第五話 久しぶりの来客
真剣な考え始めたり笑顔になったりして楽しそうに本を読んで居るカケイ。ベッドの間にある小さい机の上にある小窓。小窓は開いていて夜風が気持ちいいくらいに入ってくる。
「俺ちょっとヨヤギさん呼んで来るわ。聞きたい事があんだ!」
そしてカケイは楽しそうに笑顔でそう言い、本を閉じつつ右腕に抱えてベッドから降りた。
「大丈夫なのか? アリマさんは確か仕事だって……」
「仕事中でも用があればどんな些細な事でもそっちを優先するって! 目ぇ覚めたとき言ってた!」
そして子供らしいカケイはドアノブを掴んで部屋のドアを開ける。
「アリマさんなりの気遣いか。お節介な人だ……本当に……」
「それぁそう! 目一杯、感謝しなきゃだな!」
カケイは満面の笑みでフラブの方を振り返ってそう言い部屋を後にした。1人になった部屋の中でフラブは微かに俯きながら涙を頬に伝わらせる。
「それも、カケイなりの気遣いか……」
フラブは悲しそうな表情をしていて素手で涙を拭うも次々と涙が溢れてくる。
「……どうして今さらっ! お母様……お父様、お兄様のことをっ、思い出すんだっ……」
震えた声でそう心の声を溢すフラブは気分転換にベッドから降りると小さい机の上に手を置き小窓から景色を眺めた。外の景色は夜空と木々に囲われていてよく見ると凄く遠くに壁で囲われた王都が見える。
「罪人処刑課、アルフェード教会、敵か。領地から出てみればこれだ。……頭が追いつかない」
フラブが涙を溢しながら窓を見ていると、急に左後ろにある部屋のドアが勢い良く開いた。それにフラブは驚いて肩をビクッと震わせると勢い良くドアの方向を振り返る。
「ちょ、ヨヤギさん! まだ入っちゃ……」
見るからに焦っているカケイはアリマの羽織物を掴んで引き留めようとしていた。そしてカケイは恐る恐るフラブの方を見ると丁度目が合ってしまう。それによって
「あ……」
とカケイは落ち込んだ声を溢してしまう。ただフラブは涙を溢していながら理解が追いつかずにきょとんとしていた。
その状況から察したアリマは袖を通していない羽織物の内側から腕を組んで、左手を顎に当てて冷静に考え始めた。
「……そうか。タイミング、というヤツか。すまなかった、出直そう」
申し訳なさがあるのか淡々としてアリマはそう言うと部屋のドアを閉める。
「……え?」
フラブは急な事で涙が引っ込みつつ冷静に部屋のドアへ歩いて進んで部屋のドアを開ける。左横を見るとアリマが此方側の壁に軽く凭れてカケイは反対側の壁に凭れて座って話をしていた。
「アリマさん。仕事では?」
不思議そうに問うフラブは部屋から出ながらアリマを見て小首を傾げる。それにアリマは冷静にもフラブの方を見て
「早く終わった。故に資料の整理をしていたらカケイ君に呼ばれてな。フラブ君の様子がへ……」
「ヨヤギさん! それぁ言っちゃ駄目だって!」
焦りながらカケイはアリマの言葉を遮るようにアリマの前に現れて背伸びをして両手で大きく腕を振る。
「そうか。ありがとう、カケイ。大体わかった」
フラブは優しく微笑んでカケイの後ろ姿を見ながらそう言うと。カケイは恐る恐るフラブの方を振り向きながら顔を赤くしていた。
「ちっ、違う! 別に俺ぁ泣きそうな人を慰める方法がわかんないとか! そういうんじゃなくて! えーっと……」
カケイはアリマを呼んだ目的を言ってしまった事にハッと気づき耳まで赤くする。フラブはそれに心を打たれたように右手でカケイの頭を優しく撫でた。
「これが、可愛いという概念か……」
カケイの頭を優しく撫でながら無意識にそう言葉を溢すフラブ。それにカケイは頬を膨らませ恥ずかしそうにも顔を赤くしながら怒りを表情に顕にした。
「俺ぁ可愛くねぇよ! 格好良いんだ! もういい! 庭で本読んでくる!」
カケイは頬を膨らませながら直ぐそこの右手側にある階段を降りて行く。そのカケイをフラブとアリマは子を見守る保護者のように何も言わずに見送った。
「すみません、アリマさん。折角なので質問しても良いですか?」
