第五十八話 君が死ぬ未来
次の日の真昼時、フラブとキュサは転移魔法でシラ家の領地を訪れた。その光景にフラブは目をキラキラ輝かせるも驚きで呆然としていた。
アリトから2週間と言われていたお城が現時点で殆ど元の姿を取り戻しているからだ。フラブは変わらずシラ家の黒い貴族服を着ており血は付着していない。
そして今もまだ復元への建設途中だが沢山の人々が魔法を駆使して頑張ってくれていた。そのお城の姿は洋風で白よりも黒が目立つ外装をしており塀から正門から整備された煉瓦の道があり。その煉瓦の左右には芝生があって様々な花が咲いていてとても綺麗。そして煉瓦の道の先に両開きの木で出来た黒い色のドアがあり玄関に続いている。
フラブとキュサはその正門の前にいるのだがフラブは昔を思い出して少し悲しそうな表情を浮かべた。
「凄いな……」
そのフラブを見て右隣にいるキュサは見守るように優しい表情を浮かべた。
「そうですね。私は見る事が出来ませんが……この城の建設が終われば私も改めてフラブ様に仕える事が出来ます。それが何よりも嬉しい」
キュサは優しい声色でそう言いながらフラブの背後から優しくフラブを抱きしめた。
「そうか。ありがとう、キュサ」
「礼は要りません。私がフラブ様を想っていればそれで良いんです」
そう言うキュサは常に優しい表情でフラブを見ているが目はなぜか怖い。
「すまない。私は私を殺してくれる人以外は興味がない。だから私を想うな。……私はゴミカス以下の何も価値が無い人間だぞ」
フラブの苦しそうな言葉には何も嘘などはなく自信を卑下している訳でもない事実だった。少しの判断ミスも許されないところで幾度と間違えてしまった自身への正当な評価なのだろう。それでもキュサはフラブに対して優しい表情を浮かべているまま。
「そんなこと言わないで下さい。目が見えない私が価値があると言ったものは必ず価値があるのです。そしてフラブ様が殺して来た者の命に価値なんてない」
キュサの冷たくも優しい慰めるような言葉にフラブは怒りが脳裏を遮るも冷静にキュサの方を振り向く。
「そろそろ離せ。王都に散歩に行かないか?」
そう問うフラブの声色は優しく、キュサはゆっくりフラブから離れて後ろへ2歩退がる。その悲しくも優しいフラブの姿はどこか当主としての風格が感じ取れてしまう。それをキュサは目が見えないがシルエットや空気感で感じ取り目を少し見開いた。
「はい……その、大丈夫ですか?」
そのキュサはメイドらしく手を前で組んでおり、小首を傾げてフラブにそう問う。
「大丈夫だろう。情報収集や最高管理者への対策等はアリマさんがやってくれている。ならば魔物の駆除及び力を持たない人々を守るべきだ」
キュサの冷静な真っ直ぐな目にフラブは前を向き優しく微笑んで正門へと足を踏み入れた。見ての通り沢山の人々が片手に紙を持って魔法を駆使しながら建設を頑張ってくれていた。そしてフラブは右側にいる頑張ってくれている工事服を着ている青年程の男性の3歩前で立ち止まる。それに気づいた男性はフラブの姿を見て驚きつつ少し目を見開いた。
「シラ・フラブ様……っ?」
そう驚く男性は170センチ程の身長で、フラブは優しい表情でその男性を見上げる。
「はい。シラ・フラブです。ありがとうございます」
そのフラブの後ろからついて来ていたキュサはフラブの右後ろで立ち止まり男性を強く睨む。
「……っその……応援しています!」
その男性は焦りつつもフラブから目線を外して城の方を見て作業に戻り。キュサは優しい表情で左手をフラブの右肩に優しく置いた。
「邪魔になるかもですので早速王都へ行きましょう」
そう温かい口調でそう言うキュサは優しい表情でフラブの方を見る。それにフラブは少し目を見開くも直ぐに優しい表情を浮かべた。
「……そうだな」
ーー昨日処刑課がいる部屋へ戻っている最中、アリマと横並びで話している時のこと。2人は深刻そうな表情を浮かべながらも常に前を見て玄関から右手側の廊下を進んでいた。
「今回、彼等が来た目的は多分だが俺たちを見極めるためだろう」
そう冷静に言うアリマの言葉にフラブは大して驚くこともなかった。
