第四十話 修練に向けて
──その頃、遊園地内にいるフラブは地面に勢い良く落下し、背骨や足の骨が思いっきり折れて落下地点は舞台の天井で更に満身創痍となった。
「──ッ! まだ敵がいる可能性はあるだろう!」
痛々しい表情でそう声を荒げながら、きごちなく起き上がり、刺された腹部から流れる血も、口から吐く血も常に絶えなかった。それでもフラブを動かしたのは自らの命を人の未来や笑顔を守る道具として扱う──ただの狂気だった。
──そしてやっとの事で立ち上がって無い魔力で浮遊魔法を使用して天井から降り、北東に位置するカフェへと歩き出した。カフェへ行く道中も沢山の死体があって生き残っている者など見当たらない。
そして時間を掛けて向かったカフェで沢山の酷い死体を目の当たりにした。だがフラブ自身、酷い死体を見る事は何度も経験してしまっている。
「……そうか」
ただ無表情で白いローブを着て気絶して寝ている者の横で立ち止まった。
「アリマさんが……倒してくれたのかな……」
手遅れだった、そう言わんばかりに崩れたカフェの形状を保てていない建物。その建物から沢山の人の血や外にまで飛び散っている人の死体や大量の血。
──その死体からの沢山の血の生臭い匂いにも、フラブは動じる事はなかった。
── 生きてる者はどれだけ居るんだ……
フラブは辺りを見渡すも生きてそうな者は1人も居なかった。だがそこにアリマの姿もなく、転がる死体を避けながら北西にある迷路へと全速力で走り出した。
── もし生きてる人が居るなら……
そうして迷路の前に来たが、迷路の入り口に白いローブを着ている男女が1人ずついた。その者達は手に鉄剣を握っていて沢山の斬られた死体が転がっている。
「君は….…良かった。アリマじゃないですね。ちゃんとメフェイルさんとユイロウが相手してくれてる」
高身長の黒色のポニーテルに黒い澄んだ綺麗な眼、それに眼鏡を掛けている青年程の見た目の女性だ。
その女性が冷静に左側にいる男児に話しかけるようにそう言った。
「ボクは人が斬れればそれでいいかな。ボクの命令を聞いてくれるよね? あの子の四肢を剥がして」
短い髪に少年程の見た目ながら楽しそうに笑みを浮かべてフラブの方を見ていた。
「……あと何人仲間が居る? 人はあとどれだけ生きている? なんで人を殺す? なんで人から笑顔も未来を奪う」
フラブは暗い表情を浮かべて問うが、その問いには問答無用でスイフェイは右手に剣を持ってフラブへ斬りかかる。──だがフラブは悠々と左手でスイフェイの剣を止め、左手から血が流れた。
「……っ!」
フラブの死にそうな目に光が無い無表情から来る殺気に女性は息を呑んだ。フラブは容赦無く左手で剣を強く握ったまま右手に鉄剣を出して男児の腹部を刺して引き抜く。
「……っ!」
男児は目を大きく見開くも、女性は痛々しい表情でフラブの方へと倒れる。だがフラブは無慈悲に右手で目に見えない速さで女性の首を斬った。
女性の首が地面へと落ち、フラブは剣を掴んだまま女性の体を躊躇いもなく投げ捨てる。
──すると男児は右手に持ってる剣でフラブを斬りかかろうとした。その時、男児の首に茎が絡まって首が切断されてら女性も男児も無慈悲に息絶えた。
血塗れのアリマが迷路がある場者の天井から颯爽と降りて、ゆっくりフラブの元へと歩き出した。
「大丈夫か? フラブ君」
アリマの姿を確認すると、フラブはアリマの痛々しい姿に驚いて目を大きく見開いた。だが安心感が勝り気を失うように力が抜けて視界と共に意識が遠のく。
後方へと倒れたフラブを見て、アリマは瞬時にフラブの背後に回って左手をフラブの背中に回し、優しく肩を掴んで受け止めた。
「どうした? ……傷が深いッ!」
そう焦りつつ言うアリマは驚くような表情をするも直ぐに深刻そうな表情に変わった。だが意識がないフラブを見て次第に見守るような優しい表情に変わり、右手で優しくフラブの頭を撫でた。
「お疲れ様」
──だが直後、アリマの右側、南側の方から血濡れたユールが痛々しそうに歩いて来た。アリマは無表情でユールの方を見て怒るように少し目を細める。
「ゲームオーバーですかっ…!」
ユールは声を荒げてそう言うも嬉しそうに頬を赤くして殺意に喜んでいる。回復魔法でが傷口は中途半端に治って吐き出しつつ流れていた血も止まっていた。
