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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第五章「1ヶ月の修練島」
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第四十五話 成長段階

 あれから多々あり3日後の深夜2時──。

 フラブは右手首に着けた青いリストバンドを昼頃にミリエに奪われていた。早すぎる。


 ── 普通3人で来るか……?


 十分ほど前の出来事。夜遅くから散歩をしようとフラブはドアを開けて部屋を出た。──すると突然、三方向からミリエとコクツとアオトに颯爽と囲まれた。


「……ッ」


「すまない、フラブさん!」


 申し訳なさそうに謝るアオト。瞬く間にコクツとアオトにそれぞれ全力で腕を押さえられた。そして次の瞬間には手首につけていた青いリストバンドを颯爽とミリエに取られたのだ。本当に一瞬の出来事。


「嘘だろう……」


「これで1人潰せたッ! 協力が駄目なんて言われてねぇからなァッ!」


 嬉しそうに手を腰に当てながら言うコクツだが、ミリエはフラブの青いリストバンドを握り締めて外方を向いた。そしてアオトはフラブの方を見れずに腕を組んで申し訳なさそうに外方を向いた。



 ──そして今現在、電気は消えている暗い部屋の中で考えながらベッドで横になって天井を眺めていた。


「……寝れないな」


 そう言葉を溢しながらフラブはベッドから上半身を起こしてベッドに座りつつ少しだけ俯いた。


「……明日、殴りに行かないとなのか……」


 急にドアがノックされ。フラブはベッドから降りてドアへと進み。ドアの鍵を開けた。ーーすると目の前にミリエがぶかぶかの白い服を着てフラブを見上げて立っていた。


「もうフラブは、手首終わった。一緒に居よ?」


 嬉しそうに言うミリエの手首は青いリストバンドの事なのだろう。フラブは優しく微笑んでミリエを見てドアを支えて室内へと通した。


「コクツは良いのか? ずっと一緒に居たのだろう?」


 フラブはそう問いながらベットのドアから見て奥側へ座り、ミリエはフラブの左横に座った。


「コクは、弟みたいなもの」


 ミリエはそう言いながらフラブの膝の上にそっと頭を置いて膝枕をされた。


「フラブ、お姉ちゃん」


 ミリエはフラブに甘えるように抱きつき。フラブは優しい表情でミリエを見て右手で優しくミリエの頭を撫でる。


「そうか」


「っフラブ元気ない……?」


 少し焦りながらもミリエは無表情ながら心配そうな目でフラブを見る。


「大丈夫だ。ただ自分の無力さが嫌なんだ、とても。命に変えても私は人の未来を守りたい。それだけ」


「……私は命に変えても、フラブを守りたいよ」


 フラブは驚き目を少し見開くも、直ぐ様に優しく微笑んだ。


「私に守られる価値は無い」



** ** * ** **


 その日の朝8時、──フラブは変わらずの白い衣服でサヤと共にアリマの執務室に来ていた。サヤは変わらずの衣服、黒いパーカーを着ていて執務室前で待っており。アリマは変わらずの着物にポニーテールをしていて眼帯を着けて椅子に座り、机と向かい合って書類を片付けている。


「何の用だ? 会えて嬉しいぞ」


 アリマは書類を机の上に置き優しく微笑んでフラブの方を見る。フラブは意を決した表情でアリマの左手側で立ち止まった。


「殴ります」


「……え?」


 フラブは右拳でアリマの頬を目掛けて全力で殴りかかり。アリマは左手の甲で悠々と受け止めた。


「……っ! 微動だにせずですか。まぁ良いです、折角ですので少し話をしましょう」


 そう言うフラブは拳を引っ込めて右腕を元の位置に下ろした。アリマはきょとんとするも直ぐ様に優しい表情を浮かべた。


「適応魔法をアリマさんの左目に使いたいんですが……」


 フラブがそう言うと、アリマは両手を使って黒い眼帯を取り右手に持ってフラブを見る。


「そうか。使うなら早く使え」


 アリマの左目はやはり空洞となっていて。フラブは眉間に皺を寄せて右手でアリマの左目の上を優しく触る。フラブは瞼を閉じて魔法を使い、集中を切らさずに真剣な表情で魔法を使った。


