第四十七話 絶望という狂意
アオトは険しい表情でフラブの方を見るも、フラブは腹部を貫かれても悠々とカケイを目掛けて目に見えない速さで剣を振り下ろしており。カケイも氷の傘で受け止めてはフラブを目掛けて傘を振り下ろしてた。
ミリエは涙が流れそうな痛々しい表情でココアに髪を掴まれて上へ上げられている。
「人って簡単に絶望して助けを乞いて助からずに更に絶望する。だから僕は人が好きなんだ」
そう言うココアはミリエを人質にとるように笑みを浮かべてアオトの方を見る。
「魔法を解除しろよ、元処刑課。撃ったところでこの子を身代わりに出来るからさ」
それにアオトは強くココアを睨んで起動魔法を解除し、両手に拳銃を握って銃口をココアへ向けた。
「ーーそう。でも駄目だよ。銃しか取り柄がない君じゃ皆んなの足手纏いにしかならない」
ココアが優しい表情でそう言った瞬間、ココアの背後からフラブが現れ。ーーフラブは両手に大剣を握ってココアの胴体を目掛けて上へ斬りかかった。
だが大剣は氷へと変換されて無くなり、それについて行くフラブは険しい表情を浮かべる。その瞬間、カケイがフラブの左手側から現れ氷の閉まってる傘を右手に握って上から下へフラブに斬りかかったーー。
「ーッ!何なんだ…ッ」
フラブは地面を蹴って左側に背を向け、そのまま背後へバク転で5メートルカケイから距離をとる。カケイは尽かさずフラブの方へ走り出しフラブは険しい表情を浮かべた。
ミリエは痛々しい表情で消された足から血が流れるも両手で必死にココアの右手首を掴んで抗う。
「ーー何なの……お前ッ!」
だがココアの左手側にいるアオトがココアへ向かって2弾発砲するも、ココアへ着弾する前に燃え尽きる。それを見て悔しそうにもアオトは険しい表情を浮かべるも大きく目を見開いた。
「……っ!」」
「ーーコクを返してッ!」
必死に言うミリエでもココアは絶望を楽しむように悠々とした笑みを浮かべている。
「無理。でも良い絶望だったよ」
ミリエは泣きながら必死に抵抗するも、ココアは躊躇わず無慈悲にミリエを氷へと変換したーー。
容赦も慈悲もなくココアはそのまま破壊魔法でミリエだった氷を跡形なく粉々に破壊する。それを戦いつつ見たフラブもココアへ銃口を向けていたアオトも動きを止めて目を大きく見開いた。
「絶望の空気! ーー良いじゃん…っ!」
ココアは楽しそうに笑いながら右手で頭を抱え、左目でアオトの方を見る。そして腕を下ろし両拳に黄色い炎を纏って躊躇わず全速力でアオトの元へと走り出した。
フラブは目を大きく見開き動きを止めて呆然とその光景を見ていて。動きが止まったフラブを見てカケイも動きを止めて魔法を解除する。
「急にどうし……?」
絶望したかのようにフラブは急に崩れ落ちるように地面に膝をつけ、少し俯いて両手で頭を抱えた。
「……っ?」
そんな状況でもフラブの脳内に見知ったような知らない声が強く響き始める。
「助けてやろうか?」
そう反響するように聞こえる女性らしき声にフラブは両手で頭を抱えつつ強く目を閉じる。
「誰だ……お前は……ッ!」
必死にも急に声を荒げて言うフラブ。ココアもアオトも動きを止めてフラブの方を見る
「私なら君を助けられる」
「違う……っ!」
瞬時にフラブは毛先だけ黄色に変色し、それを見たカケイとココアは咄嗟に地面を強く蹴る。ーーそしてフラブの背後にある壁に背を向けて合流しつつフラブから最大限距離を取った。
「ごめん……っ、フラブさん……」
カケイは表情がますます暗くなり、ココアは目を大きく見開いて呆然としてフラブを見て背筋が凍る。
直後ーーフラブの全員に電気が纏われその場全体に冷たく鋭い殺気が充満した。
アオトは目を少し見開くも、直ぐ様に理解して両手に拳銃を持って銃口をフラブへ構えた。
「またアレに……」
そしてアオトはフラブを見て苦しそうな険しい表情を浮かべ。カケイはココアと違って冷静で常に表情が暗く、冷たい目でフラブを見ている。