ただユールは躊躇いもなく直ぐに地面に魔法陣を出して沢山の獣魔物を召喚する。
「生け取りは君で充分かな。フラブ君には君が死んだ事にしておこう」
アリマは左手でフラブを守るように優しく自身へと引き寄せ、ユールの方に右腕を上げて躊躇もなく右手を翳した。すると一瞬で全ての獣魔物の首が一瞬で吹き飛び、微かに使用した氷柱が見えるも獣魔物の首が吹き飛んだと同時に氷柱は消えた。そしてユールの体に電気が流れてユールは気を失って地面に倒れた。
── いつか君もフラブ君を守る犬として死ぬまで使ってやろうか……
優しい心の声で企むアリマは冷たい目ながらに優しい表情を浮かべていた。
** ** * ** **
あれから多々あり1週間が経過した。
アリマは本邸の執務室で椅子に座り机に向かいあって黒ペンで紙に文を書いていた。
アリマの姿は回復魔法で傷こそ無いが左目を爆発の影響で失くして黒い眼帯を着けて、髪を紐で束ねてポニーテールにしている。そして白い羽織物は執務をしている椅子に掛けている。回復魔法は傷を治す魔法、無くなった箇所は修繕系統でなければ戻ってこない。
アリマが書いている内容は
──「フラブ君は傷が深く、今だに昏睡状態にあり本邸に用意した部屋の敷布団で眠っている。処刑課が名家と敵対した理由もフラブ君を指名手配した理由も、フラブ君の中の化け物と深く関係している可能性として懸念として残すべきだろう」──
──「遊園地の件はお化け屋敷内に隠れていた者や観覧車に乗っていた者は生きており、スタッフ含めてニ千三百二十一人が殺されたテロとなって五千人とまでは行かなかった」──
と事実と考えを表明している。
そしてその紙を折り曲げると白い手紙の封筒へと仕舞って右側にある印を押した。
「そもそも魔法とは何なんだ……?」
アリマは疲れたように机に右肘を着いて右手で軽く頭を抱える。
──その時、部屋のドアが3回ノックされてゆっくり扉が開いた。そこを見るとドアの向こう側にフラブの姿が確認できてしまう。
そのフラブは髪色が元に戻っていて、新しい簡素な長袖長ズボンを着ていて服の上からも分かる程に沢山の包帯が巻かれていた。
「起きたのか? フラブ君」
アリマは視線をフラブへと移動し腕を下ろして椅子から立ち上がる。
「あ、はい……え、っと……大丈夫、ですか?」
フラブはアリマを心配そうな目で見ながら問い、痛々しそうな表情を浮かべながらドアを閉める。
「ああ。眼帯は気にするな。酷いから隠しているだけに過ぎない。其れより君こそ大丈夫か?」
アリマはそう言いながら歩いてフラブの3歩前で立ち止まる。フラブは「そうですか」と安心した表情で言いながら胸を撫で下ろした。
「私は大丈夫……っです、気にしないで下さい」
フラブは痛々しそうにドアに軽く凭れてながらアリマを見て言い。アリマはフラブの前で屈んで、フラブの頭を左手で優しく撫でた。
「人を撫でるクセ治して下さい……」
「誤魔化そうとするな。痛い事に対して強がる馬鹿は君だけだろう。痛いなら痛いと言え」
「……っ痛いです……」
フラブは外方を向いて恥ずかしそうに言い、アリマは優しい表情でフラブを見下ろす。そして撫でる手を止めると優しくフラブの肩を掴んで体を支えた。
「カミサキ姉を呼んでいたんだが、話せたか?」
「はい。起きたらカミサキさんがとても心配してくれていて……遊園地は大丈夫でしたか?」
フラブは曇った表情で恐る恐る優しい表情をしているアリマに問う。
「ああ。君の傷を癒厄華を治したいのだが、残念な事に君は少し傷が深すぎる。余の腕もかなりやられた」
アリマはそう言いながら左腕の着物の袖をフラブに見せるように上げた。治りかけてはいるが、完治されてないのか所々皮が剥がれている。
「……っアリマさんが……?」
フラブは心配するような目でアリマを見上げるも、アリマは表情を変えなかった。
「余が殺した敵は8段の力がある者と5段の力がある者だった。君は5段のニべ・ユールという者に勝ったらしいな」
驚くような目でアリマを見るも、そのアリマは目の前まで歩み寄って来て屈み、左手でわしゃわしゃとフラブの頭を撫でる。
「凄いぞ。君は5段の者に勝てたんだ。もっと誇った方が良い」