「……失敗ですね」


フラブはそう言って瞼を開けアリマから右手を離して右腕を元の位置に下ろし。アリマは優しく微笑んでフラブを見ていた。


「だろうな。気に負うなよ、フラブ君」


「分かってます」


 フラブはそう言いながら右手でアリマの左目の下を優しく触る。


「左目がこうなった軌道を頑張って適応させて治せると思ったんですが……必ず適性の適応魔法を完成させます。必ずいつか…治します」


「君は凄い子だ」


 フラブは少し驚くような表情を浮かべて腕を元の位置に下すも小首を傾げた。


「アリマさんって前より不気味さが減ったというか……雰囲気が柔らかくなりました?」


 アリマは優しい表情を浮かべており、フラブは不思議なものを見る目でアリマを見る。


「無自覚か? 君が俺に泣いて良いと言った。感情があっても良いと。盗聴してたら君は人を殺した者でも泣いて良いと言ったんだ」


「一人称……え、本当に何があったんですかっ!? 今盗聴って言いました!? 脳をドブに捨てて来たんですか!?」


 そう驚きを隠せずに大きい声で問うフラブは毛虫を見るような目でアリマを見る。


「誰にも理解らないだろう。俺にとって其れが何よりも言って欲しかった言葉で、何よりも救われた言葉なんだと」


「はぁ……、?」


 フラブは訳もわからず再び小首を傾げるも、真剣な表情に変わり腕を組んで右手を顎に当てて不思議そうに考え始めた。


「何だ?」


「いえ。本当にムカつくほど美形だなと。なので殴っても良いですか?」


「……君の反応は稀有だな。会話が成り立たない」


 アリマは少し恥ずかしそうにするも、フラブは腕を元の位置に下ろす。


「それはアリマさんの方でしょう。前より……喜怒哀楽……他の感情も表情に出てますね。本当に変わりようが心配ですよ?」


 フラブは再び不思議そうなものを見る目でアリマを見て、それにアリマは気を取り直して優しい表情を浮かべた。


「君のせいだ。ああ、其れと。遊園地の件で君が居なければ助からなかったと……君に会ってお礼がしたいという者が居るんだが殺しとこうか?」


 フラブは腕を組んで右手を顎に当てて考え始め「そうですね」と言い腕を下ろした。


「殺さないでほしいですが、会うことは遠慮しておしましょう」


「分かった。では再び修練に励め、フラブ君」


 すふと突然部屋のドアが勢い良く開きサヤが部屋に入って来た。それにきょとんとするアリマとフラブの視線がサヤへと移動する。


「じゃあ早速! 修練に戻ろう! フラブさん!」


 サヤは相変わらず元気そうで微笑みながらフラブの3歩前で立ち止まる。


「待て。少しサヤと話がしたい。フラブ君だけ転移させてくれ」


 アリマは真剣な表情でサヤを見て言い。サヤはフラブの頭に右手を置いてフラブにだけ転移魔法を使用し、フラブは颯爽とその場を後にした。


「青い蝶の件で1人捕まえた者が居るんだが……相当の馬鹿だった……」


 アリマは机に右肘をついて眉間に皺を寄せて右手で頭を抱え。サヤは腰に手を当てて「え?」と問いながら小首を傾げた。


「人の恐怖や悲鳴を好むという……恐怖で支配しようとすれば己の恐怖心すら悦び、興奮に変えてしまうんだ。流石に俺とて引いた」


 アリマはとても疲れたような表情で。サヤはアリマを見て優しく微笑んだ。


「それは大変! 殺すの?」


「否。問題は其の馬鹿をフラブ君と戦わせたことにある。遊園地の入り口には沢山の腕がない死体や……まだ生きてる者が居たんだ。悲鳴や恐怖を愉しんでいたとなればフラブ君と会わすべきではなかった……」


