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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第六章「復興の間」
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第六十五話 価値なんて

 ──それから2日後、フラブは処刑課が貼り付けにされている部屋にアイネと訪れた。

 窓もない一室で洋風な部屋なのだが貼り付けにされている処刑課の者達は針が刺されている腕から血が流れている。


「お願いします」


 淡々とフラブがそう言うと貼り付けに使用していた針が消えて処刑課の者達は地面へと落下した。


「話をするにしても私も立ち会います。彼等が逃げない保証はない」


 優しい声色でそう言いながらフラブを見るアイネ。それにフラブは返事をせずに処刑課の者達の3歩前で立ち止まる。


「起きて下さい。話をしましょう。ユフェルナさん」


 冷たい目で1番左側にいる処刑課のユフェルナを見下ろすフラブだが声色からは暖かさが感じ取れる。それにユフェルナは痛々しい表情を浮かべながらもフラブを見上げる。


「何の話ですか……?」


「良くも悪くも私は最高管理者と敵対出来ない」


 あっさり冷たい声でそう言うフラブ。それにアイネは驚いて目を見開いた。ユフェルナは少し険しくも安心したかのような優しい表情で微かに俯いた。


「私としては反応に困ります。だって最高管理者が誰かすらも知らないんですよ。恨んでいるのも確かですけど妹の件もミハさんの件も……私達の体内に爆弾を仕掛けた件も相応の理由があったからだと信じたい気持ちもありますから」


 そのユフェルナは微かに震えた声でも答えをフラブに求めているかのようにも聞こえてしまう。


「……全て私のせいです」


 その悲しくも感情がこもっていない淡々とした言葉にユフェルナは少し目を見開いてフラブを見上げた。


「ユフェルナさんの妹さんを手にかけたのはカケイと私を会わせるため。私のお母様の件は私の中にいる化け物を試すためとか。ユフェルナさんの体内に爆弾を仕掛けたのは私に会いに来てもらうためらしいですから」


 それにアイネは外方を向いて着ぐるみを着てながらも腕を組んで真剣に考え始める。だがユフェルナは理解が出来ずに目を少し見開いて呆然としたままフラブを見ている。


「そして最高管理者は自分の死を願う不老不死です。死にたい気持ちはわかってしまう」


 フラブの淡々とした説明にユフェルナはますます驚いて目を大きく見開いた。


「不老、不死……?」


「はい。二万年も生きてるとか。死にたいというだけで他者を巻き込んで自らの手を汚さない外道。ですから提案です。私の使用人として生きませんか?」


 状況も説明も呑み込めないユフェルナはただただ呆然としてフラブを見ている。


「少し調べたい事があって人手が足りないんです。死ぬまでは人の事を最優先に考えて行動したい。命に価値がない私が他人の命の価値を下げるなんて到底無理でしたから」


 そう言う優しい言葉さえも冷たく感じてしまう程に無表情で常に淡々としているフラブ。それでいて考えが読めずに、アイネでさえ警戒するようにフラブの様子を窺っている。


「時給は金貨一枚程度。紙幣含めて金の換算は勉強している最中ですので要望は出来る範囲で聞きます。無理も言いません」


「……考えさせてほしいです。私がもしも提案にのったとしても……ミスナイさんたちの意見も聞きたい」


「分かりました。もし良いのなら処刑課の全員を雇う事も出来ますから。その分私も頑張ります」


 無表情ながら今度はどこか優しい表情を浮かべているフラブだが。常にアイネは怪しむような目でフラブを見ている。



 ーーそれからフラブとアイネはコウファを捕らえている部屋へ向かった。その部屋はドアから見て反対側の壁に大きい窓があり桃色のカーテンがある。


 そして無表情で俯いているコウファが胴体と腕ごと椅子に縛り付けられて座っていた。


「お久しぶりです。お兄様」


 フラブの優しくも淡々としている声に、コウファは少し目を見開いてフラブを見る。


「お兄様って、フラブ……?」


 どうやら妹の記憶はあるらしいコウファの心には微かに希望が宿った。


「どこまで記憶があるんですか?」


 それでもフラブは冷たい優しい表情をしていて、コウファの3歩ほど前で立ち止まる。


「フラブ……っ! 僕は…」


「質問にのみ答えて下さい」


 前までのフラブなら許容して優しく心に寄り添っている事かもしれない。だが命と未来の価値を考えるようになったフラブは常に冷たかった。


「ーーあの処刑課が来た日……その日から何も……本当にフラブなんだよね……?」


 安心するにも恐る恐る問うコウファは子羊のように怯えているようにも見えてしまう。それにフラブは深く瞬きをするとゆっくりアイネの方を見る。


「現状の説明は?」


「経過した月日と知ってる限りのコウファさんが殺した者。それだけは教えました」


 その優しい声色で言うアイネの説明にフラブは納得したように再びコウファの方を見る。コウファに元気がないのは殺した理由も記憶も無いまま事実を告げられたからなのだろう。


