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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第序章「過去の記憶」
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第六話 希望は

 住宅街、施設周辺の歩道。前方から歩いて来て声をかけて来た者はフラブの母親のシラ・ミハだった。


「服装的に処刑課やろ? 何の用なん?」


 タナカはミハを疑う素振りは見せずに一切表情や声色にも出さない。それにミハは少し申し訳なさそうな困ったような表情を浮かべた。


「すみません。今は仕事じゃなくてプライベートで家族で遊びに来てて……服着替え忘れてしまいました」


 少し微笑みながらそう言うミハは微かに戸惑いながらも焦っているように見える。そのミハの背後からハジメが来ていて、ハジメも服装はシラ家の黒い家族服を着ていた。


「すまんな! ミハは処刑課1課長なんだが……普段はとっても天然でなぁ!」

 

 そう元気良く言うハジメはミハの肩に右腕をまわして楽しそうにしている。


「ちょっとハジメ! 恥ずかしいわ、やめて頂戴!」


 そうミハは静かに怒ると、それにハジメは子犬のように落ち込みつつ申し訳なさそうに腕を離した。するとハジメとミハの背後から黄色の短髪に毛先だけ黒い者も歩いて来る。


「すみません、五月蝿いですよね」


 その者はフラブの兄のシラ・コウファだった。コウファは灰色のパーカーに黒いズボンを着ていて好青年と言うには程遠く目に下にクマがある。


「コウファ、ついて来い! お菓子買ってやる!」


 そう元気良くコウファを見て言うハジメはコウファの腕を掴んで来た道を戻った。


「え、ぇぇ今!?」


 そう急ながらもコウファは驚きつつ抵抗はせずハジメとその場を後にした。それを見たミハは呆れるように軽く右拳を口の前に持ってきて「こほん」と一度咳き込み切り替える。


「すみません……話が逸れてしまって。ここの近くのお勧めスポットを教えてほしいの」


 そう優しい声色で気を取り直して言うミハは腕を下ろしながら優しい表情でタナカを見て問い。それにタナカは優しくも軽く腕を組んで明るい表情でミハを見る。


「嵐のような方ですね。ごめんやけど、ここはあまりお勧め出来る場所はあらへん。他を当たり」


 タナカが優しい声色でそう言うとミハは何故か直ぐ様に真剣な深刻そうな表情に変わった。


「失礼ですが、何か隠してませんか?」


 タナカのちょっとした挙動に違和感を持ったミハは圧ある声でそう問い疑うような目をタナカに向ける。


「な、なんも隠してあらへんわ。疑わんといて、家族が待ってはるよ」


 そう怯えるようにも問うタナカは一瞬、威圧感に驚いたが直ぐに冷静に戻る。だがミハはその一瞬を見逃さなかった。


「嘘はよくないですよ。あくまで私は処刑課、証拠はないので今回は失礼しますが目をつけられたのはお忘れなきよう。──それはそうと親切にありがとうございます」


 そう怖くも優しい声色で言うミハは最後は優しく微笑んで感謝を述べると来た道を戻ってその場を後にした。そのミハの姿が見えなくなったのを確認してタナカはカケイの方を見る。


