフラブは風刃を躊躇いも容赦もなくハセルと襲い掛からせた。それにハセルは後方へとフラブから距離を取りながら鎌で風刃を受け止めている。
「人によって幸せと感じることは違う……ですがこれだけは断言できる。貴女が生きている限り幸せになれる人なんていない!」
瞬時にハセルは風刃を打ち消してアリマの前方へ姿勢を低く鎌を構えながら現れた。ーーそして躊躇いもなくアリマの胴体を目掛けて切り裂きかかる。同時にアリマは地面を蹴って避けたと同時に玄関のドアの方から外へ出る。
「アリマさん。私に呪いをかけた人はハセルさんではありません! 終局組合の方です!」
フラブは警戒を解かずに風刃を新たに五つだけ周りに生成した。
「其れは少し面倒だな……呪いをかけた者が自ら出てくることはないだろう? 呪いも魔法。自分が死ねば強制的に解けるワケだからな」
だが突如として「ぐぅー」と空腹を教えてくれるフラブのお腹の音がなる。それに思考を停止させるフラブとアリマだが、瞬時にフラブは恥ずかしそうに顔を赤くした。
─ 昨日から何も食べていないから……
「……っそう思える私は十分に幸せ者だ!」
恥ずかしさを宣言で誤魔化すフラブだがアリマは不安そうにフラブの方を見る。
「その……大丈夫か?」
その心配にフラブはますます恥ずかしそうにするも洋館の方からゆっくりハセルが歩いて来た。ハセルは優しい表情を浮かべながら瞬きをする間にアリマの前へと現れる。同時に再び姿勢を低くしてアリマの胴体を目掛けて鎌を振り上げた。
それをフラブはアリマの前に氷の盾を生成して踏ん張るように鎌の刃を受け止める。
「……っ近接戦も得意なのかッ!」
次第にフラブの氷にヒビが入るも、瞬時の判断でアリマは地面を蹴って左手側に避けながらハセルが持つ鎌の刃を右手で掴んだ。
「成る程」
微かに嫌そうに言いながら鎌から手を離して微かに冷や汗を流しながらハセルの背後に回り込む。同時にフラブは察して自身の周りに火球を六つ生成した。
「嫌な奴なのだよ。君も」
悠々として目だけアリマの方を見ながらハセルは刃を振り上げて氷の盾を壊す。そしてアリマは行動を読み取り後方へとバク転で避けながら、同時にフラブはハセルへと火球を豪速球ほどの速さで襲わせる。
「概念の力を使っても良いのだよ」
悠々としてそう言いながらハセルはフラブ達の方を振り返り左拳に水を纏う。そして軽々と振り払うように左手でフラブの火球を打ち消した。
「まぁ君を眠らせてカナレがかけた呪いが満ちるまで待つということも出来る。だがそれだとつまらないだろう?」
悠々として言いながらハセルは立ち止まり「だから」と言った瞬間。ハセルの前方に颯爽と洗脳されたルルがフラブ達の方を睨みつけながら現れた。
「……っ本当に。死にたいのなら勝手に死んでほしい」
ルルの方を見て嫌そうに言葉を溢すフラブだがアリマは常に心配そうな目でフラブの方を見ている。
「死ねないから頑張っているのだよ。諦めた君と違ってね」
ハセルは優しい声色でフラブにそう言い、転移魔法で颯爽とその場を後にした。それにアリマは嫌な予感を覚えてしまい険しい表情でルルの方を見る。
「得体の知れなさ……不老不死とは厄介な奴ばかりだな」
同時にルルは冷たい目でアリマの方を見ながらゆっくり右腕を前に上げる。そしてアリマへと狙いを定めるように手を広げて右手を翳した。ーーそれから伝わる殺意にアリマは地面を蹴って右手側へと避ける。
するとアリマが元いた位置に地面から鋭く生えるように渦のような風が現れた。それに険しい表情を見せるアリマは颯爽とルルの元へと走り出す。
瞬時にフラブは自身の周りに生成した風刃を躊躇いもなくルルの元へと襲わせる。それを見たルルは地面を蹴ったと同時に翼を広げて上空へと羽ばたいた。同時にひんやりとした冷たい風を揺らして襲ってくる風刃を悠々とかき消す。
同時にアリマは地面を踏み込んで右拳を構えながらルルの元へと高く跳んだ。それに瞬時にフラブは拘束魔法でルルの腕を胴体ごと拘束する。
──それにルルは翼で自身を覆いアリマの右拳を間一髪で受け止めた。だが翼に衝撃が渡りアリマが殴った翼にヒビが入り始める。同時にヒビ割れたところから全体に白い羽が赤い血で染まる。
「──ッ」
それに耐えるルルだがフラブは容赦もなくルルの翼に炎を点けた。同時に拳を引っ込めるアリマは魔法が使えないため地面へと落下する。だが咄嗟にフラブがアリマに浮遊魔法を使用してゆっくり地面へ足をつけることに成功した。
それに優しい表情を浮かべるフラブとアリマだが赤く燃え盛る翼は燃えてなくなる。だが瞬時にルルの翼は再生されて白く大きい翼が広げられた。