「お兄様。アマネやアユさん以外の人を殺してないという前提で私はお兄様を信用します。だからこそ会うのも話すのもこれで最後です」


 淡々と言いながら華麗にコウファから背を向けるもコウファは言葉が詰まって出てこない。


 そしてフラブは無表情ながら冷たい表情でドアから部屋を後にして廊下に出る。そのフラブに続いてアイネも廊下へ出たのだが、心配そうにフラブを見た。


「会いたい時に会えば……」


 アイネでさえ心配するフラブは冷たくも「駄目です」と言いながら何もない目でアイネを見る。


「お兄様とも関わりたくない。人の命と未来の価値も行動理念も分からなくなるんです。お兄様がアマネやアユさんを殺したのは知っているでしょう?」


「……フラブさんは人の命……増してや未来にも価値が無いと思っているんですか?」


「人を殺してきた者でも境遇に抵抗出来ずに仕方なくの人も居ますよね。ですが殺された人々は戻って来ない」


 真っ直ぐにも鋭さが感じ取れてしまうフラブの目は相変わらずに光も宿ってなければ瞳孔もない暗闇で。アイネは真剣にも言葉が喉に詰まり出て来ず、背筋を氷のように凍られせていた。


「何が正しいのか何が間違っているのか……分からなくなるんです。その境目の感覚を失えば私は平気で人を殺してしまう。記憶が無くても……お兄様も人殺しということは変わらない」


「………」


「大体の人が寿命で死ねない世界で私の理想で私が笑えている情景は死んでも想像が出来ない。ですがそう考えてしまえば……命に価値がないと言う思想が矛盾してしまう。もう疲れたんです。考える事が」


 フラブの言葉の数々には気力が感じ取れず、悲しさや辛さも感じとれない。


「……それでもシラ家の……名家の当主という重荷から逃げない覚悟が出来たから先に処刑課の方へ?」


 真剣にも優しい声色でそう問うアイネ。それにフラブは優しく微笑んだ。


「はい。それと化け物と私を分離するなんて考えないで下さいね。化け物ごと私を殺してもらう計画が全て白紙になってしまいます」


 ただフラブの本心としてはこれ以上、自分のことで誰かを犠牲にしたくない。その気持ちを隠しての発言なのだろう。


「分かってます。まさか自分が死んだ時に当主をやってもらうタメだけにコウファさんを生かして……?」


「保険ですよ。その時まで名家が潰れていなかったときの……」


 そう答えたフラブは優しくも温情が籠っているように少しだけ悲しい表情にも見える。



 ーーその頃、アリマはフラブの情報が書いてある本を左手に持ちながら、とある廃墟に来ていた。


 そこはカケイという魔力人形が生まれた施設の場所でアリマはその庭に居る。


「やはり空気も……魔力の流れも廃れているな」


 そして優しい声色で言いつつ辺りを見渡しながらも雪は膝下まで積もっていた。


「魔力人形……まだ裏がありそうな気がする……」


 そう明るい声色で言うアリマは何故か楽しそうで木下のベンチに座った。だが木は枯れておらず木にもベンチにも大量の雪が積もりに積もっている。


 するとそこに黒いフード付きのパーカーを着て黒い長ズボンを着ている者がアリマの左前に現れた。


 その者は150センチ程の身長に素顔を隠すように黒いマスクをしては黒いサングラスまでつけてフードも深く被っている。


「来たか。ロスラ・ラスリ。久しいな」


 だがそのアリマの姿に驚きを隠せないでいるラスリは動揺しつつもアリマの左横に座った。


「お前ッ! 髪が焼けた……とか……?」


 若々しい少年らしい声にアリマは安心したかのように優しい表情でラスリを見る。


「否。無駄話は良い。早速本題に入ろう。調べを任せていたものについてなのだが……厄介な事にフラブ君の中にいる化け物は世界其のものらしくてな。魔力の具象化に近しいものだろうと叔父殿から通信が来た」