カケイが居なくなるのを確認したフラブはアリマの方を見ながら真剣に問い。それにアリマは無表情で「ん?」と問いながらフラブの方を振り向いた。
「ここはどこなんですか? ヨヤギ家の本邸ではないでしょう。それに傷も痛くない……治ってる」
不思議そうに問うフラブはナラミナに蹴られた箇所を触りながらアリマに問う。
「ああ、傷は余が魔法を使って治しておいた。そして此処は余の家だ。仕事と生活の必要最低限な部屋の数と物しか無いが君等に使わせた部屋はこんな時があろうかと予想して……」
それにアリマは言葉を止めてある事に気づき不安要素を成る可く消すために詳しく説明を付け加える。
「山ごと余の領地だから手加減を誤って人を害める事もない。故に安心してほしい」
優しい声色ながら真剣にアリマは説明して、それにフラブは腕を組み呆れたような目をアリマに向けた。
「確かにアリマさんなら人と肩をぶつけただけでその人を殺める可能性が否定出来ませんね……」
「……昔の話、本屋で万引きを現行犯で見つけ、手加減を忘れてその者の腕を掴んだら手加減を間違えて腕の骨を折ってしまった事がある」
「え……?」
「その辺りから罪人では無くとも処刑課に目をつけられてしまっていた」
アリマは微かに斜め上を見ながら懐かしそうに説明をしたのだが、それにフラブは呆れたように右手で頭を抱えた。
「半分冗談だったんですが。本当にアリマさんなら否定出来ない……」
「……多分、君の父親も生きていて苦労しただろう。ハジメは17歳の余と本気で戦って生き残った……たった1人の人間だからな」
平然として当たり前のように説明するアリマは羽織物の内側から腕を組んだ。
「ハジメ……お父様のことですか。知り合いなんですね……いやそれよりアリマさんが17歳の頃ってお父様何歳なんですか!?」
それにフラブは驚きつつ目を見開くも直ぐ様に呆れるような表情を浮かべた。それにアリマは腕を組みながらも左手を顎に当てて真剣に思い出し始める。
「ああ確か……345年前だから、ハジメは195歳だったな」
平然と説明したアリマにフラブは「えぇ…」と呆れるようにも言葉を溢した。
「歳の差、記憶力も……待って下さい。お父様と戦った……? そう言えばアリマさんって何歳でヨヤギ家の当主になったんですか……?」
恐る恐る問うも驚くようにも引き気味に質問しつつ化け物を見るような眼差しをアリマに向ける。
「愚問、19歳だ。その歳だったはずだが……史上最年少だと忌み嫌われたな。余は年齢や性別など力に於いて意味を持たないと……」
淡々と説明を続けるアリマは急に言葉を止めて少しだけ目を見開いた。
「来客だ。フラブ君」
そしてフラブに背を向け階段を軽々と飛び降りて下の階にある玄関へと向かい。それにフラブは少し急ぎながらも歩いて階段へ進み玄関に急いで向かった。
階段を降りると真っ直ぐ先にある玄関のドアをアリマが開けていて。この家の玄関前に1人白いパーカーの深くフードを被った者が居た。
その三歩手前辺りでカケイは地面に本を落として呆然としている。その光景を見たフラブは更に急いで小走りながら玄関まで急いで向かった。
「久しいなぁ、カケイ君」
白いローブにフードを被った男性はカケイを確認してフードを脱いだ。ーー黄緑色の胸下まである長い後ろ髪とセンター分けの前髪。そして光が宿っていない黄緑色の瞳の姿。青年程の見た目で身長は188センチ程の男性。嘘偽りのないその姿を見てカケイは驚くように大きく目を見開いた。
「タナカ……?」
と言葉を溢して片足下がって地面に尻をつく。
ーー200年前、とある実験施設。
1階は大きい窓ガラスで分けられた部屋が2つあり、壁も床も天井も白い。右の部屋では沢山の白い人形が真顔で口も開かずに階段状に座っていた。
左の部屋では沢山の人が部屋の中心にある2メートルくらいの球体に魔力を込めて、それを記録してる人が2人いる。
それを2階のガラス壁の廊下から見下ろしている人が3人、人形が2人。人全員と人形2人は真っ白い羽織物に深くフードを被っていた。
