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幸せへの選択を  作者: サカのうえ
第序章「過去の記憶」
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第四話 再会を祝して

 来た時とは一変して、ところどころ地面が大きく抉れている。ミスナイは土魔法を解除したと同時にフラブと戦っていた大きい土人形も解除した。フラブはそれを確認し、歩きながらカケイの所に向かってくる。


「──っしまった……」


 ミスナイがそう思う頃には既に遅く、冷たい目でフラブはミスナイを見つめている。


 ──拘束魔法「痺れ輪」


 そうフラブがミスナイに向かって右手を翳して魔法を使った瞬間、電気が溢れ出している輪っかでミスナイを腕ごと胴体を拘束する。


「──っ! さっきの拘束魔法より……!」


「カケイ、助かった」


 カケイの左隣で立ち止まるフラブは優しい口調で感謝を述べる。それにカケイは明るい太陽のような笑顔でフラブの方を見ては


「任せろ! 俺ぁ天才だからな!」


 それにフラブは少しだけ目を見開いて、思わずカケイの頭を優しく撫でる。


「これが……癒しという概念か?」


「ん? 急に何だ、フラブさん」


 不思議そうなカケイの問いにも無言でフラブはただカケイの頭を撫で続ける。


「──カケイっ、なんでお前はっ、自首して殺されないっ? 処刑課に追われ続けるなんて……」


 ミスナイの言葉にフラブは真剣な空気に戻り、撫でる手を止めて右手に短剣を出してミスナイに構える。


「俺ぁ生きる事に抗う。施設のゴミを知った時にそう決めたんだ」


 その確固たる意思を示すカケイを見てミスナイは少し目を見開くも直ぐ様に険しい表情を浮かべた。


「──っまだだ! まだ負けてない……」


 生きているからこそ苦い表情のミスナイが必死で拘束魔法を解こうとしたその時。


「話はそこまでぇ!」


 と今度は高々な女性の声が聞こえた。その声の方向は変わらず苦しそうなミスナイが居る方向からだ。


「──可愛い部下が殺されそうなら助けるのが上司だよね! ミスナイ君!」


 気がつけば、いつの間にかミスナイの左背後に人影が確認できる。その姿は誰が見ようと間違いなくアス・ユーフェリカの姿。


「ユー、フェリカ? どうしてここに?」


 ユーフェリカの姿や登場を見るなりカケイは驚きと困惑を隠せずに恐る恐る問う。そのユーフェリカは優しく微笑みながらミスナイの右横で立ち止まった。


「うん? ああ、それはね! 隠す必要が無くなったの! 罪人処刑課の2課長なんだ、私!」


 当然のように明るい声で宣言しているユーフェリカは冷たい目でカケイの方を見る。その瞳の先にいるカケイは立ち尽くして呆然としてユーフェリカの姿を見つめていた。

 それに哀れむようにユーフェリカは手を後ろで組みながらフラブの方へと視線を移す。


「フラブ、君ね? カケイという罪人を庇って、処刑課の仕事に害を成した。そしてまぁまぁな強さもある! でしょ?」


 確認を取ると言うより確信しているように聞こえる言葉だがフラブは動じることもない。


「は……?」


 ただカケイは状況についていけず、そう震えたような言葉を溢してしまう。ただ動じていないフラブは冷静に歩いて来るユーフェリカに刃先を向ける。


「それを見越して、念には念を! なんと指名手配に決まりました! おめでとう!」


 その高らかな言葉と共にユーフェリカの姿は一変して髪が黄色に長くなり、瞳の色も薄い黄色に変わってしまう。そして罪人処刑課の黒いスーツを着けていてれば少し大人っぽくなり身長が160センチ程まで変化した。