「……遂に頭バグったか、」


 明らかに動揺しているラスリを見てアリマは少し前屈みになり面白そうに優しく微笑んだ。


「ついでに俺は魔法も魔力も使えなくなったぞ。フラブ君には段位を奪われていると思わせている。最高管理者にもな」


 あっさりと告白する清々しいアリマを見て、ラスリはますます驚いて目を大きく見開いた。


「お前やっぱ……変人ってか、狂人じゃねえかッ! オレが最高管理者と通じてたらッ? オレが情報屋って忘れてんじゃねーのッ?」


「何を言う。俺はより正確な情報を君から得るタメに対価として情報を渡しているに過ぎない。まぁ君を信頼していると言うのもあるがな」


 優しいアリマから感じ取れる違和感。それにラスリは疑うような目でアリマを見る。


「君は情報屋だとしても相手を選ぶだろう? 名家の血を引いているだけはある。根は善人なんだ。君も」


「本当にどうしたの……? 前までずぅっと無表情だったでしょ? 眼帯もさ……」


「命よりも大切な子が出来たんだ。フラブ君だけが俺の全て。フラブ君が居ない世界は何の価値もない」


 優しい声色でそう言うアリマは左手に持つ本をラスリに差し出すように「読むか?」と問い。それにラスリは何かを察して恐るように背筋が凍り微かに冷や汗を流した。


「フラブ君は凄い子なんだぞ」


「あ、いや……読みます……」


 怯えるラスリは恐る恐るアリマが持っている本を丁寧に両手で受け取り。それにアリマは嬉しそうにも眩しい笑顔で微笑んだ。


「良かった。もし読まないと言うのなら読むと言うまで君を殴るところだったぞ」


 平然と優しい声色でそう言うアリマだが、ラスリは怯えながらも本を開いた。案の定フラブの事が詳しく書かれた本で全てが狂気に満ち溢れている。


「え……? あ……?」


 困惑しながら恐る恐るアリマを見て詰まる言葉を溢すラスリ。それにアリマは満更でもなそうに優しい表情で空を眺めていた。


「フラブ君の情報はまとめてある。叔父殿と確認しながらまとめた故に誤情報はないだろう」


 そのアリマを道端に落ちているゴミを見るような目で見るラスリだが、そっと本を閉じて切り替えた。


「本題に入ろ。タナカって奴……お前知ってるだろ?」


 ラスリは真剣に問いながらアリマに本を渡して、アリマは両手で受け取りながらも微かに深刻そうな表情へと変わった。


「知っている。其れがどうした?」


「そいつの出身地ってどこだと思う?」


 深刻そうに問うラスリ。それにアリマは目を少し見開いて息を呑みつつ「は…?」と溢す。それにラスリは意を決するようにアリマから目線を外して少しだけ俯いた。


「村なのは嘘じゃない。だけど村は村でも……シメトア村なんだ。魔物の住処として有名のな」


「何を……何が言いたい、?」


 アリマですら驚いている情報にラスリは深く瞬きをして再び真剣にアリマの方を見る。


「年齢は推定するとアリマより上。そうなると……まだ魔物の村として全盛期の死者が多かった時だ」


「つまり……」


「魔物なのか。その魔物をどうやってか自衛に使い……魔物の住処として名を馳せさせた可能性がある。どっちにしろ絶対に生きてるぜ。タナカは」


 真剣に説明するラスリ。アリマは何とか情報を呑み込んで真っ直ぐラスリの方を見る。


「真剣に説明してくれる……という事は重要になると判断した情報という事か」


 真剣に問うアリマに、ラスリは深刻そうに「ああ」と答えながら軽く頷いた。


「多分だけどお前達が会ったのも死んだと思われているのも……タナカが作った別のモノか。死ぬ直後に何らかの方法で戦線離脱したか。その2つのうちどっちかが有り得るということ」


「……有り得るのか? 後者だとカケイの奴の話を聞く限り……氷に変換されてタナカは死んだ。ともなれば戦線離脱は難しい。前者は……」


「それはこの情報において重要じゃねーよ。直接聞けば分かるだろうしな。だからそのフラブの中にいる化け物の情報の対価として調べろ」


 圧あるように真剣に言うラスリだが、アリマは憂いているかのように少しだけ前屈みに俯いた。


「無理だ。俺が動けばフラブ君に段位を失っているのが演技だとバレかねない。そうなれば通じて最高管理者にもバレる。其れでフラブ君と化け物を分離させる事が失敗に終わる可能性が大きくなる」