「圧が凄いなぁ。あれ絶対ミハさんよりハジメさん? の方に先に怪しまれてたわぁ。だから息子さん連れて距離とったんやろうなぁ」


 そう気疲れしたように言うタナカだが、カケイを見て優しい表情を浮かべる。


「怖い家族やで、ほんま」


 だがその疲れているタナカを見てカケイは心配そうな表情を浮かべた。


「大丈夫? タナカ」


「大丈夫や。なんかあっても俺がカケイ君を守るさかい。カケイ君が怖がることはなんもないんよ」


 タナカは屈みながら優しく微笑み、優しくカケイにそう言った。それにカケイは安心したかのようにフードを脱いで微笑んでタナカを見上げる。


「じゃあ俺がタナカを守れば無敵だな!」


 それにタナカは驚くように目を少し見開き、驚きを誤魔化すように笑い出した。


「なんやそれ、おもろいわぁ。カケイ君は出来て3年目やのうてヒーローみたいやなぁ」


 その笑っているタナカを見てカケイはムッと怒り頬を膨らませた。


「笑うな! 俺ぁヒーローじゃねぇ! ヒーローってなんだ!?」


 少し怒りながらカケイがそう言うとタナカは「はいはい」と相槌をうちながら立ち上がる。


「さぁ行こか、ジュース買いに」


 そう優しい声色で言うタナカは少し歩きながら、カケイの方を振り返り。それにカケイは目をキラキラ輝かせて楽しそうに後をついて行く。


「うん! ジュースがなんだかわかんねぇけど、レッツゴー!」


 明るく元気そうにそう言い、カケイとタナカは再び横並びで前へと歩きだした。



 ──その日の夜、施設室内 2階の増設された一室。

 壁も天井も床も白く、奥側の壁に1つのベッドがありそこにカケイが目を閉じて横に拘束されていた。

 カケイの全身には大量の線がついていてカケイの左手側にある機械にその線が繋がっていた。


 それを見つめる白い実験衣を着ている人が5人ほど確認できる。その中に暗い顔をしているタナカも確認できてしまう。


「コード1から50、準備完了です」


 タナカの左横にいる女性がタナカにそう伝えると


「じゃあ頼むわ」


 冷たい声でそう答えた。──するとスイッチを操作してる女性がスイッチを押して起動させた。


「──っダァぁああ!」


 そしてその直後カケイが物凄く苦しそうに大きい声で痛そうに叫ぶ。


「魔力の出力は?」


 そう冷たくも冷静に問いながらタナカはコードを伝えてくれた女性の方を見る。


「5から13です」


 そう答えた女性は微かに悲しそうな声色でタナカは記録しながら冷たい目で書いている紙へと視線を移す。


「駄目やね、弱いわ。26まで上げな」


「ですがそれだとカケイ君に負荷が……」


「別に変わらん」


 タナカがそう反対した女性にそう言うと、その女性は圧ある声で「は?」とタナカに反論する。


「人形でも感情があるんですよ……? それにタナカさんカケイ君の世話係でしょう?」


 それにタナカは眉を顰め歯を食いしばり、ノートを持ってない方の手でその者の襟を掴む。


「ちゃうやろ。上の希望に添えな永遠にカケイ君は苦しむ。なら早く解放せなあかん、カケイ君には苦しむ道しかないんよ」


 タナカは苦しそうにも辛そうに自分に言い聞かせながら襟を離してノートに目線を移す。


「心を捨てな、こっちが先に壊れてまうわ」


 そう震えた声で言うタナカは逃げ出したいほどに心の底から苦しそうで。女性は驚いてからか軽く腕を組んで外方を向いた。


「すいません、26までお願いします」


 反対した女性ががそう言うと、スイッチを操作してる女性に頷いて合図を出す。それを確認したらスイッチを操作してる女性ががスイッチを起動した。


「ーーっがアアァアァッ!」


 すると倍以上にカケイは強く痛々しい悲鳴を上げて苦しそうに叫ぶ。それにタナカは魔眼を使うと驚いたように少しだけ目を見開く。


「魔力の流れが変わった……これでええ。今日は終いや。お疲れさん、皆んな」


 タナカは淡々とそう言いながらノートを閉じて部屋から出る。カケイは痛々しくも気を失っており、他の者はカケイに付いている線を片付ける。


「ごめんなさい、カケイ君」


 反対した女性がそう言いながら右手でカケイの頭を優しく撫でた。


「そんなんじゃ、あんたいつか倒れるよ。ここで新人が死んでいく理由はストレスか、処刑課に目をつけられたくらいだからな」


 機械を操作していた男性が冷たくも冷静にそう言いながらも悲しそうにカケイを見る。


「はい……それにしてもタナカさん優しいのか鬼なのか、本心が分からない人ですね」