「……ココア。ミライさんに知らせろ。逃げるぞ」
カケイは冷静に言うも、アオトはココアを睨みながら手に持つ銃をココアの少し上の方へ豪速球程の速さで投げつけた。
「……何を……」
ココアは不思議そうな表情でアオトを見るも、拳銃が上空で停止する。それを確認したアオトは上空にある投げた拳銃に右手を翳すした。ーーその瞬間、拳銃の銃口がココアの方を向いて勢い良く1弾発砲しココアの心臓位置を貫いいた。
だがココアは痛そうな表情を浮かべるも、直ぐ様に楽しそうに微笑んだ。
「効かねーって言ってるだろ」
そして右腕が無くなったミライが颯爽とココアの右横に転移して来た。
「逃げよう。ヨヤギ・サヤに腕を切断させれた……それにヨヤギ・アリマも来た」
現れたミライがそう淡々と言い終わると同時にーーココアの頭と四肢が全て吹き飛んだ。ココアの息は急に絶えて胴体とバラバラになった頭や四肢が地面へと転がる。それにココアを呆然として見るカケイとミライだが直ぐ様にフラブを見る。
するとフラブが一点の光もないドス黒い目でココアを強く睨んでいた。そこから溢れ出て向けられる殺意は息を呑む暇すら与えてくれない。
それと同時にフラブの背後に左肩にサヤを担いだアリマが転移して来た。
少し前サヤはーー機械の人形を出してはミライへ殺意を向けながら襲わせる。それにミライは悠々と避けながら素手で人形を触って破壊していく。
ー 不味い……人形が着実に減らされてる! まだ20分くらい……あの人の魔力の底が見えない……っ!
サヤは冷や汗を流すも、次々と斧や剣を持つ機械人形を出してミライへ勢い良く向かわせ続ける。
「……っ、そろそろ強襲して来た目的を言ってほしい! 貴方たちはどこの誰?」
サヤは険しい表情を浮かべるも、ミライは手加減をしているかのように立ち止まってサヤの方を見る。
だが襲って来た機械人形は全て素手で触っては悠々と壊し続けた。
「来た理由か……貴方は絶望をした事があるか?」
冷静にもミライはそう問いながら機械人形が左横から斧を上から振り翳して襲って来たが後ろへ避けて左手で触って軽々と壊す。
「ある! 分家の当主を着任した時! 正直、もう物を作れないんじゃって後悔したし絶望した! だけど当主さんは興味さえ持たずに関係無く作らせてくれた!」
対抗するようにサヤは真剣な表情で続けて機械人形を2体出してミライへと向かわせた。
「救世主が居る絶望なら容易い。ワタシ達がやろうとしてる事は果てのない絶望をさせること。来た目的はここに居る全員を這い上がれない程の絶望へ落として殺すこと」
淡々とそう言うミライは自身の足元から徐々にサヤを目掛けて地面を壊した。その衝撃で機械人形2体はバランスを崩し、サヤは焦りつつ左手側へ避ける。
その瞬間、ミライは左腕を後ろに持っていきながらサヤの前に現れ。ーーサヤの心臓を目掛けて勢い良く左の手のひらで打とうとするも、サヤは咄嗟に左腕で防いだ。
「ーーッ!」
サヤの左腕は壊れるように肩から消えてなくなって血が飛び散りーー目を大きく見開いた。
それを確認したミライは同時に右腕を後ろへ持っていきつつ勢い良くサヤの心臓を目掛けて右手に握る短剣で刺しかかるーー。
だがサヤの心臓に到着する前にミライの右腕の肘から下が消えて無くなった。
「……っ!?」
サヤは微笑んで受け身を取って地面へ片膝を着けて着地に成功。
「私の傑作の出番!」
腕から血が流れるも微笑み半分、険しさ半分の表情を浮かべた。ミライは理解も反応も出来ず。ミライは地面に足を着けて左手側を振り返る。
するとそこには変わらず黒いローブを着ている人型の機械人形が居た。だが身長は100センチ、持ってる武器は右手に斧といった身長以外は特に変哲はない。
だが、その左手に持っていたと思われる血がついた斧がミライの右手側の奥にある木に突き刺されいる。
「……ッ! やってくれたな…ヨヤギ・サヤッ!」
ミライはサヤを見下ろして仮面の内側から睨むも、直ぐ様に最高傑作の機械へと目線を移動させた。
