第六十六話 愛情
それからフラブとアイネは反省中のアザヤを連れてフラブが目を覚ました部屋へと訪れた。案の定、アリマは白いベッドの上に座りながら左手に本を持って読んでいる。
「アリマさん。演技はもう良いです」
そう言いつつ恥ずかしそうに顔を赤くしながらアリマを見て拳を握りしているフラブ。それにアリマはあんみつを食べる手を止めて目を少し見開きながらフラブを見た。
「は……?」
理解が出来ないアリマだが、フラブの左後ろにいて外方を向いているアザヤを見るも。
「……アザヤ。嘘だろう? まさか……まさか教えたのか……?」
驚いても引き気味に問うアリマ。それにアザヤは微かに冷や汗を流すも常に外方を向いている。
「脳筋……全くだな。それよりフラブ君。来なさい」
優しい声色でそう言いながらフラブを見て右手で手招きするアリマ。それに不思議そうに小首を傾げてフラブはアリマの右横で立ち止まった。
「君は最高管理者から手を引け。これ以上変に同情するな。自ら己の心を殺すだけだぞ」
だがフラブは恥ずかしさよりも安心が勝ち静かに涙を次々と流し始めた。それに驚くアリマだが直ぐ様に優しい表情へと変わり腕を伸ばして右手で優しくフラブの頭を撫でる。
「大好きだ。すまないな。俺は例え本当に記憶を無くしても死ぬまで君の親代わりなんだ。もうどんな理由があろうと君を1人にはしない」
「親代わりでなくても嫌です。私とても欲張りになりました。誰にも死んでほしくありません。生きる理由を探すために生きていたい……生きて笑いたいって思ってしまいました」
「そうか。きっと君の親も其の方が喜ぶ。昔と違って俺が他の者を君付けして呼ばないのは君と差別するタメなんだぞ? 知らなかっただろう?」
見守るように優しく微笑みながらそう言い。それでもフラブは常に涙を流している。
「死なないで下さい……アリマさんも絶対に……死んだら死んでも許しませんから……!」
「俺は死なない。だが君は自己肯定感が低いからな。俺が今から言うことを一字一句聞き逃さずに聞け」
それにフラブはきょとんとして「え?」と言葉を溢して小首を傾げる。嫌な予感がしたアザヤはゴミを見る目でアリマを見たのちにドアからその場を後にした。
「俺はフラブ君が居ないと生きていけない。理由はフラブ君がフラブ君だからだ。フラブ君は努力家で格好良くて無自覚に無意識に人をたらす。和菓子を食べている姿は可愛くて美味しそうに食べていては護りたくなる。だが其の可愛い時と人を守る時の格好良さがギャップというやつで最近心拍数を上昇させて俺を殺しに来てると勘違いしてしまう程だ。そして何より君の適性魔法の適応だな。適応で俺は人混みに行っても問題なく楽しめるようになってしまった。君は俺が言って欲しい言葉を的確に倍以上にして言ってくれる。だが其れすらも無自覚で好かれたいと思わずに出てくるところもも好ましく思う」
優しい声色で当然のようにそう言うアリマは常に優しい表情でフラブを見ていて、それにフラブは次第に恥ずかしそうに顔が赤くなっていて目を少し見開きつつアリマを見つめている。
「君はよく怖い言葉を使うが其れは怒っている時で其れ以外は使わない。感情が分かりやすくても苦しい時や悲しい時は誰にも言わずに頼らないんだ。まぁ其処はマイナスな所だな。俺をもっと頼ってほしい。向上心があるのは良いが自分を責めるのはダメだ。俺は君が考える以上に君の事が大好きなんだぞ。君の言動にどれだけ救われてきたか誰にも想像出来ないだろう。あと前提としても感謝や謝罪を忘れないところも君の良いところだ。君が笑っていたら俺も嬉しい気持ちになれる。君は笑っていた方が似合う子なのだが怒っている姿も良い……本当に大好きだ」
常に顔色も表情も変えずに優しい表情でフラブを見ているアリマだが。恥ずかしさでフラブは耳まで赤くしてその場で顔を隠すように蹲った。