 ──その頃タナカは屋上の鉄格子に前屈みで凭れていて、悲しそうな表情で景色を眺めている。


「何で俺なん。世話係は他に適任おるやろ」


 そう感情が読み取れない声色でそう問うタナカ。

 いつの間にか後ろ2メートル付近に居たコーノに背を向けた状態で話しかけていた。


「…………」


 それにコーノは冷たい目でタナカを見つめながらも手を後ろで組んで沈黙を貫いており。それに心の底から怒ったタナカは勢い良くコーノが居る後ろを振り返る。


「糞爺、レスポンスしっかりしろや! 何で俺がカケイ君の苦しむ姿見んといけんねん!」


 怒っているタナカの声は微かに震えていて、溢れる涙を次々と頬へと伝わらせていた。


「お前が未熟者だからだ。優しさなど邪魔、無慈悲になった方が楽だろ」


 コーノのその冷たい言葉にタナカは元の位置に顔を戻して俯いた。


「ああはいそうですか。ならもうええ。失せろ糞爺」


 タナカは呆れたような口調でそう言うと再び鉄格子に前屈みで凭れる。


「それだから未熟者なんだ。現実から目を背けるな、夢を見るな、反論するな、ただあのお方の目標に付き従えば良い」


 冷たい表情をしているコーノは淡々とそう言って屋上のドアからその場を後にした。


「くそったれや、全部、何もかも。……処刑課に見つかれば、カケイ君は解放されるんか? それとも外に逃す?」


 微かに震えた声でそう言うタナカは悲しそうに歯を食いしばった。


「……ちゃうやろ。それじゃあ人を殺す目的で、魔力で出来たカケイ君は殺されてまう……あの見た目や、後者も直ぐバレる……何で誰も助けてくれへんの……」


 その場で足が崩れ落ちるかのように屈み、俯いたまま次々と涙を頬に伝わらせた。



 ──1週間後 早朝 施設室内 2階 図書室。カケイは椅子に座りながら真剣な表情で。タナカは本棚に凭れながら静かに本を読んでいた。


 タナカの目の下には薄くクマが出来ており、目の中の光が日に日に小さくなっていた。


「なぁタナカ。本当に大丈夫か?」


 カケイは本を閉じて心配そうな表情で右手側に居るタナカを見て問う。それにタナカは「ん?」と問いながら本を閉じてカケイの方を向く。


「タナカ元気ない気がして……」


 カケイが恐る恐るタナカに問う。だがタナカはカケイを見て優しく微笑んだ。


「問題あらへん、俺はいつでも絶好調や」


 タナカはそれだけ言って手に持っている本を開いて再び読み始める。カケイは疑うような目でタナカを見るも、聞くに聞けない空気で本を再び読み始めた。



 ──その日の昼 施設 1階。

 庭の木の下のベンチでカケイがイチゴを酸っぱそうに食べており。そのカケイの前で立ち止まっているタナカはそれを見て腹を抱えて笑っている。


「カケイ君は子供やなぁ、可愛らしいわ」


 それにカケイは怒ったように頬を膨らませてタナカを軽く睨みつけた。


「子供じゃねぇよ! 格好良いんだ、俺ぁ!」


 そして勢いでイチゴをヘタごと食べて苦そうな表情で目を少し顰めた。


「ん、草マッズ」


 それに対してタナカは優しく微笑む。だがそれは保護者のように見守るだけで何も言わなかった。


「……なぁタナカ。何で兄さんと会ったら駄目なの?」


 イチゴを食べ終えたカケイはタナカを見て小首を傾げなから質問する。その質問にタナカは少し悲しい顔を浮かべた。


「……言えへんよ、それは。秘密や」


 タナカはそう言いながら右手の人差し指を唇の前に持ってきて。


「しーなの? 言ったら駄目なの?」


 それにタナカは優しい表情で屈んで優しくカケイの頭を撫でる。


「そうや。きばって耐えな、カケイ君」


「タナカ、何かあった……? やっぱ元気ないんじゃ……」


 カケイの鋭過ぎる質問にタナカは一度深く瞬きして答える。


「何もあらへん言うたやろ? カケイ君は優しいなぁ。酷いことする俺を心配して信じとる」


 それにカケイは安心したのか太陽のような満面の笑顔でタナカを見た。


「俺ぁタナカを信用するって決めたからな! 本を読ませてくれてイチゴもくれた! タナカも凄く優しいと思うぞ!」


 それにタナカは驚くように大きく目を見開き、ほんの少しだけ悲しそうな目を逸らす。だが直ぐに切り替えて腹を抱えて笑い出した。


「ありえん、優しすぎるやろ……やっぱおもろいわぁ、カケイ君」


 笑うタナカにカケイは再び怒ったように頬を膨らませた。


「わ・ら・う・な! 俺ぁおもろくねぇだろ! 格好良いんだ!」