 ミスナイからすれば何度も見ている姿で驚きを隠せずにポカンとしている。


「ナラミナさんっ!? 暫く見ないと思ったら変装されていたんですか!?」


 偽のユーフェリカであり罪人処刑課の2課長と名乗るナラミナの姿。変装という面ならカケイすらも騙せていた天才とでも言おうか。


「そう! 潜入任務? ってやつでね! 大変だったんだよー! ほんと50年前から動いててね!」


 ナラミナは楽しそうに笑いを交えながらフラブがミスナイに使っていた拘束魔法を瞬く間の蹴りで、あっさりと砕いた。


「そしてその申請をしたのはカケイ、君も!」


 そして明るい声で話を続けながら手を翳すこともなくミスナイを魔法で眠らせた。


「だから君たち、今指名手配犯だよ! もし、ここから逃げても逃亡生活のスタートだね!」


 そう言い終えると見透かしているかのような鋭い目でフラブとカケイの方を見つめる。その視線の先にいるカケイにはまだ状況が追いついていないにも関わらず表情が微かに曇っていた。


「あははっ! 何、その表情? やっぱ気づいてなかった? 変装魔法なんて有名な処刑課でも使える人は限られるからねー! その分だとミスナイ君は優秀さんだ!」


「それより義母さんは!?」


 咄嗟に荒げた声で言葉を遮るカケイからは明らかに動揺と焦りが見える。


「どうやってユーフェリカと入れ替わってた!? いつからっ!? 最初からじゃねぇだろ! 絶対!」


「あっはははっ! 丁度50年前に殺して入れ替わったに決まってるじゃん! 罪人の味方をしたから仕方ないよね!」


 処刑課というものは絶対正義であるため罪人を仕事のたびに殺している。そして一応ナラミナもまた強者でありながら処刑課に勤めている善人でもある。


「ああ、あとさっき君の義母さんも殺したよ? 罪人を庇った罪人として! もう必要がなくなっちゃったからねぇ……でも心配しないで! 君も直ぐに地獄に送って……」


 カケイは言葉を遮るように殺す気で5本の超大きい氷柱を空中に生成。そして躊躇もなく勢い良く右手を出してナラミナを目掛け豪速球程の速さで投げる。


「嘘だろ、死んだってッ!」


 ーーその地点の地面に当たり激しい土埃が舞い上がって視界が塞がる。それでカケイの魔力はゼロに等しくなり息が荒くなり始めた。


「お前の嘘に決まってるッ! 殺したって! 嘘だ、絶対ッ! 俺ぁ2人に恩返し出来てねぇんだよッ!」


 絶望という名の顔をしながら声を荒げて必死に殺意を抑えているカケイ。だが氷が命中して舞い上がる土埃から人影が見えた。


「あははっ! 嘘じゃないよ! やっぱ何回見てもいいね、罪人の絶望した顔は!」


 見事に命中したはずが、高らかに笑っているナラミナには傷一つとしてついてない。


ーー拘束魔法「歪筒」


 咄嗟にフラブが魔法を放ちナラミナを拘束するも一瞬で元から無かったかのように砕かれた。


「……おかしいと思ったんだ。貴様の話だとユーフェリカが助かった所まで言ってなかった。それに大切そうに持ってた杖を忘れて置いていくなんてありえない気がしてな。宿の場所の件も含めて」


 少し暗い表情にも見えるフラブは真剣な表情で冷静にナラミナに話しかける。


「へぇ〜、そっか……私ももっと頑張らなきゃだね!」


 そう言いながら悠々としているナラミナは微笑みながら右手をフラブとカケイの方に翳した。


 ──妖火魔法「狐炉火焔」!