「じゃあ話はなしだぞ? 知恵の名家なら考えろよ。情報の取得が不可能だったから対価としてお前に頼ってんだ」


「……そうだな。ではどうだろう。君に提案してみようか」


 圧あるようにも優しい声色で不適な笑みを浮かべるアリマはラスリの目を見る。そのラスリは不機嫌そうにも真剣で「は?」と問いながら嫌そうにアリマを見た。


「ああ。君を殴る。もちろん俺がな」


 そのアリマの笑みから溢れる殺意にラスリは理解が追いついて背筋が凍って冷や汗を流す。


「あ……待てッ! 武力行使すんなら次からは情報提供しねーぞッ!?」


「次? 何を言っているんだ。君を監禁して欲しい情報を吐いてくれるまで殴り続ければ良いだろう? 幸いにも君に癒厄華は通じる。通じなくとも叔父殿がいる」


「……ッ! だとしてもだッ! オレだってプロ? の情報屋! 譲れねープライドはあるんだぞッ!」


 それにアリマは微かに優しい表情を浮かべながら軽く腕を組み左手を顎にあてた。


「冗談だ。化け物と最高管理者の件が終われば君の依頼を遂行すると約束する。故に早く教えろ」


 真剣にも優しい声色でそう言うアリマにラサスは驚いて目を少し見開いた。


「お前……人間味が少し出て来たな? まぁいっか。結論から言うと。化け物が世界だとしてフラブさんと分離する方法は存在しない」


 それにアリマは少し目を見開くも直ぐ様に納得したかのように悲しそうな表情を見せた。


「だろうな。そうだよな……」


 納得というよりは諦めの方が強いように感じ取れてしまう。だがラスリはアリマを見ながらも真剣に「だから」と言葉を続けた。


「世界とフラブさんを分離する……即ちフラブさんを殺せば可能だ。化け物が世界そのものなら化け物を殺すと世界が壊れる可能性まであるわけだからな」


「其れはダメだ。元も子もない」


「オレは仕事で手抜きはしない。だから諦めろとしか言えねーよ。オレがこの場所を選んだ理由としては事の重大さを知ってほしいからだ。魔力人形の量は計り知れない。1人に依存し過ぎたら他を失うぞ」


 励ますようにも冷たい声色でそう言うラスリは右手をアリマの肩に優しく置いて立ち上がる。そのラスリの冷たい言葉にアリマは悔しそうに俯いて手を組んだ。


「知恵の名家なら考えろ。お前はオレから名家の人間としての人生を奪った張本人だろ」


 呆れるようにもアリマを見下すように睨むラスリは転移魔法で颯爽とその場を後にする。だがアリマは悲しくも辛そうな表情で俯いていながらフラブの情報が書かれた本を大事そうに腕に抱えた。


「フラブ君……俺はフラブ君守りたいだけなのに……どうして守られてくれない?」



 ーーその頃、フラブは修練島にある建物の室内である修練場に来て木剣を右手に握っている。そして付き添いで来たアイネとユールは入り口の方で座ってフラブの背後姿を見ていた。


 相対しているのはアザヤで。そのアザヤは右手に槍を握りながらフラブと距離をとって向かい合っている。


「本当に借りて良かったのか? 許可は……」


 恐る恐るにも呆れるような目で座っているアイネの方を見ると。アイネは圧あるように微かにアザヤを睨みながらも右手にオーケーサインを表していた。


「何の用ですか? 私を殺してくれるとか?」


 淡々としていても少し嬉しそうに微かに目をキラキラ輝かせているフラブ。


「全くだ……」


 呆れるようにそう言いながらも直ぐ様に真剣な表情を浮かべて「構えろ」と言い。ーー槍を持つ右腕を後ろに持っていき勢い良く前へ出すと同時にフラブに槍を投げた。


 それにフラブは突然過ぎて少し目を見開くも直ぐ様に地面を強く蹴って右前に其れながらアザヤの方へと走り出す。


 ー 軌道が少し逸れている……ミスか……?


