第五十四話 処刑課
それからアリマとフラブは本邸の玄関で靴を脱いでアリマの執務室前に転移した。アオトとキュサは再び別行動をとっている。
「間違っても攻撃はするなよ?」
アリマは右側にいるフラブに単調にそう言いながら右手で部屋のドアを開ける。左側のソファーにティーカップを優雅に持って座っている処刑課の黒いスーツを着た者が居た。
処刑課と思われる者は150センチほどの身長で桃色の腰までの長い髪に毛先が薄桜色でハーフアップ。目の色も薄桜色で可愛い麻呂眉。その者はフラブを見てティーカップを机の上に置いて立ち上がる。
「シラ・フラブ……様でいいのでしょうか?」
中性的な声のその者は常に無表情を作ってフラブを見てそう問い、フラブは処刑課相手に警戒する。
「俺を信じろ。処刑課でも悪い者ではない」
アリマは無表情で左腕に角底袋を抱え処刑課の女性を見てフラブに言い。それにフラブは警戒するように軽く腕を組んで真っ直ぐその者を見る。
「私に何の用だ? 名は?」
「私はアス・ミルナと申します」
フラブはその名前に驚き目を少し見開いて少し警戒するような目をミルナに向ける。
「むかしむかし、あるところに死の教会という粗大ゴミがありました」
「……そうか……」
ミルナのユーフェリカと同じ話し方から少し気が抜けたフラブは腕を元の位置に下ろした。
「私にはユーフェリカという名前の可愛く元気な鬱陶しい妹が居ました。ですが妹はとても幼い頃に誘拐されて粗大ゴミに売られたんです」
「……っそれは本当だったのだな」
「安心して下さい」
少しだけ表情が強張っているフラブを見てミルナは優しい表情を浮かべる。
「私は処刑課を壊すために処刑課にいます。謂わば潜入です。この服装は処刑課という事実を後出しするより疑いが減るからです」
「私が会ったのは偽のユーフェリカで……まぁ偽がいるのなら本物も居るのか……」
そう言うフラブは腕を組んで右手を顎に当てて真剣に考え始めて、それにアリマはフラブを優しく見守るだけで何も言わない。
「だが。大体、貴方が処刑課に恨みをもつ理由が死の教会でも話の筋が見えない。君が私に逢いに来た理由は何だ?」
フラブは右手を下ろして警戒を隠さずに問うも、そのミルナは平然として優しい表情を浮かべている。
「私は現在、罪人処刑課2課長に兼任されています。シラ・ミハ様は妹の救世主ですので感謝をしたかったんですが、そのミハ様を殺した処刑課……妹に成り代わって利用した処刑課を私は許せません」
「……貴方を信じるために君の妹さんがどうやってアルフェード教会から助けられたのかを教えてほしい」
フラブの悠々と問い詰めるような言葉に、ミルナは小首を傾げて不思議そうに「え?」と問う。
「当然シラ・ミハ様が粗大ゴミを殺すより助けることに力を注いだからです。1人の一般人を巻き込んだからと言う根拠もない理由で、罪人となりシラ家共々殺された意味も理由も分かりませんが…」
「……っ! そう……それを……私のお爺様が本当にそう命令したのか……?」
フラブは訳も分からず真剣な表情で腕を組んだまま右手を顎に当てて考え始めた。
「それが謎なんです。だから私はフラブ様に助けと協力を求めに来た。前代の最高管理者シラ・イサ、奴もシラ家の者でしかも本家の元当主。違和感しかない」
「……そうか。詳細は?」
フラブはそう問いながら右側のソファーへと座り、ミルナも元々座っていた左側のソファーに座る。
「罪人処刑課……その本拠地の位置は務める者しか知らされない厳重に秘密となっている場所なんです。私はその位置を知っている」
アリマもフラブに続いて右側のソファーへと腰を下ろして、袖を通していない羽織物の内側から軽く腕を組みながらミルナの方を見る。
「嘘はないぞ、フラブ君」
「そして私はヨヤギ様に取り引きでそれを事前に伝えています。シラ様にも伝えますので……ついででも本拠地を攻撃して処刑課を壊してほしい」