「見極める?」
そう真剣に前を見て問うフラブだが、どこか怒りを抑えているようにも見える。
「ああ。最高管理者を殺せるに値しなければそのまま殺す気でいただろう。キュサの予知通りならな。だが名家にも関わらず本邸を燃やすと言う判断に彼等は可能性があると判断した……つまり身勝手な馬鹿だ」
「……そうですか。最高管理者……処刑課本拠地の場所にも嘘はなかった。つまりアスさんは最初から私たちに助けを求めていたのでしょうか。爆発する可能性を避けながら。まぁ殺してしまいましたが……」
フラブはそう言いながら急に立ち止まり右手に鉄の剣を握りしめた。それにアリマは驚き足を止めて「何を…」と問いながらフラブの方を振り向く。
ーーするとフラブは剣の切っ尖をアリマの喉元の首を貫く寸前で止めた。
「……それでも抵抗せずですか。アリマさん、さては化け物が出て来ても私を殺す気ないでしょう」
フラブの真っ直ぐアリマを睨む目には自身の死しか見えていない。それにアリマは目を大きく見開いて息を呑むも直ぐ様に真剣な表情へと変わる。
「当たり前だ。俺はフラブ君を殺せない。殺すつもりは微塵もない」
「……本当に嫌な人です」
フラブは嫌そうにも冷静にそう言いながら魔法を解除して鉄剣が消える。そしてゆっくり右腕を下ろしながらも前を向いて再び歩き始めた。
「案ずるな。殺さずして止めてやる」
それを見てアリマも再び歩き始め、横に並んで策について真剣に話し始めたとか。
そして今現在、フラブとキュサは正門から王都へと入り左右に店がある道を歩いていた。
フラブの姿は沢山の人々の視線が集中するも全員が嫌そうな表情を浮かべている。それを好機と感じ取ったキュサは瞬きをする間にフラブを軽々とお姫様抱っこをした。それにフラブは理解が追いつかずに呆然としてキュサを見上げる。
「どうやって……?」
フラブは慌てるよりも疑問が勝ち、目を少し見開いたままキュサへ問い。それにキュサは歩きながらも優しい表情で誇らしげに前を向いていた。
「愛の力です。愛は魔法にも打ち勝つんですよ」
キュサの優しい言動にフラブは恥ずかしそうに顔を赤くしてキュサの方へ向いて顔を隠した。
「キュサはバカだ……」
「私はフラブ様のためなら囮にだってなりますし雑にだって死ねます。本来の未来なら私はフラブ様に庇われて生き残ったのです」
そう言うキュサは清々しい程に真っ直ぐで、それにフラブは少し悲しい表情を浮かべた。
「バカだぞ。本当に……」
それからフラブとキュサは1時間ほど王都を歩いたのちに王都から出て何もない草原へと足を踏み入れた。そこは何もないというより木は何となく4本程見えるのだが花すらも咲いていない。
そこでフラブとキュサは休むように横並びに座りフラブは真剣に右隣にいるキュサを見る。
「キュサは私に忠誠を誓った……その理由で気になることがあるんだが聞いても良いか?」
そう問うフラブは曇りない真っ直ぐな目でキュサを見ており、それにキュサは不思議そうにフラブの方を見て小首を傾げた。
「はい、良いですが……」
「私がキュサを庇って死んだ……その原因の処刑課の襲撃が未来にあったからキュサは私に忠誠を誓ったのだろう? だがその未来で私は夜会場に居なかったのか?」
フラブが夜会の場所に居るのなら本邸にいるキュサを庇うなど不可能だろう。それに気づいていたフラブはどこか怪しむような目でキュサを見ている。だがキュサは面白そうに優しく微笑んだ。
「行ってましたよ。ですがフラブ様はアリマ様が本邸に駆けつける前に何故か異変に気づかれて1人で本邸に戻って来たんです。変ですよね。洞察にも優れているアリマ様よりフラブ様の方が先に気づかれるのは」
そのキュサの言葉に嘘は感じ取れないが、フラブは腕を組み右手を顎にあてて真剣に考え始める。
「……そうだな。そう言えばキュサ。今回生き残っただろう? 未来は見えたか?」
フラブの真剣な問いに、キュサは少し深刻そうな表情を浮かべて俯いた。
「フラブ様の未来だけ見えないのです。化け物の影響だと推測しますが……私の見る未来全てにフラブ様だけが存在しない」