「カケイ、ココア、よーく見ろ。お前達2人は感情がある。失敗作だ」
1番左側にいる者がそう言うもカケイとココアと呼ばれる人形は黙っている。
「そうやけど、別に言わんくてええやろ」
冷たい口調でそう言う男性は左側に居る者の方を見ずに機能していない人形の方を見ていた。
「感情があるからって人形は人形でしょ。タナカは人と人形の区別つけれないの? 目ぇ悪」
右側にいる女性の言葉に男性、タナカは嫌そうに魔力人形から目を逸らす。
「はぁ? 俺が優しいだけや。ナラメちゃん口悪いなぁ」
「黙れ。喧嘩をしろと言った覚えはない。あの方に気に入られただけの新人が騒ぐな」
左に居る男性は嫌そうに圧をかけると廊下を左手側に歩きだしてその場を後にする。それにタナカは道端に落ちているゴミを見るような目を男性の背中に向けた。
「しょーものな。いちゃもんつける事しか出来へんのか、糞爺」
ただ距離的に男性には聞こえてはおらず、すると白い人形の1人カケイがタナカを見上げて口を開いた。
「なぁ、タナカは俺たちの味方……?」
それに気づいたタナカは屈んでカケイのフードの中に右手を入れてカケイの頭を優しく撫でる。
「さぁな、知らんわ。俺は俺の目標、みたいなのないんよ」
それを聞いていた右側に居る女性、ナラメは溜め息を溢した。
「それって夢がないってことじゃん。ごめんねー、カケイ君、タナカがこんな奴で。ココアちゃん、私と散歩してこよ」
ナラメがそう言うと人形の1人、ココアは軽く頷いてその2人も左手側の通路を歩きだす。その光景を見つめていたタナカはカケイを撫でる手を止めた。
「口悪い奴ばっかでほんまごめん、あんなならんでなぁ、カケイ君」
タナカがそう言うとカケイは深いフードをとって太陽のような笑顔を見せる。
「ん! でも目標がないって、タナカはここから居なくなる?」
「知らん、あの方の意思次第で変わるわ。カケイ君は心配さんなん?」
優しく問うタナカはカケイの両頬を優しくつねる。
「おへはへつにしんはいさんしゃねぇ!」
そう言いながらカケイは顔を赤くして怒り、タナカはカケイの頬を離した。
「ごめんなぁ、照れ屋さんとは思わんかったわぁ」
タナカが揶揄い気味にカケイにそう言うと。カケイは腕を組んで「ふん!」と言いながら外方を向いた。
「カケイ君の世話係大変やなぁ。どないしよ、俺どっかいってまうかもなぁ」
そう言うタナカは面白そうに優しい声色で立ち上がりながらそう言い。それにカケイは少し悲しそうな表情を浮かべて咄嗟にタナカを抱きしめた。
「嫌だ……!」
「今度は甘えんぼさんかぁ。ごめんなぁ、他にも仕事あんねん」
タナカはカケイの頭を軽く叩きながらそう言うとカケイはタナカを離す。
「ん、じゃあ終わったら絵本読み聞かせて」
そう明るい声色で言うカケイは太陽のような笑顔でタナカを見て言い。
「カケイ君には敵わんなぁ。わかったから良い子にしときぃ」
「わかった!」
カケイの明るい元気な返事にタナカは軽く頷いて右手側に廊下を歩きだす。距離が4メートル離れた地点でタナカは小声で
「ごめんなぁ、カケイ君。多分そんな良い人じゃないんよ、俺も」
悲しそうな暗い声色でそう溢し、真剣な表情に戻りつつも感情を仕舞っているようにも見える。
──そしてカケイはガラス壁に右手を当てて1階に居る階段状の人形に目線を移す。
「……俺たちってなんなんだろうなぁ」
そう悲しそうにも不思議そうに言葉を溢し、微かに表情を暗くした。
「本当、誰1人として動かねぇんだ。外見は俺もお前らも同じなのにな……」
それだけ言うと廊下を左手側に進む。その時、背後から声が聞こえた。
「カケイ、君のお兄様だよ」
カケイが背後を振り向くと、そこには身長がカケイと同じの深くフードを被った者が居た。
「ん? 兄さん……どうしてここに? まさかまたナラメさんを撒いてきたのか?」
カケイが呆れるように質問した相手はカケイの兄らしいココアだった。