 そしてカケイは頬を膨らませた状態で恥ずかしそうに多少顔を赤くして外方を向いた。


「そうやね、ごめんなぁ。そや、忘れとったわ。カケイ君に頼みたい事があんねん、頼まれてくれん?」


 明るい声でタナカはそう言うと衣服の内側からカケイに封筒をカケイに渡すように見せる。カケイはその封筒に目線を移動させた。


「んだ? これ?」


 カケイは封筒を受け取り、封筒を開けて中から折り曲げられた紙を取り出す。紙を広げるとそれは施設内1階の地図で。左下辺りにある部屋の箇所に星マークがついていた。


「ここに行って、誰にもバレずに赤色の水晶を取ってきてほしいんよ。出来る?」


「初めてタナカが俺に頼ってくれたんだ! 任せろ!」


 カケイのその言葉と笑顔にタナカは心を痛めも表情には出さなかった。


「カケイ君なら出来る、きばってなぁ」


 優しい声色でそう言うタナカの言葉にカケイは笑顔で「うん!」と答えた。


「じゃあ待ってろ! タナカ!」


 そして元気良く嬉しそうにそう言って左後ろの方に向かって走り出す。


「ごめんなぁ……ほんまに、もう耐えられないんよ。カケイ君の優しさに……せやから逃げて……」


 タナカはそう言葉を溢しながらその場に屈み、長く溜め息を溢した。



 カケイは廊下を走って星マークの部屋に向かう。

 道中、左手側には庭が見え、右手側には色んな部屋が並んでいて部屋の大体は物置や資料部屋などに使われている。そして目的地は案外近くで直ぐ星マークの部屋に着いた。


「多分ここだな!」


 カケイは地図を確認して部屋に入ろうとした時、部屋の中から話し声が聞こえ。カケイは外側のドアに座って隠れ、興味本位で耳を澄ます。


「ココアの処分はどうしましょうか?」


 そう深刻そうに問うも青年ほどの男性の声。部屋の室内には三人ほどが居る。


「あいつは実戦に混ぜても功績を残した。だから計画通りここは卒業だ」


 真剣にも威圧感がある女性の声は微かに悲しそうにも聞こえてくる。


「カケイは?」


 恐る恐る問うのは違う青年ほどの女性の声で。カケイは隠れながらも聞き耳を立ててやり過ごしている。


「カケイは駄目だ。心が無くなるまで人を殺めさせて隔離しろ。タナカは殺す」


 淡々としても相変わらず威圧感がある女性の言葉にカケイは驚いて必死に両手で口を覆った。


「タナカは3段程の実力者です。タナカを殺処分とする理由を伺っても?」


 恐る恐る問う女性は微かに声が震えていても空気自体が深刻そうで。


「……タナカは優し過ぎた……この実験でも何でも……いつかは任務さえ遂行出来ない。そんな者は要らない」


「いつ殺すんです?」


 気楽にも微かに暗い男性の声にすらカケイは深刻そうにも自身の鼓動の音が聞こえてくる。


「今直ぐだ。既にココアとナラメを向かわせている」


 威圧感がある女性がそう言い。それにカケイは飛び出して止めようとしたがタナカの言葉を思い出した。


 ──「誰にもバレずに……」


 それでもカケイは必死にも険しい表情で全力で廊下を走ってタナカの方に向かう──。


「──なっ! 足音!? 誰か居たのか!?」


 そう威圧感がある女性がドアの方向を見るもカケイは気にせず息を切らして庭に向かった。

 だがその足跡を聞いた部屋の者達は安心したかのようにも微かに悲しそうな表情を浮かべている。


「これで良い。タナカさんは少し自己犠牲が過ぎますから。カケイ君を逃がそうとしていたらしいですけど……阻止しないとタナカさんは1人になる」


 元々この会話をカケイに聞かせるためにタナカの計画を探りつつ計画を両手したのだろう。それも施設にいる者達のタナカを想う優しさから協力したもの。


 それを知らないカケイは必死にタナカの元へ走りながらも自身の足音がよく聞こえる。


 ─ タナカ……!


 庭につくとタナカは自身から3メートル離れた地点にココアとナラメがいて話をしていた。


「タナカっ!」


 その光景に険しい表情を浮かべながらカケイは大声でそう叫ぶ。それにタナカは驚いて大きく目を見開きながら右側の遠くにいるカケイを見る。


「……何で居るん? あほがッ! 早く逃げろ!」


 必死そうにも険しい表情を浮かべたタナカはカケイの方を見てそう大声でそう叫ぶ。それにも容赦なくココアは右手を上に上げては大きい氷柱を魔法で空中に出してタナカに投げた。──速度は豪速球以上の速さがありタナカの胴体に鋭い氷柱の切っ尖が向いている。