「こっちの台詞!」
サヤは痛みを堪えているかのような笑みを溢して息も荒くなる。だが目は死んでおらず、自身の周りに新たに4体の機械人形を出現させた。
「……っ向上心ある若者の修練の邪魔をする人はッ! 許さないから!」
互いに片腕が無くなるも何故か余裕の差が歴然として出ていて。ーーサヤは険しくも、ミライは腕をあまり気にしてないかのように悠々としている。
最高傑作の機械人形が勢い良く斧をミライへ振り翳すも、ミライはギリギリ直前で避けた。
そして右手で勢い良くその機械人形の腹部に触れようとするも、機械人形は直前で屈んで避ける。
それと同時に左手に斧を出し強く握ってミライの横腹を目掛けて横から斬りかかったー。
だがミライは瞬時に地面を蹴って上へ跳びその機械人形の頭の上に立つ。
「遊びはここまでにしましょう」
直後として傑作も含めたサヤの周りにいる4体の機械人形が崩れるように壊れて地面へ部品が散らばった。ミライは悠々と地面へ着地して険しい表情を浮かべているサヤの方を見る。
「さすが7段!」
「ワタシの最適性、破壊魔法。つまり触れなくとも波動で壊せるんだ。貴方も強かった、だが相性が悪かった」
そう軽々と言うミライの斬られた腕からも常に血が流れていて、サヤはミライを見上げて強く睨みつけながらゆっくり立ち上がった。
「私が死んだら貴方は絶対にフラブさん達を殺に行く! 諦めない理由なんて守るだけで充分ッ!」
サヤは真剣な表情で無くなって血が流れている左肩をミライに血を当てるように勢い良く振り翳した。
「……何を……」
ミライは呆然とするが直ぐに何かを勘づいて後ろへ片足が退がる。
ーー「変幻」魔法
ミライへ血が到着する寸前にサヤの飛び散った血は鉄の破片へと変化するーー。
「ーーッ!」
ミライの体に鉄の破片の切っ尖が次々と刺さり。サヤは追い討ちで鉄の破片を全て爆発させた。ーーその爆発は全て軽く収まるほどの威力だが、数が多く直撃となれば話は別だ。
ー 威力も魔法は全て残りの魔力量と練度で変わってくる….…ッ! だけど守れ! 子供の未来は絶対ッ!
サヤの表情は険しくも微笑んでいて地面に膝を着いて少しだけ赤い血を吐いた。
「ヨヤギ・サヤ……ッ!」
だが爆発も鉄の破片も喰らい、片腕が無くなってもミライは地面に足をつけて立っていた。それにサヤは驚くように目を見開いた後に険しい表情を浮かべる。
ー 最高傑作を出せる魔力なんて残ってない……私の判断ミスッ!
「違うでしょッ! 無い魔力を無理矢理使う! 意地でも死んでも時間を稼いでやるッ!」
サヤは険しい表情でそう言い地面に両手をついて吐血するもミライを強く睨みつけた。
「ーーっ何を……」
ミライは驚くように咄嗟に右手をサヤに翳すも既に時は遅かった。
ーー滅殺魔法「荒……
だが突然ーー背後から足音が聞こえたサヤは魔法を解除して勢い良く振り返った。
「フラブ君に通信すれば繋がらなかった故に理由を聞きに赴いたのだが……よく俺の領地で暴れられたな」
「当主さんっ!?」
アリマの姿は変わらず着物に羽織物を着て髪を下で結んでおり変わらず眼帯を着けている。
「来たのか……ヨヤギ・アリマッ!」
アリマは腕を軽く組んでいて不機嫌そうにミライを強く睨みつける。それにミライは咄嗟に転移魔法を使ってその場を後にした。
「当主さんッ! 早くフラブさんの所へ!」
サヤはアリマを見上げて表情に出るほどの必死さで言い。アリマは腕を下ろしてサヤの横まで来てサヤに自身の羽織物を優しく掛けた。
「少しは和らぐだろう」
アリマはそう言ってサヤを左肩に軽々と担いで転移魔法を使い修練場内へ転移した。
現在ーーアリマは左手でフラブの頭を触って、フラブの体に電気を流して気絶さた。そして悠々と強く冷たい右目で睨むようにカケイ達の方を向く。
ミライとカケイは頭と四肢が吹き飛ばされたココアを見下ろして呆然としていた。
「フラブ君の腹部の傷も塞がっていない……それに様子も見たい。故に逃げるなら早くしろ。其れとも殺されたいのか?」