ミルナは再びティーカップを手に持って優雅に言いつつアリマの方を見た。
「裏切る可能性を懸念して協力しないのでしたら……私はヨヤギ様とシラ様に伝えた情報を全て記憶から消させて頂きます」
そう言い終わると瞼を閉じてティーカップの取っ手を右手に取って入っている茶を飲む。
「言う通り現在の最高管理者に会うために俺は此の取り引きに応じた。だが君がどうするかは君が決めろ」
そう言うアリマは優しい表情を浮かべながらフラブの方を見る。そのフラブは常に腕を組み右手を顎に当てて真剣に考えていた。
「……私はミルナさんを信用します。動機も全て理にかなっていると判断しました」
そう言うフラブは右手を下げて真剣な表情でミルナの目を見ている。その真っ直ぐさに驚いてしまうミルナだが直ぐに優しい表情を浮かべた。
「確かにお爺様の後継の最高管理者さんとは少し話がしたいですからね。ですがアリマさん、名家としての立場を危うくするのは避けたいでしょう」
「……其れはそうだが。名家がどうこう言っていれば全て後手に回る。其れに予感だが名家はもう……近いうちに壊される気がしてな。名家が壊されてしまえば対魔物における平和維持が……なんて後の事ばかりを考えても仕方ないだろう」
「…そうですか。敵さんの事もありますからね。それはそうと、ミルナさんも一緒に処刑課を壊すんですか?」
フラブは真剣な表情でミルナを見て問い、ミルナはティーカップを机の上に置いた。
「いいえ。私はそれまでに処刑課の内部構造を全て掴んでバレないように知らせます。飽く迄これは交渉の結果ですし、私は最悪内部から壊せればそれでいい。裏から補助をする形にはなりますのでご安心を」
「……つまり。君はいつでも裏切れると言う事か。だが俺は裏切り如きでは殺せないぞ」
威圧するようにそう言うアリマは少し警戒を解いていないように見える。それにミルナは悠々として優しく微笑んだ。
「仕事ではなく報復です。勘違いはなさらぬよう。日時は1週間後、お2人のタイミングで暴れて頂ければ私が合わせます」
それにアリマは優しい表情でミルナを見て、ミルナはアリマを見て微かに顔を赤く染める。
「それと3日後に帝国で様々な国を担う名家や警備課も含めて処刑課……世界を支える上位の者が集う夜会が開かれます。他の名家の方は処刑課との事もありまして欠席らしいのですが……ヨヤギ様とシラ様にもご出席をお願いしたいんです」
「そうか。承諾したいところだが指名手配されているからな。理由は?」
アリマは優しい表情でミルナを見て問い、ミルナはそれに更に顔を赤くした。
「ヨヤギ様は音楽関連の楽器も全て上手く弾けると聞きました。ですからピアノの演奏をお願いしたいんです」
急に赤を赤くして微かに余所余所しいミルナを見てフラブは小首を傾げるも、それにアリマは優しい表情を浮かべている。
「買い被り過ぎだ。俺は全て嗜める程度、プロの方々と比べれば見劣りするだろう。其れに手加減を少しでも誤れば楽器を壊してしまう」
そしてフラブは優しくも真剣な表情で自信満々に真っ直ぐミルナの方を見る。
「夜会か……楽しそうですね。私は楽器ならマイクだけは使えます」
「それは誰でも使えるでしょう」
そう言うミルナはフラブを見て顔を耳まで真っ赤に指先まで赤く染める。そのミルナをフラブは心配そうな目で見て前のめりに立ち上がった。
「熱があるんですか? 気分が悪いのなら休んで……」
そしてそう問いながら右手を差し出し。それにミルナは脳まで赤くして気を失いソファーへ倒れた。
「な……っ! 大丈夫ですかっ?」
フラブは焦りながら机をまわって反対側のソファーでミルナの前で右膝を地面につけて座る。
「君は本当に……まぁ其れは置いといて。夜会の件、君はどう考える?」
アリマは優しく真剣な表情でソファーから立ち上がってミルナの前、フラブの左横で立ち止まり。灰白色のロングコートを軽々と脱いでミルナに優しく被せた。
