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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第序章「過去の記憶」
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間話「頼み事」

 ──フラブが目を覚ます1日前。アリマは1階にある小部屋に居た。窓と机と机を挟んでのソファー2つ、それしか無い部屋だ。


「難解な未解決事件ですよ、アルフェード教会は。それより見つかりましたか? シラ家長男、シラ・コウファの死体」


 アリマからみて小さい机を挟んでソファーに座る老人はアリマへの依頼の確認に来ていた。


 老人は黒いローブを着ていて目の色は黄色く身長は180センチ前後だろう。


「まさか。余とて全智全能ではない。故に確証と迄は至らなかった。だが調べた所、生存している可能性は多いに有るという結論には至ってしまったがな」


 淡々としているアリマの言葉にその老人は驚きを隠せずに前のめりになる。 


「なんと! その証拠は何処にお有りで!」


「落ち着け、どれも確証とまでは行かない物だと言っただろう。それより客人にお聞きしたい。シラ・コウファの詳細は罪人処刑課関係者かシラ家にしか今や知る人物は居ない。──答える前に身分を明かしてもらおうか」


 アリマは常に無表情で袖を通していない羽織物の内側から軽く腕を組み依頼人を問い詰める。


「ふっはははっ! 流石、ヨヤギ家の当主ですな! わしの息子が孫娘の元守人と依頼するに値したワケだ」


 その老人の言葉に、アリマは驚いて少しだけ目を見開くも直ぐに怪しみ警戒するような目を向ける。


「余がヨヤギ家の当主という事をこの便利屋という仕事上で教えた記憶は無いんだが?」


「先程の質問で罪人処刑課かシラ家、又は第三者の介入、どちらか確かめようとしたのでしょう? いやはや頭もキレるとは、認めざる得ない!」


 依頼人はアリマの問いに無視して笑い、アリマに自身の名刺を差し出す。アリマはその名刺を左手で受け取って名刺に対して魔眼を使った。


「……成る程、これは偽装ではないな。余とて驚きだ、まさか生きていたとは」


「……勝手に殺さないで頂きたい」


「其れは失礼。ヨヤギ家は今や余のお陰で半分機能してないが……何気に会うのは此れが初めてか、イサ殿」


「そうじゃな。仰る通り、わしはシラ・ハジメの父親にしてシラ・フラブの祖父、シラ・イサじゃ。して重要な質問。お前さん、わしの孫娘に対して恋情は?」


 そうフラブのお爺さんは揶揄い半分な表情をしてアリマに問う。


「愚問。165の歳の差だ、有るわけない。其れに知っているだろう? 余は薄情、忌み児、悪魔と……そう皆に言われる程、自他共への情が殆ど無い代わりに強いからな。貴方の孫娘さんからも強く嫌われてる」


 微かに自身へ言い聞かせているようにも聞こえるがアリマは当たり前のように詳しく説明し。それにフラブのお爺さんであるイサは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「すまんな、わしが悪かった。お前さんに勝手に心底同情しとこう。だが話してる間、お前さんに情が無いとは思えんかったぞ?」


 その優しくも易々と問うイサの言葉に何も言えず3秒間だけ静寂が続いた。


「……誰も彼も余のようには成って欲しくない。その考えだけが時を過ぎる度に強くなっているだけだ。周りは悪くない。余が強過ぎた」


 アリマは空気を重くしない用に軽く微笑み笑いながらそう言うも、それにイサは冷たくも少し呆れるような目をアリマに向ける。


「……全く、若造がわしに気を使うな。わしは次期に処刑課に殺される。わしが190年前から50年前までシラ家なのに殺されんかったのは罪人処刑課、最高管理者の地位に居たから」