威圧するようにアリマが言い、ミライはカケイを連れて颯爽と転移魔法をしようしてその場を後にした。
すると魔法を解除したアオトもフラブの3歩前まで来て真剣な表情でアリマを見る。
「何なんだ? フラブさんのあの状態は……」
「俺でも分からない。本人の意向を第一に考えるが暫くは安静にさせる」
アリマはフラブに寄り添うように右膝を地面につけてしゃがみ右肩に軽々とフラブを担いだ。
「まさか見ていて助けにこなかったのか? ずっと……」
「だからなんだ。敵が来た状況で今のフラブ君の判断と実力を試したかったんだ」
アリマは悲しそうに言ってアオトも連れて転移魔法を使用してその場を後にした。
それからアリマはフラブとサヤをそれぞれ本邸の病室みたいな部屋のベッドに横たわらせて。丁度1日が経過した頃、アオトとキュサと部屋の前の廊下で話をいていた。
「キュサはサヤの友達でもあるだろう。2人の世話を頼みたい」
アリマが軽く腕を組んで対面にいるキュサを見て冷静に言い。キュサは暗い表情でただ俯いていた。
「アリマ様は?」
「今回来た馬鹿の詳細を調べる」
簡潔に説明するアリマはずっと表情が暗く、それにアリマの左横にいるアオトは表情に出るほど怒り両手でアリマの胸ぐらを掴んだ。
「馬鹿か……っ! こんな時こそお前がフラブさんの側に寄り添わないでどうするっ……!」
アオトはアリマを強く睨みながら見上げて、アリマもキュサも驚き目を見開く。
「お前はフラブさんの親代わりなんだろう…ッ! フラブさんを大切に考えてるんだろうが! だったらフラブさんに寄り添い続けろッ!」
怒りを顕にしているアオトはそれだけ言うと、落ち着いてアリマから手を離し背を向けて廊下を左側に歩き出した。
「……キュサはアオトの監視を頼む」
アリマは少しだけ表情が晴れそう言ってフラブとサヤが寝ている部屋の中へと入った。サヤは無くなった腕に包帯を巻いて眠っていて血は止まっている。
だが既にフラブは誰にも気づかれないようにベッドの上から姿を消していた。
「そうか」
アリマはそう悲しそうに言いつつも優しい表情で転移魔法を使って颯爽とその場を後にした。
その頃フラブはーーー戦後と変わらない姿で自身の領地の崖の先端で立ち止まって虚を見つめているように目に光が宿っていない。
崖から左側には王都の正門へと繋がる通行路があり、沢山の人々が行き交っている。
フラブは風に服や髪が揺られながら常に目の前に広がる草原の方を見つめていた。
「……草原でも死ねるのかな……」
フラブはそう言葉を溢しながらも常に無表情で意を結する事もなく瞼を閉じ躊躇いなく崖から飛び降りた。
この場所で生まれてこの場所で死ねる、それがどれだけ幸福か。死ねばこの世界から、人の死から、無力感から、自己嫌悪から、後ろ指から、痛みから解放される。逃げると言った方が正しいのかもしれない、頼めば存在ごと消してくれるかもしれない。
フラブはそう考え続けるも、決して死へ後悔することもなく常に目を閉じたまま落下するーー。
だが地面へ体が着くことはなかった。ーー体の腹部にツタが巻き付いて崖の上へと容赦もなく瞬く間に引き上げられた。
「邪魔しないで下さい、アリマさん」
気がつけば魔法は見当たらず、フラブは背中に腕を回されてアリマに軽々とお姫様抱っこをされていた。そのアリマは優しい表情を浮かべながら平然としてフラブを見下ろした。
「俺は君を自分の子みたいに大切に想っているんだ」
「……では止めた責任をもって私の命を存在ごと消して下さい。変幻魔法が使えるのなら余裕でしょう」
アリマとは対にフラブの言葉は冷たく、アリマは優しさから表情を変えることはしない。
「君にだけは使えない。教えてくれ、何が君をそこまで追い詰めている?」
「……私は昔、お母様やお父様、お兄様に守られて生き延びました。私を守らなければ今も幸せに生きていたでしょう?」
「………」