「君は人を疑う時や不快に感じた相手には敬語を忘れるが基本的には敬語を使用している。そんな所も好感が持てる。人の為に怒れるところも人を想えるところも凄く大好きだ。俺が君に何度救われたか分かるか? 分からないだろうな。君は無自覚なんだ。もっと自分の魅力を知った方が良い」
「っ最高管理者……ハセルさんから手を引きます……と言うより最初から仲間でもないですが……あともう止めてください……」
手で顔を覆いながらも指先までも赤くなっていて。それにアリマは不思議そうな表情でフラブを見下ろす。
「そうなのか……?」
「そうですよ。だってカミサキさんも殺すように思考を変えたらしいですから。多分お兄様の記憶もハセルさんに奪われたもの。だから死にたい者同士でも嫌いなんです。処刑課の方々を引き渡す事も止めて私の使用人になるか提案したのが証拠になるでしょう?」
「では何故……奴と話を?」
「情報収集ですよ。私の大切な人を沢山殺してきて……私が騙しても文句はないはずです」
そう嫌そうに言うフラブは真剣な表情でアリマを見上げていて。それにアリマは少し驚いたような表情をするも直ぐ様に感心したような優しい表情を浮かべた。
「君は凄い子だ。大好きだぞ」
だがフラブはふと何かを思い出したかのように不思議そうな表情でアリマを見る。
「その……なぜ私がハセルさんと話したことを知っているんですか……?」
そのフラブの問いにアリマはきょとんとするも直ぐ様にアイネの方を見た。だがアイネは軽く腕を組みながらも外方を向いていて微かに冷や汗を流している。
「叔父殿にそう言われて……まさか……」
それにアリマは何かを察してゴミを見るような目でアイネを見る。そしてフラブも気づいたのか自身の服を探るように触れては小さい機械を裾から見つけて右手に持つ。
「盗聴器……ですか……」
引き気味に言いながらも冷ややかな目をアイネに向けるフラブ。その機械を破壊魔法を使用して粉々に砕き怒ったような表情で再びアイネの方を見る。
「アイネさん。少し話をしましょう。ついでに水が大量に入った水槽の用意をお願いします」
フラブは微笑みながらも怒りが確かに伝わってきたのだが殺意も紛れている。それにアイネは背筋を凍らすも恐る恐るフラブの方を見て申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「その……怖いんです。フラブさんについて知らない事があるのが……何よりも。それに嬉しいんですよ。敬遠せずに友達だと言ってくれた事が」
それを呆れるような目で見るアリマ。だがフラブは呆れても優しい表情で微かに微笑んだ。
「今回は許しますが次からはだめですよ。次同じことをしたら友達やめますから」
優しい声色でそう言うもアイネは心にダメージを受けて崩れ落ちるかのように地面に膝をつける。
「嫌です……やめたくない」
微かに声が怯えるように震えていて絶望したかのような悲しい表情で目を少し見開いているアイネ。
「盗聴器を使わなければやめませんよ。一緒にハセルさんを殺しましょう」
明るい声色でそう言うフラブを見て、アイネは一瞬で希望が宿り立ち上がりながら優しい表情を浮かべた。だがそれにアリマは驚いたかのような表情でアイネとフラブを見る。
「あるのか? 殺す方法が」
「アリマくん。脳筋なアザヤさんの代わりに私が機転を利かせて最高管理者を殺す方法を考えました。ですのでまずは提案しても?」
すると急に勢い良く部屋のドアが吹き飛ばされてフラブにドアが直撃。ーーそれに理解が追いつかずに目を大きく見開き目でフラブをアリマとアイネ。フラブは吹き飛ばされたドアと共に壁へとぶつけられた。
「あ……ちょっとミクバ! ドアを吹き飛ばすなッ! 首が吹き飛ぶぞッ!」