「私は行きたいです。指名手配されてることを考えれば躊躇いますけど情報収集も関係なし! 沢山の人が来るのなら私でも……理想として楽しめるかもしれないでしょう?」
そのフラブの表情は優しくも微かに悲しそうな表情が混ざっていた。
「そうだな。君が行くのなら俺も行こう。ラサスとアザヤにも再度聞いてみるとして。ゴミ共の追跡が見事に成功したぞ、フラブ君」
アリマはそう言い巻かれた世界地図を収納魔法から左手で取り出しながらゆっくり立ち上がり。
「早いですね……」
フラブは感心するようにそう言いながらアリマに続いて立ち上がり元のソファーの上に座った。同時にアリマは優しい表情で世界地図を左手に持って自身も元のソファーの上に座る。
「ゴミ共が向かった先は他国ではなかった」
アリマはそう言いながら地図を広げて机の上に広げてフラブにも見せる。
「どこへ行ったのですか?」
フラブは少し前屈みで真剣に地図を見ながらアリマに問い。アリマは前屈みに東側に位置する共和国と中央に位置する王国の間にある海を右手の人差し指で指した。
「この海中だ。ゴミ共にしては実に面白いゴミ袋ほどの発想だったぞ」
アリマは優しい表情でその海を見ているが何故かとても怖く不機嫌そうだった。
「海中ですか……?」
フラブは軽く腕を組んでは右手を顎にあてて真剣に考え始める。
「ああ。海中に行くには手法が3つあってな。まぁ前提として当たり前だが海の中に人が住める場所を作らなければならない。故にゴミは暇人で確定だな」
「ゴミの推理ではなく手法を教えて下さいよ……」
フラブは呆れるような真剣な目でアリマを見て言い、それにアリマは優しく微笑んでフラブを見る。
「ゴミを燃やすならどんなゴミなのかを知るのはとても大事なことなんだぞ?」
「確かにそれもそうですね……」
「それで1つ目は知っての通り転移魔法を使った移動方法なのだが、追跡していれば転移魔法は使用していなかった」
アリマは興味津々なのを隠して優しく微笑みながら軽く腕を組み左手を顎に当てていた。
「あの……前から思ってたんですけど……」
フラブは恐る恐る子供のような好奇心を隠そうにも隠せていないアリマを見て言い。アリマは優しく微笑みつつ「ん?」と問いながらフラブを見る。
「アリマさんって魔法好きなんですか……?」
「ああ。魔法は興味深いだろう? どんな者がどう言う魔法を使うのか……見てみたいんだ。俺が知らぬ魔法を開発して使用している可能性もあるワケだからな」
「なるほど……? つまり変人という事ですか……」
「否。ただの知識欲と好奇欲だ。前から思っていたのだが君の最適性魔法は何だ? 適性は適応だろう?」
アリマは興味津々に光に満ちた目でフラブを見て、フラブは少し引き気味にアリマの方を見る。
「混沌魔法ですよ……嫌いなんですが……」
フラブの問いにアリマは少し目を見開いて少し笑顔が消えた。
「最適性の混沌魔法……父様と同じだ…運命というのか何というのか……凄いなっ!」
アリマは再び楽しそうに微笑み、光に満ち溢れた目で好奇を抑えるも子供のようだった。
「そうですか」
フラブはそう言いながら見守るように優しい表情を浮かべて左手で優しくアリマの頭を撫でる。それにアリマはきょとんとして「何だ?」と問いながらフラブを見る。
「フラブ君? 撫でるのを止めろ」
フラブはそれに「ふふっ…!」と笑い堪えながら前のめりに目を瞑って右手を軽く握って口を隠し。同時に撫でる手を止めて左手で腹を抱えて必死に笑いを堪えていた。そのフラブをきょとんとして見るも、直ぐ様に嫌そうな怒った表情でフラブを見る。
「後で説教するぞ、フラブ君」
「ほんとっ……! アリマさんってたまに子供みたいっ!」
フラブは笑いを堪えきれずに笑いすぎて右目から涙が流れて右手の人差し指で優しく拭う。