 ナラミナが魔法を使い、6匹の狐が円型にフラブとカケイを囲むように出現する。


「──まずいッ!」


 フラブは瞬時の判断力で絶望して動かない息が荒いカケイの服を掴んで、地面を強く蹴りつつ浮遊魔法を活用して上空に跳ぶ。──それと同時にそれぞれの狐が直径3メートルくらいの大きさの赤い火を吹いた。


「少し遅ければ大火傷じゃ済まなかったぞッ!」


 フラブは上空に居ながら元々居た地面を視界に映して立ち昇る煙を見つめている。だが上空にいるのにも関わらず背後から強い殺気を感じた。


「よそ見は駄目だよ!」


 その声と共にフラブは咄嗟に構えようとするが間に合わず上空で思いっきり腰辺りに蹴りを喰らった。苦い表情をする前に上空から鋭く落とされ、落下地点にある木の周辺の地面に凄まじい土煙が舞う。


「うん! さっすが私! 手応えあり! ……もう死んじゃったかな?」


 ナラミナは安否を確認しに地上に近づく。ゆっくりと地上に降り、地上との距離が2メートルの辺りになるとその場で止まって考え始めた。


「本当に死んじゃった? 思ったより弱かったのかな……」


 そう悲しそうに言葉を溢すナラミナは警戒を解いて更に上空から確認するために再びゆっくり近づく。

 ──だが次の瞬間、冷たい氷柱がナラミナの腹部を瞬く間に貫いた。


「──っな!?」


 それにナラミナは反応すら出来ずに驚いて大きく目を見開きながら大量に赤い血を吐いた。氷柱にも伝わる赤い血は流れて地面へと落ちる。


「殺気をなくしたな? クソ野郎ッ! こん時を待ってたぜ! 殺意と警戒はお前の場合、全く同じだからなッ!」


 苦しそうな辛い声でカケイは表情からも見て取れるほどに物凄く怒りを抑え込んでいた。

 そして次にナラミナを強く睨んでナラミナの腹部に刺さった氷柱を空中に浮かす。──そして右手を躊躇いもなく前に出して、ナラミナごと氷柱を5メートル付近まで飛ばした。


「──これがっ、限界かッ!」


 カケイは魔力切れでますます呼吸が荒くなり、険しい表情を浮かべていた。そしてフラブは蹴り飛ばされたがカケイの雪で間一髪の致命傷は無かった。


「カケイ、助かった。ありがとう」


 フラブの髪は衝撃で解けており。自身に向けられた素直な感謝の言葉の連続にカケイは胸が暖かくなり笑顔になった。


「おう!」


 だがカケイが笑顔で返事をするとナラミナに刺さった氷柱が壊れて雪も解除され、カケイが気を失ったみたいに地面へ倒れた。


「大丈夫か、カケイ!」


 フラブはカケイに魔眼を使う。カケイの魔力はゼロになっていた。


「なーんだ! 生きてたの! じゃあ次は! 第二ラウンドだね!」


 その言葉に反応して振り返ると腹部を貫かれた筈のナラミナは意気揚々と近づいてくる。腹部を見ると貫かれた筈の傷は血も出ておらず完全に塞がっていた。


「……っ! 蹴られた時にかっ」


 立ち上がろうとするとズキっと襲ってくる痛み。

 ナラミナに蹴られた横腹辺りの骨が何本か折れており、そのせいで立つ事すらままならない。


ーー拘束魔法「檻錠」


 残っている魔力全てを出し切ってナラミナに精一杯の拘束魔法を使う。


「諦めなって! 私と君たちとじゃ才能も努力も実力も天と地程違うんだよ! 死んで償え! 罪人!」