そのキュサの言いづらそうな苦しそうな告白に、フラブは驚き目を少し見開くも直ぐ様に安心したかのような優しい表情を浮かべた。
「十中八九化け物の影響だろうな。だが今次第でいくらでも未来は変えられる」
そう言うフラブは常に頭の中では残酷に殺される事を願っていた。それはキュサにも誰にも分かることもなく、ただ時間が流れるように過ぎるだけだった。
その頃アリマは処刑課達はアイネに任せて1人でヨヤギ家本邸の燃えた跡地にやって来ていた。
そこは燃え尽きて建物は灰すらも残らず崩壊しており穴が空いているように地下の跡も残っている。アリマは門の階段を登り終えて本来玄関があった場所の2歩ほど前で立ち止まった。
そのアリマの服装は着物ではなく昨日と変わらない服装。だが左眼は眼帯ではなく義眼をつけており、その義眼は常に魔眼を使用している状態になる。
「……見られている気配はないな。だが」
そしてアリマはその場でゆっくり屈み左手を優しく地面へと着ける。そして左手を軽く握り甲で軽く地面を叩いたりして音を確かめていた。
「……違和感がある」
ー どうしたものか。フラブ君と得体の知れない最高管理者を会わせたくない。だが……
色々考えているうちに疲れてきて長く溜め息を溢しゆっくり地面から手を離すも。突如アリマの背後から歩くような足音が聞こえてきて警戒するようにゆっくり背後を振り返る。
「久しぶり。ヨヤギ・アリマ」
その声はコウファの声で、白いローブを着ていフードは脱いでいた。それにアリマは何よりも警戒するように強くコウファを睨みつける。
「何の用だ? シラ・コウファ」
そのアリマは怒り忌み嫌うように圧ある声でコウファにそう問いかけながらゆっくり立ち上がる。それと同時にコウファは足を止めてアリマからは4メートルは離れているだろう。
「フラブから手を引いてさっさと離れろ。下衆」
コウファもアリマに対して怒るようにアリマを強く睨んで圧ある声でそう言い。そしてコウファの目つきは剣の先よりも鋭く殺意に満ち溢れていた。
「下衆? 俺の何処が下衆なんだ。フラブ君に生存報告をしないで、更に敵としてフラブ君を傷つけた君が言える言葉か? お前はアマネもアユも殺した。そもそも問いに答えろ」
「お前も大概だろ。フラブ以外の人間が殺されそうでも何も思わず平気で見捨てる。それがフラブを傷つけるとは思わないのか?」
アリマとコウファは互いにゴミを見るような目で睨み常に圧ある声で話をしていた。
「だが俺が見捨てた彼らは人殺しだ。平気で見捨てたと感じるのなら彼らへの相応な待遇となるだろう」
「………」
「そして問いの答え。ーー思わない。フラブ君の成長は他の犠牲があってこそのもの。故にハジメとの約束が叶うのなら手段なんて選んでいる暇はない」
「父様が貴方に何を頼んだか、なんてことはどうでもいいんだよ。馬鹿を言うならゴミに向かって言え。助けれるのに見捨てたことを……それをフラブに面と向かって言えるのか?」
「フラブ君が言ってほしいのなら言う。ところでコウファ君、気づいているか? 君の存在は君等敵の目的がフラブ君の中にいる化け物だと確証ずけているだけだと」
アリマの問いにコウファは少し驚くも、直ぐ様に優しい表情へと変わった。
「……なんだ、そっか。ありがとう、気づいてくれて」
急に優しい口調でそう言うコウファ。それにアリマは驚き少し目を見開いた。
「は……?」
「そう。今回は監視官の目を掻い潜って来ただけ。見つかれば殺されちゃうかも。だからさ、気づいているのならお願い。フラブを化け物から解放する事に全力を注いで。僕は少なくとも最初からフラブだけの味方だから」
「……そうか。分かった。だが最後に1つ聞きたい事がある。答えてくれるか?」
アリマはとても真っ直ぐに真剣とも深刻とも読み取れる表情でコウファを見上げて問い。
「もちろん」
とコウファは安心したかのような優しい表情でアリマを見て問いに答えた。
「俺は髪を切った方が良いと思うか?」
アリマの真剣な問いにコウファは「…ん?」と戸惑い質問を理解できずにアリマを見る。