「相手が私を下に見ていたんです。それでこの状態ですから……アリマさんの強さとは程遠い……私はもっと強くなりたい。強くなって人の笑顔を守れる理想を貫けるような人になりたいです」
覚悟を決めながらフラブは意を決した真っ直ぐな目でアリマを目を見る。それに目を見開くもまた直ぐに優しい表情に変わって腕を下ろした。
──すると突如、フラブの背後にある部屋のドアがノックもなしに勢い良く開いた。ドアの前にいたフラブは大勢を崩して勢い良くアリマの方に倒れる。
「……っ」
急なことで目を見開くがこれまでの経験上こんな時こそ冷静になれるアリマは咄嗟に慌てて、倒れるフラブを受け止めた。
「修行なら私に任せて! フラブさん! 強くなりたい子は大歓迎だから!」
「修行内容なら私が考えるわ。アリマもサヤもかなり危なっかしいもの。それより大丈夫?」
ドアの向こう側にサヤと、そのサヤの後を続くようにカミサキの姿も確認できる。
アリマは両腕でフラブを優しく抱えたまま呆れたような目でサヤを見る。それにフラブは表情からも見てとれる程にとても痛々しそうにして、心配かけまいと声を抑えていた。
「ドアくらいノックして入って来い。あと入って来る勢いが強過ぎる。怪我人が居るんだぞ?」
「あの……っ、コヨリちゃんたちは大丈夫ですか?」
そう問いながらフラブは申し訳なさそうな表情で体を起こして体をサヤの方へと向ける。
「それはラサスさんが最適性魔法を使って毎日調べてくれてる! 気に負わないで! 私たちが出る事は最大限やったから!」
安心するフラブをカミサキは心配そうな目で見ては強く抱きしめた。
「大丈夫っ……? アリマが運んで来たとき、アリトに用があって本邸に来てたの。だけどフラブとても傷だらで……私もサヤも心配したのよ……っ」
カミサキは安心から涙を流し始め、フラブは右手で優しくカミサキの背中を撫でる。
「すみません……」
フラブは優しい表情でそう言葉を溢すと、膝に手を置いてアリマはゆっくり立ち上がった。
「余が傷だらけのフラブ君を抱えてた時も泣いてただろう……カミサキ姉……」
「仕方無いの! だって腹部の傷も骨も何箇所も折れて今も完治してないのよ!? え……そうよ、何で歩けてるの……? フラブ……」
カミサキは恐るような目でフラブを見るも、フラブは優しい表情を浮かべていた。
「余は青い蝶の残党の調査と殲滅の仕事の為に暫く本邸を留守にする。故にフラブ君が修行の望むなら余とは別行動になるが……サヤも一緒に修練島に行くなら……」
アリマは心配そうな目でサヤを見ると、サヤは察して笑顔でアリマを見る。
「分かった! 1ヶ月だけ修練島に行って私がフラブさんを見る! 人の為に強くなりたい子は嫌いじゃないから!」
フラブは意を決した表情をしていて、カミサキはフラブを見て優しく微笑んだ。それを確認したアリマは優しい表情を浮かべ背を向けて歩いて机へと戻る。
「それなら今週はリハビリで来週から行きましょう、フラブがこの状態だし……傷だらけだったら元も子も……」
「いえ。今日からお願いします。私の傷がなんですか、遊園地に遊びに来たのに殺された人たちはもっと痛かったはずです」
そう強く断言しつう真剣な表情をしていたのだが少しだけ浮かない表情へと変わった。
「フラブ……」
カミサキは悲しそうな表情でフラブを見上げ、サヤはフラブを見て冷や汗を流して腕を組んで考える。
── この子のは単なる人助けの域じゃない……自分の命を他者を助ける消耗品として考えてる……
ただ深刻そうに考えて軽くため息を溢すと少し強い視線をアリマに向けた。しかしアリマに言っても無駄かと再び優しい表情だフラブを見下ろす。
「……それなら今日から修練島に向かって今週はリハビリも含めた修練を! 来週からは本格的に開始でどう? その状態じゃ見るに堪える!」
サヤは何とか説得に試みようと焦り気味で伝えるがフラブの意思は固かった。
「私は強くなりたい。強くならないと駄目なんです。ずっと頭から離れないんです……殺された人たちの死体が」
フラブは物苦しい表情を浮かべて不安そうにサヤを見上げている。ただカミサキもサヤも心配そうな目でフラブを見つめては言葉を詰まらせる。
「フラブ君」