焦り気味で聞こえる声はミスナイの声で4人ほどの足音が聞こえる。処刑課の人達だろう。
「ボクだって壊す気なかったんだよ! 思ったより頑丈じゃなかったんだ! ユフィルム家が!」
少しラサスが可哀想に思える会話だが処刑課の人達が次々に部屋へと足を踏み入れた。だが全員が同時に言葉を止めて息を呑んだ。その理由はフラブを巻き込んだ事にあるのだろう。
フラブは鍛えているため骨が折れることはなかったが動けずにいる。アリマとアイネは強く処刑課の人達を睨んでは殺意があふれだしている。
「叔父殿」
「分かってます」
圧ある声色でそう言いながら両拳に風を纏うアイネは勢い良く地面を踏み込んだ。それと同時にアリマはベッドから降りてドアを軽々と左手で持ち上げてフラブを救い出した。そのフラブは危機を感じ取り感謝より先に処刑課の人達の方を真っ直ぐみて地面に両手を着ける。ーーすると処刑課の人達を守るように鉄の壁が地面から現れた。アイネは殴る寸前で止めて体制を整えながらゆっくりフラブの方を見る。
「フラブさん。優しすぎませんか?」
呆れるような目つきでフラブを見るもフラブは立ち上がりながら軽く腕を組んだ。
「優しすぎませんよ」
処刑課の人達はと言うとアイネに怯えるようにもフラブを救世主のような眼差しで見ている。
「直ぐ殺そうとしないで下さい。怒りますよ?」
そう言いながらも真剣にも優しい表情を浮かべていて優しい表情で処刑課の人達を見た。それでもアリマはドアを持ち上げながらも今にでも処刑課の人達へ投げそうに睨みつけては堪えていた。
「アリマさんも。ドアを下ろして下さい。怒りますよ?」
それにも気づいていたフラブだが常に優しい表情を浮かべている。アイネとアリマは何故か寒気を覚えてしまい。アリマはドアを下ろして外方を向いた。
「それで何の用ですか?」
フラブの優しい問いにミクバは意を決して皆んなより一歩分前へ出て真剣にフラブを見る。表情からも見て取れる程に勇気を出していて、それにフラブは真剣な表情を浮かべた。
「え……っと。処刑課として三つ報告があります。まずは一つ目。シラさんの指名手配……取り消されてました」
「そう……なのか」
理解が追いつかずに腕を組んだまま微笑んで停止しているフラブ。それにアリマとアイネは思い当たる節を思い出すために互いに目を合わせてアイコンタクトを取りながら考えている。
「妥当だと思います。それで二つ目の報告です。似たようなものですが……ヨヤギさん以外、名家の方々の指名手配は解除されています。ここまではご理解ください」
とても真剣に真っ直ぐな目でフラブを見るミクバは拳を握りしめていた。最後の報告に移る前に皆んなで目を合わせてアイコンタクトをとり。意を決して再びフラブを見る。
「三つ目を言います。ーーボクたちをシラさんの使用人として雇って欲しい……です。総意です」
ーーそれから1週間後。フラブ達は予定が空いた日にユフィルム家にある会議室に集まった。
大きい長方形型の机でそれぞれが椅子に座って真剣に話し合っていたのだが。フラブだけはアリマにぬいぐるみを持つように後ろから抱きしめられて座っている。そのアリマは嬉しそうに明るい表情をしていてフラブは恥ずかしそうに両手で顔を隠していた。
「その……骨は折らないで下さいね?」
そのフラブは相変わらず髪の毛も眉毛も白くシラ家の黒い貴族服を着ている。そして背後には壁があって小窓から見える景色は曇っていながらも雪が降っていた。
「折らない。本当にずっと演技しないとダメだと考えていたからな。嬉しいんだ」
「それは1週間前に……いや何でもないです」
フラブが諦めてしまう程にアリマは嬉しそうに大事そうに後ろからフラブを優しく抱きしめている。
「大好きだぞ、フラブ君。君の親代わりで俺は幸せ者だ」