「フラブ君が俺の髪が綺麗だと褒めてくれたんだ。故に切らないでおこうと考えたのだが……短い髪も似合うと言ってくれた」
とても嬉しそうに言いながら左手で自身の1つに纏めている後ろ髪を左肩から前に持ってきて。凄く嬉しそうな優しい表情を浮かべながらも左手で自身の髪を触りながらその髪を見る。それにコウファは多少困惑するも直ぐ様に腕を組んで真剣に考え始めた。
「……そう、か。うん、そっか。……ごめん。僕そういうの詳しくないんだ」
コウファは優しくそう言い残して、転移魔法で颯爽とその場を後にした。それにアリマは腕を組んで左手を顎にあてて真剣に考え始める。
「髪、切るか」
アリマは悩んだ末にそう言葉を溢して腕を下ろし転移魔法で颯爽とその場を後にした。
その頃アイネは白いネコの着ぐるみを着て元々居た会議室の中に居て目の前にいる処刑課を見ていた。
その処刑課の人達は全員椅子に有刺鉄線で胴体と腕ごと椅子が厳重に縛られている。処刑課はミルナも含まれており4人が横に並んで気を失っていた。
「フラブさん……生まれて始めて出来た友達……」
アイネは疲れたように独り言でそう言いながらも着ぐるみに沢山の返り血を浴びていて。その処刑課達の散歩前ほどに立ち止まって右手に血濡れたペンチを持っている。
そしてアイネの左隣には小さな円状の腰までの高さがある机があり。その机の上には2枚の紙が重なっていてその紙の上には黒いペンが置かれている。
机の上に置かれている紙の中の隠れている1枚はフラブの知り得る限りの情報をアイネがまとめたもの。それは半分ほどが書かれて埋まっているのだが友情という名の愛があってのものだろう。本当にヨヤギ家は基本的にヤバい奴しかいないのかと錯覚してしまう程にヤバい奴が多かった。
それから2日が経過した頃の朝10頃ーーそこにアリマは寒さから変わらずの見た目の衣服を来ていて。フラブはシラ家の黒い男性用の貴族服を着て前より緊張はしておらず。アザヤとラサスは前の会合の時と変わらない衣服で連れは居ない。大きく中央が空いている丸い机に全員が前と変わらない位置に座っていた。
「それで処刑課がヨヤギ家本邸に攻めて来た……もう処刑課って処刑課である意味がないでしょ」
ラサスは前屈みに机に凭れながらそう言いつつ腕を前へ伸ばして資料の紙を両手に持って見ていて。アザヤは真剣に姿勢良く同じ内容が書かれた資料を右手に持って見ている。
「処刑課……敵は本格的に名家を壊しに来た。それなら宣戦布告はもう無視して良いな。問題は俺たちがヨヤギ家に手を貸すかどうかだ」
だがアリマはガラス皿に入ったあんみつを右手にもってスープを持って食べすらさを感じても食べていて。食べすらそうでもまるで周りに花が咲いているかのように幸せそうだった。
「少しは真剣に考えろ。お前の家のことだぞ」
アザヤがそう呆れるようにアリマに向かって言うが、アリマは聞こえてさえいない。そしてフラブへと目線を移動させるも、フラブはそのアリマを見て面白そうに腹を抱えて笑いを堪えていた。
「アリマさんっ! 本当にっ……! 右手使って食べてるっ……!」
フラブの笑いながらの言葉に空気が冷たく凍り、フラブは直ぐ様笑いを止めて全員がアリマの方を見る。
アリマは右手に持つスプーンを折り曲げるように指で割って怒ったような冷たい目でフラブを見た。それにその場にいる全員が目を少し見開いて少し冷や汗を流し背筋を凍らせる。
「フラブ君。まさか俺を笑うために右手に持てと提案してきたのか? 君とあろう子がそんな命を投げ出すと同意義の愚かな行為をするワケがないよな?」
アリマは怒りを顕にするかのような圧ある声でゆっくり椅子から立ち上がりながら右手に持つスプーンを消滅魔法で消して氷柱を握る。
「あ、アリマさ……」
「甘い物に関して、俺は少々タガが外れるんだ。まぁフラブ君だから許そうとも考える。だがな? 何でも許していれば親代わりとして其れこそ失格だろう?」
熱あるように言うアリマから冷たい目を向けられているフラブは微かに冷や汗を流した。
「す、すいません……だって、面白くて……」
「そうか、謝るのなら許そう。だがそこまで怯えなくても良いだろう」