そしてフラブが使用していた拘束魔法は翼の再生と共に粉々にされている。
「……フラブ君。不老不死の殺し方は1つしか存在しない。概念かそれ以上の者の力を借りることだ」
覚悟を決めたアリマの言葉にフラブは何かを察して息が詰まり一瞬で表情が険しくなった。
「は……?」
「今の君なら俺が居なくても大丈夫だろう。其れに他のことは君の兄に任せている」
優しくても少し悲しそうにな表情を浮かべるアリマは優しくフラブを下ろして地面に座らせた。それに絶望しながらもフラブは腕がないため何もできない。
「待って……それは違いますッ! それだはっ!」
「違くない。これからも自分を想ってくれる人は大切にしなさい」
姿勢を低くしてフラブの頭に軽く右手を置き優しく撫でるもフラブは涙を頬へと伝わらせる。ただ思うように体が動かず言葉を失うほどの絶望に必死な苦い表情でアリマを見つめていた。
声を荒げるフラブとは違い、アリマは冷静にフラブから手を離して立ち上がった。そして優しい表情を浮かべながらゆっくりルルの方を見上げる。
──ルルは容赦もなく自身の周りに白い羽を浮かしてアリマとフラブに向けていた。
「すまないがもう時間がない」
悲しそうに言うアリマは諦めたかのように深く瞬きをする。──そして知恵の状態へと代わって髪が白くなり澄んでいる薄い紫色の眼へと変化した。
「嫌だッ! 何でアリマさんまで……ッ!」
涙を次々に溢しながらフラブは必死な表情でアリマを見上げた。ただアリマは優しい表情を浮かべるも、どこか苦しそうにルルへと左手を翳した。
「死ね」
軽々としたその言葉と同時にルルは内側から弾け飛ぶように爆散した。周りに浮いていた羽は元々氷だったかのように冷たく凍りつく。
そして苦しそうに右手で心臓を抑えるアリマは少量の赤い血を吐いた。それにフラブはただただ絶望したようにアリマの方を見上げていた。
「違うッ! 誰もこんなこと望んでないっ!」
必死になって声を荒げて言うフラブだがアリマは優しい表情を浮かべながら屈む。そしてフラブの義足に左手を当てて同時に義足を粉々に破壊する。
「俺は君を笑わせられなかった。そんな俺が君の側に居座る資格などない」
それを確認するとアリマは再びゆっくり立ち上がりフラブに向けて左手を翳す。
「……っ笑えます! だからっ……!」
同時にフラブはかけられた呪いが解けて腕と右足が生えるように元に戻る。そして壊された眼も修復されて目に巻かれた包帯が地面へとゆっくり落ちた。
絶望しながらも視界が開けると後方へと地面に倒れたアリマの姿が1番に目に入った。アリマは悲しそうにしながら瞼を閉じて大量に血を吐いている。
それにフラブは全てを理解して必死に両手で口を押さえて苦しさを呑み込む。
「何で……っ」
目を見開きながら溢れた涙が地面へと落ちて、ただただ現状を受け入れられずにいる。呼吸が荒くてもフラブは気にすることなくアリマの死体から必死に目を背けている。更に死んだ事を自覚させるように知恵の魂らしき白色の光る球体が現れた。
だがそれでも関係なく、意を決したように怒りを込めて歯を強く食いしばり拳を強く握りしめる。
「──ハセルだけはッ!」
** ** * ** **
──それからハセルは、既に元通りになっている処刑課の本拠地の自身の執務室に居た。
相変わらずの広々としている謁見の間と執務室が合わさったような部屋。そしてハセルは机に向かってオフィスチェアーに座っていた。
「シラ・フラブを助けるために知恵と成って無い魔力を無理矢理…か。これから彼がどうなるかを知れるからルルの犠牲は無駄ではないな。ご苦労さま」
優しい表情を浮かべているハセルの視線の先には相変わらず魔女らしき姿をしているカナレが居る。
「それはそうと少し気になったのだけれど……どうやってキュサ……? って人から変装魔法も未来予知も奪ったの?」
優しい笑みを浮かべながらハセルは疲れたように大きく背伸びをする。
「特別なことは何もないさ。フラブの手を煩わせたくないがためだけに危険な爆弾を踏んだのだよ。アリマが来る前に1人でここに来ていたんだ」
「その時に奪ったったてこと?」
「未来予知も含めてね。真意は分からないがフラブたちにはその事を伝えていなかったみたいで……今となれば感謝しかないのだよ」
優しい声色で機嫌良さそうに言いながらハセルはゆっくり立ち上がった。
「私は壊すことができればそれでいいの。破壊こそが最も美しいもなんだって証明しないとだからね」
何かを企むような顔でハセルの方を見るカナレ。それにハセルは優しい表情を浮かべながらカナレの前まで歩いて立ち止まる。
「充分以上の活躍を期待しているのだよ」
「ええ。任せて」