そのフラブとアリマの正面に向かい合って座っているラサスは呆れたような目でアリマを見た。
「本当に馬鹿なの……? 知恵の名家って……」
そして机に右肘を置いて立てながら面倒くさそうに右手に持つ資料を読み始める。アイネはアリマの左手側にある椅子に座りながらも着ぐるみを着ていない。
ただフラブの事を真っ直ぐ見て観察しながら右手に持つペンで紙に書いていた。そしてサクヤは机の右にあるホワイトボードの前に立ち止まり両手にそれぞれ紙を持っていて。
「クソや……アイネさんも居るんですね……」
嫌そうに言いながらも隠そうとしている嫌な気持ちを隠せずにいる。アリマの右横の椅子にはメイド服を着ているユールが座っていて物足りなさそうにフラブを見ていた。
「あれくらいの殺意では足りませんよ。私にもっと貴女様の殺意を下さい。貴女様の殺意は鋭くて冷たくて……真っ直ぐで。全人類が悦ぶモノです」
頬を赤くしながらも拗ねてるように膨らませているユールを呆れるような目で見るフラブ。
「それで人は喜ばないだろう」
だがアイネは嫌そうにユールを睨み、そのアイネから向けられた殺気にユールは嬉しそうに微笑んだ。
「アイネさんから来る殺気は真っ直ぐでなくても品があって落ち着いていながも常に急所を狙われている緊張感があるんです。フラブ様とは違う良さがある」
優雅にそう言うユールは明るくもとても嬉しそうで机の上で手を組んでいる。
そしてアザヤはラサスの右手側にある椅子に座っていて何故か少し不機嫌そうにしていた。それを不思議に思ったフラブはきょとんと小首を傾げながらアザヤを見る。
「どうかしました?」
そのフラブの問いにアザヤは不機嫌そうに「あ?」と問いながらフラブを見たのだが。色付きのサングラスやスーツから見ても恐怖を覚えてしまう。
「あ……その……」
案の定少し怯えているフラブを見てアリマとアイネは殺意をアザヤへ向ける。
「フラブ君に何の用だ?」
それに我に返ったかのようにアザヤは焦り気味で申し訳なさそうにフラブを見た。
「勘違いするんじゃねぇ! 行きつけの蕎麦が有名な店が閉業してたから……で……」
それでも止まないアリマからの殺意にアザヤは微かに冷や汗を流した。そしてユールの右側の椅子にユフェルナとミクバが並んでそれぞれ座っていて。ミスナイとロクは並んでラサスの左側にある椅子に座って居て丁度処刑課同士で向かい合っている。
その最中にもサクヤは真剣に資料の内容を確認しながら紙を重ねて右手に持ち左手を顎に当てて真剣に考えていた。
「では話し合いを始めましょう。最初にクソや……アイネさん。最高管理者を殺す方法として過去……二万年前に行く……詳しく説明を願います」
サクヤは嫌そうにもアイネの方を見て真剣に問い。それにアイネは優しい表情でサクヤの方を見る。
「最高管理者さんが不老不死となったのは二万年前の実験施設。ですので過去に遡及する魔法を使用し、不老不死となる前に叩く。名案でしょう?」
アイネは常に優しい表情を浮かべているが、サクヤは常に嫌そうなゴミを見る目でアイネを見ていた。
「簡単に言ってくれますがそんな魔法は存在しないでしょう?」
だがラサスは紙を見ながら真剣に考えていて、紙を机の上に置いては優しい表情でラサスを見る。
「いや、存在する可能性は充分にあるね。人の発想力は怖いから。魔法なら何でも作り出しちゃう
そう優しい声色で話すラサスは楽しそうにも冷静でフラブの方を見た。サクヤは真剣にラサスを見るも、フラブは不思議そうに小首を傾げてラサスを見る。
「僕の最適性魔法は欲しい情報を欲しい時に欲しいだけ手に入れる事が出来るんだ。モノによっては時間がかかるけど……長くて5分。だから少し待って」
だがそれにアリマは何故か嘲笑い見下すようにラサスを見た。