アリマはそう言いながら魔法を解除して腕を下ろしつつ小首を傾げ。そのアリマを冷たい空気から解放されたラサスとアザヤは呆れるような目で見た。
「前から思ってたけどさ、アリマってバカだよね」
「そこは重要じゃねぇ。早く席に座れ。それとあんみつは後で食え」
それにアリマは仕方なくなのか姿勢良く椅子に座り、あんみつを右側に寄せて机の上で手を組んだ。
「アザヤとラサスの2人が処刑課を壊すことに賛成するのなら俺とフラブ君は直ぐに実行する」
それにフラブは軽く頷きながら軽く腕を組み、真剣な表情を浮かべた。
「最高管理者さんと会って話します。そこで黒だと判断すれば最高管理者さんと敵対することになる。それは処刑課との敵対と同じこと」
当主としての面影を感じ取れるフラブの成長にアザヤとラサスは驚いて目を見開く。それを見てアリマは何故か誇らしげな表情に胸を張っている。
「……ですが処刑課はこの世界に無くてはならない治安維持の要。ですので平和的解決が望ましいところなんですけど……賛否が分かれるのも覚悟しています。だからこそ多数決を取りに来ました」
フラブは明るく意を決したような表情で前を向いて堂々と多数決を宣言する。だが多数決を選んだフラブに対しアザヤとラサスは呆れるように「は?」と言葉を溢した。
「そしてアザヤさん」
フラブはそう言いながらゆっくり立ち上がり、椅子の横に置いていた手提げの白い袋を右手に持つ。
それにアザヤは小首を傾げるも何かを察して呆れるも目を輝かせた。そしてフラブはアザヤの横で3歩分あけて立ち止まり机の上に白い袋を置き。
その袋の中からリボンで包装された綺麗な黒い箱を取り出してアザヤの目の前の机の上に丁寧に置いた。
「これは王都にある和菓子の饅頭です。その店はかなりの名店でその中でも饅頭はとても有名なんですよ」
フラブは優しくも思惑が見え透いていて、それに何故かアリマは驚くように目を少し見開いており。そのフラブを見てラサスは驚くも呆れるような目でフラブを見ていた。
それにアザヤは目を輝かせながらその箱を見続いて右手に持っている紙を箱の横の机の上に置く。
「処刑課を壊すことに賛成してくれれば差し上げます。無料です。悪い話ではないでしょう?」
「賛成しよう」
名店に釣られたアザヤは快く受け入れて、それにフラブは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます」
そう微笑みながら感謝を告げたフラブは手提げの白い袋を消滅魔法で消して堂々と元々座っていた席に戻り座った。
「フラブ君……俺に許可を取らずに、そんな買収が出来るようになったのか。これがっ親離れ……」
「成長ですよ。買収が出来るのならその方が手っ取り早い。交渉は買収が出来なかった時の手段でしかありませんから」
そう言うフラブはとても輝いていると錯覚してしまうほどに堂々としていて。アザヤは嬉しさを堪えてリボンで包装された箱の上に右手を置いて颯爽と転移させた。
「今回は買収されてやる。だが次はないぞ。仕方なくだからな」
その必死に弁解しつつも恥ずかしそうに瞼を閉じて腕を組んでいるアザヤを全員が呆れるような目で見た。
「処刑課はさぁ、なんて言うか……そりゃ僕も壊しても良いとは思うよ? ここまで好き勝手されたら文句は言えないからね。だけどフラブちゃんが言ってた対人間での治安維持の要ってのも本当だから」
面倒くさそうに言うラサスは机に凭れながら変わらず腕は前に伸ばして右手に資料を持っている。
「今の処刑課に治安維持が務まる未来が見えない。故に俺はフラブ君の意見を支持する」
アリマは確固たる意志を示すように堂々と言いつつも無表情で考えが読めない。だからと言って信用は出来るような安心感があり、ラサスは面倒くさそうにアリマを見る。
「アリマはさ、どーして命を掛けてまでフラブちゃんの味方になるわけ? そりゃ魅力的ではあるけど…」
そのラサスをアリマは敵意というより殺意を剥き出しにして嫌そうに強く睨んだ。
「フラブ君に手を出すのなら俺がお前の首を取るぞ。俺はフラブ君の親代わりだ」