 その言葉にアリマは無表情ながら何処か哀しそうな表情を浮かべる。


「アリマ殿がコウファが生きてる可能性はあると言ったんだ。なら思い残す事は何も無い」


 そう悲しそうに溢すイサは右側にある窓から晴れている空を眺める。


「成る程、だから貴方は余を訪ねて来れたというわけか。偶然にも貴方は運が良い、熟睡中だが孫娘さんと会うのなら此処の2階へ案内しよう」


 アリマの言葉にイサは大きく目を見開いて再び前のめりになる。


「フラブがここに居るのか! ……いや、良い。今さら会っても、ずっとわしを恨んでおるフラブだ。それに迷惑になる」


 勢いが消えて悲しそうな口調に変わるイサに対しアリマは常に冷静だった。


「余が居る。それでも心配か? 別れが言えるなら言うべきだと貴方は深く理解しているだろう」


 アリマの言葉にイサは腕組んで右手を顎に当てて真剣に考え始める。ただ少なくとも優しさという情がアリマに無いようには見えない。


「……そうじゃな。お前さんに情が無いことを、わしは強く否定しておこう。……寝てるなら、案内を頼めるかな、アリマ殿」


 それにアリマはソファーからゆっくり立ち上がってドアを開ける。アリマに続いてイサもゆっくりソファーから立ち上がった。


「それとあと1人、カケイ君という魔力人形が居るが……多分寝てるから問題無いな」


 アリマはドアから玄関前へと出て、道を開けるようにしてイサの方を見る。


「なっ、魔力人形じゃと!? お前さん何か面倒ごとに首を突っ込んでるのではあるまいな?」


 そう口調からも分かるほど焦っているイサは驚きを隠せずに目を見開きながらも、淡々としているアリマに続いて部屋を出た。


「どんな事があろうと余は依頼を遂行するまでだ。そして其れを言うならフラブ君は巻き込まれてる側だろう。説明は一旦省かせてもらう」


 アリマとイサは2階の階段を登って手前のフラブとカケイが寝てる部屋の前まで来た。


「フラブ君は右側で寝ている。戦後だから静かに」


 アリマがイサに確認をとってドアを開ける。カケイは予想通りドアから見て左側のベッドで眠っており。イサは部屋に入った途端に、早歩きでフラブの方に向かってフラブが寝てるベッドの横まで来た。


「本当に、フラブ……すまんな、頼りないお爺ちゃんでなぁ……」


 直ぐに悲しそうな表情に変わって左手でフラブの頭を優しく撫でる。それを見たアリマはイサの後ろをゆっくり歩いてついて行き、横で足を止めると冷たい目で眠っているフラブの方を見る。


「フラブ君は其れこそ実力は及第点にさえ届いてなかったが、180年前より多少強くはなっていた」


「180年前……まさかお前さん、幼いフラブを10年しか守っていなかったのか……?」


 イサは驚くも呆れる様な目でアリマを見るも、アリマは常に無表情でどこか悲しさが混ざっていた。


「……王都からの依頼仕事が絶えなかった。ヨヤギ家当主としての仕事も余の便利屋としての仕事もある。強すぎるが故に過労死するレベルで大変だったんだ」


「……嘘つけ若造、わしには分かるぞ。あそこはハジメが殺された場所。居るのが辛かったんだろ? 仲が良かったからなぁ……」


 イサの優しい言葉にアリマの表情が一瞬、微かに曇るも直ぐ様に元の表情に戻る。


「……其れなら同情してくれるのか?」


 だが次に見ると優しい表情を浮かべていたアリマの表情とその言葉に、お爺さんは目を見開くも直ぐに疲れたように長く溜め息を吐く。


「……お前さんはやはり好かんな。もう少し分かりやすく自分の気持ちを前に出せば生きやすいだろうに……」


「それは余にとって必要が無い……持ってはいけないものだからだ。そろそろカケイ君が起きるかもしれない、別れを告げるなら余は部屋を出るが……」


「……良い。一方的に告げるのは得意ではない」


 お爺さんはドアから部屋を後にし、アリマはその後をついて行って部屋を後にする。


「本当に良かったんです? フラブ君と会うのは、きっとこれが最後でしょう」


 アリマの淡々としている言葉にお爺さんは呆れるような目をアリマに向ける。


「お前さんに敬語は似合わんよ。てか気持ち悪い、止めろ」


「貴方の方が歳上、敬語を望む人だったら失礼だと考えて使ったんだが……」


「若造が。まだ本音を隠すのか?」


「……余はハジメが処刑課に殺された事に190年前、処刑課に対してかなり殺気だっていた。あの時は余もまだ子供だったからな」


「………」


「だが余がついた頃には処刑課は全員、燃えて死んでいたんだ」


 アリマのその言葉にイサは驚きが追いつかないほどに大きく目を見開いた。


「どういう事じゃ……? あれはお前さんが殺したと報告は処理されたぞ。その話は本当か!?」


 イサは両手でアリマの両腕を力強く握りしめ、前のめりになって問い詰める。


「本当だ。余が殺していたらグロさで発見した人を殺してしまう。余が殺したと処刑課に報告した者が殺した、それが妥当か」


 それにアリマから離れ、斜め右下を向いて腕を組み右手を顎に当てて考え始めた。


「……魔力の分野に長けてるお前さんでも断言は出来ぬと?」


「……すまない。此れは嘘だ。真実は時に知らない方が幸せ、其れでも聞くか?」


 その言葉にお爺さんは少し目を見開き、直ぐ様に表情が暗くなって軽く溜め息を吐く。


「そう言うことか。それなら厄介じゃなぁ。もっと早く知りたかったぞ。そしたら詳しく調査出来て、フラブの味方を出来たかもしれぬのに」


 イサの首元にある印が黄色に発光し、イサは悲しそうな表情を見せる。


「もう時間切れじゃ、馬鹿なフラブをこれからも頼むぞ。アリマ殿」


 イサは少し涙を流すも急いで追加の依頼金貨が入った袋をアリマに手渡しして、それをアリマは左手で受け取った。


「ああ。余はフラブ君の親代わりだからな」


 アリマが優しくそう言うと、イサは優しい表情で転移魔法で颯爽とその場から居なくなった。


「一方的な依頼は無かった事にする。そう説明した筈なんだがな」


 そのアリマの表情はどこか悲しく、廊下の壁に軽く凭れながら羽織物の中から腕を組んだ。


「『約束』は何があっても果たす……」

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