 そう真剣に考えながらアザヤの元へ走っているフラブだが、槍が自身を通り過ぎた辺りでアザヤがフラブの視界から急に消えた。それに理解が追いつかずに目を少し見開くも直ぐ様に背後を振り返りながら剣で受け身を取る。


 フラブの背後に回り込んでいたアザヤが力を込めるように左足を引きながら投げた槍を右手に持って勢い良くフラブに刺し掛かっていた。


「よく反応したな。5段ってだけはあるのか」


 真っ直ぐフラブを見ながらも感情がこもっていないように見えるアザヤ。だが更に力を出して刺しにかかると、フラブが持っている木剣にヒビが入り始めた。


「ーーッ!」


 驚きつつも険しい表情を見せるフラブだが、直ぐ様に地面を蹴ってバク転で後方へ4メートルほど距離をとる。そして木剣を解除して短剣を持ちながら構え走り出そうとするも。その間にアザヤは槍を持つ右腕を後方へ持っていき回転するように向きを変えて刃が無い方をフラブに向けていた。


 ーーそして目に見えない速度でアザヤはフラブの目の前に現れてはフラブの心臓がある胸部を強く刺す。刃ではないため貫くことはなかったが確実にフラブに傷を負わせた。


「ーーッ!」


 案の定フラブは少しだけ吐血して気を失ったかのように魔法を解除して後方へ倒れる。ーーそれを確認したアザヤは魔法を解除して槍を消しつつ屈んでフラブを見下ろした。


「弱い。修練は速さを優先したらしいが速さも俺の方が上…力任せだとしても力でも俺に勝てねぇ。これじゃ到底アリマには届かねぇぞ」


 それでもフラブは楽しそうに微笑みながらゆっくり身体を起こして地面に座る。


「まだです。あ……今のはどう言う技ですか?」


 興味深そうに問うフラブを冷たい目で見るアザヤだが常に無表情に近しい。


「教えたところで出来ねぇよ。別に実戦向きの技でもねぇ。分かるか? フラブさんが本気でも俺は本気すら出していない」


 冷たくフラブを挑発するも、フラブは優しい表情を浮かべながら右手に鉄剣を持ちつつ立ち上がる。だがそのアザヤのフラブに向けた挑発に何故かアイネだけは怒りを顕にしていた。


「殺しましょう。フラブさんにそんな事を言うなど……人として信じられません」


 その見るからに怒りを顕にしているアイネは立ち上がりながらもアザヤを強く睨みつけていて。その怒っているアイネを見て頬を赤く染めるユールは優しい表情を浮かべた。


「可愛らしいですね。挑発に簡単にのるなんて。しかも自分に向けられた挑発でもないんですよ。ふふっ!」


 右手で軽く口を覆いながらも笑っているユールを見てアイネは怒りつつ見下すように強く睨みつける。


「誰に言ってるんですか?」


「あらあら。理解力も無いなんて……1歳からやり直す事をお勧めしますよ」


 アイネから向けられる殺意に明らかに嬉しそうに頬を赤くしているユール。だがアイネは我に返ったかのように落ち着いて再び座りフラブの方を見る。


「今回は私が短気でしたね。どうにもフラブさんの事だといつもより平常心として抑えられない」


 その落ち着いているアイネを見て残念そうにユールは少し俯いた。


「いつもでしょう」


 殺意が欲しいユールは拗ねたようにも挑発するが、アイネは無視してフラブの方を見ていた。


 そのフラブは短剣を持ちながらも刃で受け止めるのが精一杯のようで険しい表情を浮かべていて。それでも容赦なく右手に握る大剣を上から力強く振り下ろし受け止められても押し切るアザヤ。


「フラブさんは本当に少し休んだ方が良い。ま、言っても聞かねぇんだよな」


 悲しそうにフラブに言いながらも武器を鉄剣に変えて左下から右上へと勢い良く斬りかかり。ーーフラブの短剣を弾いてフラブは驚くも勢いで短剣を地面に落とした。それを確認するよりも先にアザヤはフラブの左首に刃をつけて優しく睨みつける。