「見た目に反し過ぎですよっ!」
その笑っているフラブを見てアリマは目を大きく見開いて呆然とする。
「君も……まだ笑えるんだな……」
「え? 私だって人ですから笑えますよ」
アリマの言葉にフラブはそう言いながら腕を下ろして優しく微笑んで小首を傾げた。
その光景を光で溢れた目で大きく開けて顔を耳まで赤く染めて見ていたミルナ。アリマの灰白色のロングコートを顔の半分まで被って顔を隠していた。
「まぁ其れで本題に戻ろう。ミルナ、起きたのならそう言え」
アリマは優しい表情でミルナを見て言い、フラブをミルナの方へ視線を移動させる。
「それもそうですよね」
ミルナは優しい表情でそう言いながら冷静にソファーから立ち上がった。それでもアリマの灰白色のロングコートは大事そうに畳んで右横に置いた。
「熱があるのならぜひ休んで下さい。私もアリマさんもミルナさんを信用していますので」
フラブは優しく微笑んでミルナを見て、ミルナは顔を赤くしたまま目を大きく見開いた。
「顔っ!」
ミルナは再びソファーへ後方へ勢い良く倒れてソファーに凭れる。それにフラブは不思議そうにきょとんとして「顔?」と問いながら小首を傾げた。
「大丈夫か?」
それにアリマは心配するような表情でミルエを見てそう問い。ミルナは冷静に戻り、ソファーに姿勢良く優雅さを兼ね粗たえように大勢を調える。
「すいません、取り乱してしまいました」
ミルナは気を取り直して無表情で灰白色のロングコートを両手で丁寧にアリマへ渡して。アリマは左手で受け取り座ったまま自身の灰白色のロングコートを着た。
「それで気を取り直しまして。私達処刑課の今の最高管理者……名をハセルと言い……適性は分身魔法、最適性は消滅魔法らしいです」
ミルナは顔を微かに赤くするも真剣な表情でアリマとフラブを見て言い。それにアリマは腕を組んで左手を顎に当てて真剣に考え始めた。
「聞いた事のない名前に魔法は分身に消滅…引っかかるな。他に天職があった筈だ……最高管理者となる必要がない……」
「聞いたことがない……? 最高管理者なのにですか?」
フラブはふと疑問に思い小首を傾げてアリマを見て問い、アリマは「ああ」と言いながら軽く頷いた。
「最高管理者は自身の名…情報を進んで明かすことはしない。情報が知れ渡れば甘く見られて抑止力が減る可能性があるからな。故にミルナ君に問おう。何故其の情報を知っている?」
そう問うアリマは真剣な表情で疑うような目つきでミルナの方を見る。
「彼の名は聞いたことがある思います。ロスラ・ラスリ、指名手配5年目の懸賞金80万。あの有名なマフィアの情報を担う方」
「ああ。確か実の名はラスリ・ユフィルム……だったか」
アリマは平然として真剣に答え、それにフラブは驚きと困惑を隠せずに目を少し見開いた。
「ユフィルム家の方なんですか……? でも……」
「彼はラサスの実の弟だ。裏の社会で名を変えているのだが、俺は彼とユフィルム家でも裏社会でも何度か会って話をしたからな」
「え?」
「彼の個人の私利私欲で名家という肩書を放棄したんです。だからこそ彼は鍵になり得る。ですので私は彼と接触して情報を聞き出しました」
ミルナは真剣に説明しながら再びティーカップを優雅に丁寧に持つ。
「対価として何を差し出した?」
「ヨヤギ様が住まわれている家の場所です」
ミルナは平然としてそう言い、それにアリマとフラブは呆然としてミルナを見る。
「……は? いや……待て、何故君が俺の家の場所を知っている? そして何故勝手に対価とした……?」
「ああ、それは簡単な話。私は物心つく前の生後2ヶ月くらいにヨヤギ様を始めて見まして……それから本能と気合いでヨヤギ様をずっと尾行していたんです。あ、ヨヤギ様の家が分かれば直ぐに村にある私の家に帰りましたから」
ミルナの目は微かに狂っていて、アリマを見て常に微かに顔を赤くしていた。