 サヤは想像するだけで無意識にも嫌そうな表情を浮かべて「うわぁ…」と言葉を溢した。


「にしても! 当主さんっていつに増してもフラブさんファーストだね! 必要の無い事はしない、そんな昔の当主さんから見て今の当主さんは異常過ぎる!」


 そう明るく楽しそうに微笑んでそう言うサヤだが、アリマは腕を元の位置に下ろし小首を傾げた。


「当たり前だろう。フラブ君を守る事は俺の最重要事項だからな」


 サヤは平然と言うアリマを一瞬だけ冷たい目で見るも直ぐ様に優しく微笑んだ。


「じゃあ何を天秤に掛けても当主さんはフラブさんを守るの?」


「ああ。だが厄介なことに守られる事がトラウマらしい。故にバレないように守り続ける」


 アリマは平然と言い。サヤは笑顔で「そっか!」と言って収納魔法を使い右手を入て赤いリストバンドを取り出した。


「頑張って! そして提案! これに当主さんの魔力を混ぜて重さを変えれるようにする! そして経過報告!」


 サヤは元気良く赤いリストバンドをアリマに見せるように言い。アリマは「待て」と言ってサヤの言葉を止める。


「提案なら俺の意見も聞け、急に経過報告まで進むな」


 その言葉にサヤは驚くような表情で「そっか!」と気づいたように言い。優しい表情を浮かべて赤いリストバンドをアリマの机の上に置いた。


「重さ程度なら俺の魔力を混ぜなくとも変更可能だろう」


「いつでも変えられるように! あ! あと着けてみて!」


 アリマは呆れるような目でサヤを見るも「分かった」と言い赤いリストバンドを右手首に装着した。


「普通のリストバンドだぞ、重さの設定をしてないのか?」


 小首を傾げながらサヤを見て問い。サヤは変わらず楽しそうに微笑んでいる。


「してる! それは100キロ!」


 アリマは赤いリストバンドを見て右腕を顔の位置まで上げたりして再び小首を傾げてサヤを見た。


「100……?」


「うん! さすが! 利き手じゃなくても凄いね!」


 アリマは目を少し見開くも真剣な表情に変わり、リストバンドを軽々と外して机の上に置いた。


「……ともかく。重さなら俺の魔力を使わずとも大丈夫だろう。経過報告に移れ」


「りょーかい! 最初にコクツさん! 彼は学力不足! だから勉強から!」


「……続けろ」


「ミリエさんは何故か簡単な魔法なら使える! だけど力だけでも充分強い!」


 サヤは変わらず元気に楽しそうに言い。アリマは腕を組んで左手を顎に当てて考え始める。


「アオトさんは戦い慣れさせて適性と最適性魔法の練度を上げさせる!」


「………」


「フラブさんは想像より強かった! なんと4段あったよ!」


 アリマは驚くような目でサヤを見て腕を下ろして机に両手を置いて勢い良く立ち上がる。


「──そうか……フラブ君が4段か……」


 だが冷静に戻り再び椅子に座って真剣な表情を浮かべて再びサヤの方を見る。


「まぁ妥当だろうな。だがやはり成長はこの目で見たかった……」


「ね! 3段が普通5段の人を追い込むなんて無理だから! だけどフラブさん! 本当に当主さんを守れるくらい強くなるかも!」


 サヤは楽しそうに微笑んで言い。それにアリマは驚くこともなく優しく微笑んだ。


「負けてられないな。不思議なことに俺は年々力が衰えるどころか強くなって普通増えない魔力量も増え続けてるんだ。俺を守れるなんて人類最強になるぞ」


「確かに! 不思議だよね! 当主さんの体質! フラブさんはこの調子だと直ぐに私では見れない程に強くなる! だからそう判断した時は後はお願い!」


「君がか?……分かった。フラブ君を優先しよう」


「ありがと! そっちは順調?」


「無論、誰に聞いている。青い蝶の3つあるらしいアジトとやらの1つは潰し終えている」


「わぁ……片目無くなっても衰えないね!」


「ああ。頼んだぞ、サヤ」


 アリマは優しく微笑み。サヤは思い出したかのような表情で少しだけ目を見開いた。