アリマは圧ある声でフラブを呼び、カミサキとサヤの目線も机に向かいって椅子に座っているアリマへと移動する。
「余は君の真っ直ぐな所や他者を優先する優しい所も好ましく思う、其れは事実だ。そして時に君は己の優しささえ否定して他者を助けるが、己より他者を想う行為は全て愚行だぞ」
アリマは机に肘をついて真剣な表情でフラブを見てそう教えている。それを愚行だと理解した上で人助けをしているからこそ憎めないのだが。
フラブは反論出来る言葉さえ持っていなかった。
「そこまで言わなくても良いでしょう! アリマ!」
代わりというのかカミサキは怒ったような目でアリマを見るも、そのアリマの目は冷たい。
「まぁまぁ当主さんもカミサキ姉も落ち着いて! 少し当主さんと話がしたいから、2人で散歩してきてくれる?」
サヤの一言で何とか空気を保ち、カミサキは暗い表情のフラブに寄り添いながら部屋を後にした。
「其れで、話とは何だ? サヤ」
アリマは真剣な表情から切り替えて無表情へと変わりサヤはアリマの机の前で立ち止まった。
「当主さんさ、また何か思い詰めてるでしょ?」
「……フラブ君は余と似てるようで何もかもが真逆なんだ。故に思考が読めない」
アリマの言葉にサヤは「どう言う事?」と言いながら小首を傾げる。
「余は子供の頃、沢山の人々を殺して未来を奪った事は知っているだろう? 余は殺した人々を省いて後は大抵乗り越えて生きているんだが、フラブ君は全てを背負って進もうとしている」
アリマは何処か悲しげな表情でサヤを見て言うと、それに腕を組んで難しそうに考えた。
「フラブ君が壊れる前に戦いや死の世界から遠ざけねばいつか己の為の他者への救済を選び、己の為に人を殺す選択をしてしまう。そう考えてしまえばフラブ君の意思に鍵をして閉じ込めてしまいそうで怖いんだ」
「……確かに否定は出来ない。フラブさんから感じとった空気は紛れもなく狂気に片足踏み入れてる。それを実行するなら早めにしないと絶対に取り返しのつかない事になる」
サヤもアリマも深刻そうな表情を浮かべおり、アリマはゆっくり左目つけてる眼帯を外した。
「ああ。其れと余の左目は見事に無くなった」
アリマの左目は空洞となっていて、サヤは少し眉間に皺が寄せる。
「それくらい相手は強いっこと?」
微かに暗くもアリマは「そうだ」と単調に言いながら軽く頷いた。
「敵が……青い蝶が340年ぶりに動き出した理由は余への復讐みたいなものだと言動から推測出来る。だが本当にそれだけだろか?」
「え?」
アリマは腕を組んで左手を顎に当て、真剣な表情で考え始めた。
「余への復讐だけなら幹部という役職についてるユールという者も余を殺す気で配置するのではと考える。フラブ君の足止めにしてもフラブ君はそこまで強くないし、そもそも認知しているというのなら其れこそ可笑しいだろう? それにただテロを起こすだけにしては被害を最小限に抑え込めすぎている。それにタイミングよく処刑課と警備課が機能出来ていない。敵の此処への襲撃からも色々とタイミングが合いすぎているというのも……」
「当主さん! ストップストップ!」
サヤの言葉でアリマはハッと気づき腕を下ろしながら申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「当主さん人と話してる最中でも直ぐに考えモードに入っちゃう癖直しなさい!」
「すまない……」
申し訳なさそうにしてるアリマを見て、サヤは優しく微笑んだ。
「とにかく、言いたい事はその青い蝶だっけ? それがフラブさんの中にいる化け物を知って狙ってるかもしれない敵と繋がってる可能性がある! ってこと?」
「……繋がってる可能性は充分に有る。今回の青い蝶の目的はフラブ君にあるだろう。余は目的のための足止めの可能性が大きい。修練島に行くなら細心の注意をはらって、サヤが勝てない敵が来たら余に連絡を。其れを忘れないでほしい」
微かに机を見つめてアリマは暗い声色でお願いしながら左目に黒い眼帯を戻した。
「りょーかい! だから敢えて3日前フラブさんの修練をお願いしてきたわけか! これからも当主さんは1人で背負わないで分家の当主である私やカミサキ姉にもどんどん頼って! でなければ分家が分家としてある意味がない!」