「そう正解。カケイと話がしたくてナラメがご飯を写真撮ってる隙に逃げてきた」
ココアは楽しそうに明るい声色でそう教えるとカケイの方へ歩き出した。
「だとしても何で後ろから?」
不思議そうに問うカケイ。そしてそのカケイの目の前まで来てはカケイの肩に腕をまわす。
「良いじゃん、別にどーでも。僕はカケイと話すのが好きだから。どう? あっちのベンチで話そ」
1階の室内の反対側、そして後ろの方。
そこは外で施設の庭になっており、大きい木が1本とそれを囲うように木製のベンチがあった。
「ん? 外出ていいの? 俺ら人形だろ?」
そう真剣に問うカケイは不思議そうにも小首を傾げながらココアの方を見る。
「いーのいーの。真面目だなぁ、カケイは」
面倒くさそうに言うココアはカケイの肩に腕をまわした状態で進み出した。
そしてココアとカケイの2人は庭に着いて、木の下のベンチに座る。だが楽しそうなココアは変わらずカケイの肩に腕をまわしていた。
「そーいやカケイは好きな子出来た?」
「はぁ? んだその質問。俺も兄さんも人形だろ?」
そう答えるカケイの表情は嫌そうで、それにココアは優しく微笑む。
「そーだけど、ふつーの人間みたいな会話? やってみたいじゃん。生活は叶わない夢だけど感情はあるんだしさ?」
ココアの気楽な優しくも明るい言葉にカケイは驚いて目を見開いた。
「考えたことすらなかったわ。毎日実験素材として生きてんだ、兄さんは強ぇな」
そう話してるうちにカケイは微かに俯き、表情が暗くなった。
「馬鹿ゆーなよ、お前タナカに懐いてんじゃん。楽しくねーの?」
その俯いたカケイの表情を覗き込むようにココアはそう問い。それにカケイは微かに暗くも悲しそうな表情で少し眉を顰める。
「楽しいよ。でもわかんねぇ……タナカは良いやつだけど信用して良いのか……」
そのカケイを見てココアは肩にまわしていた腕も自分の太ももに軽く置いて少し前屈みになった。
「良いじゃん別に。楽観視しなきゃやってけねーって。それに僕はいつだってカケイの味方だしさ」
そう言うココアは楽しそうにも微笑みながらカケイにそう言い。カケイは驚いてからか俯くのを止めてココアの方を見るなり目を見開く。
それを確認したココアは斜め上を向いて、その方向に真っ直ぐ右手を伸ばた。そして魔法で四角い氷で覆われた炎を空中に出す。その赤い炎は凍ってるはずなのに燃え盛っているように見える。
「そんな意外? 僕らは人形、だけど感情がある失敗作。ならそれを成功と思わせれば良い。それだけでしょ?」
そう楽しそうに言うココアは四角い氷を星型に変えたり、ハート型に変えたりして遊んでいて。それにカケイは益々目を見開いて驚いたように呆然とする。
「無理だ……っていつそんなに魔法のコントール出来る様になったの?」
「んー、秘密?」
ココアは微笑みながらそう答え、魔法を解除して再びカケイの方を見る。
「カケイも出来るようになるよ。──だって同じでしょ? 僕もカケイも」
──フードの奥から薄らと見えるココアの目は得体が知れない者のように少し怖かった。
その時、室内から庭に通ずる左手側の通路からフードを深く被った者が2人の元へ歩いて向かって来る。
「ココアちゃんここに居たんだー。探したよ、どーしてカケイ君と一緒に居るの?」
ナラメだった。その怖い声色で言うナラメは怖く圧があるようにココアに質問する。
「ごめんなさい、ナラメさん。弟と話して……」
ココアは立ち上がりながらナラメに謝るが言葉を遮る様にナラメはココアを頬を叩いた。その行動にカケイは眉間に皺を寄せながら震わせている目を見開く。
その勢いでココアのフードが脱げるた。ココアは白髪の長いストレートの髪、カケイと変わらない白い瞳をしている。だがカケイとは違って前髪の左側に薄い灰色のメッシュがある。
「誰が言い訳しろって言ったわけ? 私はさ、ココアちゃんと仲良くなりたいんだけど」
カケイは黙って見て入れず意を決して守るようにココアの前に来て両腕を横に広げた。そして歯を食い縛り、ナラメを強く睨みつける。