「残念だったな。無ければ作れば良いだけだ。今から俺が魔法を作る」
その表情も感情も豊かなアリマを見てアザヤとラサスは引き気味に冷たい視線を向ける。
「フラブ君の前で格好良い姿を見せようなど俺の前では不可能なんだ。分かるか?」
見下すように言うアリマを流石にアイネも冷たい目を向けるもフラブを見て直ぐ様に表情を曇らせた。
フラブは怒りと恥ずかしさを堪えていて顔を微かに赤くしていて。それに気づかないアリマは誇らしげな表情で胸を張りながら瞼を閉じた。
「俺ならフラブ君を世界一幸せに出来る。なんせ俺はフラブ君の親代わりなんだ。唯一無二の親代わりなんだぞ!」
とても機嫌が良さそうなアリマだが。フラブは怒りを抑えきれずに振り返りながらアリマを強く睨みつける。
「アリマさん?」
圧ある声色で呼びかけるフラブ。それにアリマは一瞬で表情が曇り微かに冷や汗を流しながらフラブを見た。
「真剣な話に何回ふざけて遮れば気が済むんですか? どういう脳みそしてるんですか?」
「あぅ……違うんだ……これは、その……つまり違うんだ!」
アリマは怒りよりも親代わりを辞めさせられる事に対して怯えていた。だが常にサクヤはアリマとフラブを見ては目をキラキラ輝かせて尊敬の眼差しを向けている。そしてユールはフラブがアリマに向けている怒りに少しだけ頬を赤くしていた。
「ぜひ私に殺意を……怒りでさえ美しいなんて……」
怒っているフラブと怯えているアリマを見てユフェルナも頬を赤く染めている。
その全員に呆れるような目を向けるアザヤとラサスはこの中だとまともなのだろう。だが常にアリマは申し訳なさそうにフラブを見ていて、フラブは表情にも怒りを顕にしている。
「私は怒ってるんですよ? 私の怒りを鎮めたければ和菓子を奢ることです。美味しければ美味しいほどに私はアリマさんを許しますから」
少し楽しそうに明るい表情でそう言いながら椅子のようにアリマに凭れるフラブ。それにアリマは見守るように優しい表情を浮かべながらも嬉しそうに微かに頬を赤く染めた。
「好きなだけ奢ろう。にしてもだ。どれだけ俺をフラブ君大好きな人間にさせれば気が済むんだ?」
「知りませんよ。あと酷な事を言いますが魔法を作ると言う件。アリマさんは魔力も練度丸ごと奪われているんでしょう?」
流れるように話を戻すフラブだが、アリマには意図が伝わらずアリマは目を輝かせている。だがフラブは呆れて諦めたかのような表情を浮かべながらもサクヤの方を見た。
「アリマさんは無視して話を進めましょう。……サクヤさん?」
不思議そうに問うフラブ。その目線の先にいるサクヤはフラブとアリマを見て手を合わせつつ拝んでいた。それにフラブは不思議そうな表情を浮かべて小首を傾げてサクヤを見ている。すると急にホワイトボードの右手側に位置するドア、フラブとは反対側の壁にある部屋のドアが勢い良く開いた。
「ーーここっスか! 会議室は!」
急に元気良く現れた童顔の女性。虹色のストーレトの髪に左のサイドテール。ヘアピンで右側の前髪を止めている。目の色は輝かしい黄色で白いスーツを着ていてネクタイは赤いリボン。
見るから光源みたいに眩しいほど元気が良いその女性の身長は155センチほど。フラブとほぼ同じくらいの身長でアザヤの方を見るなり目を輝かせた。
「ーーパパさま! 今日も魔物を倒しまくったっス!」
拳を構えながらも全員からの視線を浴びる女性は見た目からもアザヤの子供なのだろう。全員が分かるほどにアザヤは怒りを表情に顕にしていて椅子に座りながらも腕を組んでいる。
「イミア……会議の途中で入って来るんじゃねぇ。あとどうやって来れた? ユフィルム家だぞ」
呆れるも怒っているアザヤだが部屋に入って来た女性ーーイミアは誇らしげに手を腰に当てた。そして何故か胸を張っては誇らしげに微かに誇らしげにアザヤを見ている。