 だがナラミナは先程と同じく、拘束魔法が無かったように壊しフラブの目の前まで来る。フラブは微かに険しい表情を浮かべてナラミナを強く睨みつける。


「──どうしたらっ……」



 ──時は183年前に遡る。

 シラ家の領地である山奥に青年程の見た目の男性が居た。灰色の着物に灰色の帯の上から袖を通していない羽織物を着て下駄を履いている和風姿。


「フラブ君、木1つ壊せない様では命が幾ら有っても足りないだろう。故に早く壊せ」


 その男性はボロボロな家の横の倒れた丸太に座り左手に本を持って本の文章を読んでいた。


 その男性の名前はヨヤギ・アリマ。

 ──190センチの身長に薄黒い色の腰までくるストレートの長い髪。そして灰色の瞳には光が無く、瞳孔だけ刃物のように冷たく刃先のように鋭い。


 とても美しい顔立ちをしてる割に、第一印象はかなり不気味な人間だろう。あと1つチャームポイントと言われれば左手の甲にナイフで斬られたような傷があることだ。


 そのアリマは読んでいる本を閉じて収納魔法で仕舞うと立ち上がって2本先の木の横に蹲ってる幼いフラブの元まで歩く。フラブは身長1メートル程に小さく少女と呼ぶにも幼い姿だった。


「フラブまだ10才だよ!」


 フラブは顔を上げ頬を膨らませながらアリマを見みて反論する。


「年齢が何だ、性別が何だ、まだ言いワケをする気か? 余は木を1本壊せと言っているだけだろう」


 アリマは淡々としてそう言い、フラブが蹲る反対側に倒れるように右足で瞬く間に木を目掛けて蹴る。

 ーーすると蹴った木が勢い良く、根こそぎ左隣の木を12本を巻き込んで遥か彼方に飛んでいった。


「……余が蹴ると、最大の手加減をしてもこうなる」


 悲しそうな口調でそう言うアリマは何処かに飛んでいった木の方向を見つめている。


「どれもこれも! アリマさんだから出来るんだ! フラブ出来ないもん!」


 フラブは立ち上がり隣の倒れてない木に向かって全力で蹴る。だが木は微動だにせずフラブの足に振動するようなダメージが伝わり、フラブは痛々しくも直ぐにアリマの方を見て怒りを顕にする。


「っほらね! 全力でやっても……」


「誰が余と同じように蹴りで壊せと言った?」


「はぁ? アリマさんが……言ってない?」


 フラブは咄嗟に気づき右手の人差し指を唇の下に置いて考え始める。


「フラブ君、余は君の親から君を守れと依頼されたが余が守れる時にも限りがある。もう少し頭を使い、早く他を圧倒する体術と魔法を手に入れなさい」


 そう言うとアリマはゆっくり屈み、左手でフラブの頭を優しく撫でる。すると突如としてアリマの背後から走ってくる足音が聞こえた。


「でも魔法は100才からってお母様たちが言ってたよ? フラブまだ10才で……」


 アリマはフラブの頭を撫でる手を止め。同時にナイフを持って襲って来た者がアリマの背後3メートル付近まで来ていた。


 振り返らずともアリマは呆れるように軽く溜め息を吐いた。と同時に背後から襲って来た者の足元の地面に絡まる硬い草を生やす。


「──あっ?」


 襲いかかって来た者は前方に転び体制を崩して転びながら咄嗟に言葉を溢す。──するとアリマが左手で体制を崩した者の胸ぐらを掴み躊躇いもなく地面に勢いよく叩きつけた。当然のように頭蓋骨にはヒビが入り死んでないことが嘘みたいに気を失って、その者は頭から赤い血を流す。