「ーーでも私が守れた人って居ないんですよ。お母様とお父様ならもっと人を助けられた。私を守ることで亡くなった方は私以上に人を助けられる強さをもった方たちなんです。皆んなを守れる強さを求めれば巻き込んでしまった人すらも守れずに……私の存在が人の未来を奪っているのに誰1人として守れないんです」
「だが君のせいではない」
「そう言い切れますか?」
フラブの圧も消えた気力がない問いにアリマは上手く反論も出来ずに黙り込んだ。フラブが求めている言葉はそれに対する肯定と詭弁ではない。
「だから私はもう死にたいんです。死んで全てから逃たい……でも逃げたら誰がシラ家の当主になれるんですか? だからもうわからなくて……考えれば考えるほど苦しいんです」
震えた声でそう言うフラブを見てアリマは昔の自分と重ねるように悲しそうな表情を浮かべた。
「死にたいなんて助けられなかった人たちを想えば絶対に言うことも思うことさえ駄目な言葉です。ーーですがもう疲れました。自分の無力さにも、この現実にもに……考えることも死にたいって思うことも」
フラブは悲しさも苦しさも全てが混ざって常に感情がないように常に無表情。アリマは優しい表情でフラブの目を見て、左手で軽くフラブの頬に触れる。
「アリマさん。アリマさんは人が死ぬ時に泣いたことがありますか? ーー人を殺したときに罪悪感よりも自己嫌悪が勝ったことがありますか……?」
そう不安そうに問うフラブは気力のない目でアリマの目を見てている。その問いにアリマは明るい表情ながら見守るように優しく微笑んだ。
「当たり前ある。沢山の人の命と未来を此の手で何度も奪ってきたからな」
「それなら分かるでしょう。人は簡単に死ぬ。目の前にいる人すらも守れない私には明日も明後日も永遠に笑う資格なんてないんです」
フラブは感情を前に出して乗せることもなく淡々としている。それを見ても聞いてもアリマは優しく微笑んでフラブを見ていた。
「フラブ君。ーー死ぬ方が悪い」
アリマは当然のように優しい声色でそう言いながらフラブの頭を左手で優しく撫でる。
「は……?」
「死ぬのは己の弱さの怠慢だ。もしミリエやコクツ等が俺くらい強ければ彼等は死ななかった筈だろう? 死ぬのは弱いから、故に弱い方が悪い」
予め用意していた言葉のように何処か淡々としているように聞こえてくる。アリマの本心とも思えない言葉にフラブは驚きで思考を停止して目を大きく見開いた。
「それ……本気で言ってるんですか?」
「ああ。死ぬ方が悪いんだ。大抵の人間は龍魔物や幽霊魔物にも勝てないんだぞ? もちろん獣魔物にもな」
アリマは優しい声色で問うもフラブは聞こえていないかのように反応がない。それでもフラブは微動だにせず、虚を見つめているかのように目に光も宿っていない。
「君が居ない世界に価値なんて塵ほどにもない、君が死ぬ未来に希望は微塵も残らない、君が笑えない情景に理想はない。ーー君は生涯、逃げることすら許されない。重荷を背負え。巻き込んで死なせた者を想うのならシラ家の当主として成果を成せ」
「………」
「其れに君は能無しでもない。資格も価値もある。君が思い詰める必要はない。誰も其れを望まない」
アリマは常に優しく微笑みながらそう言うも、フラブの表情は無を表している。
「俺は君になら殺されても良い。それに君がもし死ねば俺は直ぐに自害する」
優しくも真っ直ぐな狂っているような目でフラブを見て言うアリマだが、その覚悟にフラブは訳も分からず理解さえ拒むようにフラブは瞳孔さえなくなって目を見開いた。
「は….…?」
「俺が生きる理由はフラブ君の成長にあって死ぬ理由も君にある。君の意思を優先する」
「どうしてそこまでっ!」
フラブは驚きつつ少し声を荒げて言うも、アリマの表情は常に優しかった。
「君が誰よりも優し過ぎる子だからだ。其れに俺はハジメとの約束を破って目的を達成させることが出来ずに君を死なせるなど嫌だからな。優しすぎる君が笑えない世界で誰が笑える?」