 ──マジック魔法「位置交代」


 タナカは颯爽と魔法を使いナラメと自身の位置を入れ替え右足でココアの横腹を蹴りかかる。その頃ナラメはココアの氷柱の軌道を逸らしていてココアは蹴りを左手で受け止めた。


「さようなら。タナカさん」


 優しい声色でココアがそう言い、受け止めてない方の右手から氷柱をだしタナカの腹部を目掛けて刺す。


 ──トランプカード魔法「スペード4」


 それなら対応するのうにタナカが魔法を使うと自身の右手の指に挟むようにトランプカードのスペードの6が現れた。──そして直ぐ様に右手を前に持って来てスペードの6をココアの氷柱が勢い良く貫く。


 その瞬間、──空が夜のように暗くなり雲に隠れた月が見える。そしてココアの額にスペードのマークが現れてトランプカードが消えた。

 それに驚いたカケイとナラメは咄嗟に空を見上げてココアの動きが止まる。


「かんにんなぁ……ココアちゃん。頑張っても君じゃ俺は倒せへんよ」


 優しい声色でも圧あるようにそう言うタナカだがココアは何故か楽しそうに笑顔になった。

 瞬時にココアは地面から氷柱を出しては勢い良く切っ尖がタナカの腹を貫く──。

 それにタナカは油断して吐血し目を大きく見開いて貫かれた表情を見る。それでもトランプカード魔法の影響でココアは酷く息切れしながら地面に膝をついた。


「死なばっ……諸共だよ! タナカさん」


 死ぬ寸前にも見えるココアだが険しくも笑みを浮かべてタナカを見上げている。


「──ッ! ……見違えるなぁ? ココアちゃん」


 それにタナカは痛々しそうな表情を浮かべながらココアを強く睨みつけた。


「──っタナカ!」


 その光景を見たカケイは目を大きく見開いて慌ててタナカの方に走り出す。


「あんたの相手は私だよ!」


 なんて無気力に言うナラメが面倒くさそうに言うと地面から大きい茎が伸びてカケイが空中に上げれて捕まる。それでもカケイは自分の事は二の次で必死に抵抗しながらも驚きつつ心配するようにタナカを見ていた。


「──タナカっ!」


「こんな時も……君は俺の心配するん……」


 微かに悲しそうな表情を浮かべているタナカはカケイに聞こえない小声でそう溢す。だがココアは楽しそうにも嬉しそうに笑みを浮かべたままカケイを見上げた。


「──っ良かった! ずぅっとお前の絶望した顔が見たかったんだ。ははっ! 笑顔が似合う奴の絶望は何よりもッ! 大好物だよっ……!」


 そのココアの言葉と浮かべている笑みにカケイは絶望したかのように表情が曇った。


「兄さん……何で……」


 ──トランプカード魔法「ハートの6」


 タナカが魔法を使うとスペードの4が現れた時のようにトランプカードのハートの6が現れる。それに咄嗟に判断したココアは地面から氷柱を勢い良く出して鋭い切っ尖をタナカに向けた。


「仕組みわかっとらんなぁ。ココアちゃん」


 タナカは優しく微笑みながらも氷柱にハートの6を貫かせる──。その時ハートの6が消えて空がが昼に変わりココアの額にトランプのハートマークが追加された。


「──っマジか!」


 ココアが険しくも気づく頃には遅くココアは水に溺れたように苦しむだして自身の首を掴んだ。それに必死になりつつ険しい表情を見せるココアはタナカを貫いた氷柱を解除する。