 それを確認するまでもなくアリマはゆっくりと立ち上がり自身の衣服の周りに舞う土埃を払った。


「フラブ君、それは常識、一般論だ。余が見ている限り魔法の暴走も起こらない、起こっても余が居る。余は信用出来ないか?」


「うん!」


「即答か、良い教育の賜物だな」


「でも、アリマさんが強いのは知ってるよ! フラブ凄く頭良いからね!」


 フラブは自信満々に胸を張って両手を腰に置いてそう言い、それにアリマは変わらずの無表情でフラブを見下ろす。


「そうか。ではこの者、君ならばどうするのが正解だと考える?」


「──全裸にして街中に飾る!」


 明るくもフラブは悪い顔をしながらアリマを見て問いに答えた。


「殺さないとは……君は優しいな。その意見、採用しようか」



 ──そして今現在、追い詰められているフラブは微かに息が荒い。


「アリマさんなら、きっとこんな状況に陥ることすら……そうか、アリマさんならもう……」


 フ小言でそう心の声を溢すと結論に至った瞬間。

 ──フラブの空気が冷たく変わった。


「私が追い詰めてるのに? なんで……?」


 咄嗟にナラミナは地面を強く蹴ってバク転でフラブから距離をとる。


 ─ 腹の底、胸の内側から魔力を絞りだせッ! たとえ心臓が壊れても……


 自らの命が惜しくないのかフラブはそう考えながら軽く空気を吸い始める。


 ──創束魔法「1万ノ槍」「足枷」


 なくなった魔力で無理矢理、魔法2つを同時に発動しようと心で唱える。


 ─ 心臓が痛い、壊れそうだ……っ


 そう思っても止めず心臓の位置の服を苦しそうに抑えながら突如として大量に吐血した。だがそれと引き換えに1メートル程の長さを持つ一万の槍。それがナラミナを円型に囲いナラミナは足枷で動けなくなる。


「──っどいうこと? 無理矢理使ったの!? 練度がさっきの比にならないッ!」


 焦りを顕にするナラミナはその場から動けず、微かに冷や汗を流した。


「……賭けに負けた、か」


 そう掠れた声で言葉を溢すフラブは苦い表情で魔法を解除して一万の槍は消える。そしてナラミナについた足枷も消えてしまった。そして遠のく視界の中で抵抗すらできず横にパタリと倒れる。


 ──するとその時、フラブの後方から草木を踏み躙る下駄のような足音が聞こえた。


「さて。此処までか」


 背後からフラブにとっては聞き慣れている嫌な人の声も聞こえてきた。


「フラブ君。──余が居るのに気づいていたとしても死ぬと同義の選択は論外だろう」


「久しぶり……ですね。アリマっ、さん…」


 安心したかのようなフラブの言葉にアリマは冷静にフラブとカケイの方に軽く左手を翳した。


ーー花草魔法「癒厄華」


 アリマが魔法を使うと倒れたフラブの地面に沢山の可愛い花が咲き。次第にフラブは傷が全て治って心臓の痛みも霧のように消えていく。


 それでフラブは安心した表情で意識を失い、そっと瞼を閉じた。


「其れと領地から出たら1番最初に余の元へ来いと言ったはずだろう」


 だがフラブの方へと再び視線を移すなり信じられないものを見るような目を向けた。


「嘘だろう……寝たのか。この状況で」


 それとは対にナラミナの顔は強張り、怒りと焦りでアリマを強く睨みつけた。


「もう来たか……! ヨヤギ・アリマ!」


 アリマは180年前と殆ど変わらない姿。老いてる様子もなく、髪は肩辺りで軽く緩く結んでおり羽織物は袖を通さずに羽織っている。不気味さのみが180年前よりも明らかに強く濃くなっていた。


「余は君が来る前からずっと居た。其れにしてもフラブ君は弱いだろう。何をやって処刑課から指名手配を受けたんだ?」


 アリマは羽織物を軽々と脱いでフラブとカケイに被せるように放り投げる。


「どうしてここにこれた!?」


「愚問だな。フラブ君の魔力を追って来ただけだ」


「化け物がッ!」


 ナラミナはアリマを強く睨みつけながら戦えば死ぬかもしれない、そんな相手に冷や汗を流して決意を込めてアリマに右手を翳す。


ーー妖火魔法「狐炉火焔」


 ナラミナが魔法を使うと10匹に及ぶ狐がフラブとカケイ、アリマを囲うように出現する。ーーアリマは2人を庇うこともせず、その狐を見てもその場から動かない。直ぐ様に狐各々が青い火を吹いた。だが予想外のアリマの行動にナラミナは目を大きく見開いた。