「……もうこれ以上、誰かが殺されるのを見るのは嫌なんです。見たくない」
「そうだな。其れなら無理に君が変わる必要はない」
アリマの言葉にフラブは不思議そうに「え?」と問いながら涙を止めてアリマを見上げる。
「世界を変えてみれば良いだろう」
「……凄いことを言いますね?」
フラブは面白いものを見るかのように微笑み、それにアリマは常に優しい表情をしていた。
「魔物を絶滅させて現れなくして……魔力という根源させも消してしまえば言い。何度でも言うが俺は君の味方だ。俺は君の選択を尊重しよう」
ーーその頃とある塔の屋上ではカケイとミライは横にベンチに座って3歩前ほど前にいるメイ・ワクと話をしていた。
「すいません。通信妨害の結界がヨヤギ・アリマに上から更に張られて報告が出来ませんでした。このメイ・ワクのミスです」
申し訳なさそうに言うメイ・ワクは変わらずの白いローブにフードを深く被っている。
「何ら問題はない。今回ワタシとカケイは足止め役。殺し役のココアが死ぬのは予想の範疇。それに化け物を覚醒へと進められた。大きな収穫だ」
ミライは白いローブに深くフードを被って黒い仮面をつけていて変わらずの機械的な音声だった。
「そうですか……ですが予想外なことに。シラ・フラブ自身も化け物です。成長速度がシラ家の領地に居た頃と比べて狂っている。……大丈夫ですか? カケイくん」
メイ・ワクは腕を組み不思議そうに小首を傾げてカケイの方を見る。カケイはフードを脱いでいて常に目に光がなく、無表情ながら暗い表情で俯いていた。
「フラブさん、強くなってたんだ」
カケイは暗い声色で虚を見つめているようにそう言い、ミライもカケイの方を見る。
「友達もたくさん居た。俺が居なくても平気そうだったんだ。それもとても悲しかった」
「………」
「だけど俺は正直……フラブさんが憎くもある。化け物がいるせいで俺は存在している。そのせいでタナカが殺された」
カケイの暗く曇ったような表情にミライとメイ・ワクは口を挟もうとするも出来ずに言葉を呑む。
「それでも……フラブさんは何も知らねぇし悪くもねぇ……だから完全に嫌いになれねぇ。俺は正解が分からないから」
「……なるほど。それなら簡単な話。シラ・フラブの周りから人を消せば良い」
ミライが淡々とそう言い、カケイは驚くような表情でミライの方を見た。
「つまり人の命の価値を変えるんだ。人を殺せば殺すほどに自分の中の人の命の価値は減るだろう。そしたら君はシラ・フラブの唯一の人になり、シラ・フラブを嫌いにはならない」
「は……?」
「君の苦しみと我々の目的の利害は一致する。シラ・フラブの周りの人殺し、君だけがシラ・フラブに寄り添えば、シラ・フラブの心は君に向くだろう」
「そんなことっ……」
それにメイ・ワクは真剣な表情で右手を顎に当ててて考え始める。
「ミライくんが言ってる事は即ち弱みに漬け込む…ですね? 確かに手段としては確実に近いでしょう」
カケイは変わらず驚くような表情でメイ・ワクを見るも、メイ・ワクは優しい表情を浮かべた。
「ですがシラ・フラブを絶望させようとしてる我々とて人としての倫理を捨てるワケにはいきません。倫理に従ってシラ・フラブを絶望させるのです」
「…メイ・ワク。目的の為に人を殺してる時点で我々に倫理があるとでも?」
「その死は最低限の犠牲、そう割り切るのですよ。このメイ・ワクとてヨヤギ・アリマという怪物を敵に回したくありませんし、ただの通過点としてもただの少女に絶望なんてさせたくありませんので」
優しいメイ・ワクの言葉に、カケイも切り替えたかのように少し優しい表情を浮かべた。
「ですが、今回のヨヤギ・アリマは少し…倫理から1番かけ離れていましたね。我々が来たことに気づいている上で他の者を助けれるのに助けず見捨てて……利用してシラ・フラブを試した……」
それにミライは前屈みに少し俯き、カケイは驚いて大きく目を見開く。
「どういうっ!?」