「パパさまの魔力を辿って来たっス! 次代サトウ家当主となるーーこのうちが!」
堂々と大きい声で宣言するイミアは右手を胸に当てていて。それとは対に空気は既に凍りついていた。
静まり返る話し声とともに誰1人として話し始めようとしない空気。話し始められないのだろう。それに何故か戸惑うイミアは微かに冷や汗を流しながらも皆んなの方を見渡した。
「……っその? 誰っスか?」
自分の父親以外の全員と初対面だったイミア。当然の反応なのだが先程までの威勢が消えている。瞬時に気まずさに気づいたフラブは挨拶をしようとら立ち上がろうとするも、アリマが常にフラブを抱きしめて離さない。それに順応するかのように諦めたフラブは何とも言えなくも少し優しい表情でイミアを見る。
「その……形上でもシラ家当主のシラ・フラブです。よろしく……お願いします」
そのフラブの自己紹介にイミアは敵対するような眼差しをフラブに向けて指を指す。
「ーーシラ家! 人たらしの家系っスか! 負けないっスよ! 正々堂々力勝負するっス!」
だが真っ直ぐにも息巻いている割には一瞬で青ざめて息を呑んだ。フラブとアリマとアイネとサクヤとユフェルナから向けられる冷たい視線。説明はそれだけで充分だろう。
「誰が人たらしの家系だ。シラ家は名家の中で統率を担っている。貴様の今の発言はお父様やお母様……ましてやシラ家の者全てを侮辱したぞ」
珍しく怒りを表情にまで顕にしているフラブ。イミアは焦りながらも少し目を見開いている。それに冷や汗を流したイミアは慌てて部屋から出ては廊下を走ってその場を後にした。
「……え……っと?」
急に怯えて逃げるように去っていったイミア。それに対し理解できずにフラブはきょとんとしている。だが常にユールは殺意に紛れて頬を赤く染めながらうっとりとした表情でフラブとアリマを見ていた。
「とても良い殺意でした。是非私にも向けてみませんか? 私に向ける殺意は無料ですよ? 私なら殺意の全てを受け止めます!」
自信満々に胸を張りながらも獲物を定めた獣のような目つきでフラブを見ている。そのユールを呆れるような引き気味で見るフラブだがユールは満更でもなさそうで。だがアザヤは何故か申し訳なさそうな表情で恐る恐るフラブの方を向いた。
「その……すまねぇ」
何故か冷たくも重たい空気が流れる中、フラブは焦り気味にも申し訳なさそうにアザヤの方を見る。
「あ……いえ。私こそすみません……その、話を進めましょう。アザヤさんには保険としてハセルの……処刑課の動きに監視をお願いしたいんです」
真剣な声色で言うフラブを見てアリマは何故か残念そうに落ち込んだ。
「俺以外に頼るな。俺が監視をする」
拗ねていても子供らしく反対するアリマに冷たい目を向けるフラブ。その冷たさは零度以下とも感じとれてしまう程に怒りが混ざっていた。それに怯えるように微かに冷や汗を流すアリマだが常にフラブを抱きしめたまま。
「アリマさんには私の側で行動してもらおうと考えていたんです。監視をするなら無理ですね。残念です」
「嫌だ。俺が全部やろう」
魔法が使えないにも関わらず無茶を言うアリマをその場にいる全員が呆れたような目で見る。だがその呆れはアリマには伝わらずアリマは常に子供らしく機嫌を損ねていた。
そんな空気を変えようとユフェルナは申し訳なさそうに「あの……」と言いながらフラブを見た。それにフラブは不思議そうにきょとんとしてユフェルナの方を見る。
「今話すのも違う……と思いますが。使用人になるにしてもこの服のままで良いんですか……?」
恐る恐る問うユフェルナは自身が着ている処刑課の黒いスーツを見ながら問い。それにフラブは優しい表情を浮かべながら軽く腕を組んで左手を顎に当てた。