「避けない? なんでっ?」


 煙は次第に晴れてくるがそこには人影が見える。


「必要が無いからだ。だがやはり珍しい魔法の割に素晴らしい練度だ。喰らって見て驚く程ではなかったが常人では火傷だろうな」


 アリマは余裕綽々と服の周りの煙を払いながらそう言い。アリマ自身、フラブとカケイにも衣服にも傷一つとしてついていなかった。


「ふざけないで! なんで自分だけじゃなくて皆んなも服も無傷なのよ!?」


 声を荒げらげてそう言うナラミナはその光景を信じられないものをみるような呆然として見ていた。


「この羽織物も着物も全て自作で……作る段階で余の魔力を混ぜてる。最適性や適性の練度が高いものを喰らえば相殺してしまうが、そう簡単に傷は付かない」


「本当に化け物じゃないッ! 魔法が効かないなら……!」


 ナラミナは簡易型の転移魔法を使い、瞬時にアリマの右横に移動し全力で勢いよく蹴る。──だが、蹴りがアリマに届く事はなかった。


「──っ!」


 地面から生えた大きい茎一本で蹴りが的確に受け止められた。ナラミナは歯を食いしばり、茎を強く蹴ってバク転で2メートルほど退がる。


「……っ植物系か!」


「ああ。花草魔法は余の得意魔法だ。適性でも最適性でも無いがな」


 アリマは魔法を解除して茎は元から無かったかのように消した。ナラミナは微かに冷や汗を流しながら眉を顰める。


「私の蹴りを完全に止めといて適性じゃないとか! なんなのよ! 魔力と魔法の練度どうなってんの!?」


「余が努力した結果だ。だが茎にダメージは入っていた、君は1級以上か……否、1段はあるな」


「ふざけないで、私は2段よ! そんな私に余裕があるとかあんたは何段なの!?」


「余は20年前に測定されたのが7段だ。2段か……余が14歳の時に卒業したな、懐かしい」


 アリマは感慨深そうな表情を浮かべて少し優しい口調で言葉を溢す。その言葉にナラミナは耳を疑いつつも微かに冷や汗を流した。


「2段を14歳……? しかも聞いた事がないわ……7段とか、嘘よね?」


「何故嘘を吐かねばならない。そうだ、君から頼んでおいてくれないか? 余の指名手配を取り消せと」


 アリマが悠々とそう言うとナラミナは簡易型の転移魔法でアリマからもっと距離をとり、ミスナイの左横まで移動する。


「……ナラミナ! 私の名前よ! 次は必ず! 罪人処刑課の名の下で殺してやる!」


 そしてナラミナはミスナイを連れて転移魔法を使用して颯爽とその場を後にした。


「無理か、無用意に人を殺したワケでもないのだが……指名手配は面倒だな……」


 アリマはナラミナたちが居なくなったのを確認しては倒れているフラブとカケイの方を見て魔眼を使う。


 ─ カケイ君か。魔力の流れが人間ではない……


 アリマは確認した後、3人が入るくらいの魔法陣を地面に表し転移魔法を使った。



 ──185年前、山奥にあるボロい家の前で剣の練習をしているフラブ。その練習をアリマが左隣で袖を羽織物に通さず見ていた。


「フラブ君、今使える魔法だけで獣魔物を狩りに行きなさい」


 ──だがフラブは顔が赤くフラフラしていて木剣を振る手を止めてアリマの方を見て答える。


「剣は使っちゃ駄目なのっ?」


 苦しそうに問うフラブはとても体調が悪そうだ。


「使っても木刀の刃は通らない。森の魔物は他と比べれば多少強力だからな」


「アリマさんの他と比べた多少は信用出来ないよ。それフラブ死んじゃわないっ?」


「それは君次第だ」


 アリマの淡々としている回答に3秒程、沈黙が続く。


「でも魔物が可哀想だよっ?」


 必死そうに震えた口調で問うフラブは顔色が悪い。