「そう言えば! 義眼! 出発前に完成した!」


 サヤは楽しそうにそう言って収納魔法から右手で木箱を丁寧に取り出してアリマの机の上に置いた。


「これ! 私の技術を用いて作った! とっても凄いよ! 魔力を通せば義眼なのに目が見える! それプラス! 常に魔眼を使ってる視界!!」


 サヤは両手を机に置いて前のめりに目を輝かせて詳しく説明した。


「あ、ああ。落ち着け」


 アリマは目を少し見開き少し引き気味で言い木箱を受け取る。サヤはハッと気づたように冷静に戻り体制も戻すも目は常にキラキラ輝いている。


「ありがとう。リストバンドと言え君の技術力はとても優れている。酒豪を省けば良いところしかないが……酒は飲んでないよな?」


 アリマは訝しむような目でサヤを見て。サヤは手を腰に当てて怒ったような表情を浮かべた。


「当たり前! 飲んでない! その代わり! フラブさん達の修練が終わったら沢山飲ませて!」


 サヤは元気良く微笑んで言い。アリマは優しい表情を浮かべて「ああ」と単調に答えた。


「頑張る! 戻るね!」


 そう元気良くそう言ってサヤは転移魔法を使い、颯爽とその場を後にした。



 その日の8時頃、──フラブは両手首に40キロの赤いリストバンドを着用しており自主練で森の中を颯爽と素早く走り両手に鉄剣を握って獣魔物や毒菌魔物を目にも止まらぬ速さで斬り一瞬で殺していく。


 それをサヤは椅子に座ってモニターで見ていて優しく微笑んだ。


「短期間で見違える! 成長速度凄い!」


 ミリエはナイフを服の中に仕舞えるように白い長袖を着ており。白い服の重さや赤いリストバンドの重さを20キロへと変更してもらった状態でベッドの上で本を読み勉強をして辛そうにしていた。


「一石二鳥! 良いね!」


 コクツは部屋の中で瞑想し常に軌跡魔法を使って魔力の調整に尽力している。


「コクツさん! まだまだかな!」


 アオトは修練場内で銃の構築から込める魔力の調整や銃の種類や軽量を計算して編み出していた。


「うん! 及第点! それから見ても……フラブさんの成長速度は異常!」


 フラブは服も40キロ。その上で両手にそれぞれ剣を持ち目に見えない速さで獣魔物を殺せるほどに成長していた。



 それから更に1週間が経過した日の朝7時。サヤがフラブの部屋のドアを勢い良く開けると、フラブとミリエが仲良さそうに戦っていた。


「え……?」


 ミリエは右手にナイフを持ってフラブに勢い良く斬りかかり。フラブは素手で全てを受け流すかのように悠々と受け止めている。目に見えない速さで攻防が繰り広げられているが2人はとても楽しそうだった。


「凄いな。ミリエ……!」


「フラブも。力が私以上になってる……凄い……」


 修練前のその光景にサヤは手を腰に当てて怒ったような表情を浮かべた。


「そこまで!」


 そう大きい声で怒るように言うと。フラブとミリエは手を止めてサヤへと視線を移しする。そしてミリエはナイフを一瞬で服の中に仕舞った。


「正直怖い! 赤いリストバンドをした状態でそこまで動けるの?」


 サヤは元気良くそう言うが、フラブとミリエは2人揃って小首を傾げる。


「60キロ程度なら……微かに重いだけですよ」


 フラブはそう言ってサヤの元へと歩き。フラブに続いてミリエもサヤの元へと歩いた。


「そっか! フラブさんは修練の時間! ミリエさん見学する?」


 サヤはミリエを見て問い。フラブとミリエはサヤの3歩前で立ち止まる。


「うん。する」


 ミリエは頷いて単調にそう言い。フラブは左手側にいるミリエを見て優しく微笑んだ。


 そして中央にある修練場へ着くと、ミリエは入り口から少し左手側に進んで端で体育座りをして見学をする。


 サヤは入り口から見て中央辺りで足を止めて木剣を右手に握りフラブの方を向いて構える。フラブは真剣な表情で右手に鉄剣を握って力強く踏み込みサヤの元へと全速力で走った。──フラブが踏み込んだ地面は1メートルほどヒビ割れる。