「通信妨害の結果は直ぐに張れるモノではない。それに最初にシラ・フラブの元ではなくヨヤギ・サヤの元に……ワタシのところに来たことも裏付けになる。彼は正真正銘の冷酷が似合う鬼畜だ」
ミライは嫌そうにも少し暗く聞こえる機会的な音声で言い。カケイは訳も分からず目を大きく見開いてメイ・ワクを見ていたが次第に表情が曇って前屈みに俯いた。
「そっか。フラブさんの絶望は1つのピースにすぎねぇ。だからコウファさんに同情するし言ってることも分かる。だけど気になる点があんだ」
「……気になる点?」
とメイ・ワクが小首を傾げてカケイを見て問うも、カケイはひたすらに表情が暗い。
「あのフラブさんの中にいる化け物が完全に覚醒した状態で殺さねぇとダメなのか? そうじゃねぇと何度でも生き返るって、なんか騙されてる気がして……」
不安そうに問うカケイは真剣な深刻そうな表情で下を向いている。それにメイ・ワクはいつに増しても真剣な表情を浮かべた。
「ええ。覚醒……所謂完全な状態で殺さないとまた復活するとか……分からない以上は最悪に備えてルル様に付き従うしかありませんよ」
「ルル様の言う通りの最悪だった時の被害が大き過ぎるのと現に化け物がいるから従っているだけ。我々は彼の事も何も知らない。だからカケイ、君はワタシ達と違って手を血で染めなくても良い」
カケイはミライの優しい言葉に驚きを隠せずに目を多く見開き、それにメイ・ワクは暖かく見守るように優しい表情を浮かべた。
「もしルル様がワタシ達を利用しているのであれば、その時に友達思いの君までも罪を負うのは違う」
「そうですね。このメイ・ワクも同意見です。誰しもがルル様を信じているワケでは御座いません。其れこそコウファ君が模範的な良い例でしょう」
「……優しい奴だな。何でココア以外の殆どが皆んな優しいのに……優しいフラブさんと戦わなきゃいけねぇんだ」
カケイは辛そうな重苦しい表情を浮かべて少し前屈みに俯いた。
「そのココア様の件ですが、誰に殺されたんですか?」
突如ーーメイ・ワクの左側に白いローブを着てフードを深く被っているカナデが転移して3人に問う。
「……化け物だ。カナデ、仇を討とうなどはするな。その復讐心は弊害でしかない」
淡々と言うミライはカナデを見上げて、それにカナデは暗い表情でミライを強く睨みつけた。
「自分はコウファ様の部下です。貴方の考えなどコウファ様の意見よりもどうでもいい」
「……カナデくん。言うのはなんですが、これはミライくんが正しいですよ。化け物以前に……シラ・フラブを殺す気ですか?」
丁寧に問うメイ・ワクは軽く手を後ろで組んでカナデの方を見る。それにカナデは少しだけ歯を食いしばってメイ・ワクを嫌そうに睨みつける。
「カナデ。フラブを殺すんだったら僕が許さないけど?」
突如としてカナデの左背後に現れたコウファはそう言いながらカナデの左肩に右手を軽く置いた。
「貴方もココア様が殺されたことを軽く受け流すんですか?」
「そんなワケないでしょ。ただフラブは僕の妹だから今回は君の出る幕ですらない。君も大事な僕らの戦力だから死なれたら困るのも事実なんだよ」
コウファは優しい口調でそう言い、それにカケイとメイ・ワクは優しい表情でコウファを見る。
「コウファくんは引き続き青い蝶さんを使ったシラ・フラブの精神の崩壊、監視官さんの命に従って下さい」
そのメイ・ワクの言葉にコウファは悲しくも少し暗い表情で微笑んだ。
「分かってる。分かってるよ……」
「そう……皆んな悲しいんですか。では今から皆んなでお菓子パーティーをやりましょう。シラ・フラブを壊す前に壊れてしまいます。息抜きも大事ですから」
カナデは優しくそう言い、それにその場にいる全員が驚きを隠せずにカナデの方を見る。
「……確かにいいですね。このメイ・ワクも策を考えれば糖分がほしいのは確かです。お菓子ときたら紅茶の準備もしなければ」
メイ・ワクは楽しそうに微笑んでそう言い、それにカケイは瞳孔も光もない目を輝かせた。