「……其れは……俺が指名手配されているからと受け取っても?」
「いえ、私情です。処刑課に潜入する為の努力をしながらですが」
「私情? アリマさんに恨みでも?」
「ありませんよ。告白しますと…私は人の顔が好きなんです。整っているヨヤギ様の顔は……見て分かる通り絶世ですよね。ーー勘違いしないでほしいのですが好意ではなく鑑賞する事が好きなんです!」
ミルナは堂々と嬉しそうに優しい表情を浮かべながらフラブの方を見て説明して、真剣に「そして」と言い言葉を続ける。
「シラ様も良い顔立ちをされています。目の大きさもバランスが良く可愛らしい。女性とも男性とも受け取れる素敵な顔立ちです」
フラブは訳も分からず背筋が凍り、アリマで左手で頭を抱えて引き気味に息を呑んだ。
「……っその、俺の周りにはヤバい奴しか居ないのか?」
アリマの呆れ疲れたような言葉にフラブは優しい表情でアリマの方を見る。
「心外です。私のどこがヤバい奴なんですか」
ミルナは優しく微笑みながらそう言ってティーカップを優雅に手に取ってアリマの方を見る。
「似た者同士は惹かれ合うらしいですよ? アリマさん」
フラブは揶揄い楽しそうにアリマを優しい表情で見てそう言った。それにアリマは疲れたような顔色で呆れるように右手だけフラブを見る。
「俺はヤバい奴でも変人でもない。其れに君の方が変人だろう」
アリマのその言葉に、フラブはきょとんとして不思議そうに小首を傾げて「え?」と言葉を溢した。
「私のどこが変人なんですか。私は天才ですよ」
「……まぁ良い」
アリマは呆れるようにそう言い、直ぐにミルナの方へと視線を変える。
「其れで違う取り引きをしよう。対価として君が望む物を出来る範囲で与えるし俺もフラブ君も夜会にも出席する。其の代わりにフラブ君をシラ家の当主として広めてほしい」
そう言うアリマは優しい表情を浮かべていて、それにミルナはいつに増しても真剣な表情を浮かべながらアリマの方を見た。
「ではヨヤギ様の肖像彫刻を作る許可と家に飾る許可が欲しいです」
ミルナの予想外とも言える願いにアリマは微笑むもどこか困ったような表情が混ざっていた。
「……そうか」
アリマはそう言いながら笑みが消えて前屈みに俯いて左手で頭を抱える。
「そうか……」
だがその困っているアリマをミルナもフラブも小首を傾げて見ていた。
「あ、シラ様の肖像彫刻も作る許可と家に飾る許可も欲しいので……良いのならお2人の指名手配を消すように頼んでみますよ?」
ミルナは優しい表情でフラブを見て言い、フラブはそれに明るい表情でミルナの方を見る。
「本当ですか? それなら是非しょうぞうちょうこく……? をアリマさんのも許可します!」
そのフラブの言葉にアリマは目を少し見開いて呆然として「は?」と圧ある声で言葉を溢す。そのフラブの返答にミルナは嬉しさを隠しきれずに明るい表情で優しく微笑んだ。
「ありがとうございます! 二言は通用しませんよ」
「待て馬鹿。勝手に人の分まで……と言う以前の話だぞ。どこまで君は馬鹿なんだ……」
そう言いながら呆れたような目をフラブに向けているアリマを不機嫌そうに見るミルナと、怒ったような表情で睨みつけるフラブ。
「誰が馬鹿ですか。私の場合の馬鹿は世界一の天才と比べた場合だと言ってるでしょう」
「そうですよ、ヨヤギ様。シラ様が許可をくれたのにヨヤギ様はくれないなんて…大人気ない」
その2人の言葉を聞いてアリマは疲れたように頭を抱えて呆れるような目でミルナの方を見る。
「大人気なさは関係ないだろう。…まぁ良い。許可するから話を続けよう」
アリマはフラブからの視線もあり諦めて疲れたような表情で前屈みに俯いた。
「ありがとうございます。では本題の続きを。必要ないかもしれませんがヨヤギ様はメモの準備をして下さい。現在の処刑課長全員の情報を伝えますので」