「いや、論点そこじゃないんだけど」
ラサスは説明を求めるように頭を起こしてフラブの方に説明を求める。それを感じ取ったフラブはゴミを見るような目でアリマを見た後に普通の目でラサスの方を見た。
「すみません。アリマさんが変なことを言ったら無視でいいので話を続けましょう」
その棘のある冷たいフラブの言葉と見直したかのようなラサスへの敬語。それにラサスとアザヤは驚いて目を少し見開いてフラブの方を見る。
「フラブちゃん……いつ僕に敬語を使えるように……」
そしてアリマはと言うと絶望したような表情で青ざめて強く落ち込んでいた。
「フラブ君……」
そしてアリマは気力が無くなったのか椅子に凭れて仰向けになり、腕からも力が感じ取れない。
「身勝手にもラサスさんを見直したからです。決定打としては浅いですけど書庫を貸し切ってくれた時に。すみません」
フラブは申し訳なさそうにも優しい表情をして驚いているラサスを見て。それにラサスは頬を赤らめながら目を輝かせつつ大きく見開いた。
「いや、別に……それほどでも……」
「フラブ君に嫌われた……」
そう言うアリマは今にでも死にそうな声色で椅子が後ろにひっくり返って勢い良く後ろへ倒れた。だがそのアリマを心配する素振りは誰一人として取らずにフラブは冷たい目でアリマを見る。
「馬鹿なんですか。第一にアリマさ……」
フラブの呆れたような言葉を遮るようにアリマは勢い良く体を起こし目を輝かせてフラブを見た。
「では嫌ってないんだなっ?」
前のめりに問うアリマは立ち上がりながら両手を机に置いている。ただアザヤとフラブは心の底から呆れるような冷たい目をアリマに向ける。
「……早く席に座って下さい。話の途中です」
そのアザヤとフラブから向けられる冷たい視線にアリマは我に返って椅子を起こして腰を下ろす。
「其れで話を続けると。ラサスは今回の件、賛同してくれるのか?」
そのアリマの真剣な姿からは先ほどまで落ち込んでいた者と同じ者とは考えられないだろう。
「んー、僕はフラブちゃんの意見を重視するかな。今回はね」
ラサスは面倒くさそうにもフラブの方を見て微かに頬を赤くしていた。それにフラブは訳が分からずも優しい表情でラサスを見た。
「ありがとうございます……?」
そしてそれを見たアリマは勘づいて再び両手を机に着いて勢い良く立ち上がった。
「ラサス。フラブ君に手を出すのなら俺が敵に回ると考えろ。俺はフラブ君の親代わりだ」
アリマは圧ある声でそう言いながら嫌そうにラサスを睨みつける。そのラサスは顔が微かに青ざめて恐る恐るアリマの方を見た。それを見たアザヤは呆れ疲れて何も言わずにため息を溢した。そのアリマを見たフラブは呆れるような目でアリマを見るも口出しはしない。
「いや……その、別に……」
「そうか。ならば表に来い。そこで話をつけよう」
そう言うアリマは声色からも見てとれる程にかなり怒っていて。そのアリマに対してフラブは表情に出るほどに怒りアリマを強く睨みつける。
「アリマさん。今は大切な話し合いの最中だと言ってるでしょう。あと親代わりを強調しないでください」
それにアリマは体が凍りついたかのように止まり青ざめた表情を浮かべながら椅子に姿勢良く座った。
「で、では話を続けよう。っすまない、フラブ君」
恐る恐る怯えるように謝るアリマだが、フラブは冷たい目をアリマに向けていた。
「まぁそれより本題だ。フラブさん」
アザヤは呆れるような目でアリマを見たのちにそう言い真剣にフラブの方を見る。それにフラブも気を取り直して手を机の上で組んで真剣にアザヤの方を見た。
「確か主に創造魔法を使うと聞いた。だから提案なんだが……サトウ家別邸に来ないか? 別邸は武器庫なんだ」
そう真っ直ぐ問うアザヤからは嘘は感じ取れずに、アリマも真剣にフラブの方を見る。
「俺も行く」
アリマは謎に自信満々でそう言い、それにフラブは呆れるような目でアリマを見た。
「私がまだ答えてませんよ。まぁ良いのなら……」
そうして何やかんやでサトウ家別邸へ行くことが決まりアリマとラサスもついでに着いて行った。