「言い忘れていました。実を言うと私が着ているシラ家のこの黒い服もアリマさんが真似して細かく再現して作ってくれたものなんです」
フラブの優しい説明にアリマは明るく誇らしげな表情で胸を張った。それに驚いているユフェルナだが直ぐ様に納得して感心するようにアリマを見る。
「酷な事を言いますが、この件に関して私はアリマさんを信用していません」
冷たいフラブの言葉にアリマは一瞬で石のように固まり恐る恐るフラブを見下ろした。フラブに嫌われる事に対してか分かりやすく手足が震えていて怯えている。
「えっ? 信用……していない?」
「はい。悪意無しで使用人の服を作れるという保証がない」
そのフラブは一切アリマに目線を合わさず優しく微笑んでいる。だがアリマは図星を突かれたかのように言葉が詰まり反論出来ずに俯きつつ落ち込んだ。
「ですからこれを期に私が作ってみます。この件が終われば直ぐにでも。ですから死なずに待っていてくれますか?」
それにユフェルナは明るい表情を浮かべては目を輝かせて真っ直ぐフラブを見る。
「待ちます。シラ様の話を聞いて……私は最高管理者をやっぱり許せないと判断しました。出来る事なら精一杯協力したい」
そのフラブとユフェルナの間の椅子に座っているユールは物足りなさそうに机に伏せていた。だが明らかに欲しい殺意をくれない事に対して拗ねてもいる。
それから話し合いを進めた後にそれぞれ別行動をとる事になったのだが。フラブは補助という形でアリマを手伝い、イミアと元処刑課のスズキ・ロクと行動する事になった。
そしてその4人は会議室に残りながらもイミアはドアの前で佇みながらフラブを睨んでいる。そこからは殺意ではなく敵意が感じとれるのだがアリマがイミアを睨み返している。
「イミアさん落ち着いて下さい。アリマさんは殺意を仕舞って下さい」
フラブは変わらずアリマの上に座りながらも人形のように後ろから抱きしめられていた。それにロクは気まずそうにも椅子に凭れて大きく背伸びをしている。
「オレなんでこの人たちと行動しないといけないの……?」
「それはうちのセリフっス! 会議に参加すらしてないって言うのにっ!」
無駄に心にダメージを負うロクだがイミアの態度にフラブも腹の底から怒りを顕にした。
「初対面の相手に使う言葉か? 大体貴様が私に喧嘩を売ってきたからアザヤさんが仲良くなれと気を利かせたんだ。それが分かる程の知能さえないのか?」
羅列する罵倒の数々と本気で怒っているフラブから向けられる殺意。それに背筋が凍りつつも息を呑むイミアだが拳を握りしめて耐える。
「っうるさいっス! もう! 何もかも……名家なんて勝手に壊れれば良いッ……!」
泣き叫ぶように大きい声で発した声は微かに苦しそうに震えていた。それに目を少し見開いたフラブだがイミアは背後にあるドアから逃げるようにその場を後にする。
「……アリマさん。今のイミアさんの言葉。ーー嘘はありましたか?」
少し暗い声色で確認するフラブだがアリマは優しい表情でフラブから手を離した。
「其れ以前に少し言い過ぎだな。まぁ君があの子と向き合ってから考えろ。ーー俺は君のことなら何でも分かるからな」
そのアリマの優しさにフラブは驚きつつも目を少し見開いて立ち上がりながらアリマを見る。だが直ぐ様に浮かない表情へと変わり軽く頷いて慌ててドアからその場を後にした。
そして会議室に残ったアリマとロクは目を合わせてもロクは気まずそうに外方を向いた。
「君も君で案ずるな。フラブ君に手を出さなければ俺は怒らない。それに手を出してしまっても楽には殺さない。沢山痛みつけてから溺死させる」
アリマは優しい表情を浮かべていては机の上で手を組んでロクを見ている。だがロクは背筋が凍りついても極力関わらないように常に外方を向いていた。