「兄さんに謝れ! クソ野郎!」
そう力強く言うカケイだが、手足が震えていた。
だがカケイの勇気ある言動にナラメは圧をかけるよつに「は?」と言葉を溢した。
「カケイ君、言葉を撤回しな」
それでもカケイはナラメに気負けしないように自身の拳を強く握りしめる。だがナラメは容赦のカケラもなく右拳を強く握りしめて上からカケイの頬を殴りにかかる。
だがその拳はカケイに届く事はなくナラメの右側にいつの間にか居た者の掌によって受け止められた。
「手ぇ上げるのは駄目やろ。あほ」
そこに居たのはタナカだった。タナカはナラメに怒っていて声がいつもより圧があって怖い。それにタナカにナラメは少し冷や汗を流して、拳を引っ込めて不機嫌そうにチッと舌打ちした。
「はいはい、悪かった。ココア行くよ」
ナラメがココアを見てそう問うとココアは頷き、ナラメに腕を掴まれて2人でその場を後にした。
「──っごめんなさい、タナカっ」
カケイは横に広げた腕を自身の前に持ってきて、怯えながらタナカにそう謝る。
「何で謝るん? 格好ええよ、カケイ君。ココアちゃんを庇ったさかい、ヒーローみたいやった」
タナカはゆっくり屈んで優しく微笑みながらそう言い、右手でカケイの頭を優しく撫でる。だがカケイはまだ微かに手足が震えていた表情は暗くなる一方。
「ほんまかんにんなぁ、直ぐ助けられんくて。糞爺共よりカケイ君のがようきばってはる。俺も見習わんとなぁ」
そう言うタナカの声色は怖さなどなく優しい。だがカケイは震えた声で「でもっ」と言い。
「兄さんが殴られたんだ。俺ぁ助けれなかった……」
そう震えた声で続けたその言葉にタナカは驚きを隠せずに目を見開く。
「……それほんま? ナラメがココアちゃんに手ェあげてたん?」
そう質問するタナカは問い詰めるようでカケイは俯いたまま、こくんと頷く。
「……そう。カケイ君、良い事教えてあげよか」
タナカの優しくも真剣な言葉にカケイは恐る恐るタナカの顔色を窺う。
「楽しい、嬉しい、それ以外の感情は表に出したらあかん。内で堪えるんよ。四角い物体の中にある感情を四角い物体で押し潰すようにしてな」
そう冷たくも優しい声色で教えるタナカは真剣な表情でカケイの目を見ていた。
「慣れてきたらその速度を速くする。せやけどな……」
それでも何故かタナカの表情が少し強張り悲しそうな表情が混ざっているようにも見える。
「その物体に入った感情はとても硬いときがある。そうなったら押し潰せへん。そん時に俺に助けを求め。俺は絶対カケイ君の味方や、約束する」
タナカの優しいその言葉にカケイは決意を込めたのか表情が明るくなった。
「うん……俺、タナカの言ってる事を信じる!」
カケイは頷き表情が完全に晴れて、タナカは被っているフードを脱いだ。
タナカは黄緑色の長い髪を後ろで束ねており、前髪は首の辺りまで長いセンター分けで、青年程の見た目に黄緑色の綺麗な眼をしていて顔は整っていた。
「そう、ならお散歩しよか。親睦深めようの会や」
元気付けるように言うタナカはカケイに優しく微笑み、カケイはタナカの姿に驚いたのか目を見開く。
「タナカの顔、初めて見た。すげぇ! なんかすげぇ!」
カケイは子供のよう笑ってはしゃぎ、キラキラ輝かせた目でタナカの前髪を触る。それにタナカはきょとんとするも、嬉しそうに恥ずかしそうに顔を頬を赤くした。
「カケイ君、そんな触れんといて。恥ずかしいやろ、キラキラした目で見んといてや」
だがタナカは決して人形であるカケイの手を振り払わなかった。
──それを遠くから見ていた最初のタナカとカケイ以外の人たちが居た。
「人形如きと馴れ馴れしくしやがって」
タナカに糞爺と呼ばれていた男性が左横にココアと一緒に居るナラメに話しかける。
「そうね。鬱陶しいわ、凄く。殺してやりたいくらい」
冷たくも淡々として言うナラメ。それに怯えることもないココアも優しく微笑んで口を開いた。
「────」
その気楽そうなココアの発言にナラメは楽しそうに笑みを浮かべる。