ミルナが切り替えて真っ直ぐアリマを見て真剣にそう言うと。アリマはソファーから立ち上がって自身の机の引き出しから白紙を取り出して右手に持ち。机の上に置いていた黒ペンを左手に持って元々座っていたフラブの左側に座り、紙を机の上に置いた。
「ではまず処刑課1課長の名はミスウ。因みにアオトさんの弟です。確か最適性が異空間魔法、適性が想像魔法。魔力量も1課長を勤めるだけはあります」
アリマはその情報を一字一句逃さず左手に持っているペンで紙に書いていた。フラブをはただ真剣に聞きながらミルナを見て、たまにアリマが書いている文字も見ている。
「次に処刑課2課長は知っての通り私です。一応言いますと最適性が乾滅魔法、適性が主軸管理魔法です」
「……なるほど?」
フラブは魔法を理解出来ずにいるが取り敢えず納得したように振る舞う。
「そして処刑課3課長の名はスズキ・ロク。最適性が寿命魔法、適性が火炎魔法。かなり戦闘向けの方です」
アリマは真剣に紙に書き込んでいて、ミルナはそのアリマの姿を見て頬を赤く染めていた。
「処刑課4課長はユート・ミスナイ。最適性が砂土魔法、適性が精神支配。シラ様は戦ったことがあると思いますが……ここ最近は格段に強くなっています」
ミルナは真剣にフラブを見て説明し、フラブは険しいような真っ直ぐな目でミルナを見る。
「そして最後に処刑課5課長は変わらずでナーナラス・ミクバ。最適性は物理操作、適性が遠隔魔法。罠や仕掛けを作るのが得意ですので……処刑課本拠地に来た時には最初に叩くのが好ましいかと」
「……なるほど。情報提供に感謝しよう」
そう言うアリマは手を止めてペンを紙の上に置いて姿勢を戻しながら優しい表情でミルナの方を見る。
「ありがとうございます、ミルナさん。その……夜会はミルナさんも……」
「もちろん行きますよ。今は忙しい時期なので処刑課は行かない人が殆どでしょう。私は私利私欲に従順に生きると決めましたから」
ミルナのその言葉にフラブは表情が明るくなって嬉しそうに優しく微笑んだ。
「では一緒に楽しみましょう!」
そう言うフラブだがアリマは少し呆れるような目でフラブを見た。
「その前に。ゴミ共の暗殺の方が先だぞ。ミルナさんも処刑課ならば早く帰った方が良い。万が一にも見つかれば立場も危うくなる」
そして真剣な表情でミルナを見て言い。ミルナは再び微かに顔を赤くした。
「はい。そうさせてもらいます」
ミルナは優雅にそう言いつつティーカップを持ちながらソファーから立ち上がり、「では」と言って転移魔法で颯爽とその場を後にした。それを確認したアリマは再び机に広げている地図を真剣な表情で確認する。
「話の続きだ。海中へ行く2つ目の方法、それは他の場所にドアを作る事だ」
アリマの問いに、フラブは地図を見ながら不思議そうに「ドア…?」と問いながら小首を傾げた。
「ああ。この場合のドアを簡単に説明すると、足を踏み入れれば他の場所に転移するという魔道具だ。詳しく説明するならば、其のドアは条件を設定出来る」
「条件……ですか……?」
「例えば一定以上の魔力を持つ者、人を殺した事がある者、悪意を持っている者、ある魔法を使えば開くなど。設定出来る数と範囲は無限大にある」
アリマの説明にフラブは腕を組んで右手を顎に当てて考え始める。
「……だとしたら厄介ですね。ドアの場所が分かっても入れるかは別……」
「そうだな。そして3つ目は力技だ。海の中に潜って目的地に移動する」
アリマは優しい表情で何かを企んでいるようにフラブを見てそう説明し。フラブも優しい表情で何かを企んでいるような目でアリマを見る。
「なるほど。つまりどういう事ですか?」
「……変幻魔法を使用して、範囲内の海の水を消す」
「大丈夫ですか? 適性と最適性は使えば他の魔法より多くの魔力を消費するでしょう?」
そう不安そうに問うフラブは心配そうな懸念しているような目でアリマの方を見る。