 そして近距離に入るとサヤに向かって剣を下から上へ振り翳し、サヤは木剣で受け止め。フラブは直ぐ様に剣を後ろに持っていき勢い良く上から振り翳すーーだがサヤは左手で鷲掴んで受け止めた。


「……防ぎますかッ」


 だが案の定サヤの左手から刃へ血が伝い。サヤは痛そうな素振りなく木剣を横からフラブの腹部を目掛けて斬りかかった。それをフラブは咄嗟に左手に鉄剣を握って鉄剣で受け止める。


「良い反応! 動きが良くなってる!」


 フラブは歯を食いしばり、全力で踏ん張ってサヤが右手に持ってる鉄剣を弾いた。


「……っ! 力強い!」


 そして右手に持ってる剣を勢い良く振り翳してサヤの首元の寸前で止める──。


「良いね! 負けた!」


 サヤは変わらず楽しそうに微笑んみながら言って、フラブは魔法を解除して体制を戻した。


「適性と最適性は使わないんですか?」


 フラブは真剣な表情でサヤを見て問い。サヤは魔法を解除して手を腰に当てる。


「本気の殺し合い以外だと使うのは成る可く避けたい! 誤って殺すのは本望じゃないから!」


「そうですか」


 サヤは優しく微笑んでパーカーのポケットから小型魔力通信機を右耳に着けてアリマへ通信をした。


「当主さん! 出番!」


 サヤはそう言って通信をきり、フラブは驚きと恐怖で目を大きく見開く。すると5秒後にアリマがフラブの背後に転移してきてフラブの右肩に右手を置いた。


「……っ! 驚かせないでと言ってるでしょう?」


 フラブは怒ったようにそう言いながらアリマの方を振り向く。アリマは変わらずの姿で白靴に下駄を履いていて髪を下で結んでいた。


「毎回反応が面白いんだ。故に君が悪い」


 アリマは優しい表情でフラブを見て言うも、フラブは真剣な表情でアリマを見る。


「殴られたいんですか? 殴られたいのなら蹴ってあげますよ」


「殴られたくはない。今から俺が君の相手をするんだ。喜べ、フラブ君」


 アリマは無表情で淡々とフラブを見て言い。フラブは明るい表情で微笑んだ。


「望むところです」


 サヤは優しく微笑んでフラブの赤いリストバンドを解除して消し、転移魔法でその場を後にした。ミリエはアリマが来た事に驚くも無表情で見学を続けている。


「では最初に。俺は魔法を使用しない。君は創造魔法のみ禁止、他は幾らでもどうぞ」


 アリマがそう言うと、フラブは「え?」と言いながら小首を傾げた。するとアリマは収納魔法を使って左手で木剣を一刀出してフラブに渡すよう横にし、魔法を解除する。


「此れを使え」


 フラブは訳も分からずアリマから木剣を受け取って右手に握りしめた。するとアリマは今いる位置からフラブを通り過ぎて歩き出す。


「簡単なルール。君か俺が降参と一言でも言う、又は戦闘不能になれば終了」


 そう言いながらフラブから4メートル離れた地点で立ち止まってフラブの方を振り向く。ーーアリマが居る位置は奥側の壁からは3メートル離れていて、フラブは真剣な表情を浮かべてアリマの方に体を向けた。


「俺は此処から動かない、其れに素手だ。フラブ君は自由に動き木剣を充分に活かして俺を負かしてみせろ」


 アリマは悠々と羽織物の内側から軽く腕を組んで微笑みながらそう言い。フラブは力強く踏み込んでアリマの元へ全速力で走り出した──フラブが踏み込んだ地面は3メートルもヒビ割れ、それを見たアリマは優しく微笑んだ。