「さすが私が見込んだ人形。良いわ、それで言い訳した件は許してあげる。貴方も、コーノさんも良いと思うよね?」
タナカに糞爺と呼ばれていた男性、コーノにナラメは気楽に話しかける。
「知らん。だが性根が捻くれてるだけはあるな。タナカやカケイと違って見込みがある」
「飼い犬は飼い主に似るって言うじゃん? それと同じ、犬なんて見た事ないけどね」
ナラメは優しい声色で微笑みながら鋭い目でコーノの方を見る。それにコーノは冷たい目で、楽しそうに微笑んでいるタナカを見下ろす。
「犬など大体の動物は幾億年前に絶滅してるだろう? 生きてる人間は知らないのが当たり前だ」
だがそのコーノの淡々とした言葉にナラメは呆れるような目を向けた。
「重要なのそこじゃないんだけど。まぁこの施設に安泰が続ければそれで良いか。行くよ、ココアちゃん」
ナラメのその呆れるような言葉にココアは軽く頷いて左手側の通路に歩きだす。
──次の日の早朝、カケイとタナカは横に並んで施設の周辺を散歩していた。タナカは実験衣も着ておらず薄い水色の半袖の服にジーパンを着けいる。
施設周辺には普通に住宅街、そして歩いている歩道には一定位置に木がある。
「なぁタナカ、施設の外行っていいの?」
そう不思議そうに問うカケイはタナカの方を見上げて質問して。それにタナカは楽しそうにも明るい表情で前を見て歩いていた。
「随分と今更やなぁ。別にええ。ずっと室内は退屈やろ? なーんもあらへんし」
その気楽そうなタナカの言葉にカケイは呆れるような目でタナカを見る。
「……それタナカ怒られねぇ?」
だがタナカは楽しそうに優しく微笑みながらカケイを見る。
「心配してくれんの嬉しいけど今は楽しもうや、せっかくやのうて下や後ろばっか見とったらあかん。景色見んとなぁ」
優しい声色でそう言うタナカはカケイの背中を優しく叩いた。
「わかった! 楽しむよ、俺!」
カケイは太陽のような笑顔でタナカを見て、それにタナカは腕を元の位置に下ろした。
「カケイ君は笑顔が凄ぉ似合う。それは君だけの長所や。せやけど、前見て歩かんとぶつかるで」
タナカがそう言うと、カケイは「え?」と問うも曲がり角にある魔力電柱に思いっきり頭をぶつけた。
「……っ」
それにタナカは足を止めて大笑いし、笑い過ぎて少し涙が出ていた。カケイは「痛った…」と言いながら自身のおでこを摩りながらタナカを見上げる。
「何笑ってんだよ、タナカ!」
笑っているタナカにカケイは怒り、対にタナカは右手の人差し指で涙を拭いながら笑っていた。
「かんにんなぁ、カケイ君がドジっ子やから涙が出てもうて、はぁー! おもろいわぁ」
それにカケイは怒ったように拗ねてムッと頬を膨らませた。
「それはおもんない、だろ! 少しは心配しろ!」
そして怒ってように言うカケイは腕を組んで外方を向くも、タナカは楽しそうに微笑んでいる。
「しとるしとる、せやけどおもろいんよ。行きしなジュース買うさかい。許しとうてや」
その明るくも適当な言葉にカケイは前を向いて歩きながら不思議そうに「ん?」と問う。
「俺ぁ人形、飲食出来ねぇだろ?」
「出来るわ、あほか。人形ゆうても魔力人形さかい。カケイ君は色んな人の魔力で出来とる。魔物とおんなじや」
「魔力……人形? なんだそれ」
「はぁ? 知らんかったん? そうか知っとる前提やと……普通の人形ちゃうんよ、カケイ君たちは」
歩道を歩いていると、前方から処刑課の黒いスーツを着た者が歩いてきて。その姿にタナカは一瞬だけ険しくも眉間に皺を寄せた。
「カケイ君、フードは被っとるよな。喋らんといて」
タナカは真剣にもカケイに小声でそう言い、察したカケイは頷きながら小声で「分かった」と答えた。
その処刑課の人は黒い腹部まである長い髪、フラブよりは身長が高く瓜二つとまではいかない。だがかなり似ている顔だった。
「こんにちは。今、少しいいかしら?」
優雅な口調、そして優しい表情を浮かべながらそう問うのはフラブの母親、シラ・ミハだった