「此処一帯、君の領地だ。人、魔物問わず身勝手に足を踏み入れる方が悪い」


「そういう事を言ってるんじゃないっ、魔物だって生きてるからっ……」


「その魔物の所為で古来、数多の動物は絶滅した。人的被害も多く出ている。此方が慈悲をかけても相手には伝わらない」 


 アリマの言葉にフラブは呆れて剣を放り出し、怒ったような表情でアリマを見上げる。


「あぁ、もう! ああ言えばこう言うっ、アリマさんって相手の気持ち考えた事っ、今までで1回でもある? フラブ今、熱があって凄くキツいの!」


 フラブは39.9度の熱があり、息が荒くて倒れそうでも休む事を許されなかった。


「愚問、有るわけないだろう。フラブ君が熱で倒れても余が魔法で君に電気を流して起こす、心配するな」


「この鬼! 馬鹿! 阿保!」


 フラブは背伸びをして腕を上げてアリマの腹部辺りを両手でポコポコ殴る。だが鉄の壁かと錯覚してしまう程に微動だにせずフラブの拳にダメージが伝わる程に硬い。


「優しさは愚者のみが持つ事を許された賜物だ。そして其の愚者は大抵長生きが出来ない」


 アリマは全く動せず気にせずにフラブを見下ろしながら話しを進める。アリマの冷たい言葉にフラブはますます怒った。


「だとしてもフラブはっ、アリマさんは鬼過ぎるって思うし! 優しい人が愚かだってっ思わない!」


 フラブは殴る手を止めてアリマの右足に強く抱きついて凭れる。


「思う思わないの話ではない。フラブ君も生きていれば次第に分かる」


 アリマは常に表情を変えずにフラブの頭を右手で優しく撫でる。フラブはアリマの方を頬を膨らませながら見上げた。


「わかりたくないねっ!」



 そして現在、──フラブが目を開けると見知らぬ模様が掘られてる白い天井があった。


「ここは……」


 フラブの姿は戦って敗れた時のまま、そしてその体を起こして辺りを見渡す。小さな机を挟んで隣のベットの上でカケイが座り本を読んでいるのが分かる。


「ん? やっと起きたか? 1週間寝てたんだぜ、フラブさん!」


 カケイは笑顔でフラブを見てそう言いながら読んでいた本を閉じる。フラブは頭に痛みが走り、片手で軽く頭を抑えた。


「……そうか、助けられたのか……」


 微かに嫌そうにも聞こえるも小声でフラブはそう言い、再びカケイの方を見る。


「1週間……? ああ、その……カケイ、大丈夫なのか?」


 フラブはカケイの方を見たまま恐る恐るカケイに質問した。それにカケイの顔から笑顔が消えて悲しみの顔に変わる。


「……俺ぁ、正直、義母さんとユーフェリカが死んだってのは、まだ夢であってほしいって思ってる。でもフラブさんが寝てた間、身を隠しながらヨヤギさんと俺の家を見に行った」


 そう言いながらカケイの表情が次第に曇っていく。


「花束が店の前に置かれたんだ、それで察せないほど馬鹿じゃねぇ。こんなんでも俺ぁ泣くことも出来ねぇんだよ」


 カケイは本をベットの上に置いて悔しそうに悲しそうに拳を握りしめた。


「すまない、カケイ……」


「本当にな。目を覚ました時、横のベッドでフラブさんが寝てて、指名手配されてるヨヤギさんが看病してくれてて、義母さんとユーフェリカもわかんなくて、頭ごちゃごちゃだったわ」


 カケイは優しく微笑みながらそう言うと、それにフラブは真剣な表情で再びカケイの方を見る。


「……先に起きられなくてすまない。カケイ目線、アリマさんは信用できそうか?」


 深刻そうなフラブの問いにカケイは腕を組み、斜め上を見上げながら考える。


「んー、まぁ少なくとも今、指名手配されてる俺を心配して王都に同行してくれたし……飯作って匿ってくれてお人好し? みてぇだし。ヨヤギさん信用は出来なくてもしたいよ」