「子供の成長は早いな」


 フラブはアリマの近距離に足を踏み入れると、勢い良く右下から左上へとアリマの胴体を斬りかかる。だが悠々とアリマは優しく微笑んで左手の甲だけで受け止めていた。


「──ッ!」


 フラブは目を大きく見開き、瞬時に剣を握ったままの右手を後ろへ持っていった。


「負けませんよっ」


 ──そして剣の切っ尖をアリマの首に向け、力強く豪速球ほどの速さでアリマの首を目掛けて刺しかかる。


「少しは強くなったか?」


 だがアリマの首に到着する前に、アリマが木剣を左手で鷲掴んで悠々と止めた。


「……っ! 可笑しいですねっ……全力なんですが?」


 フラブは微かに微笑みながらアリマを軽く睨んで見て、力を込めて引こうとするも剣は微動だにしない。


「其れは可笑しいな。俺は全力を出せば木剣を壊す、故に10分の1程の力しか出していないぞ」


 アリマは微笑んでそう言い、フラブは血の気が引いて青ざめた。その瞬間、アリマは右足を横に勢い良く上げフラブの横腹を目掛けて蹴る──。

 フラブは反応さえ出来ずに蹴られた方向にある壁に勢い良く衝突した。その衝突地点から5メートルほどの壁がヒビ割れて壁の小さい破片が落下する。だが修練場だけあって壁に結界が張られており、壁が崩壊する事はなかった。


 フラブは足が崩れ落ちるかのようにその場で座り頭から血が流れる。アリマは足を元に位置に下ろしながら腕を軽く組んでフラブの方を見た。


「此の程度受け身をとれ。修復系統は使うに少々苦手なんだ。降参はしないのか?」


 フラブは痛々しそうな表情をしながらもゆっくり立ち上がり、アリマを見て木剣を強く右手に握る。


「痛くとも降参はしませんッ! 私はそう簡単に負けないですよ……ッ!」


 フラブは痛みを紛らわすために微かに微笑み、アリマへと全速力で走り出した。


「ああ、其れでこそフラブ君だ」


 アリマは嬉しそうな表情を浮かべてフラブを見て。フラブは速度を落とさず、更に地面を踏み込む。瞬きの間にアリマの近距離に入り、アリマは少し目を見開いた。フラブは上から木剣を勢い良くアリマを目掛けて振りかざすも、アリマは右手の甲で悠々と受け止める。


「……ッ!」


「骨も筋肉も強化されているのか。凄いな…サヤが魔法を使わないにしても負けを認めたワケだ」


 アリマは木剣を右手で鷲掴み上空へ投げ捨てるように勢い良く右腕を上に上げて離し、──豪速球以上の速さでフラブごと天井に衝突させた。衝突した天井は衝突地点から半径4メートルヒビ割れ、フラブは頭から大量に出血して意識を失い勢い良く落下する。


「手加減を誤った……にしても及第点か」


 アリマは天井を見ることもなくそう言い、フラブをお姫様抱っこで的確にキャッチした。


「起きろ、フラブ君」


 アリマが無表情でフラブを見て言うと、フラブは急に目を大きく見開いて忙しく辺りを見渡した。


「な……ッ! アリマさん! 私はまだ負けていません、下ろして下さい……ッ!」


 アリマは優しく微笑んでフラブを見て、フラブは恥ずかしそうに暴れ出した。


「君は何れ俺を超えて強くなる、此れは決定事項だ」


 アリマは優しく微笑んでそう言い。その言葉にフラブは暴れるのを止めて呆然としてアリマを見る。


「だがそうなれば俺も君を直ぐに超えてやろう。今はまだ俺の方が強いがな」


 アリマはそう言ってフラブを地面へと下ろし、フラブは真剣な表情でアリマを見た。


「直ぐにでもアリマさんを超えて見せます。もう誰にも負けたくありません。勝って人の未来を守るために」


「ああ。君ならそう言うだろう」

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