「──っココアちゃん!」


 ナラメが必死にも険しい表情を見せつつココアを助けに向かおうとするが。冷静に判断したカケイがナラメの手足を氷で覆わせて凍らせた。


「……っ出来損ない如きがッ!」


 ナラメは溢れる程の殺意をカケイに向けてカケイを強く睨みつける。



 ──タナカはココアに優しく微笑んでいながらも無慈悲に見下ろしていた。


「少しは信じとったんよ。君はカケイ君の味方をしてくれる、悪い奴やないって。せやから終わりや、ココアちゃん」


 ──マジック魔法「傷交換」


 タナカが魔法を使うと、タナカの腹部の傷がココアの腹部に移ってココアは痛々しい表情をみせた。


「マジック魔法は自分が対象相手を格下やと思うのと同時に、実際そうじゃなきゃ使えへん」


 タナカは見下すようにココアを見て、そう言いながらゆっくり立ち上がる。


「俺は非力や。弱いトランプカード魔法が最適性で、難しいマジック魔法が適性やった。そんな弱い俺に君は負けたんよ」


 冷たい声色でそう言うタナカはゆっくり地面に倒れるココアを冷たく鋭い目つきで見下ろす。


「──っココアちゃん!」


 氷で身動きが出来ないが出来ないナラメは目を見開いて冷や汗を流しつつタナカを睨んだ。


「次はお前や。ナラメ」


 タナカは圧ある声でそう言いながらゆっくりナラメの方を振り向き睨みつける。


「タナカっ! 後ろっ!」


 カケイが険しい表情を浮かべながら必死にタナカにそう叫びタナカは勢い良く背後を振り返った。そこには処刑課の黒いスーツを着たシラ・ミハが居て刃が炎の柄を右手に握って刃先をタナカに向けている。


「なんや。もう来たんか、処刑課」


 そのミハの姿にもタナカは意外にも焦らず冷静にミハに話しかけた。


「ええ。あの施設はやばいって最高管理者さんに言われたの。せっかくの家族団欒なのに。他の施設の人も部下が殺してる……でも言いわけは聞くわよ」


 状況から何かを察したのか慈悲をかけるミハだがタナカの表情は暗いまま。


「要らんわ」


 単調にもタナカはミハへ暖かさまである殺意を向けてそう言い。それにミハは悲しそうに「そう」と言いつつタナカの近距離に入りタナカの胴体に刀を振り下ろした。その瞬間、──タナカ自身と焦っているナラメの位置が入れ替わりナラメがミハに斬られた。


「──っ!」


 ナラメは叫ぶことさえ出来ずに斬られた傷痕ごと全てが灰になって燃えている。


「──っ! はっ?」


 ミハは驚くように大きく目を見開き直ぐ様にタナカの方に目線を移動させる。それと同時にナラメの魔法が解除されてカケイは地面に落ちた。


「随分と珍しい魔法を使うわね……その魔法、見た中で貴方で二人目よ」


 ミハは感心するようにタナカを見て言うもタナカに向かって攻撃する事はしなかった。それでもタナカは無視をして地面に落ちたカケイの方に歩いて向かう。


 ──トランプカード魔法「スペードの1」


 タナカは魔法を使い右手の人差し指と中指の間にスペードの1が現れる。


「早よ逃げろ。カケイ君」


 タナカは悲しそうな暗い表情で小声でカケイに向かってそう言い。だがカケイは見るからに困惑して驚いていて状況が追いついていない。


「カケイ君、施設の外行ったことあるやろ。頼むわ」


 それにタナカは多少威圧するようにも少し震えた声でカケイを見下ろしてそう言い。意を決したカケイは歯を食いしばりタナカに背を向けて走り出した。


「さよなら。カケイ君」


 タナカは悲しそうな表情で涙を堪えてミハの方をゆっくり振り返る。


「あれ人形よね。報告にあったわ、この施設が今まで存在できたのか分からないけど……投降して殺されなさい」


 ミハは刀を解除して短剣を両手に持ちタナカに右手に握る短剣の切っ尖を向けていた。


「処刑課は仕事が早いなぁ。せやけど死ぬわけには行かん。今頃になって施設を裏切り処刑課に報告した奴も知らなあかんしな」


 暗い声にもタナカは殺意を込めてそう言い、右手にあるスペードの1のトランプをミハに向ける。



 ──その頃、カケイは施設の外の無我夢中で歩道を走っていた。カケイは泣こうにも泣けない魔力人形で胸を左手で強く握り締めながら遠くに逃げる。


「何で俺ぁ何も出来ねぇんだよッ!」


 カケイは歯を食いしばりながら歩道を走って渡って只管に走り走りまくって。施設が見えないくらいにまで走った先は人通りが無い昼間なのに暗い場所。左右には家があるも静かで。それを確認したカケイは速度を落としてその場で頭を抱えて屈む。


「俺ぁタナカの言動を察せねぇほど……馬鹿じゃねぇよ……」


 そう悲しそうにも震えた声で言うカケイは苦しくてもタナカの言葉を思い出した。


 ──『楽しい、嬉しい、それ以外の感情は……』


 その頭に響くタナカの言葉。それにカケイはフードを強く掴んで深く被る。


「なら笑って誤魔化せ……」


 カケイは悲しそうな声色でそう言い胸苦しくも口角を上げて笑顔を作った。

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