「アリマさんが……?」


 するとベッドの間ほどの位置にある部屋のドアが急にゆっくり開いた。


「余の事を警戒してるのか。いい友情だな、感動するところだった」


 アリマは変わらずの姿。淡々と無表情で言いながら部屋に入ってきた。


「アリマさん、まずはありがとうございます。助けて頂いた理由を伺っても?」 


 真剣な口調で問うフラブの真っ直ぐな瞳には特に表情を変えないアリマの姿が映し出されている。


「ああ。余が独自で動いている調査に協力を頼みたい。助けたのはフラブ君、そしてカケイ君と取り引きをする為だ」


 アリマはドアの横に佇み、羽織物の内側から軽く腕を組んだ。それにカケイも真剣な表情で再びアリマの方を見る。


「何の取り引きですか?」


「余に協力してくれている間だけ指名手配されている君等2人を此処で匿う。無論衣食住付き、要望が有れば聞く、これでどうだ?」


 予め考えていたかのようにアリマは変わらず淡々として取り引きの説明をする。それにカケイは真剣に考え始め、フラブは深刻そうに口を開く。


「アリマさんが取引なんて珍しい、それ程の調査って事ですよね? 内容を教えて下さい」


「詳細は後で伝えよう。だが君たちにとって悪い話ではないはずだ。なんせアルフェード教会、魔力人形の施設、それと罪人処刑課のことだからな」


 平然としたその説明に、カケイは驚くように大きく目を見開いて咄嗟にアリマの方を見る。


「──っ魔力人形の施設、んでそれを……!」


「……何故、殆どの物事に感心さえ無い貴方がそれに関わろうとするんですか?」


 カケイとは反対にフラブは冷静に警戒するように少しアリマを睨み問い詰める。


「だから取引なんだ。余に協力してくれれば自然と欲しい情報も手に入るだろう。故に君等にとって悪い話ではない」


 カケイは冷静に戻って両腕を組み目を瞑って真剣に考え始めた。


「……俺ぁこの取引に乗るぜ、フラブさん。ヨヤギさんは有名な指名手配犯、だがこれと言って悪い噂は聞かないしな。個人的に魔力人形の施設については知らなきゃいけねぇんだ」


 そう真剣に言うカケイは決意めいた顔でフラブの方を向いていて。それにフラブはカケイの方を見て軽く頷くと再びアリマの方を見る。


「信用は置いといて……私はアリマさんが超お節介者という事だけは知っています。なので私も取り引きに応じましょう」


「ん……? 余は超お節介者だったのか? すまない、仕事ではない対人はとても苦手なんだ」


 それにカケイとフラブは互いに目を合わせた。


「確かに条件から見ても超お節介者だな。ヨヤギさんは」


「ああ。だがそれだけは好印象を持てる。普段は鬼だから良い塩梅だな」


 そう当然かのように話しているフラブとカケイを見てアリマは少し悲しい表情を浮かべた。


「……余はまだ此処に居るんだが。……まぁ良い。余と話すのは疲れるだろう。少し仕事が有るから暫く若者で楽しめ」


 淡々としてそう言うアリマは少し落ち込みながらドアからその場を後にした。


「アリマさんは自分の事を悲観し過ぎだと思うんだが……」


「それぁそう。無自覚だよな、完全に」


「ああ。それは190年前から変わってない。だがどうして……っすまない、重い空気にする気は……」


 カケイはフラブの言葉に明るい表情で笑い始めた。


「言った後に気づくの、凄くフラブさんらしーわ! 会って感覚1日だけど」


 それにフラブは優しく微笑んで生きてる事を噛み締めるように何も言わなかった。だがそれからフラブとカケイは楽しそう話をしては時々重い話もした。

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