叱りつけるように手を腰に当てて堂々と胸を張るサヤを見て優しい表情を浮かべた。
「そうだな。あとフラブ君のついでで、捕虜としている元殺し屋で余が命を握っているミリエ君とコクツ君、そして元処刑課のアオト君の修練も頼みたい」
アリマの言葉にサヤは不思議そうな表情をうかべながら首を傾げる。
「何で捕虜まで? 修練島へ行けば逃げるかもしれないし、こっちを殺しにくるかもだけど?」
「ああ。故に逃げたり殺しにきても余に報告を。彼らの修練の目的はフラブ君の盾と矛となり心強い忠犬とするためだ」
アリマの冷静な言葉にサヤは「え……?」と引き気味に言葉を溢した。
「余が捕虜の彼らを精神的に追い詰め、フラブ君は最低限でも彼らに優しくするだろう。其処でフラブ君の盾と矛に出来れば心強い」
冷静に淡々と言うアリマにサヤは恐れるような呆れるような冷や汗を流した。
「弱みに付け込ませるか……誰が何と言おうと当主さんは悪役の方が似合う!」
サヤはそう楽しそうに言いながらアリマに背を向けてドアの方へと歩き出すも。机を通り過ぎた所で足を止めてアリマの方を振り返る。
「そうだ! あと頼まれた義眼もう少しで出来るから! あと少しだけ待ってて!」
「ああ。ありがとう。それとフラブ君にはこの事と魔力人形の施設については教えないでほしい」
「りょーかい!」
サヤは元気良く微笑んでそう言い、楽しそうに笑顔で部屋を後にした。
「これを機に髪でも切ってみるか……」
アリマは優しい表情でそう言葉を溢して、書類に目線を移動した。
** ** * ** **
それから30分後フラブとカミサキは──成り行きで和風な宴会場に来ていて、入り口から見て右側の長い机を挟んで向かい合うように座布団に座って話をしていた。カミサキは真剣な表情でフラブを見る。
「それで本題なのだけど、フラブが死んだら私はとても悲しいの」
フラブは自身の湯呑みを一口のんで机に戻しながら驚くような目でカミサキを見た。
「フラブは自分の命を投げ捨てる勢いで修練に挑んだり戦ったりなんて、私がとても泣くのよ。私が泣かないために死なないで無理しないで…っ」
カミサキはどこか悲しそうな表情で微かに俯きながら言い、フラブは暗い表情を浮かべる。
「すみません、では1つお願いがあります」
「お願い?」
「はい。確かに私はまだ歩くだけで痛みが絶えません。なのでこの期間に魔法について詳しく勉強したいので教えてくれませんか?」
その真面目な真剣なフラブのお願いにカミサキは嬉しそうに微笑んだ。
「……ええ! 是非とも了解したわ! 私、頭だけは良いのよ!」
その言葉にフラブも表情が明るくなり、見守るように優しく微笑んだ。
「ありがとうございます! アリマさんは忙しそうですし鬼なので、カミサキさんにしか頼れなくて……」
フラブは少し照れ気味言い、カミサキを見るとカミサキは嬉しそうな表情が満面に浮かべていた。
「私に任せなさい! 友達だもの!」
カミサキはそう言いながら誇らしげに立ち上がりフラブの右後ろに立つ。
「移動しましょう! 沢山の資料を使うのだけれど、本邸にあるフラブの部屋を使うわね? 暫くお泊まり会よ!」
カミサキは嬉しそうな楽しそうな表情でフラブに右手を差し伸べる。それにフラブは明るい表情でカミサキの手をとってゆっくり立ち上がった。
「本当にありがとうございます!」
「肩を貸してあげるわ! 痛いでしょう?」
カミサキは優しい表情でそう言うとフラブは右腕をカミサキの肩に回して2人で歩いて宴会場から出た。
宴会場を出ると左側に部屋が多くあり、右側には反対側の廊下への道と右前にドアガラスの庭が見えた。
たまにすれ違う使用人とは挨拶をしながら廊下をゆっくりペースを合わせて歩いている。
「大好きよ、フラブ……」
カミサキは真っ直ぐ廊下を白靴下で歩きながら照れ気味に頬を赤くして下を見ながらフラブに伝えた。
「私も大好きですよ、カミサキさん」
優しい表情でカミサキを見ながらフラブも伝えたのだが急なことでカミサキは照れて顔を赤くしてフラブへと視線を変える。
「〜っ! 別に好きとかじゃないの!」
「え……?」
「分かりなさい! ばか!」
カミサキは照れながらフラブから目線を外し、それにフラブは優しく微笑んだ。