「俺の段位を忘れたか? 魔法なしで8段となり、魔力の練度と量で更に6段ほど上げた。そう簡単には無くならない」
「そうですか……」
「案ずるな。彼等は多分其のドアを使用して移動している。変幻魔法を使うのはドアの条件を見破れなければの話だからな」
アリマは優しい表情でそう説明してそれにフラブも明るく優しい表情を浮かべた。
「頼りにしますからね。キュサとアオトは?」
「ああ、2人には今回修練島に来た敵の出来る限り分かる情報をサヤと一緒に纏めさせている。雑用だな」
「いつの間に……」
「今日は最初から其れをやってもらうつもりでな。君が誘ったから2人はついて来たんだ」
「そうですか……休暇は大事……」
フラブは少し落ち込んでそう言葉を溢しながらアリマから目線を外して俯いた。
「フラブ君、髪を結び直してくれないか?」
アリマは優しい表情でフラブを見てそう言い、フラブは小首を傾げてアリマを見る。
「別に良いですけど……自分で出来てるでしょう?」
「親子団欒だ。まぁ親代わりだがな」
アリマは優しい口調でそう言いながら髪を結んでいる紐を軽々と解いた。
「分かりました。ですがソファーだと結びにくいですよ?」
フラブの問いと同時にアリマは左手に紐を持ちソファーから立ち上がってフラブに右手を差し出した。
「では庭へ行こう」
それにフラブはアリマから差し出された右手に左手を優しく置いてソファーから立ち上がる。その瞬間、アリマがフラブを巻き込んで転移魔法を使い瞬きをする間にアリマの家の花壇がある庭へと転移された。
ーーそしてアリマは花壇の方へと体を向けてゆっくり地面に座る。
「頼めるか?」
そして左手側にいるフラブに左手に持っている紐を向ける。
「はい。期待に添えるかは別ですよ?」
フラブはそう言って右手に紐を持ってアリマの背後で立ち止まった。
「相変わらず綺麗な髪ですよね……」
フラブは優しくも真剣にそう言いながら両手でアリマの長い後ろ髪を掬うように優しく触る。
「髪を切った方が良いと思うか?」
「急ですね……アリマさんはどちらも似合うと思います。短いのなら……」
フラブはそう言いながら地面に両膝をつけて座り左手で左側にアリマの後ろ髪を優しくどかして、右手の人差し指で測るようにアリマの首元を触った。
「後ろ髪は肩にかからないくらいでしょうか。それでも長い方ですかね……? 3センチってどれくらいでしたっけ?」
「そうか……前髪は?」
「そうですね。後ろ髪と長さを合わせた方が良いと思います。なんか似合いそうですよ」
フラブは楽しそうに両手で優しく後ろ髪を掬い優しく微笑みながらそう言うも。アリマは花を見つめてどこか悲しいような優しい表情を浮かべた。
「フラブ君、俺が今から泣くと言ったら受け止めてくれるか?」
アリマの悲しそうな問いに、フラブは髪からゆっくり手を離し優しい表情を浮かべて右手でアリマの頭を優しく撫でた。
「当たり前、いくらでも受け止めますよ」
「理由は聞かないのか?」
「聞きませんよ。だって泣きたい時なんて誰にでもあるでしょう? 理由を言いたくない時だってあるはずです」
フラブの優しい言葉に、アリマは溢れ出るように次々に涙を頬に伝わらせ始める。
「ありがとう……本当に君のせいだぞっ……」
アリマは少し笑いながらも苦しそうに次々に涙を流していて。フラブは服の右ポケットに入れていたハンカチを右手に持ち背後からアリマへ向ける。
「使って下さい。使ってないので大丈夫です」
アリマは震えた声で「ありがとう」と言いながら左手でハンカチを受け取り涙を拭かずに両手で握りしめる。
「……使わないんですか?」
「使えるワケないだろう。フラブ君が初めて差し出してくれたハンカチなんだ……」
「……アリマさんってたまにバカですよね」
フラブは呆れたように言うもアリマを見守るように常に優しい表情をしている。