「諦めろ。弱いフラブさんじゃ誰も守れねぇよ。アリマも超えれねぇで殺されて死ぬだけだ」


 真剣に冷たくも優しい声色でそう言うアザヤだが、それにフラブは優しく微笑んだ。


「私の1番の願いは死ぬ事です。出来るだけ苦しんで死にたい。お母様やお父様に生かして良かったと思われたいから」


 フラブの声は段々と自分に言い聞かせているようにも聞こえてしまう。それにアザヤは向き合うためか色付きのサングラスを外して右に持つ。


「フラブさん。親ってのはな。子供が生きてるだけで嬉しいもんなんだよ」


 優しい声色で言うアザヤの目の色は珍しい沢山の色が合わさった虹色。フラブは躊躇い苦しさを抑えながらも目を少し見開いてアザヤの方を見る。


「ですが……お母様とお父様は私は生かした事を後悔しているでしょう」


「なワケねぇだろーが。バカなのか? それともふざけんてんのか?」


 アザヤの真っ直ぐにも怒ったような目つきにフラブは背筋が凍って息を呑んだ。


「子を残して死んだ親が泣くのは子の成長を直で見れねぇって理由しかねぇ。親を想うのならまずは親の気持ちに向き合え。何で価値でしか人を見ねぇんだ?」


 珍しくも怒りを顕にしているアザヤは大剣を解除して腕を元の位置に下ろした。その言葉にフラブは核心を突かれたかのように心が引き締まる。


 だが決して泣くことはせずに微かに俯いて悔しそうにも拳を強く握りしめた。


「でも……それじゃあ私は私を許してしまう。誰かにでも生きて良いって思われてない事が怖い。それなら…感情を消してでも死ぬ事だけを考えたい……」


「居るわけねぇだろ。少ししか関わってねぇが断言出来る。フラブさんは良い人だ。善人なんだよ」


 アザヤなりに真剣にフラブに向き合って訴えかけた言葉は何よりも温かみに溢れていて優しかった。それにフラブは意図せず無意識に涙が零れ落ちてしまい短剣を解除して必死に袖で涙を拭う。


「だが同情はしてやる。フラブさんの周りにはヤバい奴しか居ねぇ。アリマもだがアイネさんも…他も少し関わり方を考えた方が良い……思想がヤバくなるのも頷けるレベルだ」


 優しい声色で言うアザヤだが、背後から殺意を感じ取って恐る恐る振り返る。


 そこには座って微笑みながらもアザヤに殺意を向けているアイネが居て。そのアイネの殺意を自分へ向けようと頑張って話しかけているユールが居た。


「あぁ…ま、これが良い例だな」


 呆れたようにアイネを見ながらそう言うアザヤは再びフラブの方を見るも。そのフラブは地面に膝を着けてただただ涙を流して頬を濡らしながらも泣いている。


「私、生きてて……私の中にいる化け物がお母様とお父様を殺したのに……? 他にも沢山、迷惑だって沢山かけてるんですよ……? そんな私に貴方は何を言っているんですか……?」


「化け物とフラブさんは別だ。俺もフラブさんの存在を肯定する。それはアリマもアイネさんもだろ」


 珍しくまともな人のアザヤは優しい表情でフラブを見下ろしながらそう言い軽く腕を組んだ。


「それでも苦しいなら今フラブさんを大切に考えてくれている人の事を考えろ。価値以外のな。例えばどうやったら笑ってくるかとか」


 そのアザヤの優しい言葉は壁を建てたフラブの心に強く響いてしまう。フラブは意を決して右手に強く鉄剣を握り立ち上がって真っ直ぐアザヤを見上げる。


「……すみません。私は絶対にまだ強くなります」


 希望が宿っていても相変わらず目に光は宿っていないフラブ。それは中にいる化け物の事もあって罪悪感からくるせめてもの絶望なのだろう。


「終わりだ。今回はこれを言うためにフラブさんの心をへし折ろうって魂胆だったからな」


 楽しそうに微笑みながらも色付きのサングラスを再び着けるアザヤ。それにフラブは少し驚くも直ぐ様に優しい表情へと変わり剣を解除した。


「本当にすみません。沢山迷惑を……」


 申し訳なさそうに謝るフラブだが、それにアザヤは呆れたような目でフラブを見た。


「謝るな。とにかくアリマと話してこい。あいつも困ってるらしいからな」


 そのアザヤの真剣にも優しい言葉にフラブは驚くように目を少し見開いた。


「え? アリマさんは記憶が……」


 驚いているフラブはきょとんとしていて、その反応にアザヤは思い出して焦り気味で少し目を見開く。


「あ、いや……その……」


 そのアザヤの余所余所しい反応にフラブは何かを察して恥ずかしそうに顔を赤くした。そして直ぐ様にその場で屈んで手で隠すように軽く顔を覆う。


「記憶あるんですか……アリマさん。段位、奪われてないんですね……?」


 そのフラブの問いにアザヤは背筋が凍って恐る恐るアイネの方を振り返る。直ぐ左背後にアイネがいた。ネコの着ぐるみも相まって恐怖を覚えてしまう。


「説教と言いたいところですが。フラブさん。化け物以外で最高管理者を殺す方法を思いつきました」


 優しい声色で友達のフラブを見下ろしながらあっさり言うアイネ。それにフラブとアザヤは少し目を見開いて驚くように「え?」と言葉を溢した。

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